企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

整理解雇

【本】解雇・退職をめぐる実務対策―労働法学者の「論文型」教科書を予備校テキストのセンスで再編集すると、こんなに分かりやすくなります

 
この4月に発売となった労働法関連の新刊のご案内です。

このblogで紹介していないものも含め、労基法の解雇・退職関連の法律書は何冊も読んでいるのでもういいかなと思いながら、手にとってめくってみると「お、これは」と思う点が多く、結局お買い上げとなっ(てしまっ)た本です。

解雇・退職をめぐる実務対策 (労働法実務シリーズ)



見やすさへの配慮と法的な確からしさのバランスが秀逸

労働法に限らず、法律の本には、
1)見やすさをひたすら追求する「図表型」
2)法的な確からしさを優先する「論文型」
の2つがあると思います。

1)の「図表型」は初学者の理解には大いに助けになる一方で、実務には使えないものとなりがち。一方2)の「論文型」は実務の助けになる一方で、敷居が高く読みこなせないと宝の持ち腐れになりがち。どちらにも偏らない「丁度いい具合」がいいわけで。

その点でこの本はそのバランスが秀逸でした。

基本的な構成としては、
第?章で解雇法理全体について述べ、
第?章から第?章で普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の順に解説し、
第?章では退職と合意解約と辞職の違いについて述べるという、
パンテグテン方式の如く講学的分類に忠実に、「論文型」構成をとりながらも、

実務家が最も知りたい「その解雇は有効となるのか無効となるのか」に関わる法的判断要素については、例えば普通解雇であれば
1 能力不足
2 勤務態度不良
3 欠勤
4 行方不明
5 遅刻・早退
6 協調性の欠如
7 私生活上の非行・犯罪
8 身元保証書の不提出
9 入社後発覚の持病
10 入社直後の産休請求
11 試用期間満了後の本採用拒否
12 私傷病による労務不能
13 業務上災害による労務不能
14 精神疾患
15 不注意による損害
16 雇止め
17 労働基準監督署への申告
18 職業人としての適格性欠如
19 ユニオンショップ協定に基づく組合除名・脱退
20 セクシュアル・ハラスメント
と、実務に即してかなり細かく個別テーマごとに節に分けた上で、その各節ごとに“チェックポイント”として法律と裁判例から導かれる法的判断要素をコンパクトにまとめており、「図表型」の分かりやすさも取り入れようという配慮が随所に見られます。

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また、重要な労働裁判例・判例をこれでもかとほぼ漏れなく引用し、特に重要な判例については各章の最後に「知っておきたい重要判例」というコーナーをわざわざ設けて判決文の抄録を掲載しているところもgood。
このあたりは、労働法全体について述べる本ではボリュームの関係で端折られてしまうところなので、分野別専門書ならではの良さが生かされています。

加えて、
・全体的に文字が大きく、
・2色刷りで重要な部分が目に飛び込んできやすく、
・文章に無駄が無く読みやすい
のも、通常の「論文型」法律書にない特徴。

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これらはすべて、著者が社会保険労務士でありながら各種セミナーや資格試験予備校の講師も務めている関係で、レクチャー用の教材作りに長けているからこその長所といえます。

はしがきによれば、今後「労働時間・休日・休暇」「賃金・賞与・退職金」とシリーズ化されていく予定とのこと。そちらにも大いに期待したいと思わせる良書です。

今起こっている学生の内定取消問題とその反応について一言

 
メディアの論調が“学生に対する「違法な」内定取消が乱発”というノリになっていて、さらには厚生労働省までこんな過剰とも思える反応を示しているので、一言申し上げておこうかと。

内定取り消し、企業名公表へ 厚労省が規定設ける方針―asahi.com
 景気悪化で新卒者の内定取り消しや非正規労働者の「雇い止め」が相次いでいる問題で、厚生労働省がまとめた対策案が2日、わかった。内定を取り消した企業名を公表できるようにするほか、派遣先が契約満了前に派遣労働者を直接雇用すれば、1人当たり100万円(大企業の場合は半額)の助成金を支給する。

 予算措置が必要ないものは来春までに実施したい意向だ。内定取り消し対策では、職業安定法の施行規則を改正し、取り消した企業を指導し、悪質な場合は企業名を公表できる規定を設ける。内定を取り消され就職先が決まらない学生を雇い入れた企業には、1人数十万円から100万円の奨励金を支給し、早期の就職決定を支援する。

 「雇い止め」や契約を中途解除された労働者らへの対策では、直接雇用した派遣先企業への助成金のほか、非正規労働者への雇用保険の適用基準を「1年以上の雇用見込み」から6カ月程度に緩和し、失業給付金の給付日数の延長も検討する。
 

内定取消がなんでも違法なわけではない

すでに各方面で語られているように、大日本印刷事件(最判昭和54年7月20日)により
・内定の時点で始期付解約権留保付労働契約は成立
・内定取消は法的には労働契約の一方的解除=解雇
という整理がなされているわけですが、内定取消そのものは違法ではなく、解雇権濫用法理がクリアできるかどうかの問題であることは、忘れてはならないと思います。

何が言いたいかというと、今の不況で内定取消をしている企業の中には、すでに民事再生に突入している会社や、その手前の段階ではあるものの整理解雇に踏み切らなければ存続不能な会社も多くあると思われ、そのような状況の会社において適切なプロセスを経て在籍する従業員と内定者とを公平に検討し整理解雇として内定取消(=労働契約の解除)をすること自体は、違法でもなんでもないでしょと。

なのに“学生の内定取消”だけを取り上げてご紹介のような過剰な対策を取っちゃう厚生労働省ってどうなんでしょうか。

だいたい「職安法施行規則を改正して悪質な場合は企業名を公表」ってありますが、これって35条を変更することを言ってるんだと思いますが、実際悪質か良質(笑)かというのは解雇権濫用法理に基づき本人が訴訟を起こしでもしなければ確定しないでしょうし、そんな不確定な状態で「この会社は悪質な内定取消ししてますよ〜」なんて公表をした日には、違う意味で法的な問題も生みそうです。

たぶん、施行規則が変わっても公表なんてしないと思いますけどね。
その以前の問題として、公共職業安定所等に報告する義務が職安法施行規則に規定されていることを知っている人事担当者がどれだけいるのやらwww。

しかも内定取消で困っている学生を雇用したら助成金を払い、さらに非正規雇用者のために雇用保険の加入・給付条件も緩和って・・・。ただでさえ、これから失業が増えて保険給付が逼迫しそうなのに。

こういった混乱の時代だからなおのこと、メディアにも厚生労働省にも、「学生や非正規雇用者が失業して困っているから対応しなきゃ」という反射的な反応でなく、「整理解雇が多発しそうな雇用不安の状況に対しどう手を打つべきか」という広い視野をもって、地に足をつけた対応をして頂きたいと思います。

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