企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

ステルスマーケティング

旬なインターネット広告の法規制を網羅するならこの2冊

 
今月発売のBLJの第二特集、「インターネット広告規制の現在」は、
・森亮二先生がステルス/フラッシュマーケティングを始めとする旬なネット広告手法に切り込み、
・二関辰郎先生が日本ではなぜかそれほど問題視されない行動ターゲティングについて詳しく言及し、
・米国弁護士フローレンス・ロスタミ先生が、それらについて一歩先に規制を始めた米国の現状を紹介
するという、時事性と個別専門性を織りまぜられる雑誌ならではの良さを生かした、非常に良い特集だと思いました。


BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 04月号 [雑誌]BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 04月号 [雑誌]
販売元:レクシスネクシス
(2012-02-21)
販売元:Amazon.co.jp



特に、森亮二先生のステマに関する解説は、
口コミサイトに消費者が求めるのは、事業者から独立した消費者側の意見・感想であり、そのためにはニュートラルなユーザーとしての意見なのか、事業者の依頼に基づいて(または事業者の何らかの影響の下に)書かれた意見なのか、判別できるようになっていることが望ましい。
と、フローレンス・ロスタミ先生が別途解説する米国的な「関係者の明示」規制の話とリンクさせ、かつそれだけにとどまらず、
自社の高評価の書き込みを作り出すことが「やらせ」のすべてではない。この手の情報操作手法としては、他に「競合他者の低評価情報を書き込む」「自社に対する低評価情報を削除させる」の二つがある。
といった古くて新しい論点について、ご自身の具体的な代理人経験を踏まえて問題提起をされているもので、大変読み応えがありました。

また、二関先生の行動ターゲティング広告解説で特筆すべき点は、総務省がはじめて行動ターゲティングやDPI(ディープパケットインスペクション)の規制の方向性について明文化した「第二次提言」を引き合いに出しながらも、
第二次提言では、本人の同意さえ取り付ければDPI技術は許容されるかのような位置付けをしていた。しかし、DPI技術は通信の秘密の侵害につながるので、行動ターゲティング広告目的での利用はNGとすべきであろう。
と、こちらもかなり踏み込んだ意見を提示されている、気合の入った投稿でした。

ステルス/フラッシュマーケティングにせよ、行動ターゲティング広告にせよ、法律上規制が明確でないテーマを先取りして事業に取り込んでいく際に法務がやってしまいがちなのは、弁護士から「現在の法律においては明確に違法とはならない」という経営者が喜びそうな“前向き”な回答を導きだすこと。しかし、そういう「法律上グレーだからやっていい」という回答を誘導することは、本当に自社の事業の発展にとって適切な行為なのか?法務パーソンだったら一度や二度は大きく悩んだ経験があると思います。

まだ誰もやっていない新しいテーマにチャレンジすることそれ自体は賞賛されるべきです。しかしそれが顧客と社会に対して正々堂々と語れる・説明できることなのかを一番深く考えるのが、企業法務に携わる我々の役割でもあると思います。そういった場面で冷静に、しかし迅速にリスクを判断するためにも、“顧問料と引き換えに半ば無理矢理引き出した適法意見”ではない、ニュートラルな専門家の意見がこのように早いタイミングで文字化されていることにこそ、法律雑誌の価値があるのだと改めて感じました。


で、ついでと言っては大変失礼なんですが、この特集で<森亮二先生×インターネット広告規制>という組み合わせに既視感を覚え、そう言えば!とこの本をご紹介し忘れていたことを思い出しましたので、ちょこっとご紹介させていただこうと思います。


インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策インターネットの法律Q&A―これだけは知っておきたいウェブ安全対策
著者:岡村 久道
販売元:電気通信振興会
(2009-07)
販売元:Amazon.co.jp



岡村久道先生と森亮二先生の共著により、
・アフィリエイト
・ドロップシッピング
・迷惑メール規制
・オンライン通販と広告表示事項
・ウェブショップにおける確認画面と利用規約
・価格誤表示
・RMT(リアルマネートレーティング)
・発信者情報開示制度
・SNS事業者の違法情報媒介責任
・モール事業者・オークション事業者の法的責任
・他人の著作物のブログへの掲載と権利処理
といった、まさに今回のBLJの特集で触れられた話題の周辺領域について幅広く抑えてあるトピック集です。

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速報性という意味では雑誌のそれにはかないませんが、今回のBLJと合わせて読めば、インターネット広告の法規制のいろいろについてほぼ網羅できるものと思います。
 

日本におけるステルスマーケティングの法規制まとめ(追記あり)


食べログさんがやらせ口コミ投稿業者によって被害を受けているとの件が話題を呼び、ソーシャル・ネットワークやブログを使ったステルスマーケティング(=やらせ・サクラによる口コミ)の法規制論にまで発展し始めています。

アメリカではFTCがとっくに明文で規制してるのに、という声も聞かれますが、一旦ここでは日本法においてどうなのか?という点に絞って、メモがてら投稿しておこうかと思います。

商品・サービスを提供する事業者がステマを頼むのは違法


下記消費者庁通達にあるように、商品・サービスを提供する事業者自身がステルスマーケティングを依頼したのであれば、景表法に抵触するということになっています。

平成23年10月28日付「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の 問題点及び留意事項」(消費者庁)
口コミサイトに掲載される情報は、一般的には、口コミの対象となる商品・サービスを現に購入したり利用したりしている消費者や、当該商品・サービスの購入・利用を検討している消費者によって書き込まれていると考えられる。これを前提とすれば、消費者は口コミ情報の対象となる商品・サービスを自ら供給する者ではないので、消費者による口コミ情報は景品表示法で定義される「表示」には該当せず、したがって、景品表示法上の問題が生じることはない。
ただし、商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該「口コミ」情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。

この理屈で言うと、今回のケースはヤラセ口コミ業者に頼んだ飲食店が規制の対象となる、ということです。(食べログさんがやらせ口コミ投稿業者を追求すればするほど、食べログの顧客であるはずの飲食店さんの景表法違反リスクが高まり、結果食べログさんも首を絞められるのですが、そこはよろしかったんでしょうか・・・。)

※2012.1.13追記
「優良誤認・有利誤認をさせなければステマは合法です」とのコメントを@issy1080さんから頂きました。ステマという語の定義・捉え方の問題かと思いますが、私はステマを「商品・サービスを提供する事業者(または広告代理店等協力者)が、中立な立場を装って消費者を騙し、“本来は得られない高い評価”を広めようとする行為」と捉えています。事業者らが消費者の優良誤認・有利誤認の効果を狙う手段が「ステマ」なのであって、(最終的に優良誤認・有利誤認で景表法違反とされるかは別として)“優良誤認・有利誤認の効果を狙わないステマはそもそもステマではない”という前提で違法と書いています。

※2012.5.9追記
上記でコメントした通りの見解が「留意事項」に追加され、消費者庁の見解がさらに明確化されました。文書に添えられた「具体的な表示が景品表示法に違反するか否かは、個々の事案ごとに判断されますので、ご留意ください。 」という但し書きが、「すべては消費者庁の胸三寸です」と言っているようにも読めます。

平成24年5月9日付「『インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項』の一部改定について」(消費者庁)
第2の「2 口コミサイト」のうち「(3)問題となる事例」に、以下の事例を追加しました。
○ 商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。


広告代理店は、不当表示を助長しなければセーフ


またこの問題は、有名人を自社が運営するSNSやブログサイトに抱き込んで、彼・彼女らに商品やサービスを宣伝させる(それによって自社サイトの売上・広告収入上昇を目論む)という営業手法を採用するネット系広告代理店さん糾弾の動きにも繋がっています。

これに対して、きっと広告代理店は、「景表法の措置命令の対象は、当該商品・役務を供給する事業者自身である。事業者が不当表示をしないようできる限り注意は払うが、広告代理店やメディアは企画はすれども委託に基づいて広告を出しているだけだから責任はない。」という主張を展開されていくことと思います。消費者庁のQ&Aにも、同様の見解が述べられています。

よくある質問コーナー(消費者庁)
Q3 当社は広告代理店です。メーカーとの契約により,当該メーカー商品の広告宣伝を企画立案した結果,当該商品の品質について不当表示を行ってしまいました。この場合,広告代理店である当社も景品表示法違反に問われるのでしょうか。

A. 景品表示法の規制対象である「広告その他の表示」とは,事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものであるとされており,メーカー,卸売業者,小売業者等,当該商品・サービスを供給していると認められる者により行われる場合がこれに該当します。
他方,広告代理店やメディア媒体(新聞社,出版社,放送局等)は,商品・サービスの広告の制作等に関与していても,当該商品・サービスを供給している者でない限り,表示規制の対象とはなりません。しかしながら,広告代理店やメディア媒体は,広告を企画立案したり,当該広告を一般消費者に提示する役割を担うことにかんがみ,当該広告に不当な表示がなされないよう十分な注意を払ってください。

末尾の「十分な注意を払って」は、広告代理店に何かの注意義務があることを示唆しているようで、消費者庁の思惑が感じられ、気味が悪い部分です。

将来的にはステマを助長する広告代理店規制の余地あり


その消費者庁の思惑と連動するかのような話として、下記高裁判決における“不当表示を行った者”についての裁判所判断を読んでいくと、ステルスマーケティングのやり方や営業の方法によってはその方便も通用しない可能性、すなわち広告代理店も「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」として“不当表示を行った者“に含まれる余地が残されているように解釈できる部分があります。

平成20・5・23ベイクルーズによる審決取消訴訟判決(公正取引委員会)
同法4条1項3号に該当する不当な表示を行った事業者(不当表示を行った者)の範囲について検討すると,商品を購入しようとする一般消費者にとっては,通常は,商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないのであるから,そうとすれば,そのような一般消費者の信頼を保護するためには,「表示内容の決定に関与した事業者」が法4条1項の「事業者」(不当表示を行った者)に当たるものと解すべきであり,そして,「表示内容の決定に関与した事業者」とは,「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず,「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」や「他の事業者にその決定を委ねた事業者」も含まれるものと解するのが相当である。

この事例は、八木通商が作った事実と異なる原産地表示のタグを付けたズボンをベイクルーズ(EDIFICE)が販売した責任に関する事例であり、ステルスマーケティングそのものの事例ではないのですが、景表法の規制対象者について正面から争い、裁判所が広めの解釈に言及した事例として注意したい裁判例です。

報道を見ていると、消費者庁が久しぶりに目立てる仕事が出来た!と色めき立っているようにも見受けられますが、あまり拡大解釈が進むと、ソーシャル・ネットワークやブログの言論の自由までもが脅かされることにもなりかねませんので、冷静適切な対応を望みたいと思います。


さて、本件に関して私が持っている広告法務の本や雑誌を漁ったのですが(↓このあたりやBLJ・ビジネス法務)、類似のアフィリエイト・ドロップシッピング等の問題について述べた書籍や、ベイクルーズ審決について述べた本はあれど、はっきりとこのステマの問題を取り上げて言及しているものが見当たりませんでした。もしこんなのあるよ、という方いらっしゃるようであれば、ご教示頂ければ幸いです。 
 
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