企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

位置情報

Pokémon Goのような<位置情報×AR>サービスを運営する事業者の法的責任

 
Pokémon Goがアメリカを中心に大ブームとなりつつあります。

Pokémon Goとは、スマートフォンに表示される現実世界をベースとした地図をゲームフィールドとして、ユーザーが実際に現実世界を歩きまわる=位置情報が更新されることで見つかるPoké-stopと呼ばれる拠点でアイテムを入手しながら、どこかに隠れているポケモンを探して捕獲し、さらに移動しながら捕獲したポケモンを育て、敵チームのポケモンとバトルしたり、ユーザー同士で協力してボスを倒すといったことを楽しむゲームサービスです。




「任天堂のスマホアプリが大ヒット」というような報道がされていますが、実際のところは、位置情報×ARサービスとして著名な“Ingress”を作ったNiantic,Incが発売元・販売元(任天堂・ポケモンカンパニーはNianticの株主でありライセンサーという立ち位置)となっています。日本でも2008年ぐらいに位置情報ゲームが一定の認知を得ていたと思いますが、個人的には、その性質上ハイテク好きのコアなユーザー向けゲームにどうしてもなってしまうのかなと思い込んでいました。位置情報に有力IPを使った親しみやすさとARの要素を掛け合わせることで、ここまでサービスを爆発的に流行らせることができるとは、さすがポケモン、さすがNianticです。

このゲームが市民権を得たことによって、今後<位置情報×AR>ゲームが続々とリリースされていくことでしょう。そして、そのようなゲームに共通するであろう特徴として
  • ゲーム世界でのアイテム取得・アイテムの育成・バトルのためにユーザーを現実に移動させる
  • ゲーム世界の拠点・アイテムをARオブジェクトとして現実世界の土地・建物内に設置する
  • ユーザーの位置情報を連続的に取得し、サーバーを介し多数ユーザーに共有する
といった要素が導入されることは、間違いなさそうです。そこで、ゲームに限らずこのような要素を盛り込んだ<位置情報×AR>サービスを提供するにあたり、事業者がその責任を問われることになるであろう法的リスクについて、実際にPokémon Goのヒットによって発生しはじめているトラブルを参考に、ざっくりと整理をしてみました。以下のとおり、大きく4つに分類できるのではないかと思います。


1)迷惑行為の誘引

サービスがユーザーの現実世界における注意力・判断力を減退させることで、歩きスマホ・ながら運転・危険エリアへの立入り等による迷惑行為や事故が発生する。

論点1−
サービスを運営する事業者が、ユーザーによる共同社会の利益を害する迷惑行為(いわゆるパブリック・ニューサンス)を誘引したことについての責任を負うか?
負うとすれば、それを減免するための注意義務はどこまでか?

2)所有権の侵害

他者が所有する土地・建物内にARオブジェクトを設置することで、その場所にユーザーが集まる。

論点2−
ARオブジェクトを設置した事業者が、土地・建物所有者が持つ権利(所有権・施設管理権)を侵害したことになるか?

論点2−
ARオブジェクトを設置した事業者が、ARオブジェクトの取得等を目指すユーザーの違法行為(不法侵入・不退去罪)を助長した責任を負うか?

3)知的財産権の侵害

他者が所有する知的財産にARオブジェクトを付着させたり重ねて投影することで、1つのオブジェクトのように表示しサービス内のプロパティとして一体利用する。

論点3−
ARオブジェクトの投影が、知的財産権の侵害(無許諾の改変としての著作権侵害、商標権侵害、著名表示冒用等不正競争防止法違反)となるか?

4)プライバシー権の侵害

位置情報をベースとしたユーザーのサービス内活動が、現実世界の氏名・肖像・住所・職業といった個人情報・プライバシー情報の意図せぬ流出・漏洩を引き起こす

論点4−
事業者として、情報保護法制の観点から求められるユーザー同意取得の水準は、通常のネットサービスより高くなるか?

論点4−
EUユーザーが、他国に越境しサービスを利用する場合において、4月に欧州議会で承認されたEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)に抵触しないようにするには、どうすべきか?


論点2や3については、ARサービスがカネになるビジネスとして育てば育つほど、原権利者(地主や著作権者ら)の権利とAR事業者との対立を調整する立法も必要になるかもしれません。その一方で、論点1や4については、ARが多くの人にとって普通のものとなれば(つまり人間の側がARに順応すれば)、落ち着くところに落ち着くような気もします。今はPokémon Goの突然のブームで初めてARサービスを実体験している人たちによって騒ぎが起きているものの、かつてIngressでも同じような事件・事故は起きていたからです。4−△離如璽燭留朸問題については、通常のネットサービスよりもユーザーの移動モチベーションが高まるため頭の痛い問題になるでしょうが、法的に特殊な対応を考えなければならないものは、全体としては心配されているほど多くはないのではないかと考えています。

なお、Pokémon Goはまだサービスインから間もなく、ユーザーからの課金方法またはAR広告の態様などについて明らかでない部分もあり、その方法によってはリスク評価が大きく変わる可能性もあります。また、(Pokémon Goはそんなことはしないと思いますが)ARがポルノや出会い系と言った性風俗分野のサービスと融合することで、別途特有のリスクが生じるケースはあるかもしれません。
 

一般的なARビジネスの法的論点について述べた書籍としては、いま販売されているものではこちらが一番まとまっていると思います。上記Pokémon Goの事例では論点としては挙げていない「ARによる広告の不当表示や書き換え」といった問題についても言及があります。




Pokémon Goの法的論点について述べているサイトのリンクも貼っておきます。

▼POKEMON GO AND THE LAW OF AUGMENTED REALITY
http://www.technollama.co.uk/pokemon-go-and-the-law-of-augmented-reality

▼Is PokemonGo Illegal?
http://associatesmind.com/2016/07/11/is-pokemongo-illegal/

▼Pokemon Go Ushers in a New, Augmented World of Legal Liability Concerns
http://www.jdsupra.com/legalnews/pok-emon-go-ushers-in-a-new-augmented-36311/

▼How Pokemon GO Players Could Run Into Real-Life Legal Problems
http://www.hollywoodreporter.com/thr-esq/how-pok-mon-go-players-909869

▼Signs of the Times: How Pokemon Poses Municipal Regulation Questions
http://ht.ly/VKc8302i3iF

▼Your Pokemon Go Legal Rights … Don’t Get in Trouble!
http://lawnewz.com/high-profile/your-pokemon-golegal-rights-dont-get-in-trouble/

▼Pokemon Go Strips Users Of Their Legal Rights; Here’s How To Opt Out
https://consumerist.com/2016/07/14/pokemon-go-strips-users-of-their-legal-rights-heres-how-to-opt-out/
 

【本】ソーシャルメディア時代の個人情報保護Q&A ― 個人情報・プライバシーのまるごとパック

 
これは買っておきましょう。私も数十冊の個人情報・プライバシー関連の書籍を買って読んできましたが、ここ2〜3年先ぐらいまでを見据えたいまどきのウェブサービス・スマートフォンビジネスにおける個人情報・プライバシーの取扱いについて、これ以上にまとまった書籍がほかにないので。というわけで秋のIT系法律実務書祭り第三弾がこちら。


ソーシャルメディア時代の個人情報保護Q&Aソーシャルメディア時代の個人情報保護Q&A
販売元:日本評論社
(2012-09-20)
販売元:Amazon.co.jp



たとえば、「携帯ID」の個人情報該当性・プライバシー性に関して、30ページ超にわたって取り上げている書籍というのは、私の知る限り今のところこの本だけです。

日本において、ユーザーと携帯電話事業者との契約には、携帯電話番号のほかに、契約ごとに「契約者固有ID」と呼ばれる固有の識別子が割り振られている。
契約者固有IDが「ガラパゴス携帯」である日本独自の携帯IDであるのに対し、端末固有IDは、国内外を問わず、スマートフォン端末自体に割り振られるIDである。
契約者固有IDは、Q1で述べたように「端末に固有」ではなく、「利用者に固有」であって、利用する携帯電話端末を変えても不変であることから、UDID以上に強力なトラッキングを可能とする。
携帯IDを利用したユーザー識別方法とクッキーを利用したユーザー識別方法との最大の相違は、携帯IDが長期にわたり不変のIDであり、アクセスするすべてのウェブサイトに対し、同一のIDが送信されるのに対し、クッキーはユーザー側で消去等の管理可能な一時的なファイルであり、アクセスするウェブサイトごとに異なるクッキーが送信されるという点である。

私がこの携帯IDの危険性について認識できたのは、2008年以降の高木浩光氏の一連のブログ記事やTwitter上での問題提起によってでしたが、当時の私はiモードIDのような契約者固有ID(加入者識別ID)とUDIDのような端末固有IDの違い・リスクの差もよくわかっていませんでしたし、契約者固有IDや端末固有IDを使ったクイックログイン(かんたんログイン)機能なども、危険性についてすぐにはピンとこない部分がありました。しかし2012年となり、スマホでのウェブアクセスがPCによるアクセス数を超えるようになった今、この違いについて知らずにITビジネスに携わっているのは大きなリスクを伴います。この本では、上記引用にあるような難しくない言葉で、そういったそれぞれのキーワードに初めて触れる法務パーソン・ベンチャー経営者でも十分にわかるよう説明がなされています。第二東京弁護士会編であり、法的な正確性もお墨付きです。

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今夏8月、『スマートフォンプライバシーイニシアティブ』が総務省から公にリリースされ、この点に言及し世間を騒がせているところですが、「(契約者・端末固有 IDを)同一 ID に紐付けて行動履歴や位置情報を集積する場合、プライバシー上の懸念が指摘される。」との記載があります(P45)。しかし、結局それを扱ってよいのか、扱う場合はどのような点に配慮をすればよいのかの答えが明確に示されてはいません。各業界・各法務がそれぞれ自己流で解釈・リスクを検討していた中で、この本で示される方向性は少なからず影響を与えることになるでしょう。

さらに、第4章で取り上げられているこの「携帯ID」の問題のみならず、以下の様なトピックスが網羅されています。
第1章 ライフログ・ディープパケットインスペクション・行動ターゲティング
第2章 クラウドサービス
第3章 道路周辺映像サービス(ストリートビュー)・ライブカメラ
第4章 位置情報・アプリ利用履歴データ
第5章 インターネット上の書き込みと発信者情報開示

そして第2部では
・世界の潮流
 -第三者機関を設置する主要国の個人情報保護法制
 -プライバシーバイデザイン
・個人情報・プライバシーに関する国内の代表的判例33選
と、大きな流れを掴むために必要な知識が、コンパクトにまとめられています。

タイトルは売れ線を狙って「ソーシャルメディア時代の〜」という冠をつけてしまったのだと思われますが、中身は決してそれに限定されておらず、およそ日本で見聞きできる個人情報・プライバシー関連情報の一切が、この1冊にきれいに収まっていることがお分かりいただけるかと。10冊の類書、100のサイトを読んで情報を集めるよりも、この1冊を読むほうが圧倒的に効率がいいことは、間違いありません。
 
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