企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

リモートワーク

【本】社外勤務管理ハンドブック ― 「テレワーク」「在宅勤務」も社外勤務のひとつです

 
とある理由から、2月頃より「テレワーク」「在宅勤務」の研究・リサーチを個人的にはじめていたのですが、3.11の追い風も手伝ってこのテーマの本が飛ぶように売れているようで、書店でも平積みされている姿を良く見かけます。

しかし、このテーマの本で法律面・実務面の両方をちゃんとカバーしているいい本というものは、なかなか見当たりません。「ICTを活用したテレワーク・在宅勤務でワーク・ライフ・バランスを改善!」みたいな、申し訳ないんですがスローガンを連呼しているだけの胡散臭い本であふれている分野なんだということに気付かされます。

で、本日現在、法務・人事クラスタの皆様に本当に役立ちそうな本は、こちらぐらいかなと思っています。


社外勤務管理ハンドブック―会社外での勤務を管理し、柔軟な働き方を円滑に進めるために社外勤務管理ハンドブック―会社外での勤務を管理し、柔軟な働き方を円滑に進めるために
販売元:経営書院
(2009-05)
販売元:Amazon.co.jp



この本の一番の特徴は、少し逆説的な物言いですが、「テレワーク」や「在宅勤務」だけを特集した本とは一線を画し、「社外勤務」をどう管理するかというより大きな視点でまとめられている点にあります。
つたない図で恐縮ですが、つまるところこの図の赤破線内の“狭義のテレワーク”にあえて限定せず、既にこれまでの人事実務で様々なノウハウが蓄積されている「出張」「出向」「海外勤務」などの実務を踏まえて、“広義のテレワーク”の実務を解説しているということ。
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特にその特徴がにじみ出ているのが、この本のメインコンテンツである見開き2ページでまとめられたQ&A。テレワーク・在宅勤務に特有のQ&Aももちろん記載されているのですが、むしろそれ以外の社外勤務に関するこんな「古めかしい」Q&Aが沢山列挙されています。

・社外の勤務場所への移動時間を、休憩時間にできるか?
・外勤者の営業手当を、時間外労働手当込みに変更できるか?
・出張費のうち、移動費用はどこまでを会社持ちとすべきか?
・出張中の過労による死亡は、労務災害か?

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お気づきでしょうか?テレワークや在宅勤務で発生する問題とは、何も今に始まった話ではなく、これまでも人事が四苦八苦しながら“例外的に”個別対処してきた「新しいけど古めかしい」問題と同じなのであって、この様な例外対応が発生する頻度が高まるだけだということに。言われてみれば当たり前なのですが、「社外勤務」という大きな括り方をして体系的に説明されることで、その当たり前に気づかせてくれます。

テレワーク・在宅勤務導入の成否は、法務部門がそれにあわせて就業規則をレビューすることや情報システム部門がセキュリティ対策を強化することよりも、これまでの“人事的例外判断”のノウハウを体系化し適切に適用・運用できるようにすることのほうがよっぽど重要。この本を読めば、そのことが骨身に沁みてわかると思います。
 

【本】テレワーク 「未来型労働」の現実 ― 3.11以降もテレワークが広まらないその理由


なぜテレワークは広まらないのか?その理由を豊富な取材に基づく正確で端的な筆致で直視させてくれる良本。


テレワーク―「未来型労働」の現実 (岩波新書)テレワーク―「未来型労働」の現実 (岩波新書)
著者:佐藤 彰男
販売元:岩波書店
(2008-05-20)
販売元:Amazon.co.jp


これまでテレワークと言えば、労働者サイドからのワーク・ライフ・バランス的要請の色合いが強かったわけですが、2011.3.11の震災、そして今も引き続く計画停電・原子力発電所の危機を契機として、企業サイドのBCP的要請からもテレワークが広まるのではないか、という言説が多く見られるようになりました。企業の生産性維持・事業継続のためのテレワークという文脈が現実味を帯びてきたのでは?と。私もその言説に加担した一人です。そして、この本の著者佐藤彰男氏も、そういった意味でのテレワークのメリットは否定していません。

否定はしないものの、メリット以上に過酷な労働を生むデメリットが大きく、導入は慎重に考えたほうがよい、というのがこの本を通じての著者の主張となっています。

どこでも働ける/働かされることのメリットとは何だろう。結局のところ、その理由は労働の効率化につきる。情報化の進展によって、決まったオフィスだけではなく、いたるところで働ける/働かされるようになったので、全体としてみれば仕事の能率は向上する。労働の効率化こそが、テレワークが持つ実質的な価値なのである。
この場合の効率化とは、売り上げの上昇や単位時間内の書類処理量の増加といった、狭い意味での労働生産性の向上だけを指すのではない。たとえば「通勤時間の無駄をはぶく」「営業所を廃止する」といったことも、この意味での効率化に含まれる。
そしてこの効率化の方向性が、テレワークの実態を決定していく。通勤をなくして浮いた時間を私生活に充当するなら、テレワーカーの生活にも一定のゆとりが生まれるが、営業所を廃して生産性の向上だけをめざせば、職場でも自宅でも一日中働く過酷な労働が出現するだろう。

「過酷な労働」の現実とは、一つが長時間過重労働の温床となるという現実、そしてもう一つが低賃金労働の口実となるという現実です。著者は、実在する8人のモバイルワーカー/在宅ワーカーへの取材を通し、この現実を淡々と描写します。

前者の代表例として取材されているのが正社員MR(Medical Representative/医薬情報担当者)です。高収入と引き換えに、いつでもどこでも仕事ができるモバイルツールを持たされ、暗黙のうちに深夜・休日を問わず労働することを強いられる、いわば“モバイル過重労働者”。
もう一方の後者の代表例が、いわゆるママさん請負在宅ワーカー。入力業務や情報処理業務を、子育てや家事の合間に低賃金で行う家計補助的な労働。いわば“低賃金電脳内職者”です。

良かれと思って導入するテレワークが、結果的に“モバイル過重労働者”や“低賃金電脳内職者”を産まないためにはどうすればいいのか。著者は、著者は、その設計と運用が困難であることは承知の上で、最低工賃制の導入が必要だと主張します。

つきつめていえば、「適正な報酬」も「適正な労働時間」と表裏の関係にある。そして在宅ワーカーたちの働きぶりが、発注元からもエージェントからも、不可視化されていること、また時給がどれだけ安かろうが、それを受注するかどうかは、ワーカーの自己裁量にまかされていることが惨状を隠蔽する。
それでは、在宅ワークの低報酬問題について、有効な対策はあり得るだろうか。私見ではあるが、「時給100円でも引き受けるのは本人の自由」というように極端な自己裁量の幅を、ある程度制限すべきだろう。
そのような観点からみれば、在宅ワークにも最低工賃制を適用することが有効と考えられる。
最低工賃制が有効であるためには、常にその時点で一般的な在宅ワークの内容を把握し、最低工賃の対象として迅速に指定し、適正な報酬額を決定するという作業を継続的に繰り返さなければならない。その作業を担当する部局は相当な人材や予算を要するだろうし、さらに制度が実効性をもつよう監視し、指導することも重要になる。

まさに、仕事という単位で人の“成果”を表現すること・測ることから逃げ、時間という単位でそれを代用し続けてきたツケを、どこでどうやって精算するかの問題といえます。

メンバーシップ型雇用に甘えてきた雇用慣行をジョブ型に切り替えるところからはじめなければならないとすれば、日本におけるテレワークの導入と浸透は、果てしなく遠く長い道のりなのかもしれません。
 

「自宅待機」と賃金カットのジレンマ

 
大地震、大津波、原発事故そして計画停電が重なって、「自宅待機」を発令する会社が増えています。

ソニーや富士フイルム、社員を自宅待機 停電などに対応(asahi.com)
ソニーは15日、東京の本社勤務者を対象に、16日は自宅待機とすることを決めた。業務に必要な社員のみが出社する。東京電力の計画停電の影響で通勤が難しい社員がいることや、節電に協力するため。本社には約6千人が勤務している。

 富士フイルムホールディングスも、都内の本社を含む関東地方の事業拠点の多くで、社員を16日まで自宅待機させる。15日は通常勤務だったが、昼ごろから社員の多くを退社させた。電力不足への対応が主な理由だが、福島第一原発の事故が深刻化し、「社員の安全に配慮して推移を見守る必要がある」(広報)ことも理由の一つという。

 また、ミクシィは15日、都内の本社勤務者の多くを自宅待機させた。できる範囲でパソコンを使って在宅勤務するよう呼びかけたという。

従業員にとっては、災害への不安を抱えて通勤・勤務するよりかは、自宅待機にしてもらった方が気が休まるというものです。しかしその一方で、実は違う不安を生むというジレンマを抱えています。「ノーワーク・ノーペイ」の原則にもとづく賃金のカットが可能となるかもしれない、という点です。

以下、労働基準法第26条より。
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

この条文は、裏をかえせば「使用者の責に帰すべき事由」によらない休業であれば休業手当を支払う必要はなし、ということを述べています。つまり、天災地変による自宅待機と考えるならば、会社はその期間休業手当を支払わない=その期間分の賃金をカットをすることも可能、ということ。

さすがに、今回の震災の直接の被災地である東北や関東北部については、どこの裁判所に行っても天災地変による休業はやむなしとして、賃金カットは合法となるでしょう。問題は、東京における自宅待機命令についてです。東京の今は、冷静に考えれば地震の被害も限定的で、津波の被害はもちろんなく、原発による避難・屋内待機勧告地域でもありません。間引き運転や一部運休時間はあるものの、3/15からは私鉄もJRもほとんど動き出してます。果たして、この現在の東京の状態が賃金カットを合法にできるほどの天災地変状態かと言うと、かなり微妙のような気がします。自宅待機で喜んだのも束の間、ノーワーク・ノーペイが原則なんだから給与は支払わないよなんていうシビアな経営者と、休業手当は支払えと主張する従業員との関係がこじれる会社も、早晩現れるかもしれません。


それでは、そうならないような健全な「自宅待機」を実現するには、どう対応すべきでしょうか?

短期的な落とし所として考えられるのは、会社側と組合(組合がない場合は従業員の代表者)とで労使協定を結び、臨時の「計画年休」を設定することによって、これからの数日間を有給休暇として堂々と休ませるという手法です。震災に加えて弱り目に祟り目な結果につながりかねない賃金カットを行って従業員とギスギス感を生むよりも、遠慮深い多くの日本の「サラリーマン」が取得することなく余らせてきた有給休暇を、この際有効活用してはどうかと。

そして、長期的な解決のためには、事業場外のみなし労働制を全社員に導入し、メールだけでなく在宅でも遜色なく働けるシステム環境を作り、(「自宅待機」ではなく)「リモートワーク(在宅勤務)」ができる環境にしていくことでしょう。今回の震災を契機として、リモートワークが多くの会社で導入され日本の労働慣行を変えていくであろうことは、間違いなさそうです。


3/16 19:00 追記:

厚生労働省より、休業手当に関する通達が発出されました。

計画停電時の休業手当について(厚生労働省)

読みにくい通達文書なので、ポイントを以下に。
1)計画停電時間について休業とする場合は、当該時間の休業手当の支払い義務なし
2)計画停電時間以外の時間帯をも含めて休業とする場合は、“原則として”休業手当の支払い義務あり
3)計画停電が実施されるものと思って休業したのに実施されなかった場合は、その事情に応じて判断

ただし、事業場(=オフィス・工場)が判定の単位とされていることには注意が必要です。実態として最も多そうな「工場/一部のオフィスが計画停電に入ってるから、本社も1日休業にしてしまおう」という様なパターンにおいては、会社は休業手当を支払う義務あり、という解釈になると考えます。


参考情報:

計画年休制とは何ですか(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
 
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