企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

オープンソース

FacebookがOSS規約に設定した「非係争義務」(追記あり)

 
※本記事アップ後、Facebookは「コミュニティの理解を得られなかった」という反省の弁とともに特許非係争義務を撤回しMIT Licenseとして再許諾する旨の声明を2017年9月23日に発表、その3日後のReactのバージョンアップで宣言どおりこれを実施しました。以下記事は経緯記録のため修正せずにそのまま置いておきます(この事情から一部リンク切れも発生していますがご了承ください)。


Facebookが、「私たちが作ったOSS(オープンソースソフトウェア)を使うなら私たちに対して特許訴訟するな。したら使えなくするぞ」という、いわゆる“非係争義務”を利用規約に入れてOSSを提供している問題が、エンジニアのみなさんの中で話題になっているようです。私自身は @katax のつぶやきで知りましたが、私の所属企業のエンジニアの間でも以前から話題になっていたようでした。


背景含めて経緯をわかりやすく解説して下さっているのがこちら。

Facebookの特許条項付きBSDライセンスが炎上している件について
Facebook発のOSSを多用して自社プロダクトを構築し商売している場合、事実上Facebookに特許訴訟をすることは出来なくなる。Facebookの訴訟をした時点で、Facebook発のOSSを使う権利を失ってしまうからだ。実際、Googleを初め、社内でFacebookのOSSを使うことを禁じている会社がいくつもある。

問題の非係争義務を定めている条項がこちら。

react/PATENTS at master - facebook/react - GitHub
Facebook, Inc. ("Facebook") hereby grants to each recipient of the Software ("you") a perpetual, worldwide, royalty-free, non-exclusive, irrevocable (subject to the termination provision below) license under any Necessary Claims, to make, have made, use, sell, offer to sell, import, and otherwise transfer the Software. For avoidance of doubt, no license is granted under Facebook's rights in any patent claims that are infringed by (i) modifications to the Software made by you or any third party or (ii) the Software in combination with any software or other technology.

The license granted hereunder will terminate, automatically and without notice, if you (or any of your subsidiaries, corporate affiliates or agents) initiate directly or indirectly, or take a direct financial interest in, any Patent Assertion: (i) against Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, (ii) against any party if such Patent Assertion arises in whole or in part from any software, technology, product or service of Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates, or (iii) against any party relating to the Software. Notwithstanding the foregoing, if Facebook or any of its subsidiaries or corporate affiliates files a lawsuit alleging patent infringement against you in the first instance, and you respond by filing a patent infringement counterclaim in that lawsuit against that party that is unrelated to the Software, the license granted hereunder will not terminate under section (i) of this paragraph due to such counterclaim.

Facebookのように著名でおカネを持った会社になると、その代償として、特許トロール的なものも含めた知財訴訟対応に日々煩わされることになります。そうした訴訟の手間やコストを削減するための1つのテクニックが、こうしたライセンス契約に非係争義務を設定するという手法です。実際、本件について見解を述べたFacebookの声明でも、“As our business has become successful, we've become a larger target for meritless patent litigation. (中略)We believe that if this license were widely adopted, it could actually reduce meritless litigation for all adopters, and we want to work with others to explore this possibility.”と、有名税として訴訟のターゲットにされることにもう疲れたので…みんなこうやって仲良くしませんか、といった心情が吐露されています。 おそらく、数百人はいるであろう知的財産部門のパワーの半分ぐらいが、こうした訴訟対応に費やされているのではないでしょうか。


fbexplain


ところが、知的財産権のライセンス契約の中でこうした非係争義務を課すことについては、健全な競争を阻害するものとして、法的に問題となる場合があります。公取の知的財産ガイドラインをみてみましょう。

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)
(6) 非係争義務
ライセンサーがライセンシーに対し,ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の権利をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対して行使しない義務(注17)を課す行為は,ライセンサーの技術市場若しくは製品市場における有力な地位を強化することにつながること,又はライセンシーの権利行使が制限されることによってライセンシーの研究開発意欲を損ない,新たな技術の開発を阻害することにより,公正競争阻害性を有する場合には,不公正な取引方法に該当する(一般指定第12項)。
ただし,実質的にみて,ライセンシーが開発した改良技術についてライセンサーに非独占的にライセンスをする義務が課されているにすぎない場合は,後記 (9)の改良技術の非独占的ライセンス義務と同様,原則として不公正な取引方法に該当しない。
注17 ライセンシーが所有し,又は取得することとなる全部又は一部の特許権等をライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に対してライセンスをする義務を含む。(P23)

こうした独占禁止法上の問題とならないよう、通常は、ライセンシー(今回のケースで言えばFacebookのOSSを利用する立場の事業者)が契約締結時点で保有している特定の特許権だけを非係争義務の対象にするとか、ライセンスした技術を改良して発生する将来の特許権に限定するなど、一般的なクロスライセンスの限度に留まるように非係争義務の条項をドラフティングします。

しかし、今回のFacebookの非係争義務の書きぶりはそうした限定がほとんどなく、この範囲を超えているようにも思われます。そしてそれは、Facebookとしても法的リスクは意識した上で、明確な意志をもって踏み込んでそうしているように見えます。多大なコストをかけて開発した技術をオープンソースとして広く提供しているのだから、それ相応の見返りの1つとして、合意の上で訴訟コストを下げさせてもらってもいいじゃないですか、この考えに合意できなければ当社のOSSを使わないでいただければそれで結構、という意志です。


私はエンジニアではないので、現在のOSSコミュニティにおいてFacebookがどの程度影響力を与えているのかは正確には分かりません。しかし、Facebookの声明に滲み出る熟慮の末の対応というニュアンスを見るにつけ、今後のOSSの契約実務、さらにはインターネットサービスの契約実務においても、これに倣うような事業者が出てくるのではないかと感じました。
 

2017.8.24追記

平均的なOSSのライセンス条項と比較しながら、Facebook React.jsの非係争条項について解説した記事。

▼ReactJSのライセンスにおける制限的条項の対象範囲 (特許不係争義務)
http://qiita.com/Cat_sushi/items/923914b4c25e25f2ce38
 

2017.8.25追記

通常のBSDライセンスとの比較からFacebookがReact.jsについての特許権を持っている可能性があること、そしてそもそもFacebookに対して行使できる特許を持っていなければReact.jsの利用を停止する必要もないであろうことを指摘する記事。

▼FacebookのBSD+PATENTSライセンスについて
http://katax.blog.jp/archives/52770400.html

『アプリ法務ハンドブック』出版記念セミナー報告とOSSに関するご質問に対する補足

 
10月22日(木)16:00ー18:00に、レクシスネクシス・ジャパン主催『アプリ法務ハンドブック』出版記念セミナーを、AP渋谷道玄坂で開催しました。

40名弱の方にご参加いただき、終了後のアンケートからは内容、時間の長さ、テンポ等いずれも多くの方にご満足をいただけたようで何よりでした。また終了後は、10名くらいの弊ブログを毎週のように御覧下さっているという方々に直接ご挨拶することも出来ました。お忙しい中ご参加下さったみなさまに、この場をお借りして御礼申し上げます。誠にありがとうございました!


セミナーのQ&Aの時間には、OSSと資金決済法に関してかなり具体的な限界事例に関する質問をいただき、その関心の高さを改めて感じました。

OSSについては、共著者であるField−R法律事務所の東條先生から「OSSのライセンスは法律家が読んでも難解な文言であるため、その解釈の正確さに拘泥するより、専門家と相談しながらまず自社なりの遵守基準を作っておき、いざというときに正当性を主張できるようにしておくことが大事」「その最初のステップとして、本書記載のポイントを最低限抑えておくとよい」という趣旨のアドバイスがありましたが、この点、私も以前『企業法務について』の@kataxさんのプレゼンテーションに触発されてOSSのライセンスを読み込んだことがあるのですが、やはり同様の考えをもっています。

s-seminar_oss

補足として、もう少しOSSに関する知識を広げたいという方には、以前弊ブログでも簡単にご紹介した書籍『ソフトウェアライセンスの基礎知識』を読んでいただくか、


ソフトウェアライセンスの基礎知識
可知 豊
ソフトバンククリエイティブ
2008-09-25



さらに詳しい文献として、電子書籍販売のみとなりますが、同じく可知豊さんがリリースされている『知る、読む、使う!オープンソースライセンス』をおすすめします。上記2文献は、OSSに関して知っておくべき情報が網羅的に収められているほか、日本語・英語で読める参考文献へのリファレンスも豊富にあり、OSSの情報源としては大変貴重な存在です。


知る、読む、使う! オープンソースライセンス
可知豊
達人出版会
発行日: 2011-12-20
対応フォーマット: EPUB, PDF


その他、ネットで日本語で読める記事で私が参考にしているものとして、以下をご紹介しておきます。


▼「オープンソース・ライセンス」翻訳(オープンソース法)
http://opensourcelaw.blog18.fc2.com/

▼OSIの定義に基づくOSSライセンスの特徴分類と現場での課題との関連に関する検討(情報ネットワーク法学会第14回大会資料)
http://www.in-law.jp/archive/taikai/2014/kobetsuB3-slide.pdf

▼エンジニアのための契約勉強会 – オープンソースライセンス編まとめ(オープンソース・ライセンスの談話室)
http://www.catch.jp/oss-license/2015/06/27/seminar/

▼エンジニアのための法律勉強会 #5『OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』参加メモ
https://gist.github.com/koyhoge/25e7b318d64d6fb1ae7e

▼エンジニアのための法律勉強会 #6『続:OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』 参加メモ
https://gist.github.com/koyhoge/dd2957d75fcf6e7d2734

▼「OSSライセンス=契約」という誤解を解く (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1412/15/news011.html

▼OSSライセンスが求める条件とは? (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/0902/05/news135.html

▼OSSライセンス順守の第一歩 (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1002/18/news106.html

▼「事例に学ぶ、オープンソース知財セミナー2010 」開催のご報告(オージス総研)
http://www.ogis-ri.co.jp/event/f-01-00000265r.html


引き続きよろしくお願いいたします。

アプリ法務ハンドブック (BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS)
小野 斉大 (著), 鎌田 真理雄 (著), 東條 岳 (著), 橋詰 卓司 (著), 平林 健吾 (著)
レクシスネクシス・ジャパン
2015-10-09


【本】ソフトウェアライセンスの基礎知識―ソフトウェア屋さんの法務じゃなくても、近いうちにオープンソースのライセンス契約をドラフトする日が来るからね

 
弊ブログのカテゴリ上は、「法務_契約法務」に分類させてもらいましたけれど、この本は純粋な契約ノウハウの本ではありません。

オープンソースのソフトウェアがそもそもどうして生まれたのか?
オープンソースと著作権フリーのソフトウェアとの違いは何なのか?
オープンソースが「オープン」たる条件とは、そのライセンス上何が求められているのか?

技術者である著者が、私のような非技術者にもわかるように、オープンソースソフトウェアの技術と知的財産権の間に横たわるエアポケットを埋めるための、必要な基礎知識を解説してくれる本です。

ソフトウェアライセンスの基礎知識



時代おくれの法務パーソンにならないように

冒頭、ソフトウェア契約に関わる部分の著作権をやさしく解説してくれているあたりは、技術開発ばかりで権利なんか考えてなかったというようなベンチャー企業の社長なんかにも親切設計ですし、

随所にApache・PHP・GPL・Rubyなど実際のオープンソースソフトウェアのライセンス(利用許諾)条項を具体的に引用し、技術的な側面も交えて解説してくれているあたりは、読者層としてかなり法務パーソンも意識したのではないか、と思われる構成。

SIerに全てのシステム開発を委ねる時代が終わりを告げ、自社で抱える技術者がオープンソースの技術をベースにした開発を行って商売にしたり、オープンソースを核に他社と技術的なコラボレーションする動きは、今後ますます活発化していくのだと思います。

そんなオープンソースな時代に、法務パーソンがやりがちな「他社の権利は奪い取れるだけ奪い取り、自社の権利は囲い込めるだけ囲い込む」というようなスタンスで契約書をレビューしていると、ビジネスの成立すら危ぶまれます。そんな話のわからないダサい法務パーソンにだけはならないように、気をつけたいものです。
記事検索
月別アーカイブ
プロフィール

はっしー (Takuji H...