企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

民法改正

【本】『民法(全)』ー 新民法への上書き作業をスタートしました


ついに、重い腰を上げて、自分の頭の中の民法(債権法)のアップデートを始めました。





6月2日に公布され、2020年6月2日までに施行されることが決定した改正民法。3年前に『条文から分かる 民法改正の要点と企業法務への影響』を読んで以降は、頭の混乱を避けるために(という言い訳で)あえて新法に関するインプットを避けてきましたが、観念して知識の上書きを開始。最初の土台づくりとしてどの本がいいだろうか?と検討して選んだのが、この潮見先生の本です。


私は、まず本書を各章ごとに通読し、それが終わったら対応する箇所の判例六法プロのiPad版で新設条項を中心に素読みして(判例六法プロの民法改正案織込み条文では、新設条項がわかるよう明示されています)、新法独特のフレーズを条文から抜き出しアプリ上のふせんにメモを作りながら、あらためて関連部分をまた本書で読み直す、というような作業をやってみました。

image


改正後の新法前提に書かれたこの本では、改正前の旧法との比較に言及した記述は最小限にとどめられています。それでも、要所要所では以下のような旧法との対比に基づく解説があります。

▶︎旧法 634条1項ただし書きは、「瑕疵」(新法のもとでの品質に関する契約不適合に相当する)が重要でなく、かつ、修補に過分の費用を要する場合には、修補請求をすることができない旨を定めていた。しかし、新法はこの規定を削除している。これは、この場合(〔重要でない瑕疵〕 × 〔過分の費用〕事例)は、 412条の2第1項にいう「不能」にあたると考えられたからである。したがって、新法のもとでは、「契約不適合が重要でなく、かつ、追完に過分の費用を要する場合」には、追完が「不能」であると解すべきである。(P451-452)


民法の概説書としてはもっともコンパクトな部類に入る本であり、各論点に深く突っ込んだものではありませんが、おかげでかえって混乱なくスイスイ読み進めることができ、だいぶ視界が晴れてきた気がします。全体を見渡しての最初の感想としては、やはり約款規制対応は不可避だなということと、そして組合契約において新設条項が思っていたより多くかつ重みのある規律がなされていて、投資組合・JV案件に地味に影響がでそうだなと。

民法改正に備えて、「契約の趣旨」を契約書に書く練習をしてみた

 
民法改正の「その後」の実務の世界を想像するにつけ、企業法務パーソンとして一番気になるのは、裁判実務よりも、とりあえず契約(書)実務で何か影響ってあるの?という点ではないでしょうか。


s-IMG_1849


この点に関して、弁護士の川井信之先生が、改正後の条文に規定される見込みの「契約の趣旨に照らして」という文言についての懸念を『ビジネス法務』やブログなどで呈されており、興味深く拝見しました。以下は先生のブログからの引用です。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(前編)
中間試案の多くの、かつ重要な規定で使用されている「当該契約の趣旨に照らして」の語なのですが、「当該契約の趣旨に照らして」とは、具体的にどのような考慮要素に基づくものなのかについては、中間試案の「第8 債権の目的」の中で、定義が示されています。

「第8 債権の目的
 1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)
   民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
 (1) 契約によって生じた債権につき、その内容が目的物の引渡しであるときは、債務者は、引渡しまで、[契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により、その物を保存しなければならないものとする。
 (2) (略)」

 以上のように、「当該契約の趣旨に照らして」とは、上記の太字のブラケット部分にありますとおり、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」ものとされています。

 これはすなわち、当該契約の契約書の文言だけで決定される訳ではない(文言以外の諸要素に基づいて判断されることもある)、ということを意味する訳です(この事は、3月に開催された商事法務さん主催の債権法改正中間試案の解説会で、内田貴先生が強調しておられました)。

債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(後編(上))
 また、この「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、現在の企業間の契約実務の一部で広がりつつある「完全合意条項」というものも、その効力を大きく減殺または無意義化させかねないものだと考えております。

 すなわち、当該契約書の文言だけで決しようとする完全合意条項と、契約書の文言以外のものも考慮要素とする「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、明らかに矛盾する概念ですので、「当該契約の趣旨に照らして」の文言を含む規定が強行規定として扱われることになると、契約書に完全合意条項が含まれていても、その条項の効力が減殺・無意義化されかねないことになるからです。


私も内田貴氏のご講演や雑誌記事を拝聴している限り、この契約書の文言だけではなく「当該契約の趣旨に照らして」判断できるようにすることで今より何がどう良くなるのかについては、さっぱり納得感がありません。消費者契約法程度でも混乱が生まれているというのに、民法の大原則であったはずの当事者自治・契約自由の原則までもが、この「当該契約の趣旨」という言葉で不安定な状態にされ予測可能性が低くなるとすると、企業は困るだけなんじゃないでしょうか。被害者サイドとして、「契約書にはAと書いたが、契約の趣旨に照らしてよく考えてみるとBだった!」とか主張して助けてもらうシーンがあるのかもしれませんけど、それもなんだか間抜けな気がしますし。

こうなると企業法務パーソンみなさんが考えそうなのが、個々の契約条件とは別に、あえてはっきりと「取引通念がどうかに関係なく、本契約の趣旨はこれこれこうこうであるということで合意しました」と、契約の趣旨を構成する諸要素を契約書に明記してしまうという作戦。たとえ完全合意条項が無効化されても、契約の趣旨そのものがその言葉を使って契約書にストレートに書いてあったら、裁判所もそこに書いていないことを持ちだして「本契約の趣旨は本来こうこうこれこれである」とは言いにくくなるんじゃないかと。いやー自分だったら絶対やりますね。

なので、早速練習してみました(笑)。

第1条(本契約の趣旨)
発注者甲および受注者乙は、双方が属する業界における取引通念の如何によらず、受注者乙が発注者甲の発意と依頼に基づき生産性のみならず機密性・完全性・可用性の高いITシステムを構築することにより、発注者甲をして競合他社に比して経営効率が高い状態に到達させ、これに対し受注者乙が相当の対価を得んとすることが本契約の目的であること、本契約第**条に定めるITシステムの構築を発注することを欲し、受注者乙を含む3社による競争入札の結果受注者乙がこれを請負うこととなった経緯であること、ならびに、本契約の性質が請負契約であること、すなわち、ITシステムが第**条に定める仕様書のとおり何らの欠点または欠陥もない状態で本契約第**条に定める期日までに発注者甲に納入され検査に合格し、検査合格をもって発注者甲が第**条第1項に定める対価を同条第2項に定める期日までに支払い、その後本契約第**条第1項に定める保証期間の間に何らかの隠れた欠点または欠陥が発見された場合には同条第2項条に定める修補もしくは保証を提供し、または本契約の不履行によって発注者甲に迷惑・損害が発生した場合には受注者乙の責任においてまたは第**条に定める賠償または補償を提供すること、以上が本契約における民法第***条にいう契約の趣旨のすべてであることを確認し、第2条以下に定める委細条件に合意の上、本契約を締結する。


なんかあれですね。英文契約書の最初に置かれるWhearas Clauseが置かれるようになるってことなんでしょうかね。最近の英文契約実務ではWheras Clauseも流行らなくなってきているのに・・・。

債権法改正のせいで、契約書作りが面倒なことになりそうな気がしているのは、私だけでしょうか。
 

「約款が法律で規制されるらしいよ」と聞いて民法改正をはじめて知る人は少なくない、という事実が物語るもの

 
このへんの記事をきっかけに、法務パーソンではない友人・知人数人から民法改正について尋ねられるという経験をしました。

時代遅れの約款に法務省がテコ入れ?(スラッシュドット・ジャパン)
アプリケーションなどの利用など、必ず読まされることの多い「約款」。記載されている内容は重要だが、ほとんどの人は読み飛ばして Yes を選択していることが多い。この約款をめぐるトラブルが頻繁に発生していることから、法務省は関連する民法を見直す動きを見せているらしい (MONEYzine の記事より) 。

法務パーソンからすれば、「何をいまさらそんな話をしているの?」「べつに約款をめぐるトラブルが頻繁に発生しているから民法改正するわけじゃないよね・・・」と苦笑されるかもしれません。しかし、実際はそういった民法改正を知ってる人のほうが少ないのであって、日常生活の中で“契約”を意識するのはウェブで「利用規約に同意」ボタンを押すときぐらいの一般市民感覚からすれば、そういった日常生活にも影響や変化を及ぼす法改正があるんだよって言われてはじめて、「あ、なんか自分たちにも関係ある話なんだ!」と思えるということなんですよね。関係者のみなさんは「3年前からきっちり議論してました」とおっしゃいますが、普段法律を意識せずに生活できる一般人には、その改正の方向性や内容はおろか、民法が改正されようとしているということすらまだぜーんぜん広まっていないんだということは、特に法改正を強力に推進されようとしている内田貴氏やその他関係者のみなさまにはぜひご理解いただきたいところです。

s-IMG_1503
「国民が民法を読んで分かるようになるのは無理」というびっくり発言by内田貴氏もあったよみうりホール3/16講演会にて撮影


ちなみに、その約款に関して、民法改正で何がどう変わろうとしているのかを正確にお知りになりたい方は、今まさに法務省が国民に広く意見を求めるためのパブリックコメントの手続中で、そこに資料としてアップロードされている「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(PDF)」のP377ー390に記載されています。簡単にまとめると、
1 規制対象となる「約款」とは何かがはじめて定義される
2 約款が利用者との契約条件として有効に組み入れられるための要件が明確化される
3 約款の中で利用者が予想もしないような条項(不意打ち条項)は無効とされる
4 合理的な周知・通知がなされれれば、事業者が途中で約款を変更しても有効とされる
5 約款の中に不当な条項があった場合は無効とされる
の5点。1と2はこれまで不明確だった点の明文化、3と5は利用者保護のための、4については事業者にとっての約款の法的安定性を担保するための改正、といったところ。


冒頭紹介の記事にあるように「約款をめぐるトラブルが頻繁に発生している」のは事実だと思います。でもそれは、法律が約款について規律していないことが原因なのではなくて、たんに約款が必要になるような一対多サービスを利用する人の絶対数が多いから、ということなのではと。そもそも、「約款とは何か」「有効な約款・無効な約款とは」を一生懸命法律に書き込んだところで、(契約時に目の前に掲示される約款・利用規約すら読まない)一般の方が果たしてその法律を読むのでしょうか?法律で規律されるとトラブルが減るんでしょうか?結局のところ、約款・利用規約を事業者が読みやすくわかりやすくする工夫をしたり、契約行為に対するリスク認識を利用者の努力で向上させるなどして、お互いが真の合意形成をする習慣を身につけなければ、何の解決にもならないのではないのではないかと、私は考えます。
 
ということで、こちらをもって私からのパブリックコメントに代えさせていただきたいと思います。
 
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...