企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

公開会社法

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.25 4月号 ― 「公開会社法(案)」に対する江頭先生のカウンターパンチ

このエントリで伝えたいこと

  • コーポレート・ガバナンスを改善したければ、会社じゃなくてカネを出す人の姿勢を正したら?という江頭憲治郎先生の意見はまさに慧眼。

民主党の某議員へ江頭先生からのキツイ一言

今号でいよいよ創刊2周年を迎えたBLJ。たんなる専門誌的記事にとどまらず、勉強会や覆面座談会形式の記事を交えた飽きさせない内容の良さはもちろんのこと、法務パーソンを横串でつなぐ定期的な読者懇親会の開催、そしてついにはTwitterにも参戦を果たされ、今後もますます楽しみなメディアに成長されている感があります。

BUSINESS LAW JOURNAL 2010年 04月号


今回の特集「弁護士との関係はどう変わったか」も、私達法務実務家が日ごろ抱えている思いと、若手の弁護士さんと情報交換している中で漏れ伝え聞こえてくるような弁護士の本音の双方がバランスよくまとまっていて、楽しく読ませていただきました。

しかし、それよりも私の目を引いたのが、巻頭のOPINIONのコーナー。

このコーナー、たった1ページながら毎号大御所をブッキングしてくださっていて密かに楽しみにしているのですが、今回登場されたのはこれまた大御所、会社法の権威、江頭憲治郎先生。

昨今、民主党の一部議員が騒いで物議を醸している「公開会社法(案)」創設議論を意識しての、五寸釘ぐらいの太い釘を刺す刺激的な一言がw。

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日本と英米のコーポレート・ガバナンスの違いが指摘される場合、社外取締役などの機関構造の面が取り上げられることが多いが、実は彼我の最大の差異はそこではなく、株主のコーポレート・ガバナンスへの姿勢の差なのである。もちろん、個人投資家にそれへの積極的参加を期待しても無理であり、期待出来るのは機関投資家のみである。
現在また日本では、会社法改正の動きがある。そこでコーポレート・ガバナンスの改善を目指すのであれば、機関構造の改革とか取締役の責任強化を図ってみても、おそらくたいした効果は期待できない。真にわが国で改革が必要なのは、株主構造の機関投資家化を図ること、および機関投資家の資金拠出者の資金拠出者に対する義務の強化であろう

取引先を審査する業務をやってきた中で、私は「株主の筋を見ればその会社の筋が分かる」という確信を持っています。これは、大株主が変わったことでガバナンスが大きく変わっていく様を前職において目の当たりに実感し、それが原因で辞めるに至ったことも強く影響しているのですが、それもあってこの指摘にはとても共感を覚えました(「個人投資家に期待しても無理」のくだりはちょっと気になるものの)。

先生としては、当時の法務省法制審議会部会長として、会社法改正で会社側のガバナンス向上のための工夫はすべてやりつくした、という自負もお持ちなのだと思います。

「公開会社法(案)」に感じていた、これ以上会社をイジッてイジメてどうするの?という違和感が、この江頭先生の一言でスッキリした次第です。
 

まだ見えぬ公開会社法(案)に関する情報を整理してみたら、誰の利益のための法案なのかが分からなくなった

 
あいかわらずtwitterでは藤末議員(@fujisue)がこれをネタに叩かれ気味なこともあってか、ご本人が何度かブログ等で釈明されている公開会社法(案)について。

公開会社法,民主党はこう考える(Tech On)

とりあえず藤末議員が言いたいのは、「従業員代表監査役の話ばっかり一人歩きしちゃいましたけど、それだけじゃないんでヨロシク」ということらしいです。

そのわりには、民主党プロジェクトチームなる人たちが考えている法案の中身に関する情報はあいも変わらず断片的にしか出されていないので、全体として評価しようにもしようがないじゃないかと。

ということで、現時点で私が入手している断片的な情報(新聞記事・大久保/藤末議員の発言・法務筋の情報)をつなぎあわせて整理しようという試みが以下。もし事実と異なる点があればご教示下さい>民主党プロジェクトチームなる方々。


■対象
上場会社。
会社法上の公開会社の定義(株式に譲渡制限が付されていない会社)とは一致しない。

■法案骨子
骨子は以下4点。

1)情報開示の徹底
a.既存の金商法、会計監査制度等を準用した上で、一般会社より
 情報開示を強化。
b.株主に随時質問権を付与

2)内部統制の強化
a.社外取締役の選任要件強化
 ー親会社・借入先の銀行・有力取引先の出身者は社外要件を
  満たさないものとする
 ー社外過半数化も含めた人数要件の変更
b.監査役の一部の選任要件強化
 ー従業員代表(非組合員含む)より1名の選任義務化
c.監査役の権限強化
 ー会計監査人の監査役会等に対する報告義務
 ー会計監査人の選任・報酬決定の権限の監査役会等への移行

3)企業集団の明確化
a.企業集団の定義明確化
 ー金商法の概念を前提に再定義
b.親会社の責任・権限明確化
 ー子会社の重要な意思決定は、親会社の株主総会での承認を
  要する
 ー親会社は、子会社取締役の業務執行を指揮
 ー子会社債権者に、親会社とその取締役への損害賠償請求権
  を付与
 ー親会社株主に、子会社取締役への株主代表訴訟提起権を
  付与

4)その他
a.M&A規制の強化
 ー買収防衛策としてのポイズンピルの禁止
 ー買収者に全部買付義務

■導入時期
公開会社法の制定は3年後(2012〜13年)を見込むが、金商法の改正等や上場規則の変更による随時導入もにらむ。
 

と、あらためて眺めてみると、2bの従業員代表監査役は言わずもがな、3bあたりも法律関係を複雑にする百害あって一利なし、1bの株主随時質問権なんてIR部門がコールセンター化するわ公平な開示もあったもんじゃないわ・・・と、いったい誰の利益のためにこのような法案を検討されているのか、理解出来ません。

この点、藤末議員は冒頭紹介の記事で
まず根源的な疑問点として、現在の日本における企業の行動が野放図になっているのではないかということが挙げられる。下表のように続発する企業の不祥事を検討すると、適切な情報開示や企業統治を担保する仕組みが、法的に不十分なことに行き着く。
と述べた上で、カネボウの粉飾やライブドア事件等を列挙しています。
この法律が先に制定されていたら、カネボウやライブドアの事件は起こらなかったのか?という突っ込みどころはあるものの、ここだけ読むと、「株主が騙されないよう、株主の利益のために」ということのようにも読めます。

しかし、続く後段では突然株主が敵視(笑)され、
ここから先は藤末個人の意見であるが、やはり「会社は株主のもの」として短期の配当性向を過度に高めるように株主から強要されたことが、企業の健全な発展や社会の安定の妨げになっているといえるのではないか。
と、「企業や社会の利益」が持ち出されます。
株主が短期の配当性向を求めたんだったら当然企業は(合理的経営判断のもと応じられる範囲で)応じるんじゃないの?社会の安定って具体的には何?と、ここもお伺いしたくなるところです。

連合をはじめ、色々な団体の利益を総合的に勘案しているうちに、目指す方向性がわからなくなっている気がしないでもないこの法案。私としては、むしろ労働者の利益のための法案ということで振り切った再整理をした方まだいいのではないかと思うのですが。それが本音であるならば。
 

【本】大企業サラリーマン生き方の研究―従業員代表監査役なんておかなくても株主資本主義を修正し日本を元気にする方法はあると思う

 
公開会社法なる法律を作り、上場会社に従業員代表から監査役を選任させることで、労働者を軽視する株主偏重の経営を見直させよう、という考えをお持ちの政治家が少なくとも何人かいらっしゃるようです。

公開会社法、11年立法化 監査役に従業員、経済界は反発も
千葉景子法相は4日、上場企業を主な対象に情報開示や会計監査の強化などを促す「公開会社法」(仮称)について、2月にも法制審議会(法相の諮問機関)に諮問する方針を固めた。監査役に従業員の代表を選ぶよう義務づけることや、社外取締役を親会社や借入先から選べないようにすることなどが論点となる見通し。

私は、労働者でもありますが、時に株主でもある一人間として、これに反対します。
その理由は、1つは単純に株主が監査役を選任する際の自由(選択肢)を奪うものであるから。そしてもう1つは、従業員代表が1人監査役として入ったところで、ブレーキはかかりこそすれ会社の意思決定が良い方向にドライブするものではないと確信するから。

そんな遠まわりなバランスの取り方ではなくて、もっと直接的に、経営者と対峙しながらも会社を支えているビジネスパーソンの働き方そのものを見直すことで(行き過ぎた株主資本主義があるならそれをうまく修正し)、日本を元気にすることはできないのだろうか

このことは、私が今いる人材業界に飛び込んできた4年前からずっと考えてきたテーマだったのですが、私が答えを言語化できずのろのろしている間についに本になって出ちゃった、というのがこの本。私にとってはこの4年間で一番の本になってしまったわけです。

大企業サラリーマン 生き方の研究




サラリーマンの働き方を変えるというアプローチがある


面白いのが、この著者を書いた著者は労働法学や労働経済学の専門家でもなんでもなく、野村ホールディングスのグループHR企画長であるということ。
とはいっても、野村HDの宣伝をするような目的で書かれた本ではなく、著者がその仕事を通じて感じていた「なぜ日本の“サラリーマン”のイメージはこんなにも悪く、しかも企業経営と相容れないかのような存在になってしまっているのか。」という自問自答に会社を離れて回答を出そうとしたものであることが、読んでいて分かります。

そして、その結論としての具体的提案も、私が言語化しようと思って上手くできなかった点を、(さすが野村HDというカネを扱うスペシャリスト集団の人事企画マンだけあって)企業の貸借対照表への影響と労働法実務の両方を踏まえながら練られたものになっており、

・アメリカ型コーポレートガバナンスは、株主のリスク調整後の
 キャッシュフローの現在価値を極大化することを目標としている。
・この原理が運営の前提とする財務諸表と日本の労働法を考え合わ
 せると、会社にとってサラリーマンに対する賃金の支払は「長期
 債務」であり、サラリーマンは「長期債権者」となる。
ということを、キャノン等の企業の貸借対照表を使って示した上で、
1)人的資産と人的債務の双方を(これまでの人件費=費用として
  でなく)長期の債務・債権として貸借対照表に載せることで、
  経営は「人が資産である」を名実ともに認識すること
2)サラリーマンに対する賃金の後払い的構造を見直し、早期退職
  制度を活用すること
3)労働法における契約社員等の曖昧な取り扱いを明確にし、雇用
  形態の選択肢を増やすこと
を提案しています。

私も4年間という短い間ではあるものの、労働市場をおもに法律面から見つめてきましたが、著者の主張2)3)に異論はまったくなく、これに1)を組み合わせるという大胆なアイデアには、敬服するばかり。

後は誰がどうこれを実行するか。

人材業に携わる私の立場からは、ビジネス面から主に3)を、あわよくば2)も世の中に提案することはできそうです。しかし、1)を変え、そして2)や3)について法制度面からドライブをかけるためには、政治に携わる方々の力も発揮していただかなければなりません。

公開会社法以外の選択肢も含めて、日本の株主とビジネスパーソン双方にとっての最良の政策を検討していただきたいと、切に願い訴えたいと思います。
 
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