今月発売のBLJには、見所が3つありました。
・特集「労働法務の最前線」
・連載 Global Business Law Seminarの欧州の「約款規制法」解説
・連載 Legal Thinkingの無断録音テープの証拠能力についての解説
どれも大変参考になる記事でしたが、一応労働法の実務に携わるものとして、取り急ぎ労働法務の特集についてコメント。
『BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 08月号
端的に申し上げれば、レベルが高いけれど、企業側の視点で今の労働法のトピックスを抑えるには十二分な内容と思いました。
「レベルが高い」と申し上げたのは、現行労働法の基礎的知識をおさらいするような記事がないまま、改正の方向性について語られている点にあります。労基法改正にせよ派遣法改正にせよ、その改正の問題点や課題を議論するときの難しさは、実は現行法をしっかりと理解していないと議論の土俵にも立てないというところ。そうは言っても、現行法を解説しだすと紙面がいくらあっても足りないので端折らざるを得ないのも分かります。
その点を除けば、東大の水町勇一郎先生が労働法制の全体観を語り、実務感覚を交えた労働法リスクをフレッシュフィールズブルックハウスデリンガーの岡田和樹弁護士が座談会形式で語り、派遣法改正案の各論をロア・ユナイテッドの岩出誠弁護士が語り・・・と、企業側視点を持ちながらも偏り過ぎないバランス感覚をもった方々を的確に人選されているのが功を奏して、労働法の今後を概観できる良い特集になっています。
ただし蛇足ながら、ひとつ生意気な意見を申せば、P43〜「未払い残業代の請求は増加するか?」という記事については、ちょっと違和感あり。
タイムカード、時刻が記入された業務日報、社内ネットワークへのログイン/ログアウト記録、メールの送受信記録など、労働時間を客観的に証明できそうなものを請求側が有していたとしても、それですぐに請求が認められるわけではない。タイムカードは、職場にいた事実を示しても労働時間を示すものではないとした裁判例もあるし、PCを起動していた時間の立証をできてもその間ずっと業務に従事していたとは会社側が認めないケースも多い。というのは少なくとも私が裁判例を見ている感覚とはまったく異なりますし、こう書きながら同記事の後半では
未払い残業代請求は、一般的に「原告の勝ち筋」といわれる。「証拠がまったくないので提訴しないというケースを除けば、請求が全く認められず完敗したというケースはまだ一度もない」とベテラン弁護士は言う。なんて記載もあったりと、やや論旨不明な点が多い記事でした。過払い訴訟に変わって社会現象となりつつある安易な労働訴訟ブームへの警告、という主旨だとは思いますが、それならそれでもう少し論旨と根拠を明らかにして書いていただけると良かったのかな、と思います。
人材ビジネスの視点から労働法の実務を見つめてきた私としては、未払い残業手当問題の放置こそ日本の労働行政・労働慣行の暗部であり、ここを曖昧にせず企業の責任を問うていくことが、逆に(企業が望んでいる)労働者保護に過剰な解雇規制を適正化する議論やホワイトカラーエグゼンプションの健全な導入に向けた議論につながる、と思っています。BLJには企業法務パーソンの羅針盤としてだけでなく、経営層へのオピニオン・リーダーとしての役割も担って頂ければと、そんな期待を込めて生意気を申し上げました。どうぞご容赦を。









