心配ごとをむやみに増やしても疲れるだけなので、将来の法改正については改正法が実際に成立してからキャッチアップするぐらいの距離感でいたいところですが、ひょんなことから、ECネットワーク沢田様他有志のみなさまが主催する「消費者契約法見直しに関する説明会」に出席。そして案の定、心配ごとが増えてしまいました。その説明会について報道した日経新聞の記事がこちら。
▼広告も「勧誘」に、企業側が懸念 消費者契約法改正で(日経新聞電子版)
消費者契約法の改正を巡り、三井不動産、楽天など大手企業の法務担当者有志が10日都内で説明会を開いた。政府の消費者委員会専門調査会が8月にまとめた中間報告では、契約を取り消せる「勧誘」の対象に広告を含める案などが盛り込まれた。説明会では広告に書いていないことを理由に返品を求める事態が頻発するなど、企業活動に影響が出ることを懸念する声が相次いだ。
当該説明会で説明の対象となったのが、この「中間とりまとめ」と呼ばれる文書です。
▼中間とりまとめ(平成 27 年8月 消費者委員会 消費者契約法専門調査会)
▼消費者委員会 消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」の概要
見直し対象の項目については、中間とりまとめの目次から。
第2 総則
1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項)
2.情報提供義務(法第3条第1項)
3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項)
4.消費者の努力義務(法第3条第2項)
第3 契約締結過程
1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項)
2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)
3.不利益事実の不告知(法第4条第2項)
4.「重要事項」(法第4条第4項)
5.不当勧誘行為に関するその他の類型
6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項)
7.取消権の行使期間(法第7条第1項)
8.法定追認の特則
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
第4 契約条項
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項)
2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)
3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第 10 条)
4.不当条項の類型の追加
第5 その他の論点
1.条項使用者不利の原則
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
3.継続的契約の任意解除権
といった内容になります。
説明会当日は、改正の契機とされている「社会経済の変化」や「裁判例」といわれるものが、はたして立法事実として評価されるほどのものなのか?という点に質問や疑問が集中しました。企業側のみなさんは、かなり冷静かつロジカルに質問を重ねていたものの、説明役の消費者長参事官補佐の方の回答は「委員の方からもいろいろなご意見が出る中でですねぇ」を繰り返すばかりで判然とせず、かえってこの議論の行く末に不安を感じさせたように思います。立法事実足り得ない「漠然とした不安」「一部の消費者の声」だけをもとに、論点整理の方法も方向性もあいまいなまま抽象的な議論が消費者委員会で繰り広げられ、それに困った事務局が時間切れでエイヤと文書にとりまとめた。おそらくそのような状況と見て間違いないようで、まあ事務局の方も本当に大変だとは思うのですが・・・。
私からの意見としては2点。まず日経記事でもフィーチャーされている「第3 契約締結過程」における勧誘規制と不利益事実の不告知について。これ、導入しても真面目な企業の手間を増やしこそすれ、消費者保護においてはほとんど効果はないんじゃないでしょうか。たとえば、この写真を見てください。
これは、先日私がマレーシアに行った際に立ち寄ったフローズンヨーグルト屋さんに貼ってあったポスターです。今なら買ったらおまけが付くよという他愛もない広告なんですが、この程度の広告にもほぼ例外なく、写真の下2行にあるようなディスクレーマーが律儀に記載されています。
The image shown is for illustration purposes only.
Subject to terms and condition.
While stock last.
Not valid with other promotion.
なんとも滑稽で思わず写真を撮ったわけですが、後で調べてみるとマレーシアは広告規制が極端に厳しい国だそうで。消費者委員会のみなさまが理想とする勧誘規制が実現された「パラレルワールド」がアジアにあったというわけです。さて、果たしてこれが望ましい広告の姿なのでしょうか。そして、消費者委員会が問題視なさっている契約トラブルがこれによって解決するのでしょうか。企業にいたずらに負担をかけて溜飲を下げるのではなく、それを徹底することで意味や効果があるのか・消費者保護に資するのかを想像して議論されたほうがいいのではと思いました。
もう一つが「第4 契約条項」における不当条項規制の強化。こちらはいずれもすでに各業法・特商法・現行消費者契約法によって課された規制に屋上屋を重ねるようなものにしか見えません。規制対象例を見ると、インターネットなど電子商取引で用いられる定型約款を意識した例が多く、実務にかなりの影響を及ぼしそう。しかし、定型約款といえば、この数年間の民法(債権法)改正で議論が尽くされ、現行消費者契約法のワクを超えない規定としてまとまったはずの論点です。あの議論を再び蒸し返し、民法改正法(案)でようやく決まった「合意をしなかったものとみなす」を超えて「無効とする」規制を足すのでしょうか?影響の大きさに比して、議論のきっかけもまとめ方もあまりに雑な気がしました。
いずれの点も、今のままの抽象的な議論で曖昧な規制強化がなされるようなことがあれば、一般の真面目な企業の体力と競争力を削ぐだけに終わり、一方で消費者委員会が問題視する悪徳業者層はこれまで同様そのような規制をものともせずに営業を続けるという、目的であったはずの消費者被害の撲滅には一切寄与しない法改正となってしまいそうです。











