企業法務マンサバイバル

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消費者契約法

「消費者契約法見直しに関する説明会」に出席してかえって不安が増すばかりの企業法務担当者たち

 
心配ごとをむやみに増やしても疲れるだけなので、将来の法改正については改正法が実際に成立してからキャッチアップするぐらいの距離感でいたいところですが、ひょんなことから、ECネットワーク沢田様他有志のみなさまが主催する「消費者契約法見直しに関する説明会」に出席。そして案の定、心配ごとが増えてしまいました。その説明会について報道した日経新聞の記事がこちら。

広告も「勧誘」に、企業側が懸念 消費者契約法改正で(日経新聞電子版)
消費者契約法の改正を巡り、三井不動産、楽天など大手企業の法務担当者有志が10日都内で説明会を開いた。政府の消費者委員会専門調査会が8月にまとめた中間報告では、契約を取り消せる「勧誘」の対象に広告を含める案などが盛り込まれた。説明会では広告に書いていないことを理由に返品を求める事態が頻発するなど、企業活動に影響が出ることを懸念する声が相次いだ。

当該説明会で説明の対象となったのが、この「中間とりまとめ」と呼ばれる文書です。

中間とりまとめ(平成 27 年8月 消費者委員会 消費者契約法専門調査会)
消費者委員会 消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」の概要

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見直し対象の項目については、中間とりまとめの目次から。


第2 総則
1.「消費者」概念の在り方(法第2条第1項)
2.情報提供義務(法第3条第1項)
3.契約条項の平易明確化義務(法第3条第1項)
4.消費者の努力義務(法第3条第2項)
第3 契約締結過程
1.「勧誘」要件の在り方(法第4条第1項、第2項、第3項)
2.断定的判断の提供(法第4条第1項第2号)
3.不利益事実の不告知(法第4条第2項)
4.「重要事項」(法第4条第4項)
5.不当勧誘行為に関するその他の類型
6.第三者による不当勧誘(法第5条第1項)
7.取消権の行使期間(法第7条第1項)
8.法定追認の特則
9.不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
第4 契約条項
1.事業者の損害賠償責任を免除する条項(法第8条第1項)
2.損害賠償額の予定・違約金条項(法第9条第1号)
3.消費者の利益を一方的に害する条項(法第 10 条)
4.不当条項の類型の追加

第5 その他の論点
1.条項使用者不利の原則
2.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除
3.継続的契約の任意解除権

といった内容になります。

説明会当日は、改正の契機とされている「社会経済の変化」や「裁判例」といわれるものが、はたして立法事実として評価されるほどのものなのか?という点に質問や疑問が集中しました。企業側のみなさんは、かなり冷静かつロジカルに質問を重ねていたものの、説明役の消費者長参事官補佐の方の回答は「委員の方からもいろいろなご意見が出る中でですねぇ」を繰り返すばかりで判然とせず、かえってこの議論の行く末に不安を感じさせたように思います。立法事実足り得ない「漠然とした不安」「一部の消費者の声」だけをもとに、論点整理の方法も方向性もあいまいなまま抽象的な議論が消費者委員会で繰り広げられ、それに困った事務局が時間切れでエイヤと文書にとりまとめた。おそらくそのような状況と見て間違いないようで、まあ事務局の方も本当に大変だとは思うのですが・・・。


私からの意見としては2点。まず日経記事でもフィーチャーされている「第3 契約締結過程」における勧誘規制と不利益事実の不告知について。これ、導入しても真面目な企業の手間を増やしこそすれ、消費者保護においてはほとんど効果はないんじゃないでしょうか。たとえば、この写真を見てください。

s-IMG_5234

これは、先日私がマレーシアに行った際に立ち寄ったフローズンヨーグルト屋さんに貼ってあったポスターです。今なら買ったらおまけが付くよという他愛もない広告なんですが、この程度の広告にもほぼ例外なく、写真の下2行にあるようなディスクレーマーが律儀に記載されています。

The image shown is for illustration purposes only.
Subject to terms and condition.
While stock last.
Not valid with other promotion.

なんとも滑稽で思わず写真を撮ったわけですが、後で調べてみるとマレーシアは広告規制が極端に厳しい国だそうで。消費者委員会のみなさまが理想とする勧誘規制が実現された「パラレルワールド」がアジアにあったというわけです。さて、果たしてこれが望ましい広告の姿なのでしょうか。そして、消費者委員会が問題視なさっている契約トラブルがこれによって解決するのでしょうか。企業にいたずらに負担をかけて溜飲を下げるのではなく、それを徹底することで意味や効果があるのか・消費者保護に資するのかを想像して議論されたほうがいいのではと思いました。

もう一つが「第4 契約条項」における不当条項規制の強化。こちらはいずれもすでに各業法・特商法・現行消費者契約法によって課された規制に屋上屋を重ねるようなものにしか見えません。規制対象例を見ると、インターネットなど電子商取引で用いられる定型約款を意識した例が多く、実務にかなりの影響を及ぼしそう。しかし、定型約款といえば、この数年間の民法(債権法)改正で議論が尽くされ、現行消費者契約法のワクを超えない規定としてまとまったはずの論点です。あの議論を再び蒸し返し、民法改正法(案)でようやく決まった「合意をしなかったものとみなす」を超えて「無効とする」規制を足すのでしょうか?影響の大きさに比して、議論のきっかけもまとめ方もあまりに雑な気がしました。


いずれの点も、今のままの抽象的な議論で曖昧な規制強化がなされるようなことがあれば、一般の真面目な企業の体力と競争力を削ぐだけに終わり、一方で消費者委員会が問題視する悪徳業者層はこれまで同様そのような規制をものともせずに営業を続けるという、目的であったはずの消費者被害の撲滅には一切寄与しない法改正となってしまいそうです。
 

敷引き・更新料特約無効判決に見る消費者契約法の恐怖

 
以前のエントリでも消費者契約法の怖さについて述べたことがありますが、やっと公開された京都の敷引き・更新料特約無効判決の全文を見て、やっぱりこの法律はおそろしいなと思った次第。

下級裁判例 敷金返還請求事件 平成21年07月23日


単に合意内容が書いてあるだけではダメらしいです

判決文の中から、特に象徴的な部分をP21とP23より抜粋。
原告は仲介業者を介し,契約内容の説明を受けていたこと,本件賃貸借契約書(甲1)に「解約引き30万円」の記載があったことが認められ,原告は本件敷引特約の存在自体は認識していたといえる。しかしながら,原告が被告から被告主張のような本件敷引特約の趣旨,すわなち,本件敷引金30万円がどのようにして決められたのか,自然損耗料,リフォーム費用,空室損料,賃貸借契約成立の謝礼,当初賃貸借期間の前払賃料,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するのかということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは本件全証拠によっても認められない。
よって,本件敷引特約は,法10条に該当し,無効である。
原告は仲介業者を介して契約内容の説明を受けていたこと,本件賃貸借契約書(甲1)に「更新料賃料の2か月分」の記載があったことが認められ,原告は本件更新料特約の存在自体は認識していたといえる。しかしながら,原告が被告から被告主張のような本件更新料特約の趣旨,すわなち,本件更新料が更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価,賃料の補充,あるいは,中途解約権の対価の要素を有するということについて,具体的かつ明確な説明を受けていたとは本件全証拠によっても認められない。
よって,本件更新料特約は,法10条に該当し,無効である。

「慣習に甘えて、敷引きや更新料2ヶ月の存在を借主にきちんと説明してなかった大家側が悪い」というのが判決当時の報道の論調だったと思いますが、判決では敷引き・更新料の支払い義務ともに契約締結当時借主に対し仲介業者がきちんと説明しており、加えて契約書にも書いてあり、義務の存在自体は借主も認識して契約していたことが認められています。

今回裁判所が言っているのは、事業者は、消費者との契約にあたっては、単に合意の内容のみを契約書に記載して説明するだけではなく、「消費者のあなたには、こんな負担やあんな負担があり、それにはこんな意味が込められてますけど、よござんすか?よござんすね?」というその負担の意味や具体的な負担内容を要素のレベルまで事細かに書いて説明しないと無効だよ、ということ。

大量かつ迅速な取引の成立と消費者保護を両立させるために、事業者に説明義務を負担させるべきなのか、逆に消費者の契約に対するリスク意識を高めていくべきなのか、政策的には難しいところ。

ただ、直近で消費者契約法を根拠にしたこのような判決が出てきた以上、BtoCビジネスの事業者としては契約・利用規約の類はますます分厚くせざるを得ず、逆に消費者にとっては読むのも億劫な契約書を相手にせざるを得なくなりそうです。

利用規約・約款における免責条項の落とし穴―消費者契約法があなたの会社の免責条項を無効化する

 
一般消費者向けに広く提供されるサービス約款・サービス利用規約と名の付く消費者契約にはつきものの、お決まりのフレーズがあります。

たとえばこれは弊blogがお世話になっているライブドアの利用規約。
ライブドアは、本サービスの利用に関して利用者が被った損害又は損失などについては、一切の責任を負わないものとします。
会社側に債務不履行があろうと、不法行為があろうと文句を言うなといわんばかりです。

このような免責条項は、消費者契約法第8条により、無効となります。

ならば、ということで、故意や重過失の場合のみ責任を負うことを表現したこんな免責条項ではどうでしょうか。
当社は、サービスを利用するにあたって会員に生じた一切の損害(精神的・財産的損害を含む一切の不利益)について、故意または重大な過失がない限り責任を負いません。

残念ながら、これも同法8条により無効になります。

下手をすると軽過失の特別損害すら免責できなくなる


この消費者契約法が困るのは、条項のうちの無効な部分をなかったことにするだけでなく、その条項すべてを無効化する力を持っているという点にあります。

これにより、債務不履行責任や不法行為による損害賠償責任はすべて民法の原則どおりに処理されることとなり、重過失まで至らない単なる(軽度の)過失であっても、通常損害に加え、二次的な被害などの特別損害の賠償責任を負う可能性までもが排除できなくなります。ネット上で検索するだけでもこの手の消費者契約法違反の条項がたくさん出てきますので、このことは意外に気付いていない法務パーソンも多そうです

消費者契約法では通常損害の範囲を正当な範囲で限定したり、特別損害を免責することまではNGとしていないので、せめてこの部分はきっちり排除しておくべきです。

ということで、消費者契約法違反にならないようにしつつ通常損害と特別損害とを適度に免責するために考えてみた案がこちら。
サービスを利用されたことにより利用者に損害が発生した場合に、当社に軽度の過失が認められるときであっても、それにより直接かつ通常生じる範囲内の損害に限り責任を負い、その他の特別損害については責任を負いません。


こんなの見つけた・・・「ここまでやるか」な条項例


私はちょっとナシかなと思うのですが、某SNS事業者さんの利用規約にはこんな“工夫”が。消費者契約法対策の知恵の一例として、ご紹介させていただきます。
第19条 免責事項
1 弊社は、ユーザーの通信や活動に関与しません。万一ユーザー間の紛争があった場合でも、当該ユーザー間で解決するものとし、弊社はその責任を負いません。
2 弊社は、本サービスの内容の追加、変更、又は本サービスの中断、終了によって生じたいかなる損害についても、一切責任を負いません。アクセス過多、その他予期せぬ要因で表示速度の低下や障害等が生じた場合も同様とします。
(中略)
7 本利用規約又はその他の利用規約等が消費者契約法(平成12年法律第61号)第2条第3項の消費者契約に該当する場合には、本利用規約及びその他の利用規約等のうち、弊社の損害賠償責任を完全に免責する規定は適用されないものとします。この場合においてユーザーに発生した損害が弊社の債務不履行又は不法行為に基づくときは、弊社は、当該ユーザーが直接被った損害を上限として損害賠償責任を負うものとします。ただし、弊社に重過失がある場合に限ります

いったんは1項・2項で「一切免責」と明記することでユーザーを牽制しつつ、いざ裁判に持ち込まれたときには法的に無効化されないように7項でカバーしておくというアイデア。
しかも上限をユーザーに実際に生じた直接被害に限定する念の入れよう。

法務担当者と顧問弁護士さんが相当意識して考え抜いたことがうかがえる、他には見られない興味深い事例です。消費者との紛争経験知が高い同社ならではの工夫ですねぇ。(ただ、最後の「ただし、弊社に重過失がある場合に限ります」の置き方が私が顧問弁護士から聞いた見解を踏まえるとまだ無効化される余地をはらんでいるような気もしているのですが)。


最後に、消費者契約法の参考書をご紹介しておきます。私はQ&A形式の法律解説書はあまり好きではないのですが、この本は免責まわりの解説が充実していたのでオススメ。

ガイドブック消費者契約法


あとは内閣府のサイトに上がっている逐条解説を読んでいただければ完璧かと。
逐条解説(内閣府消費者の窓)

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