企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

ライセンス契約

【本】『ITビジネスの契約実務』― 吉田赤本を超えるIT契約基本書の誕生


著者の伊藤雅浩先生、久礼美紀子先生、高瀬亜富先生からご恵贈いただきました。ありがとうございます。

ITビジネスの契約書作成について、長きにわたり法務業界の基本書とされてきたのが、“吉田赤本”こと吉田正夫著『ソフトウェア取引の契約ハンドブック』です。その吉田赤本の優れた点を踏襲したうえで、取り上げる契約類型を増やし、最新の法令・判例動向を反映し、さらに赤本でも論じられていなかった重要な法的論点についても分析を加えた、IT契約の基本書が新たに誕生しました。Amazonの初回入荷分は品切れになる予感がします。予約推奨です。


ITビジネスの契約実務
伊藤 雅浩 (著), 久礼 美紀子 (著), 高瀬 亜富 (著)
商事法務
2017-02-15



吉田赤本の優れた点は、IT契約を典型的4パターンに分類してサンプル契約を全文掲載し、パターンごとに理解のベースとなる法的論点を解説したうえで、具体的なサンプル条項を逐条でみながら注意点や交渉上のポイント解説するという、その構成にあります。本書は、その構成のよさを忠実に踏襲しています。踏襲しつつも、本書全体の骨組みとなるIT契約類型の分類方法について、契約の目的を切り口に7つの類型に分ける新たな分類方法を提案。そのうち、ハードウェア資産提供型を除く6類型が、本書の解説対象として取り上げられています。特に、クラウドサービス契約をサービス提供型の中の「機械資源を提供するもの」と捉える考え方や、データ提供契約を役務でなく「データ資産を提供するもの」と捉える考え方は、腹落ち感があります。

IMG_8218


IT契約実務で抑えておくべき重要・頻出論点、そして最新の法令や判例で対応が必要となってきている論点は、私の把握する限りもれなく網羅・言及してあります。以下私のメモも兼ねてリストアップしてみます。

・請負と準委任のいずれを選択するべきか(P31)
・SES契約やラボ契約(エンジニアの人手提供型契約)の偽装請負リスク(P37)
・ベンダのプロジェクトマネジメント義務(P49)
・レベニューシェア式委託報酬と下請法(P51)
・賠償すべき損害の種類の制限(P59)
・賠償金額の上限設定(P60)
・著作権を共有とすることのリスク(P66)
・検収と仕事の完成(P70)
・瑕疵の意義(P74)
・クリックオン契約の成立(P84)
・ソフトウェアライセンスと著作権法の「使用」「利用」(P93)
・知的財産権侵害の責任(P111)
・契約終了時の担保措置と自力救済(P117)
・開発契約の瑕疵担保責任と保守契約との重なり(P126)
・クラウドサービスと善管注意義務・SLAの意義(P140)
・クラウドサービスとユーザーのバックアップ責任(P151)
・クラウドサービスと個人情報の第三者提供/委託(P153)
・クラウドサービスの免責条項の有効性(P156)
・クラウドサービスの廃止は自由か(P160)
・データの法的保護 所有権・著作権・営業秘密・不法行為(P192)
・データ提供と改正個人情報保護法(P195)

250ページ弱の紙幅ですので、それぞれの論点の言及の深さに限度があることは否めません。特にレベニューシェア式委託報酬に関しては、日ごろ悩んでいるところなだけに、もう少し詳細に論じていただけるとありがたかったかも。実務での使いやすさに配慮して(法律書としては)薄めの本に仕上げることを優先された結果だと思いますので、不満というほどのものではありません。

IMG_8212


そんな有限の紙幅の中にあって、特別にページ数が割かれまた脚注引用文献量の多さなどから並々ならぬ著者の力の入れようを感じたのが、「ソフトウェアライセンス契約のデフォルトルール」という一節でした。P88−100にわたり、非典型契約とされるソフトウェアのライセンス契約に対し、各法令の任意規定・強行規定がどう関わり・重なりあっているのかという、基本的なはずなのにみんながスルーしている論点を取り上げて具体的な条文を列挙し丁寧に分析されています。以下、P99の「小括」よりそのエッセンスを引用。

ソフトウェアライセンス契約は私法上の契約である以上、民法の規定が適用される。ソフトウェアライセンス契約は非典型契約であるため契約各論に関する規定の直接適用はないが、対価の支払いを伴うライセンス契約は有償契約なので、第3編「債権」、第2章「契約」、第3節「売買」の規定(民法555条ないし585条)が準用される(民法559条)。同第7節「賃貸借」の規定(民法601条ないし622条)が類推適用されるかについては議論があるが、一般論としては類推適用されないと考えるべきである。
また、ソフトウェアライセンス契約は、著作物(著作権法2条1項1号)であるプログラム等を目的物とするため、著作権法の規定が適用される。ソフトウェアライセンス契約で許諾されていない限り、原則としてユーザは著作権法21条ないし28条所定の「利用」を行うことはできない。もっとも、同法30条ないし50条所定の権利制限規定に該当する行為は、ソフトウェアライセンス契約で禁止されていない限り、ユーザーは自由になし得る。同法21条ないし28条に規定されていない著作物の「使用」も、ソフトウェアライセンス契約で禁止されていない限り、ユーザーの自由である(ただし、同法113条2項の「使用」を除く)。

ライセンス契約については私も様々な文献を見てきたつもりですが、この基本的論点については、学術論文や法律雑誌の記事(たとえば、ビジネスロー・ジャーナル連載の松田俊治「ライセンス契約法―取引実務と法的理論の橋渡し」など)で断片的・抽象的に論じられることはあっても、条文と照らし合わせながら体系的・具体的に、そして簡潔に論じたものはなかったと思います。なお、「賃貸借の規定は類推適用されない」という著者の結論とその理由が妥当かどうかは、様々ご意見あるかもしれません。


IT契約に関する良書は吉田赤本以降もたくさん出版されてきました。しかし、法務に携わる方なら誰もが「やっぱり吉田赤本が一番読みやすいし信頼できる」「けどさすがに1989年刊行だし」「あのスタイルで内容がアップデートされた本がほしい」「誰かが書いてくれないかな」と思っていたはずです。そうは言っても、いざ書こうと思うと難しいからこそ、これだけの長い間吉田赤本を超える基本書を誰も出版できなかった。この壁を乗り越えてくださった著者お三方のこのお仕事は、業界全体に貢献する偉業というべきでしょう。
 
私のおすすめ法務関連書籍をまとめた「法律書マンダラ2017」も、早速本書を入れて更新させていただきました。
 

ここまでやるか、な表明保証の骨抜き文言

 
ライセンス契約や投資契約等にはつきものの「表明保証」条項ですが、ここまでやるか、と呆れるような骨抜き文言を見かけたのでメモ。

甲は、本契約締結日において、甲が知り得る限り(認識可能であった場合を含むが、軽過失により認識できなかった場合を除く。)において、乙に対し以下の各号を表明及び保証する。ただし、乙による本契約締結の可否判断に影響を与えないものと合理的に判断される軽微な事由については、この限りではない。

ここまで骨抜きに一生懸命になっている姿を見ると、よーやるわ、を通り越して、いっそのこと

以下の事項については、申し訳ないんですが表明保証できません。

って書いてくれた方が男気を感じますね・・・。
 

【本】知的財産契約実務ガイドブック 改訂版 ― 先輩のライセンス契約虎の巻を覗き見る

 
昨日に続きライセンス契約ブートキャンプ。

私の記憶が確かならば、約1年前ぐらいに @setagayan さんがtweetされていてその存在を知った一冊。ということで新刊ではないものの、改訂版は2012年に出版されたもので、ライセンス契約の実務書の中では比較的フレッシュな方です。





著者の石田正泰さんは、凸版印刷の法務部門トップとして取締役も務められた方。今も、知財系のセミナーで講師等を務められているようです。

ライセンス契約の実務書によく見られる、さまざまなパターンのひな形を披露してその逐条解説に終始するものとは違い、特許/商標・意匠/著作物/キャラクター/共同研究開発といった類型ごとに、その目的・戦略に沿って地道に積み上げて契約書を作ろうという丁寧な姿勢が特徴。昨日の記事で言及した、ライセンスの対象を権利としてきちんと分解し捉えていく態度についても、この本から学ぶべきことがたくさんあります。そういった体系的思考がバックボーンに感じられる一方で、著者の頭の中の課題意識が殴り書きされた箇条書きノートがそのまま印刷されたような記述もそこかしこに見られ、その凸凹感がこの本の味にもなっています。やや冗長な記述が多い点は、お口に合わない読者もいらっしゃるかもしれません。

s-IMG_4283s-IMG_4282

巻末のほうに収録されている「知的財産契約ケーススタディー」×21講は、法令と実務の狭間で問題となりがちな論点を体系にこだわらずにストレートに汲み上げたもの。「昔、こんな案件があってさぁ。あのときは大変だったよ・・・」なんて、先輩がOJTの合間に聞かせてくれる経験談(武勇伝ともいう)に耳を傾けているような、そんな風情が漂います。ライセンス契約における特許保証問題や、改良した発明のグラントバックの様々なパターンと独禁法上の視点がケーススタディー形式で取り上げられ整理されているところなどは、似たような問題に初めて出くわして面食らうばかりだったあの頃の自分に見せてあげたい感じ。

s-IMG_4276

もっとも、ふつうの実務書らしい一面もあります。たとえばライセンス契約条項のチェックリスト的なものは、使い方には注意しなければ危険とは言っても、やはりあるとありがたいものです。

s-IMG_4280


こうして改めて全体を通して読みなおしてみると、ライセンス契約をウン十年やってきた先輩が隠しもっていた虎の巻を覗かせていただいているような、そんな本ですね。
 

ライセンス契約再考

 
自分が保有する知的財産の利用を第三者に許諾することを、ライセンスと言い、そのために結ぶ契約が、ライセンス契約です。

ライセンス契約に関するひな形は、既に相当な数が世の中に出回っていて、それを流用すれば、だれでも“それらしい”契約書が作れてしまいます。しかし、これまでにない新しいタイプのプロパティをライセンスしたり受けたりしようとする際に、そういったひな形を大きくアレンジした契約書を作らなければならなくなると、改めて、

 1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?
 2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?
 3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


について考えさせられ、深い沼に足を取られそうになります。特に、プロパティが多様化し続けている最近では、その頻度は高まるばかりです。

1432313_75618053

先週もまさにそんな状態に陥ったため、この週末は基本に立ち返ろうと、ブートキャンプとばかりに以前読んだ(はずなのに内容を忘れている)書籍たちと格闘しながら、ライセンス契約について再考していました。中でも、以前もご紹介したこの1冊は、混乱してしまった私の頭をすっきりと整理してくれるものでした。





以下、基本的なことではありますが、改めて自分の胸に刻むための写経としてのメモを。


1)ライセンス契約とは、そもそも何を許諾するものなのか?


他人が保有している知的財産権を利用するためには二つの手段があり得る。一つはそのものから当該知的財産権を譲り受けて自らが当該知的財産を保有することであり、もう一つの手段は、当該知的財産権を第三者に保有させたままで、当該権利の利用権を取得する方法である。後者の手段がライセンスである。
ライセンスとは、知的財産権者以外の第三者が当該権利にかかる財産的利益を利用しようとする場合(特許権であれば特許発明を実施しようとする場合)に、当該利用行為が権利侵害を構成しないように、権利者から取得する当該利用行為についての許諾のことであり、端的には、権利者が財産的利益を得ようとする者に対し、当該利用行為を禁止しないという消極的な受忍義務を負担する契約であると説明される。

この点は、多くのライセンス契約の実務書では端折られている点だったりします。例えば、今ちょうど手元にあるそれなりに定評ある某書でも、

“ライセンス契約とは、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約で、民法上に規定されている13種類の有名契約ではなく、無名契約である”

と説明しているのみです。

「禁止権を行使しないことの約束である」という本書指摘のポイントを理解し意識できているのとしていないのとでは、契約書の作り方にもかなりの差が生まれるように思います。

2)ライセンスの対象としているものは、法的に知的財産と言えるのか?


著作権には、特許権や商標権に関する専用実施権(専用使用権)に相当する権利は存在せず、著作権法が定める利用許諾は、特許権に関する通常実施権と同様の権利である。すなわち、著作権の利用許諾の内容は、当事者間の合意により、どのようにも定めることができ、かかる合意内容を定めるのが著作権の利用許諾契約(ライセンス契約)ということになる。
なお、財産権としての著作権の具体的内容は、著作権法21条以下に定める、複製権等のいわゆる支分権であるから、著作権の利用許諾契約とは、第三者がこれら支分権を行使することを許諾し、著作者としての権利を行使しないことを約する契約にほかならない。

非製造業では特許よりも圧倒的に著作権のライセンスが多いと思われます。そして著作権の場合、上記引用部にあるとおり法令でかっちりと決まった型がないため、自己流のライセンス契約がまかりとおることになります。とはいっても後段引用部にあるとおり、著作権には細かい支分権が法定されているわけで、その支分権を意識した許諾内容を規定することは可能なはず。しかしながら、そのようなライセンス契約にお目にかかったことがほとんどありません。

昔から議論は尽きないモノのパブリシティ、アニメやマンガのキャラクター、有名人の氏名、工業製品のデザインの二次利用、俳優による声の演技、効果音、フォント、データ(データベース)の利用許諾なんかも、権利の狭間もしくは股がりの中で、この辺の整理が曖昧になりがちな分野かと思います。

3)ライセンスによって、どこまで・誰までを制約しようとしているのか?


この点で留意すべきは著作物の使用行為である。すなわち、特許権等とは異なり、第三者が著作物を使用すること(たとえば小説を読んだり、絵画を鑑賞したりする行為がこれに該当する)自体は、著作権法上、何ら禁じられてはいないから、これらの行為を許諾することは無意味である。しかしながら実際の契約実務においては、使用許諾契約というタイトルのライセンス契約が締結され、その中で著作物の使用そのものを許諾の内容とするライセンス契約が多いのも事実である。

これは耳が痛い…。著作権法上禁止し得ないことを禁止したり、著作権がまるでアクセス権であるかのように条件を付けて使用を制約したりする契約のなんと多いことか。頭ではわかっているつもりでも、そういった契約を今まで書いたことがないとは申し上げられません。

ライセンスを受けた者がいわゆる下請業者に対して特許製品の製造を行わせる場合、当該下請業者は特許製品の製造を行うについて特許発明を実施しているか否かという問題がある。仮に下請業者が特許発明の実施行為を行っているのであれば、当該下請業者は、自身の実施行為につき、自ら特許権者から別途ライセンスを受けるか、特許権者からライセンスを受けたものからサブライセンスを受ける必要がある。
この点について最高裁は、通常実施権者との契約に基づき、貸与を受けた金型を使用して製品を鋳造し、その全部を通常実施権者に納入した事例において、当該製造は通常実施権者の補助者として、その事業のためになされたものであるから、かかる下請業者の行為は通常実施権者の実施権の行使としてなされたものであって、下請業者の特許権侵害行為は存在しないと判断している(最判平成9年10月28日判例工業所有権法第2期第13巻2269の26頁【ナット鋳造金型事件】)。

前述の利用権と使用権(アクセス権)との取り違えとも似た事例として、ライセンシーが下請業者を使う際に、「ライセンサーがライセンシーに対し下請業者へのサブライセンスを認める」という構成を採用しているライセンス契約書を見ることがあります。状況によってはこれが必ずしも間違いとは言い切れないにせよ、ライセンスとは何かを深く考えずにそうした契約書を作ってはいけないぞと、肝に命じておきたいところです。
 

【本】英文ライセンス契約実務マニュアル〔第2版〕 ― 35年の重み

 
グローバル化で英文契約業務が増えているといっても,IT業界で取り扱われる契約を見渡してみると,実はバリエーションはそれほど多くありません。基本的には秘密保持契約・業務委託契約がメインで,あとはto C向けの利用規約あたりをたまに整備するぐらいだったりします。このあたりの契約はだいたい定型パターンが決まっているので対応もそれほど難しくなかったりする一方で,私の所属するIT×エンタメな業界では,そこそこ重ためのライセンス契約案件がそれなりの頻度で発生するため,苦労は絶えません。

そんな仕事上の都合に加え,以前『ライセンス契約のすべて 実務応用編』共著の際に資料として買い集めていた経緯もあって,書店にあるライセンス契約本はほぼすべて購入しているのですが,比較的最近入手して(ただし刊行は6年前)ほほーと唸ったのがこちらの本です。書店でも見かけないですし,ブログ等でも紹介されていないのは,流通量が少なかったのでしょうか。





本書は,頭書〜WHEREAS Clause〜本文〜そして末尾文言の各条項ごとに,サンプル英文条文→サンプル条文の日本語訳→その解説・位置付け・ポイントをまとめるというオーソドックスな構成ではありますが,中身には以下のような特徴があります。

1.例文がリアル&長め

これまで拝読してきた英文契約ひな形集やライセンス契約本に収められた例文は,紙面の幅,全体を通しての読みやすさ,使いまわしのよさ等を意識してシンプル・短い例文の紹介にとどまるものがほとんどで,その例文から深い洞察を得られるほどのものは見当たりませんでした。それに対してこの本では,「複数の契約事例から主要なライセンス契約条項を著者の独自の判断でピックアップ(「はじめに」より)」つまり実際の取引で用いられた具体性のある条文が紹介されており,読んでいるこちらがシチュエーションを想像しながら「この長さの中に当社に不利なトリックが仕掛けられていないか?」と,契約交渉の矢面に立っているような錯覚に陥るほど。

また,海外の事業者との契約は,地理的に離れた者同士だからこそ事前に細部まで文章化し条件を確認する必要性もあってどうしても長くなるわけですが,他の例文集より条文が長めなところも,そのリアリティを支えています。たとえば,「支払条項」一つとっても,4.1〜4.9まで9つの項番に分けられ,サンプル英文とその日本語訳のみで(解説を含まずに)以下写真にあるとおり7ページ強にも渡る長さ。続くこの条項の解説部分で50ページにも渡るのですから,圧巻です。

s-IMG_2574s-IMG_2575

s-IMG_2576s-IMG_2577

2.公取ガイドラインを強く意識

どういった条件を設定すると独禁法違反となるおそれがあるかが,条文ごとに個別具体的に言及されています。

英文契約=海外事業者との取引であっても,日本企業が自社の産業財産権をベースに技術供与をするのであれば,契約の準拠法は日本法とすべきでしょうし,そうなれば日本の独占禁止法も意識しなければならないはずなのですが,他の英文ライセンス契約の本ではこの辺の説明を端折っているものも少なくありません。例えば,私がよく参考にしている山本孝夫著『知的財産・著作権のライセンス契約入門(第2版)』では,この点には触れられていません。最も大部な『英文契約書ビジネス大辞典』でも,注意喚起的に数か所記述があるのみ。

ただし,この本が刊行された後に公取ガイドラインが改定されていますので,その点はご注意ください。

3.UCCや米国特許法,さらには米国破産法もカバー

UCCや米国特許法のどんな点がライセンス契約にかかわってくるのかを,それらの条文を訳した上で,日本法と比較対照しながら解説してくれます。さらに,ライセンス契約にとってもっとも恐れるべき事態とも言える,相手方が破産した場合の米国破産法の影響までも場合分けしてまとめています。


著者の小高壽一先生は,1962年にIHIに入社された後営業→海外駐在→業務部→法務と,現場から法務へというキャリアを歩まれ,1997年に定年退職された大ベテラン。600ページを超えるこの本を手に取ると,35年に渡る会社生活でのご苦労や法務パーソンとしてのご経験の蓄積があるからこそ醸しだされる「重み」が,ずっしりと伝わってきます。
 

自社ビジネスが特許権を侵害しているかもしれない場合の選択肢

 
専門かどうかにかかわらず、ありとあらゆる法分野の仕事が容赦なく降ってくるというのは、企業で法務をやっている人の特権だと思います。いや、そう思うように自分に言い聞かせてます(笑)。そんなわけで、前職では縁の薄かった特許の仕事にも関わらせていただいております。

さて、技術系のベンチャーが成長していく過程で、他人様から特許権侵害を主張されて勢いをくじかれるという話は枚挙にいとまがなく、気をつけなければならないリスクです。そこで今日は、すでに他人が権利化済みの特許を踏んでしまうようなビジネスをやっていたと判明したときに何ができるのかという選択肢について、実際にそうなる前に整理しておきたいと思います。

1.そのビジネスをやめる


いきなりそこからか(笑)という話ですが、いやしかし、それがさほど儲からないビジネスであれば、いったん冷静になって、神の思し召しと喧嘩になる前に潔くやめて他に注力するという手はありではないでしょうか。
特にベンチャーであれば、始めてからそれほど経っていない傷の浅いうちに、というのは選択肢としてまじめに考えておきたいところです。

2.ライセンス契約を申し入れる


非常にまっとうなように見えて、一番危険ではないかと思われるのがこれ。
まだビジネスを始める前だったらニュートラルな交渉になるのでしょう。しかし、すでに始めてしまっていたときは自分から「侵害してました」と白状しにいくようなものですし、わざと侵害したわけではなくても下手にでるしかなく、立場の弱い交渉になることは避けられません。
申し入れる際は、交渉が折り合わなかったときにそれまでの清算を相手方にした上でビジネスをやめる、という覚悟が必要です。

3.情報提供制度を使う


その特許の瑕疵や無効審判の可能性を裏付ける「刊行物」や「特許出願・実用新案登録出願の願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面の写し」を特許庁長官宛に提出するのが情報提供制度。
基本的には出願公開〜審査請求のタイミングで行うのがベストですが、権利化後もこれを行うことはできます。提供は匿名ででき、かつ情報提供がなされたことは特許権者に伝わるので、ある種のジャブになります。その効果として、特許に瑕疵があった場合に特許権者自身が気づいて訂正審判を請求でき、無駄な紛争を防ぐ効果もあると言われていますが、こちら側がすでに侵害をしている自覚がある場合には、匿名とはいえその存在を単に気づかせてしまうだけで、あまり得はなさそうな気がします。

4.無効審判を請求する


2のような平和的解決とは真逆に、特許庁に無効審判を請求し、そもそも相手の特許が認められたこと自体を否定しにいくという喧嘩戦法。特許権者から見れば逆ギレ以外の何者でもないのでしょうが、実は下表にもあるとおり、権利化済みの特許といえども、無効審判が起こされた案件の実に50%超で無効審決が下されているというデータもあります。
ただし、
無効審判が請求されるのは特許に関しては,年間に 300 件程度で,それ以前にどれくらいの登録査定をしているかというと,膨大な数な訳ですから,それらの特許の中での300 件と考えて戴くと見方も少し違ってくるかと思います。(特許庁審判部 佐藤智康氏)
とのことですので、大きな期待はなさらぬよう。

5.訴えられるまで何もしない


最後がこれ。相手の出方を見るってやつですね。
ベンチャーであれば、ビジネスが大きくなる前にその技術を使わなくなることも往々にしてあるでしょうし、無効審判にかかるコストもバカにならないとなれば、相手から訴えられない限りは黙っていて、いざ訴えられたら特許の無効を主張するという手は、うまくいけば一番カネや手間の節約できそうな手ではあります。
ただし、注意しなければならないのは、その技術を使ったビジネスが順調に伸び、あまりに大きくなってしまった場合のリスク。特許法上、
(損害の額の推定等)
第百二条 特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
という損害額のみなし規定があるため、ビジネスの成長とともに負けた時のツケは大きくなります。


もちろん、侵害の態様・特許そのものの有効性等々に鑑みたケースバイケースの判断にはなると思いますが、以上の選択肢を並べてみると、他人の特許権に触れるビジネスをしていると気づいた場合、5のような受け身・先送りな態度をとるよりも、無効審判を請求しに行く→相手が侵害者の存在に気づいて訴訟に雪崩れ込む→和解しつつライセンス契約を締結する/しっぽを巻いてライセンス契約を申し入れる/そのビジネスをやめるのいずれかの選択を、ビジネスが大きくなる前に早くしてしまうことが肝要だと思います。


参考図書:
特許がわかる12章 [第6版]特許がわかる12章 [第6版]
著者:竹田 和彦
販売元:ダイヤモンド社
(2005-12-16)
販売元:Amazon.co.jp


 

【本】ライセンス契約のすべて―商標ライセンスとかアフィリエイトとか、最近契約書のバリエーションが増えてきたなあとお悩みの法務担当者に贈る本

 
11種類のライセンス契約について、それぞれサンプル契約を1種類ずつ提示しながら、契約を組み立てる上でのポイントのみを絞って解説する「雛形+解説書」タイプの参考書。


弁護士・弁理士だけでなく、在職中の法務パーソンが執筆者に加わっているのも大きな特徴。

1)特許ライセンス契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 三木友由
2)商標ライセンス契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 村田雄祐
3)著作権ライセンス契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 森下賢樹
4)ソフトウェアライセンス契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 森下賢樹
   パートナー弁理士 吉川達夫
5)フランチャイズ契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 吉川達夫
6)ノウハウライセンス契約
  ―外資系デジタルコンテンツ配信企業
   法務担当部長 小松卓人
7)アフィリエイト契約
  ―あさひ・狛法律事務所
   弁護士 小原英志
8)製造・販売ライセンス契約
  ―松下電工法務部
   海外・事業契約グループ長 西村千里
9)製造ライセンス契約
  ―ファイザー株式会社
   取締役(法務・コンプライアンス担当) 飯田浩司
10)輸入ライセンス契約
  ―プライムワークス国際特許事務所
   パートナー弁理士 吉川達夫
11)国内販売ライセンス契約
  ―あさひ・狛法律事務所
   弁護士 島美穂子

おそらく、6・8・9章で紹介されているサンプル契約は、その企業で用いられている雛形に相当近いのでは。経営法友会のセミナーなどでは自社の雛形を公開されている企業もまれにありますが、本というかたちで公にされている例は少ないので、そういった意味でも価値があります。

一方注意していただきたいのは、条項ごとに丁寧に解説していくような逐条解説型ではなく、そのライセンスビジネス上のリスクポイントに絞って解説をする形式になっており、また法律や契約法そのものの説明も割愛されているという点。
つまり、契約法や知財法の基礎知識、契約書作成の経験をすでにある程度備えている法務実務家を読者に想定した本になっているということです。

民商法・著作権法・商標法等の法的知識を一通り覚え、契約の基礎的実務も習得して、あとは対応できる契約のバリエーションを増やしていきたいというステージの法務パーソンには特に最適でしょう。

残念ながら英文契約への対応が弱いので、英文のライセンス契約に重点を置いて勉強したい方には、以前紹介しているこちらの本をおすすめします。
▼【本】知的財産・著作権のライセンス契約入門―メーカー・知財法務担当じゃなくてもこれは是非抑えておきたい3種類のライセンス契約(企業法務マンサバイバル)

【本】知的財産・著作権のライセンス契約入門―メーカー・知財法務担当じゃなくてもこれは是非抑えておきたい3種類のライセンス契約

 
契約法務強化月間ということで、今日はライセンス契約のガイドブックを。

前回ご紹介の本『ビジネス契約書の起案・検討のしかた』は「読んだことありますよ」と言う声を多く頂いたこともあって、今回は少しマイナーな本をチョイスしてみました。




どんな会社であってもこの3契約はあるはず

ライセンス契約と聞いて「あ、オレメーカー法務じゃないし」「特許とか意匠は知財担当がいるから・・・」と思ったあなたも一見の価値あり。

なぜならこの本は、
1)トレードシークレット
2)著作権
3)商標
という、どこの会社でも発生可能性のある3種類のライセンス契約に絞っているから。

著者の山本孝夫さんが商社(三井物産)ご出身ということもあり、当たり前のように英文契約をベースに典型的な契約条項を取り上げて解説していきます。

まず、契約例文と日本語対訳があり、
s-IMG_8485

その下に山本さんの国際契約経験の豊かさを感じさせる具体的エピソードを交えた解説が加えられていく、
s-IMG_8483

という構成になっています。

英文契約ならではの言い回しそのものの解説は端折られていますので、英文契約の基礎をすでに勉強してある中級者以上向けといえるかもしれません。


京大カード式英文契約自習法が書籍に昇華

本の内容以上に私を刺激したのが、あとがきとしてかかれていた、若き日の山本さんの英文契約自習法。

早川先生の『法律英語の常識』他で基礎知識を習得しながら、『Jones Legal Forms』を片手に見よう見まねで英文契約を作成し、それを顧問の外国法弁護士(極東裁判で重光葵を弁護したジョージファーネス弁護士)に筆を入れてもらう日々。
その中で、実際の契約に頻繁に登場する重要条項を京大式カードに書き留めていくという作業を繰り返して、英文契約をものにされてきたそうです。

そして、このカード式条項集の集大成として出版されたのが、以前にも紹介している『英文ビジネス契約書大辞典』であり、厳選して出張にも持っていけるように新書版で出版したのが『英文契約書の書き方 (日経文庫)』『英文契約書の読み方 (日経文庫)』。

それに対して今回ご紹介のこの本『知的財産・著作権のライセンス契約入門』は、これらの本よりも専門的にライセンス契約の条項に特化しかつ携帯できるようにしたという位置づけなのだとか。

自分が手塩にかけて育てた愛着のあるツールがこんな風にバリエーション豊かに次々と書籍になっていくというのは、感慨もひとしおでしょうね。
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...