企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

国際法務

【本】英文契約書の作成実務とモデル契約書―裁判管轄が日本なら、英文で契約するのはやめておけ

 
久々の契約法務関係。

英文契約書の作成実務とモデル契約書

契約書サンプルを用い、初級者や法務担当ではない現場の方でも初めて読んでも分かるぐらいに英文契約特有のリスクを噛み砕いて解説。

日本の契約との違いを理解するのに必要な米国法の解説にも踏み込んでおり、読み手のレベルが初級であれば初級なりの、中級であれば中級なりの読み方ができるような本になっています。


まるで先輩と新人の会話を見ているかのようなQ&A

そんなオールラウンドなつくりのこの本の中で異彩を放っているのが、第2章の「英文契約書の読み方・作り方Q&A33」。

国際法務のTipsが1ページに1つずつ、計33個連発される、それだけと言えばそれだけなのですが、このQ&Aのところどころに、英文契約を扱い始めたころに出くわして先輩に尋ねた覚えのあるQが。

相手方からサイン証明を求められました。どのようにすればよいのでしょうか。
日本の契約書では袋とじをしますが、海外との契約書ではこのような決まりはあるでしょうか。
英文の契約書が製本され、いよいよ署名をする際になって、契約書の一部に誤記があることがわかりました。どのように訂正すればよいのでしょうか。
ある国の企業と販売契約をしました。契約書にはどの国の言語が契約言語か記載がなかったのですが、先方の要望で、英文とその国の言語の契約書の双方に署名しました。問題あるでしょうか。

法務歴がそこそこある方にとっては、自分の若い頃を見るようで、うーん懐かしー!という気分になるはず。
裏を返せば、初級者の方にとっては、いつかは必ず出くわすであろう疑問をあらかじめ先取りして予習できる本、ともいえます。


英文契約書を使って日本の裁判所で争うと・・・

そんなノスタルジックな気分も束の間、え、そうだったの?と目を疑うようなQ&Aが1つ混ざってまして。
外資系企業が契約相手方の場合、当事者が日本法人同士でも英文での契約締結を求められることがよくありますが、これは有効でしょうか。

このQに対するAはもちろん
契約書をどの言語で作成するかと言う問題も、当事者の合意によって決定されます。(中略)英文での契約が当事者を拘束する唯一の合意であるとの合意形成がなさされればそれで有効です。
と、ここまでは別に問題ないのですが、

その補足で自分の経験の浅さを自覚することに。
日本の民事訴訟規則第138条第1項は「外国語で作成された文書を提出して書証の申し出をするときは、取調べを求める部分についてその文書の訳文を添付しなければならない。」と規定しています。
同条第2項は、「相手方は前項の訳文の正確性について意見があるときは意見を記載した書面を裁判所に提出しなければならない。」とも規定しています。
つまり、結局日本で裁判するのであれば、せっかく英語で結んでも日本語に訳して争われるってことで。

この話、先輩に教わった記憶がうっすらとあったものの、その後時が経つにつれて、自分の頭の中で勝手に「裁判管轄を日本におく英文契約書では、英文契約の規定にしたがって紛争を解決する日本の裁判官にも誤訳されないような、分かりやすい英語を書くことが肝要。」という理解にすりかわってしまっていました。とんだ思い込みだったようです。

これまでの私の経験を振り返ってみると、そういえば日本で英文契約を使って争った紛争はいつも仲裁、かつ使用言語も英語と合意していたので、英文を和訳して証拠として日本の裁判所に提出する場面に遭遇していなかったみたいで。

この本にははっきりと書いていませんが、つまるところこのQの答えとしては、
当事者が日本法人同士であっても、英文で契約締結することはもちろん可能だが、その契約の紛争解決が日本の裁判所となる場合は証拠として訳文も提出することになり、その訳し方そのものが紛争の種になるので、和文で契約できるならその方が無難。
ということですね。

【本】国際ビジネス法務―“ときどき国際法務”な法務パーソンにこそ持っていて欲しい転ばぬ先の杖

 
先日、ある会合でこの本の著者、吉川達夫先生とお話をする機会に恵まれました。

このブログでも数冊ご紹介しているように、「NY州弁護士 吉川達夫」のクレジットが入った本を目にすることは多いものの、あまりメディアには登場されない吉川先生。
どこかの事務所に所属されているおとなしい学者肌の弁護士先生、といったイメージを勝手に抱いていたのですが・・・実際にお会いした吉川先生は、仕事も遊びもバッチリこなす、カッコいい大人のオジサマでした。

それもそのはず、この本の奥付の著者略歴にもあるとおり、吉川先生はNY州弁護士でいらっしゃる以前に元商社法務部で16年、そして今もなお外資系IT企業で法務本部長を務められている、超一流の現役ビジネス法務パーソン

しかも、多忙を極める中複数の法科大学院で講師も務め、このように本も書いているという・・・。いつ本を書く時間があるんですか?と尋ねると「飛行機の中なんか、とってもはかどりますよね」なんてさらりとおっしゃる。タフな方ってこういう方をいうんだろうなあと。

そんな吉川先生自ら、「これは結構いいですよ」とお奨めいただいたのがこちらの本。

国際ビジネス法務―貿易取引から英文契約書まで



国際ビジネスの心得から実務までをコンパクトに網羅

先に結論を言っておくと、さすが吉川先生ご自身が自信作とおっしゃるだけあって、内容充実のすばらしい本なので、国際ビジネスに関わる方であれば買って損はありません。

第1部では、国際ビジネスの法務の何が難しいのかを、準拠法の問題、知財紛争の問題、労務の問題に分けてポイントを絞って解説し、

第2部では、貿易実務を通して、安全保障貿易管理など輸出入に関わる法規制、インコタームス、信用状などの貿易実務、それらを踏まえたSales Note(売買契約)について具体的に解説し、

第3部では、
1)Distributor Agreement(代理店契約)
2)Service Agreement(業務委託契約)
3)Non-Disclosure Agreement(守秘義務契約)
4)Memorandum of Understanding(意向書/覚書)
5)Joint Venture Agreement(合弁契約)
6)Termination Agreement(解除契約)
7)Settlement Agreement(和解契約)
の7つの英文モデル契約を逐条式で解説するという、

かなりな広範囲をカバーした、欲張りの構成。

特に、他の国際法務本にはない特徴が見られるのが、株式会社クボタ法務部の方がメインで書かれた第2部の貿易実務をからめた解説部分。
船荷証券や信用状の実物を見ながら、ディスクレ(信用状記載の条件と船積書類上の記載が異なること)で支払い保証機能がなくなる問題など、実務でどんなところがリスクになりやすいかを知ることで、それこそ商社の法務の方でもなければ契約書上は適当にスルーしてしまっているような国際ビジネス法務の怖さ・要点を教えてくれます。
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このあたりの充実ぶりは、これから国際法務をバリバリやるぞという新人法務パーソンだけでなく、海外営業パーソンにも参考になるはずです。


「国際取引はたまに」という法務パーソンにこそ

しかし、実のところ、国際ビジネスに毎日のように関わる方以上に、
「ウチはドメドメで国際取引の頻度は少ないから」
とか、
「基本的に渉外事務所に任せちゃうからな」
とか思っている、“基本国内法務、ときどき国際法務”な法務パーソンこそ読むべきなのがこの本ではないかと。

前職時代は私も国際法務に携わっていましたが、商売がら役務系の契約がほとんどで、売買契約なんかは年に数回あるかないかという程度。
ちょっと難しいものになると渉外事務所にお任せをしたり、それほどリスクがなさそうな売買契約であれば、信用状のチェックポイントだのインコタームスのFOBだのCIPだのの違いから生まれるリスクを、その都度いろんな本でばらばらに調べたり上司に聞いたりしながら、今思えば取引の全体像も把握せずかなり適当にチェックしていたように思います。

そんな私が今この本を読むと、断片的に理解していたチェックポイントの数々が有機的に繋がって見えてくるのです。

国際取引は滅多に発生しない=逆に言うとたまには発生するという、その「たまに」にこそリスクは潜んでいるわけで。
普段から国際取引に慣れっこな人よりも、そんな「国際取引はたまに」な法務パーソンが読んでこそ、まさに転ばぬ先の杖とも言うべきこの本の真価が発揮されるのではないかと思います。
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