企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

採用の自由

喫煙者を採用選考で排除することは合法か

 
先週も少し紹介したPRESIDENT 2009.5.4号のP109に、喫煙者の就職差別についての記事がありました。

・喫煙者を選考段階で差別することは、企業に認められた「採用の自由」の範囲であり、許される。
・一方で、採用後に喫煙者であるという理由で解雇をするのは法的に問題がある。
というのがこの記事の大筋の見解でしたが、前段の採用選考における喫煙者差別について、少し思うことがあります。

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健康増進法によって加速する喫煙者排除の動き


記事中に紹介されているセントラルスポーツ、星野リゾート、ライブレボリューションといった会社以外にも、入社に当たって喫煙者にタバコをやめさせたり、喫煙者を選考段階で排除する企業は増えてきているという実感があります。

企業が就業中にタバコを吸わせないことは、違法ではありません。
それどころか、健康増進法により、企業には受動喫煙が発生しないよう分煙環境を整える義務すら発生しています。

ところが、このような分煙環境を整えるには(タバコ部屋の設置等)カネがかかることから、そもそも喫煙者を入れたくないという企業の論理が働きます。

加えて、社長などが嫌煙者だったりすると、「タバコを吸うヤツは休憩を取りすぎて生産性が悪い」「そもそもタバコを吸うヤツは仕事ができない」などという先入観も働いて、容易に喫煙者を排除する方向へと傾いていきます。

しかし、タバコを吸う人からすると、本来自由であるはずの嗜好品たるタバコを強制的にやめろと言われる筋合いがどこにあるのか、という疑問が湧いてきます。「労働から解放される休憩時間に、外に出てタバコを吸う行為のどこが悪いのか」と。喫煙権の侵害ではないかと。


嫌煙権もあるが喫煙権もある


この点、私は厚生労働省の採用人権担当の方とも話したことがあります。

その時は、「喫煙権もある一方で、最近では嫌煙権も強くなっているので、なんともいえないですね。」と、玉虫色の回答ながら、少なくとも、そういった喫煙者を排除する採用選考も違法とは断言できない、という回答でした。

しかし、本当に「喫煙者排除は違法ではない」と言ってしまって良いのでしょうか

私はタバコを吸わないですし、好きか嫌いかで言えばタバコの煙やにおいは嫌いです。タバコが無い世界の方が自分にとっては快適ですし、嫌煙権を振りかざして、会社にとっての効率だけを重視する立場に立ちたいと思うときもあります。

しかし、企業に「採用の自由」が認められるとはいえ、休憩時間に外に出て吸うという喫煙者側の行動だけでも受動喫煙が起きない状況が担保しうるのに、「彼・彼女はタバコを吸う人である」というだけで選考段階で排除するというのは、プライベートな時間における人の趣味嗜好まで口を出すような行為であり、認められるべきではないと思います。

それを合法と言うなら、タバコを吸う行為そのものを禁止する、すなわち、喫煙権を完全に否定することが先ではないでしょうか。

飲み屋でキューバリブレばかり選んで飲んでいるヤツは採用しない。
クラブに繰り出しHOUSEミュージックに身を任せて気持ちよくなっているようなヤツは採用しない。
太宰治の『人間失格』を家で読んでいるようなヤツは採用しない。

こういった職務遂行能力と関係の無い理由で応募者を排除することは不当な就職差別にあたると理解していますが、エスカレートするとこういう不当な就職差別すら肯定してしまいかねない、危険な考え方だと思います。

【本】差別禁止法の新展開―採用に関わる者として持っておくべき差別問題の視座とは

 
・差別とは何か、どうして生まれるのか
・日本とアメリカを比較してのアメリカにおける差別撤廃に
 向けた取組み
・経済学・心理学・哲学・人事管理の4つの側面からみた
 差別禁止へのアプローチ検討
・年齢、障害、性的指向、美醜(容姿)、性別といった
 差別の典型例別分析
・企業現場での取り組み先進事例(ベネッセ、資生堂、
 横河電気)
について、私の大好きな労働法学者である森戸先生を中心に、他各分野の専門家が著された本。


EU労働法政策雑記帳のhamachan先生も先日紹介されていました。
差別禁止法の新展開(EU労働法政策雑記帳)

差別という問題を様々な角度で捉え検討する、差別に対する視座・視野を広げるのに適した本になっています。


採用の局面は差別のるつぼ

社会生活において、人が人を差別してしまう瞬間はさまざまありますが、特に採用の局面というのは、差別の問題が最も発生しがちな局面です。

実際に採用現場に携わっていますと、残念ながらそんなシーンを垣間みることもしばしばです。

例えば、国籍・性別・年齢による差別は典型的な事例でしょう。

・○○国出身者は、一般的に仕事が雑で、日本人ならではの
 礼節を理解しないからNG
・一般職という職群を口実に、その実は営業事務職に女性しか
 採用しない
・能力・経験が要求水準を満たしていても、35才以上は書類を
 通さない
とか、そんな差別意識をもつ企業は少なからず存在しています。

原因の一つとして、日本においては「差別とは何か」を体系的に定義する法律がなく、男女雇用機会均等法や雇用対策法など、部分的・各論的に差別が禁止されているにすぎないことが挙げられます。

また、国家の成り立ち上、差別の典型的事例である人種や民族問題等もあまり意識されてこなかった日本では、人権や差別とといった問題について、一人ひとりが身近な問題として考えるきっかけに恵まれていなかったのかもしれません。


企業の人事に関わる者としての責任

日本全体として、人権や差別といった問題にこれまで疎かったのはやむを得ないとしても、人事部門の方や私のような人材サービスの職にある者は、
・差別とは何なのか
・どうして採用選考において差別が発生しがちなのか
・差別のない採用選考をどう実現していくか
について、人一倍考え抜く必要があると思っています。

最近では不景気で議論がどこかにふっとんでしまいましたが、日本でも労働人口減対策として移民受け入れ政策を取ることも検討されはじめました。国籍差別の問題などは、特に認識を改めておく必要があるでしょう。

そして、企業として(差別意識・問題意識なく)慣習的・無意識的に行っている差別的な選考があるのなら、是正を促すことから始めなければと思います。
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