法律事務所の垣根を越えた法律書ブックガイド
春になり新年度を控え、新入社員の配属もチラつく頃に欲しくなるのがブックガイドですが、その究極の一冊がこちら『企業法務のリーガル・リサーチ』です。
本書は、企業法務の主要な専門分野(14分野)について、大規模法律事務所の弁護士が所属する法律事務所の垣根を越えて協力している点に大きな特徴がある。(中略)本書のような企業法務全般におけるリーガル・リサーチに関して取り扱う書籍について、特定の法律事務所と紐づく形ではなく、所属する法律事務所の垣根を越えた形で世に問うことができた点は、本書の性質上も、非常に意味があることと考えられる(序文より)
大事なことなので、2回言いました!>「所属する法律事務所の垣根を越え」
リサーチの技術、特にその分野の専門家が日々の業務でどんな書籍を頼りにしているのかは、紙の法律文献が大量に出版されている日本特有の状況下、ある種のノウハウなのだろうと思っています。実際、私が図々しく聞いても、真摯に答えてくれる先生は一部に限られていました。しかし、本書では、のべ53人もの弁護士の先生方を口説き、具体的な書籍名を開陳させています。このプロジェクトを実現させた編集代表の先生方の調整の苦労が偲ばれますし、他の法律書籍出版社の書籍を多数レコメンドする書籍を出すことを当然のように受け入れた有斐閣さんの懐の深さもさすがです。
数年前、ある法律出版社さんから不肖私あて、「あなたが作っている"法律書マンダラ"を書籍化しないか」と、単著企画のお誘いをいただいたことがありました。世の中にそういうまとめ本ニーズがあることは承知していましたが、私ごときが(ブログならまだしも)書籍という形でおすすめ法律書リストを出すなど、そんな身の程知らずの愚行をしたらどうなるかと考えて、光栄なお話ではありましたが、丁重にお断りをしました。
素晴らしい先生方が集まってこその本書を拝読して、何かの間違いでそれが出版に至るようなことにならず、本当に良かったと思います。
種別ごとに分類する効果
本書は、企業法務のプロがリサーチで参照する法令/所管省庁のガイドライン・Q&A/ウェブサイト/パブコメ/書籍/データベース等を、分野別に洗いざらい紹介されているのですが、数あるリーガル・リサーチ本には見られなかった最大の特徴は、やはり具体的な書籍を書名付きで多数ガイドしてくれるパートです。
しかも、ただなんとなく先生方の頭の中で思い浮かんだおすすめ書籍を列挙しているのではなく、
・基本書
・コンメンタール
・実務書、手引書
・定期刊行物
の種別ごと項目建てをした上で、それぞれを意識して分けてリストアップしてくれているのが最高です。読者の立場から探しやすいのもそうですが、各分野違う先生が分担して書かれている書籍で起きそうな事故、たとえば「この分野だけコンメンタールの紹介を忘れてるな...」みたいな事故が未然に防がれる効果もあったでしょう。
さりげなく重要度ランクも
面白くもあり残念でもあったところが、紹介されている書籍の「重要度ランク」表現についてです。さすがに、ストレートにABCみたいな直接的な表現でランク分けはされていません。ところが、よくよく読み込んでみると、
「必読である」
「極めて有用である」
「有用である」
「参考になる」
「...も参照する」
といった言葉の端々に、さりげなく各書籍の重要度をランク付けしているのでは?と察せられる表現を使っている章があります。読者のニーズを分かっていらっしゃる。ただ、それがすべての章に徹底されていたわけではないので、願わくば全執筆者の皆さんに、書籍間の重要度の高低をにじませて欲しかった。
それともう1点、巻末に索引代わりのおすすめ書籍リスト(表)ついてないかなーと期待したんですが、やはりというべきか、ありませんでした。残念。なんならOCRにかけた後、生成AIに読み込ませて自分でリストを作りたいところですが、巻末に「スキャン禁止」との注意がありましたので慎みます。
書籍が支えるAIの信頼
本書を読んであらためて感じたことは、高度専門職領域における書籍の価値の高さです。
いまや、法令リサーチもAIで行うのが当たり前の時代になり、その利用頻度は日々高まっていく一方です。しかし、弁護士や企業法務責任者のような高度専門職にとっては、AIが生成したリサーチ結果を読む際、
・その論を裏付ける文献があるか
・その文献は能力・実績ある人物によって書かれたものか
・刊行後どれほどの期間を経て定評を培った文献か
といった点を、過去に部下が作成してきたリサーチ結果を読むときにチェックしていたのと同様に確認しているはずで、書籍の重要度はまったく変わりません。
AIがいかに便利に・素早く・美しい見栄えのする法令リサーチ結果を返してくれたとしても、そのアウトプットの質は、ほとんどが書籍・論文といった文字メディアによって培われた専門知の「信頼」に依拠しています。著者の先生方が何年にも渡る修行の中で獲得した経験・成果を、数か月の時間をかけて書籍としてアウトプットし、刊行後も長年読者からの厳しい批判に耐え抜くというプロセスを経て培われた「信頼」があってこそです。
1年後にAIの進化がどこまで進んでいるかなど全く予想もできず、3年後に私の職自体があるのかすら分からない世の中。そんな先の読めない時代においても、書籍というメディアが支えてきた信頼の強度はこの先5年10年は失われないのだろうなと、この本にリストされた定評ある書籍の数々を拝見して感じました。

























