企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

金融商品取引法

【本】『M&A実務の基礎』― いつまでも改訂されないあの本に取って代わる、M&A法務本の新スタンダード

 
まだ一部大規模書店にしか配本されていないようですが、首尾よく入手。M&Aの、特に法務面にフォーカスした書籍として、ついにあの『M&A法大全』の後継となるものが出た!という感じです。





「主に法務のバックグラウンドを持つ若い読者が、M&Aについて専門的な文献や実務に触れる前の足がかりとなる知識を満遍なく得ることができる1冊」、これが本書のコンセプトである。

はしがき冒頭に書かれたこのコンセプト通りの本。いや、「若い読者向け」は相当に謙遜が含まれていますね。

全400ページ弱のボリュームに抑えることを優先したのでしょうか、確かに本書はたとえば契約書作成の部分だけ見れば藤原『M&Aの契約実務』に、DDについてはNOT『M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務』に、それぞれ細かいことは譲っている部分はあると思います。しかし一方で、社内でM&Aをつつがなくリードし目指すクロージングに向け調整・推進する役割を担う我々企業法務パーソンにとっては、そういった部分部分の法律知識よりも、本書が目指す「全体をくまなく、しかし漏れ無く把握する」ことのほうがむしろ重要だったりします。法務が担う役割の重要性に比して、M&Aの経験を積むチャンス自体が(通常の事業会社においては)限定されていることもあって、それがなかなか理解できずにもどかしさを感じていた法務パーソンは多いはずで、本書はそういった方への福音となることでしょう。

本書では、契約法・会社法・金商法などのM&A必須法令にとどまらず、税法・競争法・労働法・知的財産権法・東証ルールといった周辺領域、さらにはクロスボーダー案件における外為法や準拠法の問題などが、広範囲にカバーされています。M&Aで出くわすほとんどの問題について、平成26年会社法改正で新設された特別支配株主による株式等売渡請求制度などの最新トピックスを含めて、本書を紐解けばなにかしらの手がかりが示されているという安心感があります。


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総ページ数は『M&A法大全』より控えめながら、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(旧ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所から統合)のパートナーを務めていらっしゃる柴田義人先生らの豊富な経験が、本文やコラムの随所に散りばめられており、これまでの類書では言及はされていても踏み込みが浅かった実務上のお悩みポイント、たとえば、
・DDにおける情報開示と、個人情報保護法抵触/秘密保持義務違反/ガンジャンピング問題
・価格調整条項による具体的な価格調整の方法、そしてその請求を担保する方法
・MAC条項に例外(Carve-out)事由をどこまで規定すべきか
・適時開示の対象に該当するか、東証への開示の事前相談・説明手続き
・クロージングにおける株式譲渡と銀行振込の手順
について一歩踏み込んだ記載があります。


他の大手事務所の先生方が、「なんでこういう本をウチから出さなかった(出せなかった)んだろう」と、悔しがる姿が目に浮かぶようです。
 

【本】『企業法務のための金融商品取引法』 ― 引き継がれる良書のバトン

 
金融商品取引業や取引所に対する規制と一般事業会社向けの規制とがごちゃまぜになっている大部な金融商品取引法。そのうち、一般事業会社の法務に必要な部分だけに絞って解説した、まさに企業法務パーソンのための本。こういう実務書をずっと待っていたのですが、ついに、TMI総合法律事務所の宮下央先生が救いの手を差し伸べてくれました。





「一般事業会社の法務に必要な部分」とは、この5つ。
  1. 発行開示規制
  2. 継続開示規制
  3. 公開買付規制
  4. 大量保有報告規制
  5. インサイダー取引規制

インサイダー取引規制に限って言えば、それだけをまとめた書籍はたくさん出ています。しかし、それ以外の部分については、分厚い金商法の本の中から必要な情報を読み取らなければなりませんでした。しかも、金商法関連書籍は、弁護士や金融機関の専門家向けに書かれていることがほとんど。それらを読むのは、私のような者には苦行以外の何ものでもありません。

一方(その良し悪しは置いておいて)株式の上場もカンタンな時代となり、企業法務パーソンにとってはますます金商法は知らないでは済まされない法律となっています。売出・新株予約権の発行・自己株買付・TOB・大株主の異動…といったイベントにまみれ、とまどっている新興企業の法務担当者も少なくないのではないでしょうか。かつてのライブドア事件のような、法律の解釈がもろに問題になる場面は少ないとは言っても、上記のようなイベントが発生した場面で、財務担当者や証券会社等との会話が成立しないようでは問題。用語を抑えておくことはもちろん、規制の概要や構造はしっかりと理解しておきたいところです。

そんなニーズに対して、本書は、解説する分野を絞り込んでボリュームを単に減らすのではなく、豊富な図表に「用語解説」欄も設け、金融実務になじみのない読者にストレスを与えないような配慮が追求されています。特に複雑(で私も苦手)な開示規制のパートは、複雑な条文を丁寧で精緻なフローチャートに整理してくださっていたり、

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「募集」「勧誘」といった語句の定義の曖昧さに悩む法務担当者に、コラムで共感を示しながら最新の情報をアップデートしてくださったり、

有価証券届出書を提出しなければ勧誘をしてはならないことになっているにもかかわらず、法令上「勧誘」の定義はなく、一般的にも「有価証券の取得を促進する行為」などとかなり幅広い説明しかなされていないため、会社が増資を検討している場合などにおいては、増資とは無関係に自社についてPRする行為も「勧誘」に該当するのではないかという悩みが生じます。
しかし、投資家に対する情報開示は本来好ましいものであるはずのところ、法令の規制により萎縮し、本来投資家に開示されることが有益な情報まで開示されなくなってしまうのであれば本末転倒です。そこで、近時は、投資家にとって有益な情報開示と「勧誘」を画する基準を明確化することが試みられており、平成26年の開示ガイドラインの改正により、以下のような行為について「勧誘」規制の対象外とすることが示されました。(後略)

「第三者割当に対する勧誘規制」「特定投資家間の上場株式の譲渡」のように実務と金融庁の思惑がすれ違う部分について、時に行政に批判的な立場から実務の展望を語ってくださったりと、まるで、法務パーソンを励ましてくれているかのよう。

そうしたこの本のルーツを伺わせる記述が、はしがきにありました。

タイトルをご覧になって気づかれた方もいるかもしれませんが、この本は、私が新人弁護士時代に本当に良く使わせていただいた一冊の本から着想を得ています。新人弁護士時代、私は、証券取引法(今の金融商品取引法)が本当に苦手でしたが、その本に出会って、証券取引法のエッセンスを学ぶことができ、それがきっかけとなって、その後、金融商品取引法を専門分野とするまでに至りました。今の時代に金融商品取引法を新たに学ぼうという方のために、その本と同じように、勉強を進めていくための手がかりとなるような本が書けないだろうかと(大胆にも)思ったことが執筆の発端となりました。

出版社の関係からか、宮下先生は書名を出すのは控えていらっしゃいますが、きっと松井秀樹先生の『法務担当者のための証券取引法』のことですよね。私も10年前に同じく大変お世話になりました。この本は、まさにあの良書の後継者たりうるものだと思います。
 
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