企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

雇止め

【本】解雇法制を考える―コーポレートガバナンスの変化が解雇規制を緩和するという「痛み」を生んだという必然について

 
他人事ではなく、私自身も解雇されないか心配になるぐらいの景況感になってきた日本。

今はまだ雇止めの問題“だけ”しか発生していませんが(派遣社員として働く皆様には失礼なものの言いようですがあえて“だけ”と表現させていただきました)、年明け以降には、正社員の整理解雇の問題へと発展することも避けられない情勢です。

これまでも何度か解雇をテーマにしたエントリを書きましたが、このような“正社員の整理解雇”をも検討せざるを得ない事態に備え、解雇の論点を整理しておきたい法務担当者・人事担当者・経営者・労働者の皆様におくる参考書がこちら。


9名の労働法学者・労働経済学者(常木淳・江口匡太・土田道夫・大竹文雄・藤原稔弘・黒田祥子・内田貴・八代尚宏・大内伸哉の各先生)の論文をまとめ、それに山川隆一先生が全体を俯瞰した総論を書くという10章構成。

この本が出た2004年当時は、整理解雇を広く容認する東京地裁労働部の裁判例が何件か発生する一方、労働基準法第18条の2にいわゆる判例法理に過ぎなかった「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」が条文化したばかりという混乱期だったせいもあるのか、学者のみなさんがそれぞれ自由に意見を戦わせている(ネガティブな言い方をすれば意見がまったくまとまっていない)様子が見受けられます。


解雇の基準は確実に緩くなっている

その9人の論文の中で最も分かりやすさで印象的だったのが、「整理解雇の4要件」について検証した、大竹先生による「整理解雇の実証分析」という論文。

整理解雇訴訟における
・解雇無効判決率
・整理解雇4要件それぞれについての要件充足率
の数字を10年刻みで分析するという、他の本では見ることのなかった興味深いデータがレポートされています。

これらの数字の変遷を見ていると、解雇無効の判断基準が時代によって変化していること、そして、だんだんと無効判決率が減少していることが如実に表れています。

このblogのエントリでも何度か言及してきた「解雇の判断基準は、かなり緩くなっているのかもしれない」という感覚はやはり正しそうだなと、思いを新たにしました。
整理解雇の議論から生まれる、解雇権濫用法理の新たな潮流
【本】解雇規制の法と経済―緩和されていく解雇法規制から身を守る唯一の方法とは


株主利益を守るか、長期雇用を守るか

では、なぜ解雇に関する規制が緩くなってきたのでしょうか?

その疑問に我が意を得たりと感じたのが、今や民法学の権威である内田先生が、労働契約における解雇を契約法的観点から述べている「解雇をめぐる法と政策―解雇法制の正当性」という論文の一節。

解雇に関するヨーロッパ大陸の国々の法制(自由な解雇に対する何らかの制約を課す)とアメリカ式のemployment at willの雇用契約法制は、ある意味で対照的であるが、いずれかが誤っているのというものではなく、また、経済的条件によっていずれかが一義的に導かれるものでもなく、めざす社会のヴィジョンの違いに由来するとみることができる。

この数年間の日本は、会社法改正論議でも見られたように、“めざす社会のヴィジョン”を模索していた時代でした。

そして日本が選んだ結論は、アメリカ型の「株主重視の経営」をロールモデルとするもの。この結論を前提とすれば、「株主の利益」を守るために雇用を切るのもやむを得ないという結論になるのは、ある意味必然なわけです。

もし、今マスコミが言うように「雇用を守るのが企業の義務」だというならば、アメリカ型の「株主重視の経営」をロールモデルとしてきたこの数年間を否定・撤回しなければならない

失われた10年をもう一度繰り返し、やり直すか?
今回の「解雇が是か非か」の議論に置いては、近視眼的な議論でなく、そういう大局的な議論をする必要があると思います。

今起こっている学生の内定取消問題とその反応について一言

 
メディアの論調が“学生に対する「違法な」内定取消が乱発”というノリになっていて、さらには厚生労働省までこんな過剰とも思える反応を示しているので、一言申し上げておこうかと。

内定取り消し、企業名公表へ 厚労省が規定設ける方針―asahi.com
 景気悪化で新卒者の内定取り消しや非正規労働者の「雇い止め」が相次いでいる問題で、厚生労働省がまとめた対策案が2日、わかった。内定を取り消した企業名を公表できるようにするほか、派遣先が契約満了前に派遣労働者を直接雇用すれば、1人当たり100万円(大企業の場合は半額)の助成金を支給する。

 予算措置が必要ないものは来春までに実施したい意向だ。内定取り消し対策では、職業安定法の施行規則を改正し、取り消した企業を指導し、悪質な場合は企業名を公表できる規定を設ける。内定を取り消され就職先が決まらない学生を雇い入れた企業には、1人数十万円から100万円の奨励金を支給し、早期の就職決定を支援する。

 「雇い止め」や契約を中途解除された労働者らへの対策では、直接雇用した派遣先企業への助成金のほか、非正規労働者への雇用保険の適用基準を「1年以上の雇用見込み」から6カ月程度に緩和し、失業給付金の給付日数の延長も検討する。
 

内定取消がなんでも違法なわけではない

すでに各方面で語られているように、大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)により
・内定の時点で始期付解約権留保付労働契約は成立
・内定取消は法的には労働契約の一方的解除=解雇
という整理がなされているわけですが、内定取消そのものは違法ではなく、解雇権濫用法理がクリアできるかどうかの問題であることは、忘れてはならないと思います。

何が言いたいかというと、今の不況で内定取消をしている企業の中には、すでに民事再生に突入している会社や、その手前の段階ではあるものの整理解雇に踏み切らなければ存続不能な会社も多くあると思われ、そのような状況の会社において適切なプロセスを経て在籍する従業員と内定者とを公平に検討し整理解雇として内定取消(=労働契約の解除)をすること自体は、違法でもなんでもないでしょと。

なのに“学生の内定取消”だけを取り上げてご紹介のような過剰な対策を取っちゃう厚生労働省ってどうなんでしょうか。

だいたい「職安法施行規則を改正して悪質な場合は企業名を公表」ってありますが、これって35条を変更することを言ってるんだと思いますが、実際悪質か良質(笑)かというのは解雇権濫用法理に基づき本人が訴訟を起こしでもしなければ確定しないでしょうし、そんな不確定な状態で「この会社は悪質な内定取消ししてますよ〜」なんて公表をした日には、違う意味で法的な問題も生みそうです。

たぶん、施行規則が変わっても公表なんてしないと思いますけどね。
その以前の問題として、公共職業安定所等に報告する義務が職安法施行規則に規定されていることを知っている人事担当者がどれだけいるのやらwww。

しかも内定取消で困っている学生を雇用したら助成金を払い、さらに非正規雇用者のために雇用保険の加入・給付条件も緩和って・・・。ただでさえ、これから失業が増えて保険給付が逼迫しそうなのに。

こういった混乱の時代だからなおのこと、メディアにも厚生労働省にも、「学生や非正規雇用者が失業して困っているから対応しなきゃ」という反射的な反応でなく、「整理解雇が多発しそうな雇用不安の状況に対しどう手を打つべきか」という広い視野をもって、地に足をつけた対応をして頂きたいと思います。

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