企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

水野祐

【本】『北川一成の仕事術』― クリエイティブを生むインプットのコツは“ルーツとルート”

 
純米蔵 富久錦・ユーハイムといった食料品のパッケージから、Discovery Channelのロゴデザイン、内田洋行のような伝統的企業のCIリニューアル、そしてHISが運営する「変なホテル」のトータルディレクションまでを手がける奇才、北川一成さんのルーツと仕事術に迫るムック本。




 
私は、このブログで紹介する法務関連書籍やビジネス書以外にも、できるだけ幅広いジャンルの本や雑誌を読むようにしているつもりです。つもりだったのですが、インプットを広げる気持ちの余裕が持てていなかったのか、とくにこの2年間は、自宅の本棚とkindleを見る限り入れ替わりで入ったのは数えられるほどにとどまっていました。それに気づいたのが先日の引っ越しの時。

この引っ越しはいいタイミングと、強制的に本を捨てたりブックスキャン送りにして本棚に余白をつくり、かねてより消費者としては好きだったデザインやファッション領域のインプットを増やすようにしていました。そんな中、普段から色々なアドバイスや刺激を頂戴している水野先生のご縁で、GRAPH展開催中の北川さんのお話を伺った次第。

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このGRAPH展のみどころの一つが、普段北川さんの事務所に設置されている「回廊型本棚」が、そのままの形で移設されているところです。

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人の本棚を覗かせてもらうのはそれが誰のものであってもワクワクするものですが、第一線のクリエイティブの世界に生きる方が、日頃どのようなインプットを本から得ているのかを生で目撃できるというのは、なかなかない貴重な機会だと思います。

数学に、「順列」と「組み合わせ」という2種類の問題があります。順列はPで、組み合わせはCと表します。このような素敵なギャラリーで、今さら高校の数学をおさらいをするのも気がひけるので要点をまとめると、例えば1・2・3という数字がある時、「順列」では、1・2・3と2・1・3は違う意味を持っています。並び順が違うからです。しかし、「組み合わせ」では、3つの数字の組は変わらないので、並び順がどうであれ同じ「組み合わせ」となります。

今回、この展示で設計したのは、「組み合わせ」ではなく「順列」の概念をもった本棚です。「ある人間の考え方は、その人の本棚を見ればわかる。」とよく言われますが、この本棚はそれだけではありません。よく見ると、棚が螺旋(らせん)状になっているので、始まりの点からグルグルだとっていくと、時間の経過がわかるようになっています。ですので、ある本を読んだ後、次にどのような本を手に取ったのか、その後は?と北川一成の読書経験をそのまま追体験できるようになっています。つまり、本棚に時間の概念が埋め込まれているのです。
(展示解説より抜粋)

この領域に少しでも興味がある方は、まだ会期中ですのでぜひ銀座G8まで足を運ばれてはと思いますが、本書でも、その本棚の読書術の一端を垣間見ることができます。

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GRAPH展のトークセッションで、北川さん自らが一言でまとめられていたその読書術のポイントがこれ。
「ルーツとルートが好きなんですよ。元ネタが一緒だとしても、それがどうなっていくか。」
しばらく真似させていただこうと思います。


ちなみに、本書P94〜には水野先生との対談が掲載されているのですが、デザインの世界のプロは、仕事のアウトプットに責任を持つためにここまでの分野をカバーするのか、と唸らされる逸話がありましたので、こちらを最後に紹介させていただきます。

北川 (略)2004年に発表したkolorは、デザイナーであり代表の阿部さんからブランド名をカラー=colorにしたいと相談を受けました。colorは一般的な名称だからそれは誰も商標が取れないとお話しましたが、cじゃなくてkならよりかっこいいし、それなら取れると。それですぐに提案した所、図形としてもピリッとするし、発音としても同じだし、それでいきましょうと。

水野 お酒やファッションは特に、商標権が非常に大事な部分ですので、それが取れないとそもそもブランド名にできません。kolorは、今みると当たり前のように見えるロゴですが、知的財産について日頃から考えている一成さんのところに依頼がなければ、当初の案では商標登録できず、別の商標にせざるを得なかったと考えられる。従って知財の視点は決して無視できないことだと思いますね。


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【本】『法のデザイン』― 余白を楽しむ


仕事上お世話になっている先生方で「尊敬する弁護士」はたくさんいますが、シティライツ法律事務所の水野祐先生は、私の「憧れの弁護士」像そのもの。その水野先生が初の単著『法のデザイン—創造性とイノベーションは法によって加速する』を出版されました。法律知識を武器とする職業人と、そうした法律職の価値に疑いのまなざしを持っている方、両方に読んでいただきたい本です。

ご縁あってゲラ段階で中身は拝読していたにもかかわらず、法律書籍とは思えない美しい装幀の実物を書店で見て、我慢できずに即購入。あとがきにあたる「アウトロ」によれば、佐々木暁さんの手によるものだそうです。

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弁護士資格を取得し、実務で実際に法律や契約に対峙してみると、法に存在する「余白」に不思議と自由さを感じるようになった。同時代を生きるイノベーターたちとの刺激的な対話と実践のなかで、プロジェクトを法的に支援し、場合によっては加速することができるのではないかという手応えを得るようになった。(P7)
社会のルールたる法は、私たちの生活において欠かせないものである。ルールを意識するということは、メタな視点から物事を俯瞰することでもある。私はこれが「リーガルマインド」の真髄だと考えているが、それはあらゆる物事がネットワークでつながるアフターインターネット時代においてとりわけ重要な視点となってきている感覚がある。
大切なことは、ルールは時代とともに変わっていく/変わっていくべきという認識と、ルールを「超えて」いくというマインドである。ルールを超えていくことは、ルールを破ることを意味にしない。ルールがどうあるべきかということを主体的に考えて、ルールに関わり続けていくことを意味する。ルールを最大限自分寄りに活かすことは知性の証明に他ならない。(P7)
高度情報化社会は、「法の遅れ」を前提として、有史以来もっとも現実と法律の乖離が大きい時代であり、また、私たちが日々交わす利用規約を含む契約が大量化・複雑化している。そのようななかで、創造性やイノベーションの源泉である「余白」=コモンズをいかに法やアーキテクチャの設計や協働を通じて確保することが重要なのかについて述べてきた。(P46)
このような情報化社会において、法律や契約を私たち私人の側から主体的にデザイン(設計)するという視点が重要になる。「リーガルデザイン(法のデザイン)」とは、法の機能を単に規制として捉えるのではなく、物事や社会を促進・ドライブしていくための「潤滑油」のようなものとして捉える考え方である。(P47)


「企業法務のやりがいって何ですか?」

この仕事に携わるなかで何度となく投げかけられてきたこの質問。私はこれまで、「関わる製品・サービスに何かリスクがあるのではと不安を感じて自分を頼り相談してくれる経営者や社員に対し、法律という一見小難しいルールをうまくかみ砕いて説明することでその不安を解消し、感謝されること」といった、抽象度の高い回答しかできませんでした。また、感謝をいただく対象を経営者・社員と内向きに捉えている点にも、自分で口にしながら、疑問を感じていました。

この本を読んで、何が楽しいと思っていたのかを改めて発見することができたように思います。それは、「企業が製品・サービスを上市することを通じて世の中に新しい価値を提案する際、その提案の内容が本当に新しいものであるほど、法の遅れとの間に生まれる『余白』に触れる。この『余白』の明/暗の度合いを明らかにし、グレーであればより白くするための活動を行い、誰からもその製品・サービスの価値を認められるものとすること」であると。

そして、その余白を広げていくのも自分の仕事の一つなのだということも。


「弁護士はビジネスの現実を分かっていない」

法律職の代表格である弁護士という職業を、企業人が揶揄するときの常套句。弁護士こそが法律知識を誰よりも備えていてビジネスと法の間の「余白」のありかを教えてくれるはずなのに、相談してもその余白を探してくれようともせず、遅れた法への保守的な当てはめに終始するケースが多い、そう思われていることから出てくるものだと思います。

弁護士という職業に対しそのような批判的な態度を取っている人ほど、本書および著者水野祐先生の存在を知って驚くはずです。音楽・出版・アート・写真・ゲーム・ファッション・ハードウェア・不動産・金融・・・といった幅広い分野について、新しい価値が現状どこに発生ししつつあるのかを的確に把握し、それらの余白に潜む今後10年ぐらいの間に起こるであろう法的問題を見通し、解決の道筋について現時点での見解をはっきりと述べているからです。

問題はきっと社会にとって良い方向に解決できる。ただの楽観主義ではない、決意のようなものが込められた水野先生のメッセージに、特に起業家の方は勇気づけられることと思います。


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本書は、法務を業とする方にとって、広告業におけるマクルーハンの『メディア論』の如く新たな視座を与え自分の仕事の価値を再認識させてくれるものとして長く読み継がれることになるでしょう。それとともに、法律職に疑いのまなざしを持つ方にとって、水野先生のような弁護士がいるのだということを知らしめるものにもなるでしょう。本書の出版をきっかけに、志をともにする法律家とクライアントが先生の事務所を中心に集まり、イノベーションが加速することを願ってやみません。


追伸
本書内でわざわざ弊ブログおよび私について言及くださいまして、恐悦至極に存じます。ありがとうございます。
 
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