企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

ロイヤルティ

【本】知財ライセンス契約の法律相談―ロイヤルティ契約で違約金条項の有効性が争われた裁判例はいくつある?

 
青林書院の『○○の法律相談』シリーズには何冊かお世話になりましたが、いかんせんQ&A形式ですとテーマに対する論点にどうしても抜け漏れが発生しがちなところ。

しかしこの『知財ライセンス契約の法律相談』では、
・総ページ数…855ページ
・掲載されたQ&Aの数・・・106問
・執筆者の人数・・・総勢65名
というシリーズの中でも突出した圧倒的ボリュームで、そのQ&A形式の弱点を見事に克服しています。


知財ライセンス契約の法律相談 (新・青林法律相談)知財ライセンス契約の法律相談 (新・青林法律相談)
販売元:青林書院
(2011-06)
販売元:Amazon.co.jp


これだけのボリュームがあると、1冊を読み通せばかなりのライセンス契約通になれることはもちろん、ライセンス契約に関する辞書といってもいいほどの情報量に必然的になっているわけで。

実際に私がこの本の豊富な情報量に助けられた事例を一つご紹介します。


違約金条項の有効性が実際に争われた裁判例はいくつある?

例えば、ロイヤルティ契約において、ロイヤルティの申告・支払いを約定どおりしない会社に対する契約上の防御策は、契約検討の際にいろいろ考えていらっしゃるものと思います。

その中でも、おそらく誰もが真っ先に思いつくであろう防御策の1つが、違約金の設定でしょう。
ライセンシーがロイヤルティの計算をごまかすようなことのないよう、そして万が一ごまかすようなことがあれば目にものをみせてやるといわんばかりに、高額な違約金を設定したくなるところです。

しかしながら、防御力を高めようとその違約金をあまり高額に設定すると、契約が法律上無効になる場合があります。なぜなら、日本においては懲罰的損害賠償は判例によってその効力を否定されており、さらには暴利行為として公序良俗違反が認められる余地があるからです。

と、まあここまでは弁護士や経験のある勘のいい法務パーソンであればすぐに気付くと思いますが、では実際にロイヤルティ契約についての違約金条項の法的有効性が争われた裁判例がどれほどあるのかを調べようとすると、まとまった文献があまりないことに気付くはず。

私もある案件をきっかけにいろいろな文献を調べたのですが、
・ゴールデンミカド事件(大阪地判昭42・8・21)
・フィギュア事件(大阪地判平16・11・25)
・フィギュア事件控訴審(大阪高判平17・7・28)
・りんどう事件(京都地判平17・7・28)
と、ロイヤルティ契約における違約金条項の有効性が争われた4つの有名裁判例をきっちり抑えて紹介してある唯一の本がこの本でした。
それだけでなく、プログラム違法コピーに関する損害額は正規品小売価格と同等額が損害であると認定した事件(東京地判平成13・5・16、大阪地判平15・10・23)も関連判例として紹介してくれるなど、ロイヤルティの支払いをどう確保すべきかについての検討を深めるのに、大変に参考になりました。

このような情報量の多さ・懐の深さは、ライセンス契約の第一人者を執筆者として一同に集めた上で、それぞれの得意分野に分けて共同執筆したこの本ならではの良さが、いかんなく発揮されているところだと思います。

【本】ロイヤルティの実務―ライセンシーに騙されないためのライセンス契約と監査の実務

TMI総合法律事務所の弁護士、淵邊善彦先生による良著。

ライセンスビジネスでのロイヤルティの支払いを確保する手段として、“契約”と“監査”がどれだけ重要なものとなるかを、契約書に規定する条項例、監査のポイント、紛争裁判例をとりあげて解説します。



残念ながら…予想通りちょろまかされてますよ(笑)

ロイヤルティ監査サービスを専門とするEqual IP社(英国・ロンドン市)によると、同社が実施したロイヤルティ監査案件のうち、重大な金額の過少支払いが発見された案件を含め、関わった実に 70〜80%の案件においてロイヤルティ支払いにおける計算ミスが発見され、支払われるべきロイヤルティ支払いとの差額(ほとんどすべての場合、ライセンシーによる過少支払)は平均して25〜30%とのことである。

本ブログをご覧になっているスタッフ部門のみなさんも、ライセンス契約を締結した経験はあっても、実際に監査まで実施した経験をお持ちの方は少ないと思います。

何か怪しげなことがあったらすぐに監査すっぞ!と思いつつ契約書にはありきたりな監査権を規定しておくものの、本当にこの程度の牽制でロイヤルティをきちんと報告してくれるのか…という疑念を誰もが抱くところでしょう。

上記の調査によれば、案の定、ちょろまかされているというのが悲しいかな世の中の実態です。


監査権は確保するだけでなく、実行することで初めて牽制となる

おそらく、ほとんどのライセンサーは、このような事態を想定してできるだけ強力な監査権を契約書に規定するよう努力されていることでしょう。しかし、これが機能していないからこその、このちょろまかしの現実。

そもそもちょろまかしの原因にはどんなものがあるのでしょうか。
1)ライセンス契約に存在する曖昧な表現や定義
2)ライセンシー側の契約内容・遵守事項に対する不十分な理解
3)意図的な過少報告

契約書上でこわーい監査権をいくら規定しても、効果が期待できるのは3)の意図的な過少報告を低減させるだけであり、1)や2)に起因する「悪意でない過少報告」は防げないわけです。

淵邊先生は、実際に監査をするなかで1)の契約当事者双方の認識のズレを修正し、2)のライセンシー側の不十分な理解を教育して是正し、3)を発見して改善を求めることで、これらのちょろまかしの原因を満遍なくつぶすことが重要と主張されています。


簡易ロイヤルティ監査というアイデア

特に、“簡易ロイヤルティ監査”を契約後早期に実施する権利を確保し、実際に実行しておくことの効用について、以下のように力説されています。
ロイヤルティ支払いの誤りは、契約書における曖昧な表現や定義に基づく双方の誤解や、ライセンシー企業内部における遵守事項の不徹底等が原因となることが多い。契約締結から短期間経過後、たとえば1〜2年経過後に最初のロイヤルティ監査を実施することで、このような誤りを早期に発見、対処することで、その後のロイヤルティ支払い、徴収を適正なものにすることができるのではないか。仮に何らかの誤りが発見された場合でも、契約締結から長期間が経過していないため、発見された問題の対処は比較的容易であると思われる。潜在的に存在する問題を「芽」のうちに摘んでしまおうとの考えである。さらに、早期に実施される監査においては、監査対象も限定され、ライセンシー企業における時間的および人的負担も軽微に抑えることができ、また、監査人への支払い等のコストも少額とすることができるだろう。

実際にライセンス契約交渉のご経験がある方ならお分かりかと思いますが、契約書で牽制のための監査権を確保しようとすると、「いつでも抜き打ちでオフィスに立ち入らせろ・書類を見せろ」などと非現実的な一方的監査権を規定しがちで、監査権を強化すればするほどライセンシーとして受け入れがたいものとなり、この交渉も一苦労です。

さらに監査を実際に実施するとなると、監査人の選定からコスト負担まで、現実にロイヤルティ監査を実施するには様々なハードルがあります。

“簡易ロイヤルティ監査”という位置づけで、「契約の履行状況を1年後にモニタリングさせてくださいね」という言い方なら、契約交渉でもライセンシーに拒絶されにくいでしょうし、コスト負担も軽くてすむでしょうし、淵邊先生がおっしゃるようにライセンシーへの牽制効果も高くなりそうです。

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