企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

職業選択の自由

【本】競業避止義務・秘密保持義務―労働者には職業選択の自由が保障されると言っても、実際のところ裁判での勝率は52.7%程度に過ぎない件

 
久しぶりに競業避止義務系の法的知識をアップデートしてみようと、こんな本を読んでみました。

競業避止義務・秘密保持義務(労働法判例総合解説12)


このblogで競業避止義務関連の本をご紹介するのは、たぶん2冊目。

【本】営業秘密と競業避止義務の法務―転職を制限したいなら、代償措置を明示せよ(企業法務マンサバイバル)
私も人材サービス業の法務のはしくれとして、競業避止義務の有効性を争った裁判例を30〜40件ぐらい読み込んできました。
そんな私が考える有効性判断の最大のポイントは、代償措置の存在とその中身をはっきりさせておくこと。
具体的には、退職後の転職の自由を奪う義務を負わせる際に、「給与のうちのこの分が、代償措置としての手当に相当する」と合意しておくことにあると思います。

競業避止義務について有効性を争った際の最大のポイントは「代償措置があるかないか」である、というこの時の見解に変わりはありませんが、この本でさらに多くの裁判例を研究してみて、競業避止義務が労働者にとって結構大きなリスクになりはじめていることに気付いたので、今日はそれについて触れてみたいと思います。


労働者の職業選択の自由は、数字で出すと意外にも弱かった

判例分析に特化した本のなかでも、この本はかなり分かりやすく整理された本ですね。
特に、不正競争防止法の改正前と改正後に分けたうえで戦後の競業避止義務に関する裁判例のほぼすべてを紹介しているところは、他の労働法の本には見られない緻密な分析だと思います。

裁判例を細かく読んでいて感じるのは、裁判所は、企業が競争力を維持するために競業避止義務を設定する必要性を決して否定していないものの、退職に向けた労働者の行動に悪質性がなければ、労働者の職業選択の自由を優先するのだな、ということ。

ここでいう悪質性とは、
・辞め際に風説を流布して従業員を大量に引き抜いたり、
・営業秘密を使って既取引顧客を奪ったり、
といったレベルの行為なので、まあ幹部クラスの方でもない限り、自分ひとりで静かに同業他社に転職して営業秘密を守っている限りは、裁判所も職業選択の自由を優先してくれるのではないかといった印象です。

と、印象だけで語ってても何も新しい発見も面白みもないので、紹介されている裁判例を私なりに整理して表にしながら、改めて眺めてみると・・・(クリックで拡大します)。
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※赤線以下は不競法改正後の裁判例

各裁判例に「勝訴」「敗訴」だけでは語り尽くせない様々な個別事情はあるものの、こうやって64件を整理して分析してみると、労働者側勝訴といえる判決は、
64件中34件・・・62.5%

そのうち、不正競争防止法の改正後に労働者側が勝った裁判例だけを取り出すと、
35件中19件・・・52.7%

となっており、「代表的」と言われる裁判例を読んだ印象とはだいぶ違って、近年出ている結果を客観的に見ると訴訟沙汰になった場合にはそれなりの確率で労働者側が敗訴していることが今回判明。

しかもよく見ると、実は最高裁まで争った判例も昭和52年の三晃社事件の1件のみ。まだまだこの“競業避止義務vs職業選択の自由”の法学上の争いには決着がついているとは言い難いことがよくわかります。

人材の流出による競争力低下に歯止めをかけようと、競業避止義務を強化しようとする企業。
そのような企業の都合を完全には否定せず、一定の範囲で職業選択の自由への制約をも認める裁判所。
それを知らずに競業避止義務の誓約書に気軽にサインをし、やめるときは「なんとかなる」と気楽に辞めようとする労働者。

人材ビジネスに身を置く者としては、このような状況をきちんと理解して立ち振る廻らなければならないと思っていますが、労働者のみなさんにも、そろそろこのリスクに対する問題意識を改めていただく必要がありそうです。

【本】営業秘密と競業避止義務の法務―転職を制限したいなら、代償措置を明示せよ

 
転職が日本の労働者にとって珍しいことではなくなる時代を迎えるに従って、大きな問題になってくるであろう競業避止義務のこと。

あまりこの言葉自体に馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。
キョウギョウヒシギムと読み、労働者が退職後に同業他社に転職したり起業させない義務をいいます。

営業秘密の問題とセットではあるものの、かなりピンポイントに競業避止義務を取り上げている珍しい本を見つけました。



競業避止義務の有効要件

競業避止義務を負わせるということは、退職後の労働者の転職の自由を奪うということ。これは憲法で保障された職業選択の自由や、公序良俗に違反するため、原則としては認められるべきでないものです。

ところが、競業避止義務を負わせることは労働法上は明確には禁止はされていません。それは、企業の利益を守るための最低限かつ合理的な制限範囲である限り、公序良俗には反しない余地があり、また職業選択の自由に配慮した競業避止義務なのであれば、憲法違反とならない余地があるから。

そこで競業避止義務の有効/無効のボーダーラインを見極めることが重要になってきます。

この本の著者が裁判例から抽出し整理した「競業避止契約有効要件」は以下3つ。
1)代償措置要件
 転職の自由を奪われる埋め合わせとして十分な金銭補償が
 なされているか
2)競業行為制限の不利益回避要件
 期間、地理的範囲、業種・職種の制限が不当に広くないか
3)契約手続の正当性要件
 競業避止を負わせる契約手続きが正当であること


代償措置の明示が有効性を大きく左右する

私も人材サービス業の法務のはしくれとして、競業避止義務の有効性を争った裁判例を30〜40件ぐらい読み込んできました。弁護士ともディスカッションしながら、有効性が認められる場合と認められない場合の見極めはつかんでいるつもりです。

そんな私が考える有効性判断の最大のポイントは、代償措置の存在とその中身をはっきりさせておくこと

具体的には、退職後の転職の自由を奪う義務を負わせる際に、「給与のうちのこの分が、代償措置としての手当に相当する」と合意しておくことにあると思います。
「秘密手当」といった名称で明示しておくことも効果的です。実際に「秘密保持手当」という名称での手当が代償措置として認められた事例もあります(新日本科学事件 大阪地判平15.1.22)。

この本で分析されているいくつかの裁判例においても、上記3点のうち1)の代償措置の存在とその相当性だけはすべての裁判例で問われているのが、その何よりの証拠です。

すでに競業避止義務を従業員に課している企業においては、転職者が増える前に、この代償措置の明示だけは早めに手を打っておいたほうがよさそうです。

労働者の立場からは、競業避止義務を負わされるようなことがあれば、代償措置を請求することで対抗してはいかがでしょうか。

参考サイト
競業避止義務―独立行政法人 労働政策研究・研修機構

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