企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

兼業サラリーマン

この数ヶ月のフリーエージェントな兼業サラリーマン生活を振り返って感じたことを整理してみた

 
3月に退職してからこの数ヶ月間、フリーエージェントな兼業サラリーマンとして、法務(複数社)/法律雑誌の編集/執筆のお仕事に携わらせていただきました。この場を借りまして改めて、このようなチャンスをくださった各企業の皆様に感謝を申し上げたいと思います。

来月からフルタイム正社員に戻るにあたっての区切り・けじめとして、この数カ月で私なりに感じたこの働き方のメリット・デメリットをここに整理しておきたいと思います。あくまで私の状況において発生した体験とそれに基づく私見ですので、異論・反論はあろうかと思いますが、私自身の反省が主な目的ですので、ご容赦いただければと。そのような前提ではありますが、もし同じような働き方を志向される方のお役に立つのであればうれしいです。

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メリット


メリット1 仕事を選べる


まず、自分が興味ある事業・仕事を選んでチャレンジできるという選択の自由があるのは、やはりいいことだなと思いました。大きな会社の大きな法務部だと、自分が興味のない事業のお手伝いもしなければなりませんし、飽きてつまらない単調な仕事もルーチンワークとして続けなければなりません。下手をすると倫理的にやっていいのだろうか?と疑問に感じる仕事に加担させられることも時にはあるかも。
1社専属ではなく、複数の仕事を持っているということが、「自分が望まない仕事を引き受けない」「お付き合いする相手を選べる」という自由も与えてくれるのは事実だと思いました。

メリット2 時間をコントロールしている実感がある


上記1ともつながるのですが、仕事を選び複数の業務を並行してこなすためには、自分の時間マネジメントに相当の意識を向けなければならなくなります。ダブルブッキングや締め切りオーバーをし、「他の会社を優先したのか」と思われてしまったら最後だからです。仕事を受ける際には、すぐできることはすぐに処理してアウトプットする/締め切りを確認する/できないものはできないと断る、というように、いやがおうにも時間に対する意識が高まります。仕事よりもプライベートの時間を確保する必要があれば(仕事を断わることで次の仕事が来ないというリスクも伴いますが)、それすらも可能です。
私の場合は1週間を見渡して、その週はどの会社のどの仕事にどれだけの時間を費やすか、プライベートの時間はどこで確保するか、そのために誰からどのように了解を得るかを考えるという、これまでやろうと思ってもできなかった働き方に自然となりました。

メリット3 働く場所を企業から問われない


雇う側の企業にとっては、私が毎日オフィスに居ることが前提になっておらず、むしろ居ない時間の方が長いため、家でもカフェでも移動中でも、連絡さえ取れてコンピュータとインターネットが利用出来る場所にいれば出社せずとも業務は可能でした。契約上も念のため出社義務がない条件としていました(事業場外労働のみなし時間制)。
ただし、私の場合は、後述するような理由でできるだけ会社のオフィスに駐在するようにしたので、あまりこのメリットは享受できませんでした(あえてしませんでした)が。


デメリット


デメリット1 次の仕事を取りに行く営業活動の負担が重い


この働き方を始めた当初のエントリにも書きましたが、仕事を得るまでの最大のカベは兼業禁止規程のカベでした。それについては甘んじて受けざるをえないにせよ、その兼業というハードルを乗り越えてでも雇ってくれるという興味や意思をもった企業を探し、説明をし、業務内容・労働時間・賃金等の条件をすりあわせ、契約を締結するという営業行為にかなりの時間と手間を要しました。そして、そのような手間を掛けて数年間契約が続くのならいいのですが、1〜3ヶ月毎に更新するようなスタイルですと、この負担は割に合わなくなります。
よくよく考えれば、これは派遣会社の派遣社員がみずから営業担当者も兼ねているような状態なわけです。派遣会社の営業担当者は営業そのものが仕事でありそれをやりさえすれば給料がでるからいいのですが、私は営業が仕事ではないのでそれにかけた時間は(成約しても空振りに終わっても)何の稼ぎもありません。業務に支障をきたさないようにしつつ、かつ今の仕事がいつまでどの位のボリュームでいつまで続くのかを予想しながら、契約が切れそうになったら裏でこそこそ営業マンをやるというのは、結構な負担感でした。こんなことを年がら年中やるのはつらいと思います。

デメリット2 キャリアプランがたてられない


これは中小ベンチャーのお手伝いばかりだったからかもしれませんが、1年後はおろか、3ヶ月後に自分がどのような業務に携われるのかもわかりません。その結果将来自分がどんな法務的テーマに携われるか、まったく見えませんでした。現実は、メリット2に書いたように、1週間先を考えるのが関の山という感じ。「来週はとりあえずこれやっておいて」「来月あの案件が入れば仕事が増えるかもしれないからその時はよろしく」こんなような会話がやっとで、下手をすると上記1のように、仕事がなくなりそうだから営業しなきゃというシチュエーションに陥る可能性もでたり。
法務のような専門性を磨く必要がある仕事ですと、解決すべき課題に関して先が見えないと、いま学ぶべきテーマも定まらないので、キャリアプラン以前に学習プランすら立てられません。成長を考えると、これは結構痛いんじゃないでしょうか。

デメリット3 得られるカネは高くならない


生々しい話で書きたくなかったのですが、これは避けては通れない問題なので取り上げておきます。

こちらとしては契約が不安定になる(一方で企業としては長期雇用のリスクがなくなる)分、高い賃金をお支払いいただけると踏んでいたのですが、企業から見ればフリーエージェントとはいえやっている業務はホワイトカラーのサラリーマンと同じなわけで、結局は1ヶ月の中でどのくらいの労力を自社に提供してくれているかが問われるのみ。すると「この仕事は何時間分の労務か」「1時間あたりどのくらいの負荷がかかるのか」というように、時間給的発想をベースにした賃金交渉となりがちに。しかし、時間給ベースで1万円を払ってくれる企業があるかというと、そうそうありません。35歳の同じような経験者の月給がだいたい社会保険料や諸税分を除く手取りで40万円として、月間200時間の労働時間とみなし割り算すると、時間当り2,000円、とはいえそれじゃ申し訳ないから色を付けて3,000円ぐらいでどうでしょうか?という話に大概落ち着いてしまいます。いや、手取りで計算されても困りますし、ホントはもっといただかないと割りに合わないのですが・・・というところからの交渉スタートです。
短期で契約をさせていただいた企業様のお手伝い案件で、(実験的に)あえてこちらからは金額を提示せず、仕事が完了してから相手に値付けをお任せしてみたりもしたのですが、やはり問わず語りに同じような考え方で同じような金額を先方から提示されました。
最近ヒットしている木暮太一さんの著書『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? 』にもありましたが、経済学的には、結局やってることが「労務の提供」である限りはどこで働こうが時間と引換えにカネを得るという構造に変わりはなく、こちらがリスクを張ったところで企業からすれば知ったこっちゃないわけで、一般賃金相場以上のカネは得られないのだなということを、身を持って理解しました。

デメリット4 ほとんどの経費が自己負担になる


サラリーマン時代は見えないコストの代表格である社会保険料や税金に加え、地味にきつかったのがこまごまとした経費の問題です。1日の間で会社をまたがって何度かバタバタと移動してミーティングをこなす際などは、交通費をどちらの会社に請求すべきか迷い、結局請求できませんでした。移動のついでを利用して特許庁や法律事務所等に外出した際の交通費も然り。純粋な通勤のための電車賃等すら、もともと契約上は出社義務がないところを出社していると気持ち的には請求しづらく、請求しないまま終了した会社さんも少なくありません。
その他、会食の費用や、業務に必要な本やセミナー費などについても、とてもじゃないですが請求できるような雰囲気ではありませんでした。

デメリット5 外様・お客さまになってしまう


毎日オフィスで空間を共にし、喜怒哀楽を常に共有し、昼夜同じ釜の飯を食う人たちにとってみれば、週1〜2日程度しかこない(複数社掛け持ちしていたので、1社あたりにするとその程度のペースになってしまいます)私は「たまにくるよその人」でしかありません。中に毎日いると気付かないのでしょうが、1週間ぶりにオフィスに入ると職場の空気・雰囲気もガラっと変わって見えます。あ、何かあったんだな、という感じです。そうなると、こちらも自然とよそよそしくなります。こういう関係性だと、プロジェクトにおけるリスクテイクの意思決定の場面などで踏み込んだコメントがしづらくなり、「社長がそうお考えなのであれば、契約書はそう作っておきます」みたいな態度になってしまうんですよね。
「はっしーさん、先週は何やってたんですか?」と気を使ってくれる人もいたり、こちらから絡んだりもするのですが、「同じ会社の人」「何でも話せて任せられる信頼できる人」「運命共同体」というレベルにはそうそう達しないのだろうな、そんなことを感じる瞬間が何度か有りました。新卒プロパーと中途の間にある乗り越えられないカベ以上の高さを感じましたね。

デメリット6 社内に流れる情報が入ってこない


私はノマド的な働き方は追求せず、むしろその会社にできるだけ駐在するようにしていました。周りの席から聞こえてくる世間話や愚痴も含めて、社内事情や課題意識にキャッチアップしようと務めたかったからです。しかし、これは上記デメリット5とも関連しますが、やはりいない間に何かがあると、こちらがキャッチアップすることは困難です。「あの人があの案件に反対するのはなぜだろう」「営業・企画が思ったように成果が出ずにみんな焦っているみたいだ、どんな指示が組織長からでているんだろう」そんなことを思っても、私が私の勝手で1週間留守にして発生している情報格差を解消するためだけに話しかけて空気を壊すなんて野暮なことはしたくないと、ついつい控えてしまいます。
また、社員間で交わされる業界の最新動向なども、その多くを聞き逃すことになるので、話についていけないことが多々ありました。やはり、多くの人とお客さまが集まる企業・組織とは、新聞やネットでは決して得られない独特なナマの情報が集まる場所なんだな、これを得るだけでも大きな企業に所属する意味はあるな、改めてそう感じました。

デメリット7 オフィスじゃないと集中できない/セキュリティ上問題がある


これは個人的な向き不向きの問題なのかもしれませんが、ノマドワークは細切れの時間を生かすという意味では効果のある働き方ですが、やはり一所に腰を据えて取り組む仕事の場合は、カフェ等で集中して効率良くアウトプットするのは無理だと思いました。加えて、情報セキュリティ上も大いに問題ありです。自宅でさえ、家族が話しかけてきてPCの文字が目に入ってしまうことは普通にありますし、電話をすれば仕事の中身は筒抜けですし。カフェなんぞもってのほかで、となりの奥様方がうるさかったり、ヘビースモーカーの副流煙でコーヒーもまずくなったり、そもそも十分な作業スペースを伴う席が思うように確保できなかったりと、仕事をする場ではないと感じました。
会社がコストをかけてまでオフィスを用意して一所に従業員を集めるというのは、上記デメリット5・6の解消のためにも、集中やセキュリティ確保のためにも、思っていた以上に意味のあることなんだなあと。

デメリット8 社会保険・税金はやはり面倒


これについてはこのブログでも何回も語ってますのでこれ以上多くを語りませんが、個人事業を含む兼業サラリーマン状態となると、家族を含む社会保険の加入手続については会社から何のバックアップもありませんし、税金も複数の先から源泉徴収されたり個人事業的な仕事も混ざったイレギュラーな状態なので、下手をすると確定申告は個人事業専業の方以上に面倒かも。


以上、メリット3つに対して、デメリットが8つ。

うまくいったかいかなかったかでいけば、私の実力不足もあり正直言ってうまくいかなかったと思いますが、デメリットが多いから二度とやらないとは思っていませんし(来月からは正社員として長期にコミットする以上、しばらくは無いはずですよ笑!)、これから同じような働き方にチャレンジする方に辞めておけ、などと先輩ヅラするつもりもありません。ただ、どんなに優秀でバーゲニングパワーのある方でも、得られるメリットと引換えに失うものもいくつかあるかも、ということを事前にお伝えできればと。

10年後ぐらいには時代も変わり、再びこんな働き方をしている私がいる可能性も十分にあるでしょう。そうなりそうなときは、今回の反省を生かし、障害を乗り越える準備を周到にして臨みたいと思います。
 

【本】ダブルキャリア ― 実際に“兼業サラリーマン”を始めてみての所感

 
先日、この本の著者である荻野さんにとある席でご一緒する機会に恵まれた際に、“兼業サラリーマン”にチャレンジしている旨をお話したところ、「まさに社会実験ですね。応援しております。」とご丁寧にお手紙を添えてわざわざこの本を献本いただきました。ありがとうございます。


ダブルキャリア―新しい生き方の提案 (生活人新書)ダブルキャリア―新しい生き方の提案 (生活人新書)
著者:荻野 進介
販売元:日本放送出版協会
(2007-07)
販売元:Amazon.co.jp



この本にいう“ダブルキャリア”とは、あくまでサラリーマンとしての本業を大切にしながら、キャリアを緩やかに広げていくために副業というかたちでステップを刻んでいく、という働き方の提案。実際にダブルキャリアを実践している方々のインタビューを足がかりに、法律的な問題点と解決策、経営者・人事目線を踏まえた将来展望までを描き、かつそのメリットの方に光を当てた筆致になっているところが特徴。

ずいぶん前にこのブログで紹介させていただいた本『ハイブリッドワーカー』も、本業を持ちながらクリエイティブな副業を持っている方々を数多く取材する本でしたが、あちらがその両立の難しさ・厳しさ・デメリットを生々しく描いていたのとは対象的な感じがします。

その『ハイブリッドワーカー』をとりあげ、(今は塀の中にいらっしゃる)堀江貴文さんのコメントとあわせてこんなポストを書いていたのが、丁度今から2年前。

兼業成功者のインタビューに見た兼業の現実
今いる会社(人材サービス業)に入ってこの数年間、長期雇用という安定と引き換えに1つの会社に束縛される「サラリーマン」という働き方をなんとか変えられないかと考えてきた私。

その一つの選択肢として結構最近まで有力候補にしていたのが、「兼業雇用をもっとメジャーにして、1つの会社に依存しないスキルと収入源を得られるようにし、ゆるやかに雇用の流動化を図っていく」というシナリオでした。

当時人材サービス業の中の人として、この“兼業”コンセプトを事業化して世の中のサラリーマンの働き方が変えられないかと企画書をいろんな角度から出して役員との面接に望んでみたものの、「時代の流れは捉えているように思うが、そこに市場が存在することを証明してくれないと、採用はできない」とボツり続けていたのがこの2010年頃。

そして「市場がないというならば、せめて自分自身だけでもやってみよう」と思い立って4月からチャレンジを始めているわけですが、1ヶ月やってみて今痛感しているのが、市場がないというのはやっぱり事実だなということ。そしてその市場拡大を妨げるボトルネックとして立ちはだかっているのが、就業規則における兼業・副業禁止規定の存在です。この本のP152以降にも、その実態が企業人事責任者へのインタビューとともに描かれているとおり、少し古いデータですが「雇用者の副業に関する調査研究」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)の調査においては、全面禁止と何らかの条件付きの企業をあわせ80%を超える企業が副業を制限しており、しかも、近年になって制限をする企業はむしろ増える傾向にあります。

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しばらくその企業の中にいて信頼関係ができている従業員がなし崩し的に副業を認めてもらうことはありえても、入社前から兼業を公言する候補者を受け入れるとなると話は別。一人の候補者の”実験的採用”のために、現在進行形で全社員に適用している就業規則をおいそれと変えるわけにはいかず、人事はそんな手間やリスクを乗り越えてまで採用しようと行動はしてくれません。私自身、知人経由で私の採用を前向きに検討いただいても、人事のところでお話にならなくなるケースがほとんどでした。そんな中で私は運良く理解を示してくださる数少ない企業と出会い、ダブルキャリアをスタートすることができ、トリプル・クアドラプルキャリアを目指すべく目下営業活動中ですが、この風向きが変わるのには少なくともあと5年は掛かるのではと予想します。兼業サラリーマン市場は、飛び込むにはまだまだリスクばかりが大きいというのが、現時点での偽らざる所感です。

もし私のような兼業志向をお持ちの方は、まさにこの本で提唱されている、あくまで本業を大切にした「ダブルキャリア」に今は留めておくことをお勧めします。そして、そういった方が一人でも多く生まれ業績的にも成果を出されることが、企業の猜疑心を解き、副業そして兼業が広く認められていくきっかけになるのではと期待しています。
 
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