とかくキャッシュを大切に使いたいスタートアップ期において、法的な手続きにかかるコストにはうんざりさせられるもの。必要不可欠なものでなければ、「後でお金に余裕ができたらね・・・」となるのも無理はありません。
しかしそんなスタートアップの苦しい時期といえども、社名だけは早期に商標登録をして商標権を取得しておくことをお薦めします。「え?商標権って、具体的な商品名とかサービス名を決めるときとか、あわよくば商品・サービスがヒットしてから取得すればいいんじゃないの?」と言う方のために、以下その理由を3つにまとめてみます。
1.社名を商品・サービスブランドとしてそのまま“活用”できる
たとえばGoogleがわかりやすい事例ですが、社名であり検索サービスの名称であった“Google”がブランドとして認知されるようになった後、サービスの多角化にあたって“Google Map”、“Google Calendar”、“Google Docs”、“Google Reader”…という風に、ブランド名としての“Google”を流用して様々なサービスを展開しています(GmailやYoutubeやPicasaなど例外もありますが)。
このように社名を商標として権利化してブランドとして育てれば、【ブランドとして権利化した社名+商品・サービスの機能を表す普通名詞】を組み合わせて用いることにより、商標権をいちいち抑えなくても安心して商品・サービスを展開できます。
もちろん、商品・サービスを開発するごとに独自のユニークな名前を考えてもいいわけですが、このGoogle方式の方が新しい商品・サービスをリリースする際の機動性が確保できるだけでなく、商標権取得コストの節約にもつながるという点で、時代にあった賢い方法と言えるのでは。
2.同じ商号(社名)の会社が出て来ても対抗できる
会社を設立する際に商号(社名)を法務局に登記しているので、何か法務局が会社名を守ってくれるような錯覚を覚えますが、同じ名前の会社が存在しても、実は法務局は全くチェックしていません※1。従い、まったく別の会社があなたの会社と同じ社名で登記をすることも、似たような商品・サービスの商売をすることも、会社法上は可能となっています※2。
そのため、万が一同じ会社名で同じような商品・サービスを提供する会社がすでに存在し、または後で誕生してしまうとも限りません。そうならないようにするためには、商号(社名)を商標として権利化してしまうのが一番。裏を返せば、商号を商標として権利化しておかないと、商品やサービスのパッケージや広告に会社名をブランドとして表示できなくなるおそれもあるということです。
※1 以前は同一の市区町村内では同一商号では登記できない制度になっていたが、現在の会社法ではこの商号規制が廃止された。
※2 既に有名になっている商号(社名)を真似することは、不正競争防止法により規制あり。
3.ドメインネーム紛争リスクを低減できる
webサービスのスタートアップでなくとも、広告宣伝と信用創造の手段としてインターネットにHPやblogを開設することは当たり前の時代。その際には、社名にちなんだ独自ドメインを取得するのが通常です。いやむしろ、イマドキはドメインの空きを調べてから社名を決めるのが通常かもしれません。

しかし、ドメインネームが取れたからといって安心して商号(社名)として使うのは危険。ドメインネームは、その名前が商号として登記されているかどうかや商標登録されているかどうかとは無関係に取れてしまう(登録にあたりクロスリファレンスされるわけではない)ため、後でそのドメインネームに類似する正当な権利者が異議を申し立てた場合、不正競争防止法や日本知的財産仲裁センターのJPドメイン名紛争処理に基づき、ドメインネームの取消しや移転請求がなされる可能性があります。前述のように商号を商標権として抑えておけば、そのようなドメイン紛争に巻き込まれることもほぼなくなります。
なお、社名を商標登録する際、商標権の“守備範囲”(指定商品・指定役務といいます)をどこまで広くとっておくかがポイントになってきます。広く取れば取るほど将来に渡って安心ですが、コストも高く付く場合があるからです。この辺については弁理士等や商標管理の経験のある人に相談して検討してみてください。
8:20追記:
以下Twitterで“弁理士兼技術系の弁護士(マイノリティ)”wこと、この分野にお強い高橋先生よりいただいたコメント。
-@kamatatylaw
警告を受け取ってから慌てて出願して早期審査でっていうのが昨年だけでも5件以上あったし、訴訟されているのもある。スタートアップが社名を商標登録出願するのは必要だと思う。
2012/04/12 08:13:29
実際、大変なことになっちゃったケースは私もよく耳にしますので。こうなると専門家に任せるしかないです。
参考文献:
商標法全般についての易しい解説はこちら。
なるほど図解 商標法のしくみ (CK BOOKS)著者:奥田 百子
販売元:中央経済社
(2006-01)
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ドメインネーム紛争について解説が詳しい。
インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策著者:岡村 久道
販売元:電気通信振興会
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