引用を正しく理解できるようになるためには、まずその対象が著作物であるかないかをしっかりと見極められる著作権そのものの知識・理解が必要。

この点については、以前『引用・転載の実務と著作権法』のご紹介で申し上げたとおりです。
【本】引用・転載の実務と著作権法―「その引用が適法かどうか」を判断できるようになるために、まず最初に理解すべきこと(企業法務マンサバイバル)

この本は、読者がそのような著作権そのものの知識・理解をすでに備えていることを前提として、
・引用が法的に認められる要件
・出所明示の具体的見本例
を詳しく示してくれます。

引用する極意 引用される極意



著作権法上の5要件と最高裁判例の2要件

ご存知のとおり、適法な引用となるための要件は、著作権法に規定されています。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一  第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合

この2つの条文から導かれる要件は以下の5つとなります。

1)公表された著作物であること(32条)
2)引用して利用すること(32条)
3)公正な慣行に合致すること(32条)
4)引用の目的上正当な範囲内であること(32条)
5)出所の明示をすること(48条)


これに加えて、パロディモンタージュ事件(S55.03.28 最高裁第三小法廷)の最高裁判決において
ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない
と判示されたことにより、
6)引用部分が明瞭に区別できること
7)引用部が主従の従たる部分にあたること

の2要件が明確化されたことを踏まえ、この本でもあわせて計7つのポイントに注意して引用をすべきである、と説きます。

なるほど、著作権の本で引用の要件を調べるたびに、本によって要件の数や書き方が違っていた理由はこういうことだったのか、とフムフム納得。

とはいえ、7要件ではいかにも多すぎて頭の中にスッキリ入ってきません。
6,7を満たせば2,3,4の要件も満たされている、すなわち引用の要件は1,5,6,7の4要件だ、と考えても実務上差支えないのではと私は思っていますが。


ウェブサイトからの引用論について真面目に考えてみる

この本のもう一つの特徴が、学術論文だけでなく、ウェブサイトからの引用についてかなりキッチリと触れてくれている点。

どのくらいキッチリとしているかは、「なぜ他人の著作物にリンクを張るのが著作権侵害とならないか」について述べられたこの部分を見て頂ければわかるはず。
わが国の著作権法との関係で問題となるのは、複製権(21条)と公衆送信権(23条)であり、(後略)
まず複製権との関係を考えてみましょう。この権利は、著作者に無断でコピー(複製)することを禁止する権利ですが、リンク元はリンク先のコンテンツを自分のサイトにコピーしているわけではないし、リンク元が一度自分でコピーをしてから、当該コピーを閲覧者に送信しているわけでもありません。
閲覧者がリンク元にあるリンクをクリックすることによって受信ができるのは、リンク先ウェブが閲覧者へのコンテンツの送信を許可しているからにほかなりません。したがって、リンク元が無許可でリンク先ウェブのコンテンツを送信しているわけではない以上、リンク先の公衆送信権を侵害しているわけではありません。

ふつうの著作権法の解説書では、「無断でリンクを張っても、(フレーム内リンクにしない限り)著作権法上何の問題もなし」と簡単に片づけられてしまうわけですが、そこは1冊まるごと引用をテーマにしたこの本ならではの細やかさがあります。


web時代の出所明示は時刻までをも明示する

そして、分かっているようでいつまでたってもはっきりとした方法が分からない、模範的な出所明示の表記法についても詳しく述べられています。

たとえば、webサイトからの引用について、アメリカの有力な引用法マニュアル(Chicago,Modern Language Association,American Psychologigal Association)に共通するルールから著者が導いたオススメ表記法がこちら。
Yale University, History Department Home Page
[http://www.yale.edu/history/](accessed September 10,2008)

特徴的なのは、アクセスした日時を書くという点。
Wikipediaに代表されるように、web上の情報は容易に書き換えられてしまうことを考えると、確かにこうしておいた方がいいかもしれません。

というわけで、引用についての知識と理解を深めたい方にはうってつけのこの本。

ちなみに、この本の本文中でもっとも引用されていた文献は、やはりというべきか冒頭紹介した『引用・転載の実務と著作権法』でした。
読んでない方&著作権そのものについてまだ自信のない方は、是非そちらをお読みになってからこちらの本に挑まれることをおすすめします。