TBSが1963年に放送した「エイトマン」がアメリカのテレビ局に買われることになった際、その契約書の原案にMerchandising Rightsという言葉があり、この経験をもとに「スーパージェッター」のキャラクターをTBSが国内玩具メーカーに対してライセンスする際にはじめて使われたのが、日本における「商品化権」のはじまりである。
と、そんなエピソードの紹介から始まる、とても興味深い本をご紹介します。
電気通信、放送、広告、そしてウェブサービスに携わる中で、ある程度はコンテンツの知的財産権というものについて理解も実践もしてきたつもりが、今の業界で著作権や商標権の本当の奥深さを知り、最近ではこれまでほぼ未体験ゾーンだった意匠権との関わりまで考えなくてはならなくなって、己の勉強不足を痛感しております。そのコンテンツの知的財産権の中でも、総合芸術とも言うべきものが、キャラクターの商品化権だと思います。
商品化権とは、基本的に契約により権利者に設定される権利であって、法定されているものではありません。そして本書の著者は、その権利の曖昧さから生まれている紛争の多さに鑑みて、商品化権を法令で定めるべきと主張しています。一方で、現時点でも実定法や判例で認められた権利が何もないわけではありません。この本で観点として取り上げているものだけでも
・著作権
・商標権
・意匠権
・不正競争防止法
・パブリシティ権
そして、これらを束ねる一般法としての民法(不法行為法・契約法)の存在を挙げることができます。
「キャラクターの商品化だったら、著作権の許諾だけで十分なんじゃないの?」という声もあるでしょう。しかし、たとえば
- キャラクターの絵(平面)からぬいぐるみ(立体)を作ったときに、著作権法第27条の規定する「変形」がこれをカバーしうるのか、それは意匠法のみがカバーしうるのでは、という論点(P121ー128)
- あるキャラクターを想起させる文字列や図柄を商標として登録した権利者に対して、そのキャラクターの著作権者が対抗しうるのか、という論点(P270ー277)
様々な法令の使える部分を武器にしつつも、その法令と法令の間に存在するスキマを契約で埋めて“編んで紡いで”いく。法務パーソンとして商品化権を扱うとき、そんな作業が楽しくもあり、実に難しくもあるわけです。本書は、このようなスキマに生じた紛争判例を数多く取り上げながら、どのような視点で商品化権を契約によって構成すべきかを教えてくれる、他に類を見ない本となっています。
ご紹介の最後に、法令のスキマの埋め方、契約の編み方・紡ぎ方についての貴重な示唆がなされている部分をご紹介させていただきたいと思います。これは、私自身Evernoteに入れて「家訓」にしているものです。
漫画キャラクターの商品化のための使用許諾をするに際して必要な基本的条件について、ウォルト・ディズニー・プロダクションではどのように考えているかについて、同社のフランクリン・ワルドハイム氏の論文から紹介しよう。これは1964年の論文であるから、今日では多少事情が変わっているかも知れないが、基本的条件は現在でも十分通用するものである。
- 使用されるキャラクターと使用される物品とを具体的に特定すること。
- 場合によっては、異なる製造者が同じ物品を異なった価格で製造することを認めること。けだし、価格の異なる物品が同一市場で、競って売られることはないからである。ただし、その物品が、ある一定の価格で売られなければならないという取り決めを契約でしてはならない。けだし、このような価格の固定は独占禁止法に違反するからである。
- 物品が製造され販売される地域を特定すること。――使用権者の中には、生産コストの安い国で製造させ用途する者がいるが、これはその外国の製造者がその注文主である使用権者だけに売ることを誓約させる条件のあるときに限って認められる。したがって、使用権者の仕様権が契約期間の満了などで消滅した時は、そのキャラクターの商品化に使われた金型や仕掛品をすべて破棄させなければならない。
- 使用の有効期間および更新するための期限について定めること。
- 使用料について定めること。――この使用料は前払い制であること。
- キャラクター使用権とは、そのキャラクターを、被許諾者に与えられたままのデザインを、外観を変更せずに複製(reproduce)する権利をいう。
- そのキャラクターに関するすべてのもの(物品・包装紙・容器・広告など)の製造は、許諾者による承諾が必要であること。――これは、キャラクターの完全性を保つために必要である。
- 使用権者が製造するキャラクター入りの物品デザインは、できれば許諾者にまかされ、許諾者が創作したデザインに要した費用は、使用権者によって支払われること。
- キャラクターが使用される物品の種類・品質・価格などの必要事項を、許諾者に定期的に報告させること。
- キャラクターについての著作権・商標権などのいかなる権利も、使用権者に譲渡されるものではないこと。
- キャラクターに関する全商品には、正当な著作権表示を付すること。
- 使用権者は、許諾者の承諾があるならば、商品が販売される地域内で、キャラクターを使用した商品を陳列、宣伝することができる。――この場合、許諾者にとって注意しなければならないのは、キャラクターとその制作者がつくり出した公のイメージを傷つけるような広告が使われないようにすることである。
- 使用権者は、許諾者の承諾がない限り、キャラクターを使用した商品をラジオ・テレビ・広告掲示板などで宣伝してはならない。使用権者が無制限に宣伝するときは、ラジオ・テレビ番組の評価に悪影響を及ぼすことにもなる。
- 使用権者は、製造販売した物品が他人の特許権等を侵害した場合に、許諾者に全く迷惑を与えないようにしなければならない。
- 使用権者が、その物品の製造販売ができなくなり、契約が有効に履行されないときは、許諾者はその契約を解除することができる。
- 契約の有効期間満了後もなお使用権者の工場や倉庫に物品が残存しているときは、すべて許諾者において処分する権限をもつことがよい。――これは、使用権者が期間満了後に投げ売りすることを防止することになる。
- 使用許諾権は、譲渡されてはならないようにすべきである。
- 契約上の一つの重要な問題は、使用権者は通常、一つの物品についてはそのキャラクターの使用の独占権を欲する。したがって、許諾者としては、同一の物品に同一のキャラクターを複数の者に許諾して競争させることは望まない。――しかし、契約上は、独占的な許諾の条件は与えない。その理由の一つは、物品の領域を正確に決定することは難しいからである。一つの物品が、別の物品の機能を備えた新しい物品(例、鉛筆に対し電灯付鉛筆)の例はいつもある。しかし、このような物品の重要性はどちらの許諾者にとっても重要な問題にはならないだろう。理由の他の一つは、使用権者が、一般大衆がそのキャラクターを使用した物品を強く要求しているのに、その要求を満たすことの出来ない場合に対処しなければならないことがあるからである。
































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