企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

LPO

法務のアウトソーシング(LPO)を進めなければならないワケ

 
前回のエントリで、弁護士事務所は多国籍軍化するエリート事務所と、多国籍軍化に乗り遅れたローカル事務所に分かれていくのではと述べましたが、その時に企業法務部門はどうなるのかについて、考えてみます。

そのヒントとなりそうなのがこちら。マイクロソフトとヒューレット・パッカードが法務業務のアウトソーシング(LPO)を進めている、という記事。

Companies Get Creative to Cut Legal Costs(Law.com)
Under pressure to curb legal costs, Microsoft and Hewlett-Packard have turned to outsourcing work to India, giving work to solo practitioners rather than mega-firms and eschewing hefty hourly fees in favor of alternative and fixed fees.

As a result, both Fortune 500 companies have saved millions of dollars in legal fees. HP shaved 25 percent off its legal budget in four years and Microsoft 4 percent annually in the last few years, according to deputy general counsel for both companies.

事業そのものの競争力と紐づかないスタッフ業務のコストセーブを突き詰めていくのは、ある意味当たり前の経営努力だと思います。しかし、法務のアウトソーシングを単なるコストセーブの手段と捉えているとすれば、それは間違いです。法務をアウトソーシングすることは、それによって法務のダイバシティ(多様性)を高めることにこそ本質がある。それはこの記事の以下の一節にも現れています。

Both companies also are under pressure to diversify their outside counsel as their business increasingly moves beyond the United States.

"When I started, everything I did ... all the regulatory work ... was centered in Washington," Gutierrez said. "Now the centers of power are Asia, Sao Paulo and Moscow. The majority of our revenue comes from outside the United States."

That drives corporate counsel to hire lawyers who are multilingual and understand the cultural sensitivities of other countries, Gutierrez said.

取引のグローバル化が進んでいる今、“マルチリンガル”が求められるのはどの職種でも同じです。しかし法務については、その国の言語が分かるだけでは役に立たず、そのそれぞれの法律や商習慣といった文化までもが分かる人材を確保して“マルチリーガル”“マルチカルチュラル”にならなければなりません。

日本国内に加えてアメリカ・中国、さらには伸び盛りのインド・ブラジル・ロシア・・・事業を展開する様々な国で発生するリーガルイシューに対応するために、まさか法務部員を自社採用して自前ですべての国の法曹資格を取得させその国での経験を積ませて、自社法務部門を多国籍軍化しようなんてことを考える経営者はいないでしょう。5ヶ国語が喋れるようになる人はいても、5カ国の法曹資格を持ち文化的素養を会得出来る人・しようとする人は、そうそう現れないはずですし、いたとしてもどう考えても時間がかかりすぎます。かといって、そのために1カ国1人ずつ雇うのも、非効率的です。

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マイクロソフトやヒューレットパッカードは、コストセーブのことだけ考えてアウトソースをしているのではなく、国ごとの言語・法律・文化という障壁が存在する限り内製で法務業務を行うのには限界があること、そしてアウトソーシングを進めることが法務ダイバシティを高めそれに対応するベストな手段であることにいち早く気づき、行動を始めたのだ。この記事にははっきりとそう書いてあるわけではありませんが、そのように読み取るべきだと思います。

自前では多国籍軍化しえない企業法務部門が、グローバルな競争を勝ち進むためには、必然的にLPOに頼らざるを得なくなっていき、それを契機に法務業務全体の外注化に拍車がかかっていく。私はそう考えています。
 

【本】企業法務と組織内弁護士の実務 ― ブログやTwitterには出てこない情報ってあるよね

 
弁護士として企業の法務部に入り込んで仕事をされている「組織内弁護士」が、日常どんなことに問題意識を置いて、どんな水準で仕事をしているのか?

私も企業法務パーソンのはしくれとして、頭の中にある企業法務の視点・ノウハウのようなものを守秘義務を侵さない程度にこのブログやTwitterで公開させていただいているつもりですが、組織内弁護士の方がブログやTwitterなどの世界にお出ましになることは、ほとんどありません。弁護士かつ組織に所属しているという立場を考えれば、自分の業務について喋ることのリスクと、わざわざ世の中に出てアピールするメリットがバランスしないでしょうから、当然と言えば当然です。

ところが先日、そんな貴重な組織内弁護士の視点と業務実態が、きわめてつぶさに書かれた本を見つけてしまいました。

企業法務と組織内弁護士の実務 弁護士専門研修講座企業法務と組織内弁護士の実務 弁護士専門研修講座
販売元:ぎょうせい
(2011-02-08)
販売元:Amazon.co.jp



登場する組織内弁護士は計4名。
・エイベックス所属の木内秀行弁護士
・日興コーディアルに5年在籍され今は独立開業されている竹内朗弁護士
・GS→UBSを経て現在はラッセルインベストメント所属の西和伸弁護士
・NHK所属、現在NY大学ロースクールに客員研究員として派遣されている梅田康宏弁護士

こんな一流企業で組織内弁護士経験をもつ方々が、契約書審査、不祥事危機管理、守秘義務、インサイダー取引、放送コンテンツの著作権、事業アウトソーシングなどのテーマについて、実例やケーススタディを用いながら、日ごろどのように業務に取り組まれているかを公開してくださっているのがこの本。

上記の一つ一つのテーマについてここでご紹介しているとキリがないくらい含蓄があるので、また日を改めて個別に記事を書いてみたいと思っていますが、例えば私が4月から追いかけようと思っているテーマであるLPO(Legal Process Outsourcing)、つまり法務のアウトソーシング化に関して、エイベックスの木内弁護士がこんなことを仰っていたのでそのさわりだけご紹介。

企業が自前で契約書を作るといっても、法務部門のリソース、ノウハウ、能力に限度があって自前で契約書をつくれない場合もあります。(略)そういったときには、そのような案件を担当できる専門性を有する法律事務所に頼むことになります。
英文契約を依頼する際にも、別に我々は、英語が苦手だからというふうな観点で投げるだけではないのです。法務部門の中には、英語が達者な人もいます。英文契約はもう死ぬほど作りましたという人もいます。ただ、そういう人でもカバーできないのが、外国の法律です。
どうしても外国との取引が関連してくる契約だと、これは、外国法にも通暁している外部事務所になげなくちゃならないというふうに思います。

これを語っている木内弁護士自身は、ペンシルヴェニア大学LL.Mを修了されニューヨーク州弁護士登録もされているエリート弁護士です。そんなエリート組織内弁護士をして、「すべてを自社で賄えるわけではないし、他にアウトソースすべき場合もでてくる」と言わしめる現実。この現実を直視したとき、企業法務部とは、そして企業内(無資格)法務パーソンとはどうあるべきか?という問題は、そろそろ真剣に考えるべきタイミングに来ていると思っています。うーん、まさに『企業法務マンサバイバル』!(笑い事じゃない)。この話は長くなるので、またエントリを改めて書きます。

東京弁護士会の専門研修講座、つまり弁護士向けに講演された内容を収録したものであり、従って体系的な構成にはなっていません。しかしそれを割り引いても、普段世の中には出てこない本当のプロである弁護士から見た世の中の法務業務の実態情報が満載という点で、貴重な本だと思います。


2011.3.11追記
Twitterで梅田先生から「NHKは辞めたわけでなく1年限定でNYに派遣されているだけ」とのご指摘をいただきましたので訂正いたしました。大変申し訳ございませんでした。

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