最近、ウェブサービスにおける個人情報の取り扱いが論じられる際に、「個人情報」ではなく「パーソナルデータ」という語が使われるようになっています。

これは、世界経済フォーラムが2011年1月に公表した報告書“Personal Data: The Emergence of a New Asset Class(PDF)”において、“Personal data is the new oil of the Internet and the new currency of the digital world.(パーソナルデータは、インターネットにおける新しい石油であり、デジタル世界における新しい通貨である)”と謳われたことがきっかけで日本の有識者に広まり、好まれて使われるようになった語です。そこから発展して、法的な文脈において日本語で単に「個人情報」と表現してしまうと悪法と名高き個人情報保護法第2条において定義された「個人情報」の定義と同一視されてしまって不都合が生じる場面が多いことから、保護法でいう「個人情報」よりも広い意味での、「個人に関する情報」を意味する語として、加速度的に使われる頻度が高まってきました。

説明において「個人情報」では不都合が生じる場面とはどんな場面か?その実例が、『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 』で私が書いたP29ー30の一節にもあります。ここでは、「広義の個人情報」と「狭義の個人情報」という語を使いわけ、個人情報保護法で保護される情報と保護法では保護されない情報の違いについて図まで使って長々と一生懸命説明しているのですが(苦笑)、ここでいう「広義の個人情報=パーソナルデータ」という一言で表すことができると、とても便利なわけです。

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さて、この「パーソナルデータ」、現在ウェブサービスと個人情報の取扱いにおける実務上の公式ガイドラインとなっている『第二次提言』や『スマートフォンプライバシーイニシアティブ』においては全く使われていなかった語です。では日本において、公式にはいつ頃から何をきっかけに使われはじめ、一般に広まったのか?出自が気になったので、Googleとtwitterの期間指定検索で時期を区切りながら調査してみました。すると、2012年10月30日の総務省による「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」の発足が契機となって、ネット上でこの語が使われ始めたことが見てとれました。先日、この報告書のパブコメ募集が話題にもなっていたので、聞き覚えがある方も多いかと思います。

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一方、こちらも先日報告書が提出されましたが、経産省もIT融合フォーラムパーソナルデータWGというものを立ち上げて以降、この言葉を公式に用いるようになっています。念のためこのWG発足日を確認してみると、2012年11月28日。ほほう、つまり総務省が10月にオフィシャルに使い出して、経産省が11月に遅れてこれをフォローしたと。そうなのかぁ・・・と思って調査終了しようかと思ったところ、そのWG報告書(PDF)P1の脚注にこんな「主張」が・・・。

パーソナルデータとは、2005 年(平成 17 年)より経済産業省において推進した「情報大航海プロジェクト」で用いられた「パーソナル情報」の概念を引用しており、個人情報保護法に規定する「個人情報」に限らず、位置情報や購買履歴など広く個人に関する個人識別性のない情報を含む。なお、2012 年(平成 24 年)より総務省で開催されている「パーソナルデータの利用・流通に関する研究会」においても上記の概念と同様に個人識別性を問わない「個人に関する情報」を「パーソナルデータ」と定義している。

“概念を引用”というのがもはや何を言っているのかよくわからない言い回しですが、とにかく、経産省としては「パーソナルデータも、もともと俺達が先に考えた概念のようなもんです。総務省が後から真似しましたけどね(キリッ」というわけです。ちなみに、その情報大航海プロジェクトにおける「パーソナル情報」の定義がこちら。

通常、生存者に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものを個人情報といいますが、それだけではなく、行動や視聴など個人と連結可能な情報を総称してパーソナル情報といいます。これは情報大航海プロジェクトで定義した考え方です。
そして、関連制度で明確な定義のされていない情報についても、情報大航海プロジェクトでは定義を行っています。大きく「識別情報」と「非識別情報」に分けて定義をしています。
「識別情報」は、「個人を識別する目的で使用される情報」を指します。例えば、名前、住所などが該当し、情報大航海プロジェクトでは、識別情報とそれ以外の境界線を調査しています。
この境界線を明確にすることで、「個人情報ではない状態」を定義しようとしているのです。
「非識別情報」は、「それだけで個人を識別することはできない情報」を指します。例えば、生年月日、家族人数、年収などがそうです。
これに加え、情報大航海プロジェクトでは、現状の関連制度において何も定義などされていない行動や購買、視聴などに関する情報も「その他情報」と定義しています。


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まるで発明者であるかのような言いっぷりですが(苦笑)、とにかく、2011年に世界経済フォーラムが流行らせるだいぶ前から考えてたんだぜーということらしいです。

こういうところからも、個人情報・プライバシー保護行政についての総務省と経産省の骨肉のイニシアティブ争いが見て取れますが、いろいろなWGがそれぞれの省庁で乱立し、報告書ができ、パブコメで意見を求められ、さらにその文書の中で微妙に違う定義で言葉を使われたりすると、混乱するのは国民であり企業ですので、そろそろどちらが大将なのかを決定していただくべき時が来たのかな、と思っております。