独占禁止法のコンプライアンスというテーマは、法務パーソンが最も実務経験を積みようがない分野だと思います。なぜなら、経験を積む=独禁法違反の嫌疑をかけられて公正取引委員会等々と戦うということで、それはもはや“実戦”そのものなわけで(笑)。
かくいう私も、前職入社間も無いころ(当時は総務担当として)公取委が来訪してのヒアリング調査対応に関わったぐらいで、この分野に関する具体的な経験値は少ないと言わざるをえません。
今月のBLJの特集「高まる課徴金リスクへの備えは万全か」の9本の記事中、6本が弁護士事務所の先生の寄稿となっていて、現場法務の方の実戦訓が若干少なめになっているのも、そんなわけで致し方ないところ。
しかし、その残りの2本の現場法務の取材記事と、1本の行政当局へのインタビュー記事が、まさにリアルな独禁法違反リスクを感じさせてくれるものになっていて、非常に勉強になりました。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 06月号 [雑誌]
反則調査の恐ろしさ
まず参考になったのが、P50〜の「法務担当者のつぶやき」と、P54〜の「実録公取委の反則調査」のコーナーでの法務担当者の取材記事にみる、当局による反則調査の恐ろしさについてです。
弁護士との連絡記録を持っている可能性があるということで、法務担当者個人のカバンの中の書類も半強制的にもっていかれることはざらだ。
「任意」との名目で、調査は社員の実家にまで及ぶ。そこでは、個人の銀行通帳やパスポートの差押えから、家族のアルバムや子供のランドセルも調べたという事例まである。
調査で得た社員の個人情報を使って「最近マンション買ったんでしょ。どうせ、逮捕されて、会社クビになるのにこれからどうするの?」と揺さぶりをかける。
深夜まで及ぶ長い取調べの後に「今日、この調書にサインしても、明日もう一度、訂正できるから」と曖昧なことを言われ、もうろうとした状態でサインしてしまい、窮地に追い込まれる社員も少なからず存在する。
数年前の交通費、交際費などの伝票や明細書を短期間に提出することを求められ、これらを全部探し出すために管理部署が総動員で、何日間も、コピー等することとなり
地方にいる社員が取り調べに呼び出されることも多く、そのための交通費等は数百万円にもなり得るし、何日間も営業活動に専念できないことによる逸失利益も無視できない。
通り一遍のコンプライアンス研修で、独占禁止法違反についての講釈を従業員にぶってみても、何にも響かないのが実態。
一方で、こういった事態に巻き込まれたことがある企業のベテラン社員さんなんかは、身をもってその怖さを知っています。法律の理屈はさておいて、そういった経験のある社員を捕まえて“語り部”になっていただくのが、独占禁止法違反のコンプライアンス研修としては実は一番効果があるのではないかと、この記事を読んで改めて思った次第です。
事業者団体の会合への出席に気をつけろ
そして、BLJ編集部の取材姿勢に思わず拍手!したくなったのが、行政当局の当事者、公取委の松山事務総長へのインタビュー記事です。
・インパクトのある事件審査を行うことで、世の中にカルテル・談合
を続けることのリスクを知らしめる
・不況であっても執行方針に変更は無い
・トップが「利益も大事、法令順守も大事」と言っているようでは
ダメ
といった、松山事務総長の容赦ないコメントの数々。
それにひるまずに、全企業の法務担当を代表してBLJの取材陣が突っ込んで聞いてくださった、「具体的な事項で気になること」への回答がこれ。
例えば事業者団体の会合に出席する際の社内規則を定めていない会社がまだ多いと思います。日本においては、業界団体の会合があれば、その際に多少の情報交換があってもいいではないか、という甘えがあるように思われます。
日本で、同業者の会合に出席する際に、必ず上司の許可を取る、価格の話が出たら直ちに退席する、その記録を残す、と言った教育をしている会社はそう多くないでしょう。
BLJ取材陣がピンポイントなところまで深堀りしてインタビューして下さったおかげで、当局が頭の中で考えていること・その程度がかなり具体的に透けて見えた気がします。
日本企業に松山事務総長がいう“甘え”があるのも否定できない事実。
そして、そんな甘え体質が残っていると思われているからこそ、先に紹介した反則調査の事例で見るような、「違反行為ありき」の厳しい取調べが行われるという悪循環があります。
重たい仕事ですが、我々法務パーソンはこの悪循環を断ち切るための努力と工夫を、あきらめずに追求していく必要があります。
公取委が来たときにも、私達は正々堂々と商売をやっている、調べたいだけ調べるがいいさ、と啖呵を切れるような会社であり続けたいと思います。









