企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

引用

引用/編集/翻案/改変/アイデア借用の違いを図で表すとこうなる

 
著作権法に引用、編集、翻案、改変に関する規定はあれど、その違いが頭の中できちんと整理できているか、説明ができるか、といわれるとなかなか自信が持てないのではと思いますが、

この図は、
・原著作物からみた依拠/離脱度合い
・その行為によって生まれる成果物
に着目して一目瞭然に表現した、すばらしい図だと思います。

inyoruiji

林紘一郎・名和小太郎著『引用する極意 引用される極意P55より。

【本】引用する極意 引用される極意―適法な引用となるための“法定5要件”+“判例2要件”をご存知ですか?

 
引用を正しく理解できるようになるためには、まずその対象が著作物であるかないかをしっかりと見極められる著作権そのものの知識・理解が必要。

この点については、以前『引用・転載の実務と著作権法』のご紹介で申し上げたとおりです。
【本】引用・転載の実務と著作権法―「その引用が適法かどうか」を判断できるようになるために、まず最初に理解すべきこと(企業法務マンサバイバル)

この本は、読者がそのような著作権そのものの知識・理解をすでに備えていることを前提として、
・引用が法的に認められる要件
・出所明示の具体的見本例
を詳しく示してくれます。

引用する極意 引用される極意



著作権法上の5要件と最高裁判例の2要件

ご存知のとおり、適法な引用となるための要件は、著作権法に規定されています。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一  第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合

この2つの条文から導かれる要件は以下の5つとなります。

1)公表された著作物であること(32条)
2)引用して利用すること(32条)
3)公正な慣行に合致すること(32条)
4)引用の目的上正当な範囲内であること(32条)
5)出所の明示をすること(48条)


これに加えて、パロディモンタージュ事件(S55.03.28 最高裁第三小法廷)の最高裁判決において
ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない
と判示されたことにより、
6)引用部分が明瞭に区別できること
7)引用部が主従の従たる部分にあたること

の2要件が明確化されたことを踏まえ、この本でもあわせて計7つのポイントに注意して引用をすべきである、と説きます。

なるほど、著作権の本で引用の要件を調べるたびに、本によって要件の数や書き方が違っていた理由はこういうことだったのか、とフムフム納得。

とはいえ、7要件ではいかにも多すぎて頭の中にスッキリ入ってきません。
6,7を満たせば2,3,4の要件も満たされている、すなわち引用の要件は1,5,6,7の4要件だ、と考えても実務上差支えないのではと私は思っていますが。


ウェブサイトからの引用論について真面目に考えてみる

この本のもう一つの特徴が、学術論文だけでなく、ウェブサイトからの引用についてかなりキッチリと触れてくれている点。

どのくらいキッチリとしているかは、「なぜ他人の著作物にリンクを張るのが著作権侵害とならないか」について述べられたこの部分を見て頂ければわかるはず。
わが国の著作権法との関係で問題となるのは、複製権(21条)と公衆送信権(23条)であり、(後略)
まず複製権との関係を考えてみましょう。この権利は、著作者に無断でコピー(複製)することを禁止する権利ですが、リンク元はリンク先のコンテンツを自分のサイトにコピーしているわけではないし、リンク元が一度自分でコピーをしてから、当該コピーを閲覧者に送信しているわけでもありません。
閲覧者がリンク元にあるリンクをクリックすることによって受信ができるのは、リンク先ウェブが閲覧者へのコンテンツの送信を許可しているからにほかなりません。したがって、リンク元が無許可でリンク先ウェブのコンテンツを送信しているわけではない以上、リンク先の公衆送信権を侵害しているわけではありません。

ふつうの著作権法の解説書では、「無断でリンクを張っても、(フレーム内リンクにしない限り)著作権法上何の問題もなし」と簡単に片づけられてしまうわけですが、そこは1冊まるごと引用をテーマにしたこの本ならではの細やかさがあります。


web時代の出所明示は時刻までをも明示する

そして、分かっているようでいつまでたってもはっきりとした方法が分からない、模範的な出所明示の表記法についても詳しく述べられています。

たとえば、webサイトからの引用について、アメリカの有力な引用法マニュアル(Chicago,Modern Language Association,American Psychologigal Association)に共通するルールから著者が導いたオススメ表記法がこちら。
Yale University, History Department Home Page
[http://www.yale.edu/history/](accessed September 10,2008)

特徴的なのは、アクセスした日時を書くという点。
Wikipediaに代表されるように、web上の情報は容易に書き換えられてしまうことを考えると、確かにこうしておいた方がいいかもしれません。

というわけで、引用についての知識と理解を深めたい方にはうってつけのこの本。

ちなみに、この本の本文中でもっとも引用されていた文献は、やはりというべきか冒頭紹介した『引用・転載の実務と著作権法』でした。
読んでない方&著作権そのものについてまだ自信のない方は、是非そちらをお読みになってからこちらの本に挑まれることをおすすめします。

著作権法改正の議論って、不自然なくらい報道されませんね

 
ここのところ、著作権法改正まわりのニュースをあまり聞かないなと思って能動的に調べたら、いろいろあるじゃないですか。

権利者軽視では結論出ない? 著作権制度「大所」からの議論開始―文化審議会の「基本問題小委員会」初会合(InternetWatch)
著作権制度の根本的なあり方を議論する文化審議会著作権分科会の「基本問題小委員会」第1回会合が20日に開かれた。参加メンバーの半数以上が権利者で占められる同小委員会では、著作権制度の議論では権利者が軽視されているといった意見が多数上がったほか、日本版フェアユース規定については導入に慎重な議論を求める声も上がった。
JASRACのいではく氏は、「権利者を尊重すべき」という前提で議論を展開すべきとコメント。(中略)さらにいで氏は、過去の著作権分科会で主婦連合会常任委員の河村真紀子氏が、「自家用車で聞くために、消費者はもう1枚同じCDを買うのか」と疑問を投げかけたことを取り上げ、「当然だと思う」と説明した。「家にあるコーヒーを車で飲みたければ、持ち出すか外で買えば良いのと同じ。車で聞きたければCDを持って行くか、それがいやならもう1枚買えば良い。CDの自宅内でのコピーは認められてはいるが、コピーを持ち出すのは『基本的に全面OK』ではない。自宅内で使うものは仕方がないから認めるという程度。そういうことがきちんと理解されず、既得権のように当たり前になるのは非常に危険だ。」
「基本問題小委員会」で議論される予定の日本版フェアユースの問題については、日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏が、「日本を裁判社会に持って行く強い覚悟がなければ危険」として、導入の有無には慎重な検討を要請した。
 「米国のように懲罰的にきちんと賠償金を取れるのであれば成り立つが、日本では、権利者が侵害されたからと言って、大手を相手に訴訟したら心労で胃に穴が空いてしまう。日本には個人の権利者が多数いる。かたや利用する側の多くは会社で、法務部や顧問弁護士もいる。たとえ権利者が裁判で勝っても少額のお金しかもらえず、裁判費にも満たないだろう。」

と、まあ早速権利者側は全面戦争の構え。

この委員会のメンツには私も疑問を感じますが、実務面からは森濱田の松田先生とフェアユース推進派と推察されるTMIの宮川先生の2名が参加されているので、バランスは取っていただけると思うのですが。

議事録もこちらに公開されています。


無断配信コンテンツのダウンロード違法化法案が衆院可決(マイコミジャーナル)
衆議院は12日、著作権者の許諾を得ずにネット上で違法配信された映像や音楽のダウンロードを違法とする著作権法改正案を全会一致で可決した。改正案には、違法だと知らずに録音・録画をした人に不利益が生じないよう留意するなどとした付帯決議が付されている。

ファイル交換ソフトや音楽配信サイトを利用した音楽や映像の無断ダウンロードについてはこれまで、コンテンツ権利者から違法性が指摘されていた。だがこれまでは、コンテンツを無断で「配信」することは違法だが、ダウンロード自体を禁じる規定はなかった。

フェアユース議論に先駆けて導入される違法ダウンロード禁止法案。まあ、罰則がないんで取り締まるつもりもないんでしょうし、権利意識醸成・教育効果としてどのくらい意味があるか不明なんですけども。

これだけ報道が無反応だと、このまま成立しても国民への周知と理解促進がどれだけなされるのか心配です。


日本版フェアユース検討に向け、2009年度の法制問題小委員会が始動(CNET Japan)
著作権にまつわる法制度のあり方を議論する、文化庁の著作権分科会の法制問題小委員会の2009年度の初会合が5月12日、開催された。
委員からは「フェアユースのイメージが漠然としたままヒアリングをすると、話が噛み合わなくなってしまう可能性があるのではないか。ある程度要点を整理した上でヒアリングを行うべき」(東京大学大学院教授の森田宏樹氏)と意見を提案。一方、文化庁長官官房著作権課著作物流通推進室長の川瀬真氏は「政府の知財本部やこれまでの議論の中間報告書で関係団体などからある程度提言が出されている。とりあえずそれで整理されているので、これをもとに意見聴取を行いたい」と、方針を貫く姿勢を崩さなかった。
その後に行われた意見交換では、「権利制限だけでなく、著作権法体系全体の基礎となる課題。十分に時間を尽くした議論を」「日本と米国では法文化や慣習が違う。日本の国民性にのっとった独自のフェアユース規定を模索するべき」「一般規定だけでなく、個別規定の整理と合わせてトータルで考えていくべき」といった慎重的な声が聞かれた。一方で、「米国の裁判では競争法(独占禁止法)では著作権法の事例がほとんどない。これはフェアユースが一定の歯止めになっていると言えるのではないか」という前向きな意見も挙がった。

上述の基本問題小委員会との役割分担がイマイチ不明ですが、事務局の文化庁をはじめ法制問題小委員会はフェアユース導入ありき、という姿勢なんでしょうか。

権利を使ってビジネスを行う企業の実務家として、かつ自分自身も権利者を志す者として、現時点での私の意見を表明すると、
・権利者の権利はきちんと守れるように、が大原則。
・私的使用は認められる場合を明文化し、積極的に認める。
・私的使用に入らない不正利用については明確にこれを禁止
 する。ただし、権利者が不当に権利を濫用し利用させない
 行為は、文化の発展を阻害することにつながるので、権利を
 強化するのではなく、著作物の利用に対する正当な対価を
 どう権利者に循環するのか、という発想に立って権利を保護
 すべき。
・「フェアユース」というマジックワードをひとたび用意すると、
 正しい引用とは何かもまともに議論できない(しようとしない)
 今の日本では、「フェアユース」にかこつけた著作権の侵害
 が乱発することは間違いないので、導入は反対する。
こんな感じです。

それにしても、報道が無さ過ぎるのが何より気になるところです。
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