企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

通信の秘密

通信の秘密とユーザーの同意(追記あり)

 
いまどきのウェブサービスでは当たり前のように実装されている特定個人の間での私信(ミニメール・メッセージング)機能を使ってやりとりされる情報を、サービス運営者が監視することについて、電気通信事業法第4条の通信の秘密を侵害しているのではないかと疑問の声が上がり、プチ炎上していたようです。

mixiがメッセージ監視? 「面識のない異性の出会いのみチェック」とミクシィ(ITmedia ニュース)
「mixiで昔の友達からメッセージが来て、久しぶりに会おうとやりとりしていたら、『異性と出会おうとする行為は規約違反』と警告されて運営にメッセージを消され、アカウント停止になった」――Twitterに投稿されたユーザーからのこんな告白がTogetterにまとめられ、「mixiは成人ユーザーのメッセージも監視しているのか」「知り合い同士の再会もNGなのか」などとネットユーザーの注目を集めている。

私が十数年前に通信会社に就職したころは、インフラを備えた電気通信事業者になるためには設備投資のための多額の資本に加えて許認可も必要でしたから、事業を始める以上は通信の秘密確保の意識は当然にあったと認識しています。加えて、流れる情報・パケットを解析する技術も今のようなレベルのものではなかったこともあって、通信の秘密が世間の話題にはならなかったという面も。しかし今、電気通信事業は届出・登録制となり、ベンチャー企業でもクラウドを使ってやろうとおもえば資本も設備投資も必要なく1人でもやれてしまう時代になって、この通信の秘密の大切さを考えずに電気通信サービスを企画・設計してしまう人が増えているのかもしれません。

そういう方が、一度ご覧になるといいかもと思ったのがこの図。これは、「安心ネットづくり促進協議会」児童ポルノ対策作業部会のウェブサイトにアップされていたもの。法律に明確な根拠がない中で、通信の秘密を侵害しない合法な範囲で児童ポルノ対策としてのブロッキングを実現するための根拠を整理しています。


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注目すべきポイントは、違法性の高いサイトといえども、通信事業者が裁判所命令等もなしに「正当(業務)行為」として当たり前のようにブロッキングすることは認められず、あくまで違法性阻却事由の最後の砦ともいうべき「緊急避難」として整理されている点でしょう(※最下部に追記あり)

誰がどのサイトにアクセスしようとしているかという情報はまさに通信の秘密にあたるため、児童ポルノサイトへのアクセスであってもこれほどの慎重さをもって判断せねばならない。この図に触れると、多少なりとも通信の秘密に触れる事業に携わる者としては、身の引き締まる思いがします。青少年保護の大義名分のもと、警察等からSNSサイト運営者に対する調査協力要請も増えているようですが、当たり前のように応じるのではなく、通信事業者として慎重な判断基準を備えておかないとユーザーにあらぬ不安を与えるのだろうなと、この図を見て改めて考えさせられます。


この件に関連して、法務関係者の間ではこんな記事も話題になっていました。

LINEやcommなどでやりとりした内容を運営会社が利用することは適法なのか(弁護士ドットコム)
●ユーザーの合意があれば、違法性があるとはいえないと解されている
「電気通信事業法4条は、電気通信事業者の取扱中にかかる通信の秘密について、積極的取得、漏えい、窃用の禁止を定めています。まず、運営会社は通信の当事者(メールやチャットなどで情報を送受信する者)ではないかと考えることも可能ですが、本件のような『ミニメール』に関して、CGM運営者が、通信当事者であるとは考えないとするのが一般でしょう。」
「次に、内容を運営会社が『利用』することについて、サービスの利用規約とそれにもとづく利用者の合意はどのような意味を有するのかということが問題になります。電気通信事業法上、禁止される『窃用』(自己または他人の利益のために利用すること)行為に該当するとしても、同意があれば、違法であるとはいえないものと解されています。もっともこの同意については、抽象的なものでいいのか、具体的なものでなければならないのかという争いがありますが、解釈論として明確なものはないといえるでしょう。」

この記事では、「ユーザーの具体的な同意があれば中身を見るのも広告等に利用するのも全然OK」的なトーンにまとめられていますが、そこまで楽観的に考えるのは危ないのかなと思っています。

確かに、企業は利用規約・約款に「ミニメール・メッセージの内容を閲覧・監視・削除することがある」という文言を入れて同意を取っているとは思いますが、それだけで通信の秘密を守らなくてよくなるわけではなく、あくまで先の児ポルの図にあったような“正当防衛/正当(業務)行為/緊急避難として通信の秘密を侵害することがあるということをあらかじめ「認識」いただくための同意”と限定的に考えるべきなのかもと。違法性阻却事由としての被害者の承諾は、個人的法益に対する罪に向けられた承諾である必要があるところ、通信の秘密は思想・言論・結社等の自由と密接に関わり必ずしも個人的法益とは言い切れない部分があるからなのかもな、と思ったりします。


さて、通信の秘密について語るにはまだまだ経験の浅い私ですので、どうもとりとめもない文章になってしまいました。最後に、参考として、ネット上で閲覧できる通信の秘密に関する参考情報を自分の備忘がてら以下いくつかご紹介しておきます。追加すべきものがあれば、皆様からもご教示頂ければ幸いです。

▼電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成16年総務省告示第695号。最終改正平成21年総務省告示第543号)の解説
http://www.soumu.go.jp/main_content/000046337.pdf

▼利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会第二次提言
http://www.soumu.go.jp/main_content/000067551.pdf

▼情報通信分野における個人情報保護の現状
http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/ronbunkikou/2006/2006-05-01.pdf

▼電気通信事業者における大量通信等への対処と通信の秘密に関するガイドライン
http://www.jaipa.or.jp/other/mtcs/110325_guideline.pdf

▼ブロッキングと通信の秘密との関係
http://blocking.good-net.jp/relation/2-2.html

▼通信の秘密の保護等(刑法との関係)
http://www.soumu.go.jp/yusei/reserved_area/pdf/060308_1_san05.pdf

▼コミュニティサイト運用管理体制認定基準
http://www.ema.or.jp/standard/index.html

▼非出会い系サイトに起因する児童被害の事犯に係る調査分析について(警察庁)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h22/H22deai-bunseki.pdf
 

2012.11.16追記

@kengolaw先生より、ブロッキングの合法性について以下ご指摘いただきました。
ご丁寧にありがとうございました。


DPI(ディープ・パケット・インスペクション)と「通信の秘密」

 
今週頭から、総務省によるDPI(ディープ・パケット・インスペクション)検討に対する批判が、そこかしこで起きています。

DPIの全面禁止を主張されている皆さんの意見を総合すると
ISPが人のプライバシーをのぞき見して何をする気だ。同意をとればいいというものではない。全面禁止にしておかないと、同意をしてないユーザーも気付かないうちにDPIされてるなんてこともあるかもしれない。「通信の秘密」を守らないとはケシカラン!
ということのようです。

たしかに、世の中には信用ならないISP事業者はあると思います。が、過去電気通信事業者にいた時代に何回か考えたテーマであったことも手伝って、この「通信の秘密」を根拠にしたDPI全面禁止論に対しては、違和感を覚えています。

国が自らDPIを実施して(もしくはISPから情報をかすめ取って)国民の「通信の秘密」を侵害するようなことは当然NGと思いますが、そのような行為は国の検閲から国民を守る憲法21条2項によって排除されるという前提で、民間ISP事業者がユーザーの認識の下で通信の内容を把握する技術を持つということは、電気通信事業法第4条に定める「通信の秘密」を侵害するものではないのではと。

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そもそも、ユーザーとしては、通信事業者に媒介してもらうことで他人との通信を容易に実現するという“利益”を得ている以上、その媒介者である通信事業者に通信の内容を把握されるのはやむを得ないことであり、「通信の媒介はしても内容を一切把握するな」というのは無理筋です。例えれば、毎日買い物で利用するスーパーのレジの店員さんに「お前がこれからレジに通すものは見るな」とか「私がこのスーパーで毎日同じあのお菓子を買って帰っているという(恥ずかしい)事実は、私のプライバシーに関わることなのだから、今この瞬間に記憶から抹消せよ。」と脅迫するようなもの(笑)。

ちなみにこの例えは、この本の第13章の一節「媒介者が把握しうるTransactional Dataは必ずしもプライバシー情報には該当しない」という事を述べたパート(p278)から。ご参考までに。

Securing Privacy in the Internet Age


DPIの問題は、このようなデータを媒介者として単純把握するという域を肥えて、そのデータを通信事業者の“利益”のために蓄積・分析・利用させていいかどうかという点にも及ぶものかと思いますが、ユーザーにとっての何らかの“利益”と交換に通信事業者にその蓄積・分析・利用を意思を持って許諾する自由は、ユーザーが持ってしかるべきで、それを規制する必要まではないのではないでしょうか。
「DPIで提供される“利益”などない、百害あって一利なし」という論調も見られますが、上述のスーパーの例で言えば、私が毎日買うほど好きなお菓子(そんなものはありません、あくまで例です笑)の在庫を切らさないよう、さりげなく多めに仕入れ、そっと並べておいてくれるようなサービスは、あって然るべきなのかもしれません。

そして、私はむしろ、DPIで用いられるようなパケット解析技術・機器の使用が法律によって全面的に禁止されてしまうことで、警察などの公権力の側が人知れず国民の「通信の秘密」を侵害するような行為を行うことを国民の側が技術的に掴めなくなることの方が、もっと恐れるべきことではないかとも思っています。
 

参考文献:

憲法第21条2項に定める「通信の秘密」と電気通信事業法第4条に定める「通信の秘密」の差異について述べた法律書はあまり多くありませんが、比較的新しめの本であればこちらを。

インターネットと法 第4版

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