企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

兼業

兼業サラリーマンは茨の道

 
退職が決まってから、私が何をやっているのかをお話したいと思います。

もちろん、退職意思決定後すぐに仕事を探しはじめたわけですが、まず最初の誤算が、2月からお話をいただいていて3月上旬に社長への面通しも済ませていたある会社さんへの入社が、その後同社に発生した事情により叶わなくなったこと。就職って本当にご縁だなあと改めて感じさせられた一件でした。

一方でその件のおかげで踏ん切りがつき、これも一つの機会と、前から思い描いていた兼業サラリーマンという働き方をお認めいただける会社さん探しを本格化しました。1社にべったりではなく、例えば週3日通うA社+週1日通うB社・C社というように、複数企業の雇用契約を組み合わせて兼業勤務するという働き方ができないものかという試みです。以前ブログでも書いたように、これには法律や税制上問題もいくつかあるのですが、そういうのは覚悟の上で、自分自身を実験台にして「多様な働き方」の実現に向けた冒険をしてみようかと。

ところが、これが思っていた以上に茨の道でした。

s-1078874_65912525


私としては、
  • フルタイムで法務は要らないが、週1〜2日ぐらいで勤務してくれると丁度いいという企業はそこそこあるはず
  • その分固定的な高い給与を払わなくて済むのは、企業にとってもメリットが多いのではないか
と思っていたのですが、一言で言えば「兼業?なにそれ」「法務がフルタイムで会社にコミットしてくれないでどうする」という会社が圧倒的だったということです。担当者レベルでは興味を持って声をかけて下さっても、人事的には「そんな特殊な条件では受け入れ難い」という会社がほとんどでした。

それでも提案を聞き入れてくださったいくつかの会社とNYから帰国後にお話をすすめさせていただき、4月の初めの一週間を交渉期間に費やしてようやく2社と合意した一方、他の会社とは条件が折り合わず不調に。この契約交渉にかかる負担は馬鹿にならないぞと、やってみて思いました。エンプロイヤビリティが高い低いの問題ではなく、労働者である私個人の生活がかかった中で複数社と並行して契約条件を詰め交渉するのは、相手も自分もものすごく神経を消耗するんですね。安売りはしたくない、かといってお高く止まれば嫌われるという中で、それぞれの会社同士の相性・繁忙期の重なり等にも気を使いながらコミットできるギリギリの範囲を想定し、自分にある種の値付けをしてオファーしその返事を待つ訳で、成約してもしなくてもいやな疲れが残ります。おそらく、条件が折り合わずお見送りとなった企業側も、同じような後味の悪さを感じたことでしょう。

“採用する・されるまでは大変だが、仕事にあぶれても内部労働市場(社内異動)でなんらかの仕事が得られる/企業としても人員配置を柔軟にできるから実は効率的”という、労働経済学でよく語られる日本的労働慣行のメリットは、やっぱり一理あるなあと身を持って実感した次第。健康/厚生年金/雇用保険に入れないという問題や税制がネックだとばかり思っていましたが、もっと手前の問題として、ジョブ・ディスクリプションもあるようでない、かつお互いに雇用契約の交渉慣れもしていないこの日本でこういう切った張ったをするのは、相当な困難を伴います。非正規雇用問題の解消という文脈で厚生労働省が先導する多様な形態による正社員や、濱口先生が火を付けたジョブ型雇用という新しい働き方を認める必要性が唱えられて久しい昨今ではあるものの、言うは易し行うは難しと、目下身を持って体感しているところです。
 
取り急ぎ、現状のご報告でした。


注1:一応お断りしておきますが、いま巷で絶賛バッシング中の「ノマド」や「雇われない生き方」を目指しているわけではありません。私の主義としてはできるだけ“職住接近”でありたいとは思っていますし、時に在宅勤務も効果的とは思っていますが、どこでも集中して仕事ができるほどの集中力を持ち合わせていないようなのと、業務委託で法務をやるのはさすがに法的にグレーすぎるので…。

注2:強いて言えば、「副業」ならぬ「複業」を提唱しているおちまさと×本田直之さんの「ひとりコングロマリット」にイメージが近いでしょうか。

25歳からのひとりコングロマリットという働き方 〜仕事も肩書きもひとつじゃなくていい.〜25歳からのひとりコングロマリットという働き方 〜仕事も肩書きもひとつじゃなくていい.〜
著者:おち まさと
販売元:大和書房
(2012-01-25)
販売元:Amazon.co.jp


 

兼業成功者のインタビューに見た兼業の現実


兼業という働き方に関する堀江さんのこのブログエントリに、いたく共感するところがありまして。

「兼業」を嫌う日本人(六本木で働いていた元社長のアメブロ)
谷亮子が民主党から参院選に立候補するのに、同じくオファーを受けた高橋尚子は断ったから絶賛というのはまさに、悪しき日本人気質の象徴のようなものだ。別に二足のわらじのどこがいけないというのだろうか?

多くの日本人はサラリーマン専業しかやったことがない、あるいはひとつの職業に一生を費やすのが美徳だと思っている節がある。私も社長をやりながら選挙に出たら猛批判された。片手間でできるのか?と。今まで以上に働くということだ。みんなが休日で休んでいるときも働き、のんべんだらりとテレビの下らないバラエティ番組を鼻くそほじりならが見ているときも、ずっと働くということだ

今いる会社(人材サービス業)に入ってこの数年間、長期雇用という安定と引き換えに1つの会社に束縛される「サラリーマン」という働き方をなんとか変えられないかと考えてきた私。

その一つの選択肢として結構最近まで有力候補にしていたのが、「兼業雇用をもっとメジャーにして、1つの会社に依存しないスキルと収入源を得られるようにし、ゆるやかに雇用の流動化を図っていく」というシナリオでした。考えだした最初の頃は、1社雇用前提にした法制度が障害になるのだろうと考え、こんなエントリもあげてみたりしたのですが、色々調べていくうちに、そういった法制度の問題とは全く違う観点での難しさを痛感させられた次第。

何が難しいかというと、時間です。兼業の成功者たちは、堀江さんが言うように、とにかく寝てない・休んでないんですよ。

その証左として、例えばこの本。

ハイブリッドワーカー 会社勤めしながらクリエイティブワークする


インタビューに登場する6名の方々のほとんどが、昼間のサラリーマン・OL業を“生活を維持するための手段”としてできる限り軽く・短くし、それ以外の時間を“本当に好きな仕事”に当てることで、成功を手にされているんですが、その代わりに、端的に言えば倒れそうになりながら働いてます。睡眠時間2時間が当たり前とか・・・。家族の時間も犠牲にして。ワーク・ライフ・バランス?何・そ・れ?です。

この現実を見せられてしまうと、所帯持ちの普通の「サラリーマン」が、兼業と聞いて「いいなあ、そんな働き方してみたいなあ」と思ってくれそうもありません。

代替策として、
・月水金はA社
・火木土はB社
と出勤日をキレイに2つに分けられたとしても、結局仕事(顧客)は1社のときより増え、次の出勤日まで待っているわけで、専業よりも追われる感じが強くなる状況からは、どうあがいても逃げられないんだろうなあ。

会社とビジネスパーソンとの健全な関係構築を目指す私にとって、貴重な選択肢の一つかに思えた「兼業雇用のメジャー化による緩やかな雇用の流動化」というアイデアが、ますます非現実なものに思えている今日この頃です。

じゃあどうすればいいのかは、目下鋭意検討中でございまして。。。
 

兼業(副業)を実際にするとなるとこれだけ面倒なことになる・・・会社が認めてくれたとしてもだ


昨日、twitter上で「iPadに対面カメラが付けばテレワークツールとして最強。兼業サラリーマンも増えるんじゃないか。」という自論を展開したところ、いつもtwitterで私のポストをいじって下さる@isologueこと磯崎先生から、

とバッサリ一刀両断されました(泣)。

私としては
  • 日本のサラリーマンがいきなり自営になるのは精神的ハードルが高く、ソフトランディングな「働き方の多様化」が必要
  • 1つの会社に100%の能力を費やしている人はレア。1人につき30%ずつぐらい余っているはずの能力(労働力)を他に振り向ければ、日本の課題と言われる“人口減”と“労働生産性の低さ”を解決することにもつながる
  • 法務パーソンは弁護士法72条の関係で自営(業務請負)にはなれないが、兼業(雇用)であれば自営に近い働き方が可能←弁護士資格取れば?という突っ込みは無しで(笑)
という3つの点から、まずは自営ではない兼業サラリーマンが当たり前の世の中にならないものかと、結構本気で思ってたんですけど。

しかし、今の法制度を前提にすると、磯崎先生の言うとおり「ややこしい」ことは否定しようがなく、反論の余地はありません。

試しに、今の法制度化で兼業(副業)するとどれだけ面倒なことになるか、以下まとめてみるとします。


1)労働時間の通算


労働基準法第38条は、労働時間通算の原則を定めています。これは、「色んな会社・事業所でバラバラに働いても、その時間を通算した総労働時間が労基法に定める働かせてもいい時間の上限を超えたらNGですよ」という規定です。

たとえばあなたがA社とB社を兼業したとして、ある1日にA社で6時間→その後B社で4時間=通算10時間労働する場合は、1日の法定労働時間の上限である8時間を超えてしまいます。この場合、36協定を結ばないといけないのは当然、B社としては、4時間しか働かせていないにもかかわらず2時間分の割増賃金を負担しなければならないのです。
お気づきのとおり、これでは兼業する企業間で「法定労働時間のイス取りゲーム」のような理不尽な争いがおこります。

またそれ以前に、労働者の通算労働時間をA社・B社が正確に把握・共有するということ自体が相当困難で現実的ではない、とも言えます。

※この点については昭和23年5月14日付基発769号でも明示されているのですが、労働法の大家菅野先生に言わせると「この規定は同一使用者の2以上の事業場で労働する場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解釈すべき」つまり別会社まで通算しろとは言ってないんじゃない?と主張されていたりもします(菅野『労働法 第八版 』p253)。


2)社会保険


社会保険については、保険の種類ごとに細かく対応が分かれますが、特に労災保険に問題があります。

a)健康保険・厚生年金保険
2つ以上の強制適用事業所に勤務し、いずれの事業所も同一の保険者が管轄している場合は、保険者は各事業所から受ける給与を合算して保険料を計算し、その給与に比例して算出したものを各企業が徴収することになります。また、保険者が異なったり、管轄する都道府県が異なったりする場合は、どちらの保険に加入するかを被保険者が選択して届け出ることになります。
保険料は、社会保険事務所がそれぞれ企業の給与金額に応じて按分しA社にはいくらB社にはいくらと通知します。私は見たことがありませんが、なんでもこの通知には兼業しているため按分しているとの理由が付されてしまうそうで、これによって兼業(副業)していることが人事にバレる可能性も出てきます。

b)雇用保険
兼業(副業)していても、1社のみでの加入になります。
労働時間法制上1週40時間以上働けないこともあって、兼業社全てで加入要件を満たすケースも珍しいかと思いますが、仮に加入要件をすべての企業で満たしても、現実的には本業となる企業でのみ加入することになります。

c)労災保険
それぞれの会社との雇用関係に基づいた適用・給付が行われます。A社に6時間勤務し、その後B社2時間に勤務していたとすると
 ア)自宅からA社までの通勤災害 /A社労災適用
 イ)A社勤務中の業務災害 /A社労災適用
 ウ)A社からB社移動中の通勤災害 /B社労災適用
 エ)B社勤務中の業務災害 /B社労災適用
 オ)B社から自宅までの通勤災害 /B社労災適用
このうちウ)の「複数就業者の事業場間移動中の通勤災害」が平成18年法改正ではじめて労災として認められるようになったのは一歩前進ですが、それでもなお厳しいのは、B社の対象範囲で災害に遭った場合、休業期間中はB社の平均賃金に基づく休業補償給付しか受けられない点です。上記の例だとトータルの労働時間の6分の2の割合でしか補償されないのに加え、当然A社での収入もなくなるわけで、これはかなりつらいことになります。


3)住民税


上記2)で社会保険料負担額の通知で兼業(副業)がバレる可能性が、と書きましたが、もう一つバレるルートがあります。それが住民税の特別徴収によるものです。

サラリーマンであれば、住民税は会社が給与から天引きして納めていると思います。これを住民税の特別徴収といいます。
この手続きでは企業は、年末調整終了後、従業員の住まいを管轄する区役所に給与支払報告書を郵送します。区役所はこの報告書を元に、翌年のその従業員の住民税額を計算するわけですが、兼業(副業)していると、この時区役所には複数の会社から給与支払報告書が届くことになります。区役所はこの複数届いた報告書の額を合算して翌年の住民税額を計算し、特別徴収を行う本業の企業に「税額決定通知書」を送ります。
そこに書かれた認識のない多額すぎる収入額によって、本業の企業が従業員の兼業(副業)に気付く・・・というわけです。


黙ってバレないように兼業(副業)しようとしても2)のa)および3)によりほぼ不可能ですし、もし会社に兼業(副業)を認める気概があっても、時間管理や社会保険実務に相当の負担が掛かるという現状。

政治的大英断で上記ポイントをシンプルな法制度にリフォームするでもない限り、今のままでは、兼業(副業)がメジャーになる日は来ないでしょうね。うーん、どうにかならないものでしょうか・・・。
 
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...