企業法務マンサバイバル

企業法務を中心とした法律に関する本・トピックのご紹介を通して、サバイバルな時代を生きるすべてのビジネスパーソンに貢献するブログ。

_労働法務

年度末で忙しい時期だってのに、厚労省が違法派遣の取り締まりにやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!

このエントリで伝えたいこと

  • 厚生労働省が行おうとしている違法派遣の取り締まりの真の被害者は、派遣元企業ではなく、性急な対応を迫られることになる派遣先企業であり、派遣社員だ。

法改正もまだなのに、締め付けがはじまった

2/9付で厚労省から配信されたメルマガの2行目に、読み捨てならない記事が。

期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン)

上記サイトにアップされているPDFの記事を要約すると、
  • 専門26業務であるかのように偽装して1年を超えて違法に派遣している企業がないか、3月〜4月にかけて派遣元を対象に集中的な指導監督(行政処分含む)を実施するよ。
  • 特に、単なる一般事務の派遣社員を専門26業務である「事務用機器操作」「ファイリング」であるかのように誤魔化している事例がないか、徹底的にチェックするから、そのつもりで。
というもの。

特に5号業務「事務用機器操作」と8号業務「ファイリング」の解釈については、「会社から言われた指示通り仕事をするだけであれば専門26業務ではない」と断言するなど、従前よりも厳しめの解釈基準となっているこの通達。

年末に開かれた労働政策審議会で、専門26職種以外の登録型派遣を原則禁止とする方向でまとまったのを受け、将来事務派遣が専門26業種であると解釈されて骨抜きにならないよう、多くの企業が派遣契約の更新を迎えるこの年度末を狙って見せしめたいという思惑がミエミエです。

しかし、労政審の答申が出たとは言え、正式な労働者派遣法の改正決議がされているわけでもないタイミングでのこの締め付け。
派遣法改正案でさえ、受入れ企業の実務に配慮して3〜5年の移行措置期間をつけようというのに、このやり方は少し乱暴に過ぎる気がします。
 

本当に困るのは派遣元ではなく派遣先、そして派遣社員だ

厚生労働省の指導・行政処分そのものは派遣元に対してなされるため、一見派遣先企業へはそれほど影響は出ないように錯覚されるかもしれません。
しかし、本当にこの問題を突きつけられることになるのは派遣元ではなく派遣先企業であることに、お気づきでしょうか。

おそらく来週以降、このような不躾な文書が派遣元から派遣先企業宛てに送りつけられることになると思います。

前略 余寒の候、貴社ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てを賜り、ありがたく厚く御礼申し上げます。

さて、既にご承知のことと存じますが、政府による労働者派遣法改正検討の流れを受けて、厚生労働省より「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門業務派遣適正化プラン)」が本年2月8日付発表されております。

これによりますと、実際は専門26業務とはみなされない業務を派遣社員に行わせながら、これに名を借りて1年を超える違法派遣を行う派遣元企業に対し、行政処分を含めた厳正な指導監督がなされるほか、派遣先となりうる団体へも、改めて専門26業務の適正な運用について要請がなされるとのことでございます。

貴社におかれましては、弊社とのご契約内容を十分ご確認・遵守いただき弊社人材派遣サービスをご利用下さっているものと承知しておりますが、この機会に改めて弊社との契約内容および労働者派遣法上の義務をご確認いただきたく、ご連絡申し上げます。

ご不明な点がございましたら、弊社営業担当までお問い合わせください。
                             敬具

単純作業性を否定できない派遣事務員を受け入れていた企業の立場としては、この文書を送りつけてきた派遣会社に文句をつけたくなるのかもしれませんが、厚生労働省からあんな通達が出た以上、派遣会社にクレームしたところでどうなるものでもないわけで。

本当にそれが欠かせない業務であれば、直接雇用を検討せざるを得なくなったわけです。しかもこのただでさえ人事が忙しい時期に・・・。こんな急なタイミングで法改正という大義名分もないうちに直接雇用せよと突きつけられても、そんな大英断を企業として経営判断できるはずもなく、これをきっかけに契約終了となってしまう派遣社員の方々も少なくないのでは。

そのような重みのある指導を、何の前触れもなく行おうとする神経を疑わざるを得ません。
 

兼業(副業)を実際にするとなるとこれだけ面倒なことになる・・・会社が認めてくれたとしてもだ


昨日、twitter上で「iPadに対面カメラが付けばテレワークツールとして最強。兼業サラリーマンも増えるんじゃないか。」という自論を展開したところ、いつもtwitterで私のポストをいじって下さる@isologueこと磯崎先生から、

とバッサリ一刀両断されました(泣)。

私としては
  • 日本のサラリーマンがいきなり自営になるのは精神的ハードルが高く、ソフトランディングな「働き方の多様化」が必要
  • 1つの会社に100%の能力を費やしている人はレア。1人につき30%ずつぐらい余っているはずの能力(労働力)を他に振り向ければ、日本の課題と言われる“人口減”と“労働生産性の低さ”を解決することにもつながる
  • 法務パーソンは弁護士法72条の関係で自営(業務請負)にはなれないが、兼業(雇用)であれば自営に近い働き方が可能←弁護士資格取れば?という突っ込みは無しで(笑)
という3つの点から、まずは自営ではない兼業サラリーマンが当たり前の世の中にならないものかと、結構本気で思ってたんですけど。

しかし、今の法制度を前提にすると、磯崎先生の言うとおり「ややこしい」ことは否定しようがなく、反論の余地はありません。

試しに、今の法制度化で兼業(副業)するとどれだけ面倒なことになるか、以下まとめてみるとします。


1)労働時間の通算


労働基準法第38条は、労働時間通算の原則を定めています。これは、「色んな会社・事業所でバラバラに働いても、その時間を通算した総労働時間が労基法に定める働かせてもいい時間の上限を超えたらNGですよ」という規定です。

たとえばあなたがA社とB社を兼業したとして、ある1日にA社で6時間→その後B社で4時間=通算10時間労働する場合は、1日の法定労働時間の上限である8時間を超えてしまいます。この場合、36協定を結ばないといけないのは当然、B社としては、4時間しか働かせていないにもかかわらず2時間分の割増賃金を負担しなければならないのです。
お気づきのとおり、これでは兼業する企業間で「法定労働時間のイス取りゲーム」のような理不尽な争いがおこります。

またそれ以前に、労働者の通算労働時間をA社・B社が正確に把握・共有するということ自体が相当困難で現実的ではない、とも言えます。

※この点については昭和23年5月14日付基発769号でも明示されているのですが、労働法の大家菅野先生に言わせると「この規定は同一使用者の2以上の事業場で労働する場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解釈すべき」つまり別会社まで通算しろとは言ってないんじゃない?と主張されていたりもします(菅野『労働法 第八版 』p253)。


2)社会保険


社会保険については、保険の種類ごとに細かく対応が分かれますが、特に労災保険に問題があります。

a)健康保険・厚生年金保険
2つ以上の強制適用事業所に勤務し、いずれの事業所も同一の保険者が管轄している場合は、保険者は各事業所から受ける給与を合算して保険料を計算し、その給与に比例して算出したものを各企業が徴収することになります。また、保険者が異なったり、管轄する都道府県が異なったりする場合は、どちらの保険に加入するかを被保険者が選択して届け出ることになります。
保険料は、社会保険事務所がそれぞれ企業の給与金額に応じて按分しA社にはいくらB社にはいくらと通知します。私は見たことがありませんが、なんでもこの通知には兼業しているため按分しているとの理由が付されてしまうそうで、これによって兼業(副業)していることが人事にバレる可能性も出てきます。

b)雇用保険
兼業(副業)していても、1社のみでの加入になります。
労働時間法制上1週40時間以上働けないこともあって、兼業社全てで加入要件を満たすケースも珍しいかと思いますが、仮に加入要件をすべての企業で満たしても、現実的には本業となる企業でのみ加入することになります。

c)労災保険
それぞれの会社との雇用関係に基づいた適用・給付が行われます。A社に6時間勤務し、その後B社2時間に勤務していたとすると
 ア)自宅からA社までの通勤災害 /A社労災適用
 イ)A社勤務中の業務災害 /A社労災適用
 ウ)A社からB社移動中の通勤災害 /B社労災適用
 エ)B社勤務中の業務災害 /B社労災適用
 オ)B社から自宅までの通勤災害 /B社労災適用
このうちウ)の「複数就業者の事業場間移動中の通勤災害」が平成18年法改正ではじめて労災として認められるようになったのは一歩前進ですが、それでもなお厳しいのは、B社の対象範囲で災害に遭った場合、休業期間中はB社の平均賃金に基づく休業補償給付しか受けられない点です。上記の例だとトータルの労働時間の6分の2の割合でしか補償されないのに加え、当然A社での収入もなくなるわけで、これはかなりつらいことになります。


3)住民税


上記2)で社会保険料負担額の通知で兼業(副業)がバレる可能性が、と書きましたが、もう一つバレるルートがあります。それが住民税の特別徴収によるものです。

サラリーマンであれば、住民税は会社が給与から天引きして納めていると思います。これを住民税の特別徴収といいます。
この手続きでは企業は、年末調整終了後、従業員の住まいを管轄する区役所に給与支払報告書を郵送します。区役所はこの報告書を元に、翌年のその従業員の住民税額を計算するわけですが、兼業(副業)していると、この時区役所には複数の会社から給与支払報告書が届くことになります。区役所はこの複数届いた報告書の額を合算して翌年の住民税額を計算し、特別徴収を行う本業の企業に「税額決定通知書」を送ります。
そこに書かれた認識のない多額すぎる収入額によって、本業の企業が従業員の兼業(副業)に気付く・・・というわけです。


黙ってバレないように兼業(副業)しようとしても2)のa)および3)によりほぼ不可能ですし、もし会社に兼業(副業)を認める気概があっても、時間管理や社会保険実務に相当の負担が掛かるという現状。

政治的大英断で上記ポイントをシンプルな法制度にリフォームするでもない限り、今のままでは、兼業(副業)がメジャーになる日は来ないでしょうね。うーん、どうにかならないものでしょうか・・・。
 

そういえば労基法が4月に改正されるんだった


労働法が専門分野とかいいながら労働法についてほとんど語っていないこのブログ主って・・・と言われそうですが、今更ながら、4月の労働基準法改正について。

ほとんどの企業が対応完了されていると思いますが、まだのところは最低でもここだけは対応を検討した方がいいよというポイントを2つ、ご案内します。


1)1ヶ月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の増額
  (強制義務&中小企業猶予有り)

60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率が、以下のとおり引き上げに。
−通常時間外 25%⇒50%
−深夜    50%⇒75%

引き上げ分を計算して、半日or1日単位の代替休暇を与えることで賃金を払わないことも可能ですが、この場合、就業規則の変更が必要です。代替休暇を設けることは義務ではありませんので、人事上の面倒がないのは素直に割増率を引き上げてしまうことでしょうか。

すでに週休2日制の企業さんは、“法定”休日が何曜日で会社独自の“所定“休日が何曜日かが就業規則に明示してあるか確認しておいた方がいいです。この法律が対象とするのはあくまで“法定”外労働が60時間を超えた部分についてですので、“法定”休日と定めた日に労働(休日出勤)した時間数は、60時間のカウントに含まれないことになります。
 

2)限度時間を超える時間外労働の割増賃金引き上げ
  (努力義務&中小企業猶予無し)

平成10年告示154号に定める限度基準(1ヶ月45時間、1年360時間etc)を超える時間外労働について、これをオーバーする特別条項付36協定を結ぶにあたっては、その割増賃金率を設定した期間毎に法定の割増賃金率である25%を超える率とすべきという努力義務です。

努力義務とはいえ、実務的には、特別条項付36協定を更新する度に労基署からこの努力義務に基づいていちいち指摘をされるようになるのだと思います・・・。その度に議論するのが嫌だったら1%でも上げておけということでしょうか。でも計算が面倒くさくなりますね。


この2つのほか、「時間単位の有給休暇取得制度の導入」が改正の目玉となっていますが、こちらは導入が義務づけられているわけではありませんし、この4月のタイミングでの導入企業も少ないと思いますので、ここでは割愛します。だいたい、企業の時間管理上の観点からも労働者の利便性の観点からも、時間単位有給を導入するぐらいであれば、フレックスタイム制を導入した方がいいと思いますし。なんなんでしょうかこの制度・・・。


最後に、厚生労働省が改正に関わる法令・通達・ガイドラインを一覧できるページを作ってくれていますので、ご紹介しておきます。

労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)

法律で禁止されるまでもなく、もう応募者を年齢差別している場合じゃなさそうです

 
まずは、2009年10月時点のこのデータをご覧ください。

 転職希望者総数 655万人 就業者に対する割合 10.4%
 うち35歳以上  401万人 就業者に対する割合  8.9%

(リクルートワークス研究所「雇用の現状」2009年12月号P4より)

転職希望者の3分の2近くが35歳以上になりつつある現実。

若者の雇用対策が喫緊の課題と言われて久しいですが、労働市場にあふれているのは、いわゆる「転職限界年齢」を超えた方々がほとんどである、ということです。


無いものねだりの若者求人はもうやめませんか

ご存知の通り、採用の場面での年齢差別に対する規制はどんどん強化されてきました。

 2001年 雇用対策法改正
       年齢制限を行わないようにする努力義務ができる

 2004年 高年齢者雇用安定法改正
      年齢制限の理由明示義務が新たに設置される

 2007年 雇用対策法改正
      募集・採用段階での年齢制限禁止が義務規定化される

当初は、「法律だけ厳しくしたところで現実は…」という論調もありましたが、大手企業などは、以前は平気でやっていた書類選考段階での年齢足切りなどはしなくなってきているのを感じます。
加えて、全国求人情報協会の調査によれば、08年12月の時点ですでに80%超の企業が法改正について認知しているとのこと。

しかし、書類選考レベルでは年齢差別をしない意識をもてても、いまだ個々の面接官の評価に「年齢」という要素が多分に影響を与えているのは、否定できないでしょう。

転職市場そのものに若者が少ない中で、無いものねだりで若者向けの求人の口をあけて待っているばかりでは、一向に企業にも労働者にも活力は生まれません。

「法律が厳しくなったから」ではなく、求人企業様には、ここはひとつ35歳以上の方の中からも優秀な方を探してみようか、という気概を持っていただきたいところです。

【本】労働市場改革の経済学―企業の「統計的差別」を乗り越える知恵を絞り出す事が、人材サービス業に課せられた使命である

 
この1年ほど、新聞を始めとしたマスメディアが労働と法規制の問題に関心を寄せ、取り上げ続けた時はなかったのではないかと思いますが、

その最初から中心にいつも据えられ、政権が変わってさていよいよどうなる・どうするという瀬戸際的雰囲気が出てきた非正社員問題、派遣労働禁止への動き。

なぜ非正社員の問題を解消しなければならないと言われ始めたのか、そしてその解決の処方箋としての派遣規制を強化するのは正しい方法とは言えないのではないかという点について、簡潔な論理と文体で理解させてくれるのがこの本です。

労働市場改革の経済学



著者八代先生の結論は、派遣を規制して無理矢理正社員化を目指すのではなく、「日本最大の公共ビジネス」であるハローワークと民間の職業紹介を中心に据え、就業先の選択肢を拡大することを通じて、労働者に企業への交渉力を与えるべきというもの。

まさに私もそれを願ってこの業界に身を置く事になったわけで、このご意見には全面的に賛同するのですが、そんな中で最近思っているのは、誰が何をすれば労働市場の健全な流動化が始まるのかということです。

長くなる話を無理矢理端折って私の結論を述べさせていただければ、人材サービス業が「統計的差別」を乗り越える知恵を開発すること、これに尽きるかと思っています。

「統計的差別」とは、年齢・性別・学歴などによって、確率論的に人を選別することをいいます。
簡単には解雇できない日本の法律・慣習の中で雇用する立場の企業からすれば、企業的視点で貢献度が採用時点で目に見えるならば苦労しません。それがわからないために、目に見える年齢・性別・学歴というデータに頼り、統計的に長期雇用に耐えうるであろう組み合わせ=<男性・若年齢・高学歴>で人を選んでいるという現実。このことは、以前から何度か意見を申し上げてきました。
正社員という“踏み絵”―解雇規制という負担を強いられても日本企業が「終身雇用」にこだわる本当の理由(企業法務マンサバイバル)

この現実を、長期雇用の維持を前提に差別禁止という強制力で解消しようとしているのが今の日本のやり方。そういった規制が全面的に不要だとまでは言いませんが、強制的アプローチだけでなく、企業の悩みをうまく解消する方法も考えてあげることが、建設的な議論のためには必要だと思います。

長期雇用を前提とする雇用の法律・慣習を疑い見直すことに加えて、その求人企業において採用すべき人はどんな人かを分析する手法と、その求職者の真の職業能力を年齢・性別・学歴などのステレオタイプに頼らずに分析する手法との両方を開発すること。これができれば、労働問題が政争の具にされることなく解決するのではないか。

政治をネガティブに批判していても何も始まらないので、私はこのことを信じて、今人材サービス業に身を置く自分にできることを、しっかりとやっていきたいと思っています。

新しい労働問題?「名ばかりインターンシップ」にご用心

 
新卒の就職戦線が厳しいのは言わずもがなですが、最近いろいろな相談を受けている中で、この買い手市場に乗じてインターンシップと称して学生を集め、タダでバリバリ働かせようとしてませんそれ?っていう会社が増えている気配。

インターンシップは労働じゃないから無給でも問題ないんだ、就業体験させてやるだけありがたいと思え、というのがそういう会社さんの理屈みたいなんですが、良識ある方ならお分かりのとおり、インターンシップという名目でも労働者性が認められれば労働基準法が適用されて無給と言うわけにはいかないわけで。

この点については、行政通達(旧労働省平9.9.18基発第636号)もでています。
一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる。なお、この判断にあたっては、昭和57年2月19日付け基発第121号「商船大学及び商船専門学校の実習生について(一般に実習の委託を受けた事業場との関係において原則として労働者ではないとするもの)」も参照されたい。

ここで引用されている昭和57年の第121号通達をネットにアップしておられた方がいましたので、ご興味あればこちらへ(PDF)。
この昭和57年通達を短くまとめると、
・大学側の管理の下
・一般労働者とは分けられた就業場所で
・見学か補助的な軽作業による実習
であれば、労働者と考えなくていいよと。

そういうきっちりとしたインターンって圧倒的に少ないはずで、現場に配属してしまうほとんどのインターンは労働者と捉えざるを得ないでしょうね。

このブログは学生さんはご覧になっていないと思いますので、人事や法務のみなさんにおかれましては、良識あるインターンシップの実施にご配慮いただきたいと思います。

いまどき興信所とか使って採用選考時に応募者を調査している会社は、三菱樹脂事件の高野達男さんの生き様を見て頭を冷やしてください

 
いきなり好戦的なタイトルで恐縮ですが、採用をお手伝いしている中でいまどき思想・信条なんかを調査する会社があるわけです。実際に。

そういう会社に限って「職務遂行能力の判断に関係のないことを調査する行為は問題がありますからやめておきましょうね」とやさしく説教するとムキになって自分達の行為を全力で肯定しようとしたりして、弁護士に相談までして法的に問題ないことを力説されたり。
で、そうなると必ずと言っていいほど持ち出されるのが、かの有名な天下の最高裁判例である「三菱樹脂事件」。

この「三菱樹脂事件」、憲法や労働法を少しでも学んだ方なら必ず知っている超有名な(もちろん判例百選にも載っている)判例。
三菱樹脂に入社した労働者が、大学時代に学生運動に参加していたかをことを隠して入社したとして、履歴詐称を理由として試用期間をもって本採用を拒否(解雇)された事件なのですが、企業の「採用の自由」を正面から認め、「企業が採用選考のために応募者の思想・信条を調査しそれを合否の判断材料に用いることが許される場合がある」と判示したことで有名な判例です。

さすがに最高裁判例を持ち出されて反論されると、一介の法務パーソンがこれに反論したところで暖簾に腕押し、糠に釘っぽくなっていくわけですが、(つい先日大内伸哉先生のブログでも学生への課題図書の1冊として紹介されていた)この本『人権保障と労働法』の著者和田肇先生が、私の代わりにこの最高裁判例を全力で、冒頭の1章まるごと使ってそれはもう爽快に全否定してくれています。

人権保障と労働法


この判決は時代を見通す力を欠いており、欠陥のある判決であるとの結論に達した。
契約の自由と思想・信条の自由という重要な二つの基本権の調整において、労働者の尊厳(憲法13条、民法2条参照)に係わる私的な領域への著しい侵害を許してしまい、また民主主義社会では最大限に尊重されるべき思想・信条と言う人の内面への使用者の介入を許してしまっている点で、大きな誤りを犯している。この誤りは、当時の法学界を代表する東大教授の権威に寄りかかりすぎたと言う権威主義、思想・信条の重要性への無配慮、そして独自の企業観に起因している。
ちなみに、この判決に加担した「当時の法学界を代表する東大教授」というのが、こちらもまたかの有名な我妻栄先生だったというのはあまり知られていない話。まさに弘法も筆の誤りですね。

そして、この最高裁判所の判断が誤っていたことの何よりの証拠がもう1つ。
それは、この事件を最高裁まで争った当事者である高野達男さんが、破棄差し戻しの後会社と和解、その後この戦った相手である三菱樹脂に復職し職務に励まれ、部長職を歴任、最終的にはなんと関連会社の社長まで立派にお務めになった、という事実。

思想・信条がどうであるかということと、ビジネスパーソンとして職務を遂行する能力とは関係ないということを一生を掛けて身をもって示してくださった高野達男さんに、敬意を表したいと思います。

中国の労働契約法が日本のそれと比較していかによく出来ているか、12のポイントにまとめてみた

 
ビジネス上の関わりが増えてきたこともありますし、ひょっとしたら将来自分が中国で働く可能性も否定できないので、ただ今中国の労働関連法を勉強中。

もともと存在した「労働法」や各地方市単位で存在した条例を上書きするような形で2007年に「労働契約法」を制定していて、その全体構成に多少のぎこちなさもあるものの、この法律がまた良く出来ていてびっくり。きっと、日本をはじめとした各国の労働関連法の欠陥も研究した上で立法してるんでしょうね。

中国の労働契約法については、今のところこの本『中国労働契約法の実務』が一番分かりやすいのではと思っておりますが、その他見聞きした情報も加えて、特に日本の労働関連法と異なる部分を中心に、中国の労働契約における労働条件まわりのポイントをまとめてみます。

s-shanghai_buildings_by_Peter_Morganphoto by Peter Morgan(from everystockphoto.com)


1.応募時に、企業だけでなく求職者にも説明義務がある

募集をする企業側に募集条件の明示義務があるのは日本でもそうですが、面白いのは労働者側にも「労働契約に関する基本情報」について説明義務を法定しているところ(労契法8条)。これは日本にはありません。
虚偽の申告をした場合、労働契約が一部または全部無効(26条)となる他、企業からの解除(39条)・損害賠償請求(86条)が可能となります。

2.労働契約を書面により締結する義務がある

労働契約は書面で結ばなければならず(労契法10条)、書面化せずに1ヶ月放置した場合は2倍の賃金を払う義務が発生し(82条)、1年以上放置すれば無期雇用契約締結とみなされます(14条)。
日本にも採用時に書面で労働条件を明示する義務は法定されていますが、契約は書面にする必要が無いですし、その義務に違反してもここまでの制裁はありません。

3.有期雇用10年超で、無期雇用への変更義務が発生

中国では有期雇用契約のことを「固定期間労働契約」と言いますが、この固定期間労働契約は、ご多分に漏れず更新が繰り返されていくのが常。しかし、更新が繰り返されて勤続10年を超えると、無固定期間労働契約、すなわち無期雇用契約を締結する義務が生まれます(労契法14条1項)。

4.有期雇用の更新2回目から、雇止めが難しくなる

2回目の有期雇用(固定期間労働)契約満了時に、労働者から無期雇用(無固定期間労働)契約締結を要求できます(労契法14条2項)。なお、解釈により3回目の契約満了時から権利が発生するという説もあるようです。
日本にも、上記3や4のような雇止めの禁止という発想や行政指導はありますが、こんなにはっきりとは年数や回数が法定されているわけでは無い点、見劣りしますね。

5.試用期間は最長6カ月の上限がある

日本の労働法の欠点の一つ。それは試用期間が現前たる慣行として存在しながら、明確な法規制がなされていない点。
これに対して中国では契約期間に応じ、以下のとおり試用期間の上限が定められています(労契法19条)。
・3年以上(無期雇用契約含む)…6ヶ月以内
・1年以上3年未満…2ヶ月以内
・3ヶ月以上1年未満…1ヶ月以内
・3ヶ月未満…設定不可

6.試用期間中は労働者は自由に辞められる

試用期間中といえども企業側には一定の解雇規制があるのに対し、労働者は試用期間中ならば3日前通知で無条件に辞職が可能となっています(労契法37条)。

7.みなし・変形労働時間制の適用には、認可取得が必要

中国では、日本で言うところの事業場外のみなし制・裁量労働制にあたる制度を「不定時労働時間制」、変形労働時間制にあたる制度を「労働時間総合計算労働制」と呼びますが、このいずれも適用には労働行政部門への認可申請が必要
日本の事業場外みなし制や変形労働時間制の一部は認可はおろか届出すら義務にしておらず、それが残業規制を骨抜きにする原因となっている現状とは大違いです。

8.有給休暇未付与の罰則が厳しい

1年超勤務する労働者に対し、有給休暇を5日以上付与する義務があります(労働法45条、職工帯薪休暇条例)。
この点、日本は6ヶ月以上勤務で10日なので手厚いようにも見えますが、取得できなかった場合1日あたり賃金の3倍の報酬を払わなければならない罰則があるところが、日本よりも実効力が高く一枚上手です。

9.長期の「親族訪問休暇」を与える義務がある

これは中国国内でも批判が強いみたいですが、
・単身赴任で配偶者を訪問する場合…30日/年1回
・未婚で父母を訪問する場合…20日/年1回
・既婚で父母を訪問する場合…20日/4年に1回
これらの「親族訪問休暇」という名の長期休暇が有給休暇とは別に付与されます(国務院関於職工探親待遇的規定)。
日本にはまったくない発想ですし、期間長すぎですねこれはさすがに(笑)。

10.解雇だけでなく辞職をするにも30日前予告が必要

いわゆる普通解雇に1ヶ月前予告が必要(労契法40条)なのは日本と同じ。一方で、労働者側からの辞職にも30日前の書面通知が必要とされている(37条)のは、完全月給制や年俸制で無い限り2週間前予告で辞職できる日本とは対照的です。

11.競業避止義務は最長2年間の上限規制がある

中国では転職を繰り返してキャリアアップするのが当たり前だからでしょうか、競業避止義務の設定について2年を超えてはならないという具体的な規定が存在します(労契法23条2項条)。
もっとも、日本の裁判例の多くも2年を超える競業避止義務は無効と判断されるケースが多いですけれど。

12.労働関係終了時に、「経済補償金」を支払う義務がある

日本では退職金を支払う義務までは法定されていません。しかし、中国ではこれが法定され退職時に「経済保障金」を支払う義務があります
労働契約の解除事由によって支払の要・不要が異なり、しかも労契法・労働法・経済補償弁法・各市の条例が複雑に絡んでいるところなので、この画面では整理しきれないのですが、概略以下のとおり。
・合意解除…必要(労働法28条)
・労働者の一方的解除…不要(労契法46条)
・懲戒解雇等…不要(同)
・整理解雇…必要(同)
・定年/死亡…不要(同)
・契約期間の満了…場合により必要(同)
特に、有期雇用の満了時であっても場合により必要なケースがあるのがいかがなものかと。
金額についても詳細な計算式が定められていますが、基本的には「労働者の月賃金×勤続年数」分、つまり、5年勤務すれば5カ月分を支払うというのが基本ラインとなっています。


というわけで、このブログにしては珍しく長文で書き連ねてしまいましたが、是非日本の労働契約法にも取り入れていただきたいアイデアと実効力ある規定の数々に、中国の底力を見せつけられた次第です。

中国労働契約法の実務

IFRS(アイファース)適用により、有給休暇を付与せず残業手当を支払わない日本の多くの企業が粉飾決算となるようです

 
私の周りでは何の疑問も無く「アイエフアールエス」って読んでましたけど、ダイヤモンドさんが「アイファース」って読むことにしたみたいですから、そうしときましょうか。

週刊 ダイヤモンド別冊 まるわかりIFRS(アイファース)


これだっ!ていう決定版な書籍も無い現時点では、コンパクトにまとめて下さっている良い雑誌だと思います。


悪しき人事慣習を会計から是正するという新しいアプローチ

取引審査の観点からは、BS・PL・CFの概念がガラっと変わる話でもあり、きっちり勉強しておかないとまずいです。そして、ルール変更をフォローした後も、規則主義から原則主義に変わることの影響で、その会社の原則を説明する注記を読み込まなければならなかったり、それでも分からなければその会社の経理ご担当にヒアリングして特性を理解する必要が生まれたり・・・と、手間は増えると思われます。

その一方で、「セグメント開示」で今まで黒字事業の中に隠れて見えなかった赤字事業が見える化されたり、事業を売却したり辞めることを決定した場合にその影響額を「廃止事業」として明示することが義務化される点は、その会社のビジネスの先行きが見通せて審査しやすくなるのは大歓迎。

しかし、これらとは全く別の観点で興味深かったのが「有給休暇」の処理について。

IFRSでは有給休暇の未消化分も評価して負債計上することになるのだそう(P48)。この発想でいくと、有給休暇をそもそも付与していない会社や残業手当を支払わない日本の多くの会社は、負債を正しく計上しない粉飾決算会社として制裁を受けることになります。

うーん、これは労働行政が厳しく監督する必要が無くなるぐらいの効果が期待できるんではないでしょうか?だって、放っておいても監査役や会計士が有給休暇の付与状況や残業手当の未払いがないかを毎期毎期チェックしてくれるんですからね。しかもそんなものは従業員にヒアリングすれば一瞬でバレるので隠しようもないというw。相当なプレッシャーのはず。

まったく新しい切り口で、日本企業の悪しき人事慣習が一掃されるチャンスになりそうな予感がしてきましたよ。

【本】まるわかり社会保険の手続きと基本―社保実務に詳しい奥さんの太鼓判付きです

 
社労士試験対策の参考書を含めて、たくさんの社会保険に関する本がある中で、今これが一番分かりやすい本かなと。
OL時代に複数社で労務・社保手続きを担当し実務を知っているウチの奥さんも、「これ1冊あれば誰でも手続きできるじゃん。」と太鼓判を押したぐらいですから。

まるわかり 社会保険の手続きと基本



特にすばらしいのがこの2点。

章だて、フローチャートが分かりやすい
会社設立から廃業に至る過程での手続、従業員を採用したときの手続き、定期的に行う手続き、退職・死亡時の手続き・・・と、フェーズごとに章だてされていて、さらにその最初に各フェーズの全体像が見渡せるフローチャートが入っている点。
社会保険に関わる各法の法律を細かく解説するのは誰でもできるかもしれませんが、「分かりやすいまとめ方」が具体化されているところに、著者の実力がいかんなく発揮されています。

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申請書の実物サンプルと記入例が網羅されている
エクセルなどで模擬的に作ったサンプルではなく、記入例が入った実物の申請書サンプルが見開き2ページずつ収められている点。
人事手続にかかわるほとんどすべての申請書の実物が見られ、しかもその一つ一つに記入・届出時の注意点まで添えられた本というのは、この価格帯の実務手引書としては他に見たことがありません。

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筆者が平成13年に社会保険労務士として開業して以降、(中略)納得いかずに行政へかけ合ったりして得た実務的な経験や、社会保険労務士受験講座の講師として社会保険知識に対する初学者がどういうところでつまずくのか(理解できないのか)という経験をもとに、ここにまとめました。

はしがきに書かれたこの言葉に、著者のこの本に対する自信を感じます。

日本に眠る総額39兆円の「埋蔵サービス残業代」を発掘するという、夢とロマン溢れるビジネスがはじまりました

 
帰り道、電車広告を見上げていたら、こんな広告が目に飛び込んできました。

残業代請求.jp

あなたがやってきた2年分のサービス残業、残業代はいくらになると思いますか?
みたいなクイズ形式の広告で、嫌な予感・・・と思ったらやっぱり弁護士の広告だったんですねこれが。


サービス残業手当回収ビジネスはじめました

広告主は、最近メディアでもお顔をよく拝見する法律事務所オーセンスの元榮太一郎弁護士。近著『刑事と民事 こっそり知りたい裁判・法律の超基礎知識』は弊blogでも紹介させていただきました。

確かに、基本給の額と残業実態を証明する資料(すなわち給与明細とタイムカードコピー)さえあれば、比較的簡単に立証・請求できるのが残業代。しかも、遅延損害金だけでなく、労基法114条に基づく付加金の請求が認められれば、労働者はちょっとした退職金並みの収入が得られるわけで。

世の中には、年俸制や定額残業手当制と称して残業手当を支払わない会社が沢山あります。きちんと満額払っている会社があるのかと思うぐらいに。
国税庁の平成18年末「民間給与実態統計調査」をベースに、いったいその全体額はいくらかと計算してみると、
・サラリーマン人口 4,485万人
・その平均給与 435万円
・うち低く見積もってサービス残業分が10%
・遅延損害金、付加金は含まず
としても、労働者が遡って請求できる2年分の総額として
435万円×10%×2年分×4,485万人=39兆円
の債務が企業側に眠っている計算にwww。

この広告のとなりには、さくら中央法律事務所のクレサラ過払い金回収の広告が並んでいて大層シュールな絵だったわけですが、きっとこの手のサービス残業代回収ビジネスを手がける弁護士さんは激増するんでしょうね。

従業員の正当な権利ですので、あえて肯定も否定もしませんけれども、こうしてみると、(弁護士の大量増員のおかげでしょうか)いつのまにか日本も“立派”な訴訟社会になったものです。

【本】労働裁判における和解の実際―裁判官に「ここらへんで手を打てば」と説得されたらどう切り返す?

 
労働事件の多くは、和解で終局します。その割合は平成16年の既決件数ベースで51.9%と、なんと過半数を超えています。
これだけの高率で和解にいたる以上、その相場やテクニックを知ることは、労働紛争を戦う以上、必須といっても過言ではないでしょう。

この本は、労働事件における和解のメリット・デメリット、和解交渉の基本的ノウハウを抑えた上で、メインコンテンツとして21の仮想事例にもとづき具体的な和解条項、裁判の各期日における原告/被告双方の主張の変遷、本訴から和解に至る交渉の過程を、つとめて淡々とシミュレーションしていくという、なかなかマニアックな構成。

仕事柄毎週オフィスで回覧される労働新聞に掲載されたこの本の広告を目にしながら、誰が買うんだろうね、と思っていたら自分が買ってました(笑)。

労働裁判における和解の実際



これ、本当は実例じゃないですか?

それにしても、「仮想事例」というには結構リアルな描写なんですよこれが。
第6回期日(平成18年2月2日)
被告Y社が、まず入室し、平成17年7月24日から約半年分(平成17年末まで)の賃金相当額150万円の支払をし、慰謝料相当額については20万円として、名目としては、解決金として合計170万円を支払うことまでは検討したがこれ以上上積みすることはできないと裁判所に伝えた。
裁判所が、原告Xにこの点を伝えたところ、原告Xは、賃金相当額はやむを得ないが、慰謝料20万円では少なすぎる、これだけ嫌な思いをしたのだから、慰謝料20万円程度なら謝罪文を出して欲しいと述べた。そこで、裁判所から、Xに対し、被告Y社としても本訴でのXの主張する威迫や退職強要の事実がないと争っている以上、現時点での和解において謝罪文を求めるのはまず無理だと思う。例えば、和解条項案の中で、謝罪とは言わずとも何か本件退職手続について行き違いや誤解があったというような確認をして被告が解雇を撤回するというような表現を入れてみてはどうかと聞いたところ、原告は、その表現で応ずると回答した。
そこで、裁判所が、被告Y社に対し、原告Xが慰謝料金額の上積みがないのであれば、謝罪文を出すことを求めているので、裁判所として、謝罪文は無理であると伝え、退職手続についてお互いに行き違いや誤解があったというような確認をして被告が解雇を撤回するというような表現を入れることまでは原告Xを説得したが、このような表現で和解できないか、これが無理なら慰謝料相当分をもう少し上積みせざるを得ないのではないか、と被告Y社に聞いたところ、被告Y社は、裁判所の提案の表現を入れることで了解した。

ある1期日の描写だけでこれだけの細かさ。
和解条項における秘密保持義務の関係で便宜上「仮想事例」としているだけで、実際はどちらかの当事者に取材して作った実際の和解事案なのではないか、と思わず邪推してしまうほど。

仮想にせよ事実にせよ、この細かな描写を読みながら、自分が当事者としてこの紛争と和解交渉にリアルに巻き込まれたら、何をどう主張するか?裁判官がこんな風に説得してきたらどう切り返すか?を考えるだけでも、法的思考力と交渉力のトレーニングになる本だと思います。

って、そんなことして楽しいのは一部の限られた人でしょうけど。

派遣業はもう請負業に転じるしかないですかね

 
私が最近頼りにしている情報源は圧倒的にForesightFACTAの2つ。定期購読の雑誌にもかかわらず、今日の切込隊長の発言にもこの2紙は出てくるほど最近人気ですね。もしかしたら雑誌というのはこういった定期購読という形で生き残っていくのかもしれません。

それはさておき、9月号のForesightは「働き方」の研究という特集が組まれていて、特に興味深く読ませてもらいました。

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人材ビジネスに身を置く私としては、民主党が第1党となって俄然注目せざるを得ないのが派遣ビジネスの行く末。その一つの手がかりとして、製造業派遣・請負の業界団体、日本生産技能労務協会の清水唯雄会長のインタビュー(P77)に興味深い発言が。

定期購読誌であることに鑑みた公正な引用をということで、ホントに一部だけ引用。
―業界としての対応は
清水 これからは派遣ではなく「請負」を主流にしていくべきだ。
―かつて「偽装請負」が批判を浴びたが。
清水 請負といいつつ、実態は派遣だったからだ。

あまりにも正直な回答っぷりに驚くばかりですが(笑)、派遣を否定されると今残された選択肢の中ではそれしかないんだと私も思います。

そうなると次に問題になるのが、請負会社に請け負わせるのか、個人に直接請け負わせるのかという問題。
大手メーカーなんかだと、請負会社のほうが契約遂行能力も責任能力もあるだろうという判断になるかもしれませんが、中小企業になると、丁度先日のエントリで、『急増する個人請負の労働問題』という本を紹介させてもらったように、「どうせ請負にするならマージンなしの個人宛て直接発注の方がいいや」という発想になりそう。働く側も、これをきっかけに個人請負の道を選ぶ人が加速度的に増えていくのでしょう。

いずれにせよ、派遣が禁止の方向になって苦しむのは実は派遣(請負)会社でも労働者(請負従事者)でもなくて、「雇用調整」も直接の指揮命令も簡単にできなくなる企業側なのだと思うのですが。苦しむ覚悟はもうできているでしょうか?

【本】急増する個人請負の労働問題―告示37号は「労働者性判断基準」ではありません

 
平成21年7月25日初版発行なので、おそらくこの個人請負と労働者性をテーマにした本としては最新の本。

このような本が立て続けに出版されている現状からも伺えるように、各社とも雇用契約ではない「働かせ方」を真剣に模索されているようですね。

急増する個人請負の労働問題―



全48件の労働者性裁判例を網羅

石崎信憲法律事務所と言えば、労働問題を専門とする事務所の中でも使用者(企業)側の急先鋒ともいうべき存在として有名だと思いますが、この本は懸念された使用者側への過度な偏りはなく、かなり中立的な意見を意識して書かれた模様。

特徴は、個人請負の労働者性が争われた裁判例を徹底的に網羅している点。その数全48件。これだけ偏ったテーマで裁判例を集めた本もなかなかお目にかかりません。

そして、その48件を
 ア 傭車運転手
 イ 大工等建設業従事者
 ウ 作業従事者
 エ 外務員・販売員
 オ 集金人・検針員
 カ コンピューターのシステム開発
 キ 専門業務従事者
 ク 芸能関係者
 ケ 構内業務従事者
という9種の典型的契約形態に分けた上で、認定された事実を
・労働者性が肯定される要素
・労働者性が否定される要素
に分解し、簡潔な判例評釈をつけながら、裁判所における労働者性判断の勘所をこっそりと囁いてくれます。


告示37号は個人請負の労働者性を判断する基準ではない

著者がP37で主張している視点が、とてもシンプルなところが何よりも気に入りました。
まずは、その者が自己の計算と危険のもとで業務を行っている者か否か、つまり、「事業者性の有無」を検討すべきと考えます。そして、事業者性が明らかな場合には、労働者には該当しないと判断できることになります。

この事業者性が認められさえすれば、労働者には該当しないという考え方は、厚生労働省昭和61年告示37号を労働者性判断の基準と捉えて、告示に列挙された要件の一つ一つについて該当する・しないを検証する他の本によく見られるような考え方とは大きく異なります。

そもそも告示37号というものは、派遣と請負の区分について言及した「だけ」のものであって、これを基準に個人請負の労働者性を判断するのは間違いであると。
そこまでキツイいい方はしていないものの、暗にそんなメッセージをにじませたこの主張に、この個人請負と労働者性というテーマに取り組んだ著者としての自信が伺われます。

請負の労働者性が争われた事例をたくさん眺めてみたい方、今まで告示37号を信じきってこの問題を捉えていた方にとっては、得るところがたくさんある本といえるでしょう。

会社から解雇と言われた以上、それが不当解雇であってもあなたは「離職中」です

 
「会社からは解雇と言われたけど、不当な解雇で私は認めていないし、書類選考も通過しにくくなりそうなので、履歴書には『在職中』と書いて転職活動をしたいです。」

リストラによる整理解雇や不景気に乗じた乱暴な普通解雇が増えているのでしょうか、最近こういう求職者が増えています。


「在職中」としたいなら、地位保全の仮処分の申立てが必要

「在職中」であるか「離職中」であるかは、転職活動、特に書類選考において大きな印象差を与えるのは否定できず、このような求職者の気持ちはわからないではありません。しかし残念ながら、会社から解雇の通知を受け退職日を迎えた日から、それが不当であろうがなかろうが、労働契約は将来に向かって解除されることとなります。

その理由は、解雇は会社の一方的な意思表示だけで労働契約の解除という法律効果を発生させる“形成権”の1つと解釈されているから。

労働者が単に「不当だから認めない」と解雇された会社に言い張っているだけでは法的には意味がないですし、そのまま「在職中」として転職活動をしていると(人事上の保険の手続き等でほとんどバレるわけですが)、解雇を隠匿したことと併せて、入社後に履歴詐称としても問題になりかねません。

会社が一方的に不当な解雇を通知してきた場合で、「在職中」の身分を確保しながら会社と解雇権濫用を争いつつ転職活動をしていきたいなら、面倒ですがまずは従業員としての地位を法律上仮に認めてもらう地位保全の仮処分を申し立てる必要があります。


労働法 第八版 (法律学講座双書)


解雇・退職をめぐる実務対策 (労働法実務シリーズ)

あなたの会社の就業規則/労働契約にも、「準拠法」や「裁判管轄」を規定しておかないと、とっても面倒なことになります

 
たまに更新されるカナダの弁護士さんのブログで、カナダに在住しながらアメリカ企業にレポートをする労働者と企業との紛争についての記事が。

Governing Law, Appropriate Jurisdiction and a Plea for Employment Contracts(Thoughts from a Management Lawyer)
The Court of Appeal considered the one-page written employment contract and noted that it did not express the governing law nor that the contract represented the entire agreement of the parties. As a result, which law governed the relationship was "a live issue" that would have to be decided by the trial judge.

日本企業においても、外国人を雇って海外からレポートさせたり、日本人を海外に駐在させたりする機会が結構増えていると思います。

その際結構盲点になりそうなのが、「準拠法」と「裁判管轄」についての合意の有無についてです。


「法の適用に関する通則法」による原則

ビジネス上の国際契約では当たり前に入れる準拠法や裁判管轄の規定も、就業規則/労働契約にきっちり入れている会社は、日本ではまだ少ないと思うんですよ。

で、そのままだとどうなるかというと、特に準拠法のほうは結構面倒なことになりそう。

まず原則論としては、ご存知の方も多いと思われる「法の適用に関する通則法」により、
(当事者による準拠法の選択)
第七条  法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
(当事者による準拠法の選択がない場合)
第八条  前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2  前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。 (後略)
つまり、8条1項の「法律行為に最も密接な関係がある地」を優先するか、2項の「主たる事業所の所在地」を優先すべきかを争うことに。

企業としてはそんな争いには巻き込まれたくないので、
(当事者による準拠法の変更)
第九条  当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。
この9条に基づいて、就業規則/労働契約に準拠法や裁判管轄を明確に定めておこう、となるわけです。


通則法にさりげなく「労働契約の特例」が新設されていた

が、しかし。
労働契約については通則法に改正される前の旧“法例”には存在しなかった特例が新設されていて、事態はさらに複雑に。
(労働契約の特例)
第十二条  労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2  前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3  労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。

どういうことかというと、就業規則/労働契約で準拠法を制定していても、労働者がその勤務地の強行法規の適用を主張すればそれが適用される上、準拠法を選択し忘れた場合には勤務地法の適用が推定されてしまい、8条でいう「法律行為に最も密接な関係がある地」や「主たる事業所の所在地」がどこであったかという点について、企業から争う余地はほぼなくなってしまうということ。

労働契約の内容が一部現地国の強行法規に規制されるのは致し方ないとしても、人材とビジネスのグローバル化に備えて、せめて紛争になった際の準拠法と裁判管轄は定めておかないと、企業としてはとっても面倒なことになりそうです。

グローバルな視点を持った気の利いた社労士さんだと、ここら辺までアドバイスしていたりするのでしょうか(残念ながらあまりそういう社労士さんにお目にかかったことがないのですが)。

【本】新しい労働社会―日本の雇用契約を“職務のある雇用契約”に変えていく

 
わたしは、労働問題に限らず広く社会問題を論ずる際に、その全体としての現実適合性を担保してくれるものは、国際比較の観点と歴史的パースペクティブであると考えています。
私にはその2つともが余りにもなさ過ぎると、痛感させられた本。

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)



労働問題は想定を超える大きな相手だった

著者の濱口桂一郎先生のブログ『EU労働法政策雑記帳』はいつも目を通し勉強させていただいていましたし、まがいなりにも人材ビジネス業界に身を置くものとして真剣に労働問題を考えてきたつもりだった私でしたが、この本を読んで大きな脱力感を覚えました。

私が組み合い相手にしていたつもりの労働問題というものが、これほどまでに大きな相手だったのかと。

名ばかり管理職・ワークシェアリング・ホワイトカラーエグゼンプションの問題の裏側にある労働時間法制の変遷も断片的にしか知らず、

非正規労働の問題が論じられる際に知っておくべき労働者供給事業の歴史と今、派遣法制の世界的な潮流も把握せず、

家族手当に代表される企業における賃金制度と社会保障制度との役割分担をろくに考えもせず、

自分という人間は、ここまでどれだけ無邪気に労働問題を部分的に捉えた発言・仕事をしてきてしまったのかと。その相手にするものの大きさを改めて認識したことによる脱力感で、私には珍しくこの土日は寝こみがちになってしまいました。


日本の雇用契約を“職務のある雇用契約”へ

その一方で、濱口先生が冒頭するどく切り出されている「日本型雇用システムの本質」という一節によって、私が直感的に目指してきた方向性が決して的外れなものでもなさそうだということも、確認できました。
雇用契約それ自体の中には具体的な職務は定められておらず、いわばそのつど職務が書き込まれるべき空白の石版であるという点が、日本型雇用システムの最も重要な本質なのです。こういう雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約と考えることができます。日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップなのです。
日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用制度、年功賃金制度及び企業別組合は、全てこの職務のない雇用契約という本質からそのコロラリー(論理的帰結)として導き出されます。

私が目指す「企業とそこで働く人との気持ちの良い関係構築」、それはここに言われている“職務のない雇用契約”を、“職務のある雇用契約”に変えていくこと。
具体的には、“企業”と“人”という粗い単位でマッチングするこれまでのカンパニーマッチングではなく、“職務”と“人”、もっと細かい単位で言えば“企業がその仕事に求める生産能力”と“人がもつ能力と生産性”をマッチングするジョブマッチングをビジネスとして実現し、「就社」「転社」ではない真の意味での「就職」「転職」「結職」を選択できる環境を作ること。
そしてそれによって、会社に束縛されて精気を吸われ尽くされている日本のビジネスパーソンに元気を与えること。

濱口先生が日本型雇用システムを肯定されているのか否定されているのかは、この本では明らかではありません。しかし、すくなくとも私はえも言われぬ束縛を伴う日本型雇用システムに精気を吸われ、モチベーションを完全に失いどうしようもない骨抜き状態になった経験があります。

自らの経験にあまりに素直に反応した短絡的な発想かもしれないけれど、そして組み合った相手が思った以上に大きいことをこの本に教えられちょっとビビったりもするけれど、自分だけでなく日本で働く人が元気に働き続けるために日本の雇用契約を“職務のある雇用契約”に変えるべく、今の仕事を頑張ってみよう。そんな決意をあらためて抱かせてくれました。

【本】不況下の労務リスク対応―リストラのことばっかりで気が滅入っている人事や人材サービス業の方とは、これを読んで未来を語り合いたい

 
不況下において、会社が取りうる人事的施策(リストラ施策)の選択肢を、通常考えられる実行順位の順番にフルメニューで挙げてみますと、

・請負契約解消
・派遣契約解消
・時限的賃下げ・人件費削減
・休業・ワークシェアリング
・内定取消
・有期雇用契約解消
・無期雇用契約解消

こんなところになるでしょう。

これらを実行する際に発生する法的なリスクを一言で言えば「労務リスク」になるわけですが、関連法令だけ挙げても民法、労働契約法、労働基準法、労働組合法、職業安定法、労働者派遣法、社会保険各法、税法・・・と、たくさん出てきますし、加えて人の感情という要素もあります。とても「労務リスク」という一言では語りつくせない、絡み合った糸のように複雑な問題が内包されているのが、労務問題の難しいところです。

このように数多ありかつそれぞれが微妙に異なっている人事的施策実行時の法的リスクについて、一つ一つ章を分けて丁寧に解きほぐして解説するという、ホネのある作業をしてくれている本がこちら。

不況下の労務リスク対応



混迷する労働法制の今だけでなく、未来をも整理する

各章が、安西、森・濱田松本、アンダーソン・毛利・友常などに一線級の事務所に所属する労働法弁護士による解説、という豪華さ。

1章1章の濃さもなかなかのもの。
例えば、休業の問題を一つとってみても、休業補償等の労基法上のリスクと対応だけにとどまらず、民法536条の危険負担の規定に基づく労働者からの差額全額請求などの民事上のリスクをどう避けるかといった、かなり詳細な論点までフォローしています。

さらにこれに加えて、巻頭特集には野川忍先生と水町勇一郎先生が労働法の今と未来を語り合う豪華対談を持ってくるという、贅沢極まりない構成。

今、大きな変化の中で労働法が直面している課題は社会の変化の高速化や複雑化に対応できる法制度にすることだと思います。
人びとの平等や人間の生命・健康に係わるような問題、さらには大きな政策の方向性については、法律で国が定めると言うことを前提としながら、その具体的な在り方については現場の実態に合った当事者の話し合い、労使のコミュニケーションを促し、それを尊重するという手法をとることが、これからの労働法の在り方としては重要ではないかと思います。
と水町先生が語れば、野川先生も負けじと
私はちょっと水町先生と違った視点から将来的な課題が何かというと、基本的に日本の企業は立派だと思っていますが、雇用ルールについては甘やかされてきたように思います。
例えば有給休暇であるとか、労働時間については、企業がこれだけのことをやらなければいけないというはっきりとした基準をさらに厳格に定めていくべきだと思います。
ここで従業員代表制を法制化して、労働者がいろんな選択肢をもとに交渉力をバックに使用者との合意を進めていくようになるべきだと思います。
と、自論を交え大いに語っていらっしゃいます。

18頁に渡るお二方の対談は、終始相性のいい先輩と後輩による建設的な議論となっていて、深い共感を覚える発言ばかり。
この対談を読むだけでも、人事部門や人材サービスに身を置く者に当然に求められる、混迷する労働法制の「今」を客観的に分析する視点と、「未来」を提案していくための大きなヒントが、たくさん得られると思います。

【本】請負・労働者派遣とこれからの企業対応―労働者派遣法が非正規雇用を守ると思っているあなたは大間違いです

 
労働者派遣法は、派遣労働者を保護するものであると誤解されがちです。
労働者派遣法が第一次的に保護するのは、正社員です。
日本の雇用社会は正社員中心で成り立ってきました。この正社員の職場を保護するために、労働者派遣法が規制をかけているのです。つまり、労働者派遣法は、労働者派遣を拡大しないために存在するとも言えます。

一見するとカドが立ちかねないこんな物言いをあえて選んだ著者。

しかし、この本を読んだ人は、このスタンスで条文を読み下してはじめてわかる派遣法の「本音」に気づかされるはずです。

請負・労働者派遣とこれからの企業対応



こんなにも凛とした使用人側弁護士がいるんですね

普通の派遣・請負問題を取り上げた教科書には見られない、「派遣法は正規雇用を守るためにあるのだ」という思い切った逆説的な視点をとりながら、説得力をもって本質を理解させる著者。

それができるのは、“格差是正ブーム”にのった軽薄な世直し論者とは一線を画し、派遣と請負という問題に悩みに悩み抜いてきた使用人側弁護士だからこそだと思います。

しかも、この方は使用人側弁護士といってもただの「御用聞き」的な弁護士ではないなということも、言葉の端々から伝わってきます。

労働組合員である若手の正社員は、36協定などを遵守することを労働組合が主張することで保護されています。その分のしわ寄せが、他社労働力である派遣や請負の労働者にも及びます。技術派遣などは特にそういう傾向が強く、恒常的な長時間労働が見られます。これらの問題点を行政も適切に押さえていますので、そのようなところにメスが入ってきます。グレーゾーンの中でも大きいところに行政が介入するのです。
このように偽装請負騒動を理解すれば、グレーゾーンへの対応も変わってきます。日雇い派遣については、企業も襟を正さなければならないでしょう。しかし、グレーゾーンでもこれ以外は請負でいけるのではないでしょうか。むしろ、請負でいくべきでしょう。
行政はグレーゾーンすべてに突っ込んでくるわけではないという点を冷静についた絶妙なバランス感覚で、派遣法と業務処理請負とのグレーゾーン問題に大胆に踏み込んでみせたかと思えば、

偽装請負騒動で派遣に切り替えた多くの企業は、このクーリング期間を使おうと考えているのかもしれません。つまり、この3か月超の期間だけ直接雇用、すなわち契約社員にすれば、派遣受入期間がリセットされることを狙います。そしてリセットされたら、新たに派遣を始められると考えます。しかも新たに最大3年です。
3か月リセット方式を使うとしても、「Aさん、Bさん、Cさん」」とすることが適当です。労働者を変えるのです。「Aさん、Aさん、Aさん」というように同じ人を低廉にずっと長く使おうという発想は、労働者というよりも、その人の人生を潰しかねません
企業として、どれだけこの人と付き合い、そしてどこまで守ってやれますかという視点です。「Aさん、Aさん、Aさん」という3か月リセット方式で法を遵守していますという姿勢は、CSRやコンプライアンスから一番遠いところにあります。
と、派遣期間上限・2009年問題に脱法的な対応をとる企業に対しては、人を育てる社会の公器としての役割を担うべきという観点から、毅然とした態度でコンプライアンスを説きます。

この大胆かつ凛とした態度に、顧客のことを考え抜きながらも守るべきものは守る、という真のプロ意識を感じます。

【本】「労働時間管理」の基本と実務対応―国際自動車さんもこの本に早く出会って労働時間管理を見直していたらよかったのにね

 
この本をご紹介しようと思っていたら、丁度こんな事件が。

国際自動車、事業許可取り消しへ…大手タクシーで初(YOMIURI ONLINE)
大手タクシー会社「国際自動車」(東京都港区)が、国土交通省関東運輸局の監査で運転手の違法な超過勤務を指摘され、来月16日に聴聞を受けることがわかった。

聴聞の結果、違反事実が確定した場合、一般乗用旅客自動車運送事業者としての許可が取り消される見通し。大手タクシー会社の事業許可が取り消されれば初めてとなる。

国交省などによると、今年2月に同社赤羽営業所に監査を行い、タクシー運転手の勤務実態を調べたところ、違法な超過勤務が見つかったという。

事業許可取消の直接の原因は労基法違反ではなくて道路運送法上の違反ではあるものの、ずさんな労働時間管理が、事業の存続をも揺るがす問題に発展することもある、という好例(悪例?)。

折りしも、2010年4月に施行されることとなった労基法改正への対応とあわせ、こんなことになる前に企業の視点から労働時間管理のリスクを総点検するにあたって、これほどの良書はないと断言できる1冊を見つけました。

「労働時間管理」の基本と実務対応



社労士テキストの上を行く分かりやすさ

私はこれまで、少し細かい(マニアックな)労基法知識を勉強するのには、図表の分かりやすさや知識の細かさ含め、社労士試験のテキストがベストだと思っていましたが、

この本は、複雑な労働時間制度の全体像を捉えやすいように2色刷りの図表を多様していたり、
nakaibon

社労士テキストにも乗らないような細やかな背景知識ではあるけれど実務でしばしば分からなくなるところが丁寧に拾い集められていたり、
実務上大変わかりにくいのは、行政通達(昭63.1.1基発第1号)では、労基法38条1項但書について、「事業場内の労働時間」も含めてみなし労働時間であると指導している点です。しかし、別の行政通達(昭63.3.14基発150号)では、この点「事業場内で労働した時間については別途把握しなければならない。そして、労働時間の一部を事業場内で労働した日の労働時間は、みなし労働時間制によって算定される事業場内で業務に従事した時間と、別途把握した事業場内における時間とを加えた時間となる」とはっきり述べています。この二つの通達の関係は、前者から後者に変わったものととらえ、後者に従うべきです。

と、社労士テキストのはるか上を行ってるなと。
労基法に関しては腕に覚えがあるという方ほど、それを感じ取っていただけるはずです。

著者は、中町誠法律事務所にて使用者(企業)側で労働事件を専門とする若手弁護士、中井智子先生。存じ上げませんでしたが、タイトルに冠されているとおり「実務対応」の最前線で戦っていらっしゃる優秀な弁護士であることが、一読して分かります。

人事担当として自分の会社の労働時間管理にリスクを感じている方、人事・労務コンサルタントを名乗る方は、読んで損はない1冊であると、重ねて断言します。

正社員という“踏み絵”―解雇規制という負担を強いられても日本企業が「終身雇用」にこだわる本当の理由

 
私はこのblogで、日本の労働法に根強く残る“企業都合の解雇に対する厳格なまでの規制”に対し、何度か問題提起をしてきました。

解雇に対する規制が厳格に過ぎることで、企業にとっては「まずは仕事をさせてみる」というチャレンジ採用・登用もできなくなり、ゆくゆくは年齢・性別・国籍・学歴・・・といったステレオタイプな偏見人事(統計的差別)を助長する原因となるだけでなく、労働市場の健全な活性化を阻害する、と考えるからです。

※解雇規制が生む統計的差別についての参考エントリ
終身雇用は採用時の属性差別を強める(Zopeジャンキー日記)

労働者の立場としては、一度雇用を確保してしまえば後は法律が保護してくれる(しかも都合が悪くなれば労働者からは民法上2週間前予告で自由に辞めることができる前提での)解雇規制は、厳しくて大いに結構なのでしょう。

しかし立ち止まってふと考えると、日本にこれだけ根強く解雇規制が残っているのは、(本来は自由に解雇できなくて困るはずの)企業自身にもメリット・狙いがあるからではないか。そんなことを考えながらうまく整理できずにいたのですが、先日発売された雑誌『経済セミナー』に、この疑問に関連する論稿が掲載されていたので、この論稿を発展させる形で、私の考えを述べさせていただきたいと思います。

経済セミナー 2009年 07月号 [雑誌]



「働かせ方の自由度」を確保するための長期雇用

その論稿というのが、日本大学大学院の安藤至大准教授による「契約理論からみた派遣・非正規労働の問題」というもの。

その第3節「なぜ企業は求職者に対して長期雇用契約を提示するのか」に、以下3つの理由があることが述べられています。
理由1:多くの労働者が長期雇用を望むから
理由2:企業特殊的訓練が必要だから
理由3:働かせ方の面で自由度が高いから

この理由のうち、1については企業自身が安定的成長を描けなくなったことなどから、そして2については仕事に必要な技能や知識が企業間で統一され特殊的訓練が減少していることから、企業が正規(長期雇用)ではなく非正規(短期雇用)でこれを置き換えるようになったことが述べられています。

ところが、残る理由3で企業が欲する「働かせ方の自由度の確保」だけは、短期雇用への置き換えでは解決できません。

企業としては、キャリア・家族の都合に関係なく人を将棋の駒のようにどこにでも動かせるフレキシブルな労働契約であればこの上なく楽ですし、ゼネラリスト的人材育成を前提とする日本の人事慣行からも配置転換・転勤は「誰もが通るべきいばらの道」という考え方がまだ大勢を占めてます。
企業が長期雇用というメリットを与える以上、労働者はそのような「苦難」も受容すべき、と考えていると言ってよいと思います。


キャリア・家族>仕事という価値観への弾圧のための踏み絵

これに対し、長期雇用されている労働者はといえば、昨今の不況と相まって自分の身を守るためのキャリアビルディングの意識は高まる一方です。さらに核家族化によって、介護や子育ての必要性から転勤を拒否せざるを得なくなる労働者も少なくありません。これらは、長期雇用というメリットを与えた企業からすれば、許しがたい行為に他なりません。

そんな発想の日本企業が対抗策として無意識にやっているのが、非正規雇用を増加させることで、相対的に正規雇用というものを神格化し“踏み絵”化する行為なのではないかと、私は考えています。

「君は、自身のキャリアビルディングよりも、会社の人事の都合を優先できるのかね?」
「君は、自分の家族の問題よりも、会社の問題を優先できるのかね?」

日本において正社員になるということは、この2つの踏み絵を踏んで会社に忠誠を誓うようなもの。
この“踏み絵”を踏めない“隠れキリシタン”は、
・自ら非正規雇用を選択するか
・「会社の都合を押し付けられるとすぐに転職してしまう
 堪え性の無いジョブホッパー」 という日本ならではの
 ネガティブなレッテルに甘んじるか
のどちらかを選ばざるを得なくなります。このことが非正規雇用を増やし、正規雇用されている者の健全な流動化をも妨げているのではないでしょうか。

つまり、解雇規制という負担を強いられても日本企業が「終身雇用」にこだわる本当の理由とは、会社よりもキャリア・家族を優先する価値観を許さないマインドを根強く持っており、そこから脱却できない(しようとしていない)からなのではないかと。

しかし、労働法は生き物です。人間が人間らしく生きたいという欲望・価値観を否定するこのような日本企業的な古めかしい“弾圧”が、いつまでも当たり前のこととして許される気がしないのは、私だけではないと思います。

日本企業は、長期雇用というメリットを与えても「働かせ方の自由度の確保」ができなくなったときに備えて、何をもって優秀な人材を引き止めるのかを、今から真剣に考えておくべきでしょう。

【本】競業避止義務・秘密保持義務―労働者には職業選択の自由が保障されると言っても、実際のところ裁判での勝率は52.7%程度に過ぎない件

 
久しぶりに競業避止義務系の法的知識をアップデートしてみようと、こんな本を読んでみました。

競業避止義務・秘密保持義務(労働法判例総合解説12)


このblogで競業避止義務関連の本をご紹介するのは、たぶん2冊目。

【本】営業秘密と競業避止義務の法務―転職を制限したいなら、代償措置を明示せよ(企業法務マンサバイバル)
私も人材サービス業の法務のはしくれとして、競業避止義務の有効性を争った裁判例を30〜40件ぐらい読み込んできました。
そんな私が考える有効性判断の最大のポイントは、代償措置の存在とその中身をはっきりさせておくこと。
具体的には、退職後の転職の自由を奪う義務を負わせる際に、「給与のうちのこの分が、代償措置としての手当に相当する」と合意しておくことにあると思います。

競業避止義務について有効性を争った際の最大のポイントは「代償措置があるかないか」である、というこの時の見解に変わりはありませんが、この本でさらに多くの裁判例を研究してみて、競業避止義務が労働者にとって結構大きなリスクになりはじめていることに気付いたので、今日はそれについて触れてみたいと思います。


労働者の職業選択の自由は、数字で出すと意外にも弱かった

判例分析に特化した本のなかでも、この本はかなり分かりやすく整理された本ですね。
特に、不正競争防止法の改正前と改正後に分けたうえで戦後の競業避止義務に関する裁判例のほぼすべてを紹介しているところは、他の労働法の本には見られない緻密な分析だと思います。

裁判例を細かく読んでいて感じるのは、裁判所は、企業が競争力を維持するために競業避止義務を設定する必要性を決して否定していないものの、退職に向けた労働者の行動に悪質性がなければ、労働者の職業選択の自由を優先するのだな、ということ。

ここでいう悪質性とは、
・辞め際に風説を流布して従業員を大量に引き抜いたり、
・営業秘密を使って既取引顧客を奪ったり、
といったレベルの行為なので、まあ幹部クラスの方でもない限り、自分ひとりで静かに同業他社に転職して営業秘密を守っている限りは、裁判所も職業選択の自由を優先してくれるのではないかといった印象です。

と、印象だけで語ってても何も新しい発見も面白みもないので、紹介されている裁判例を私なりに整理して表にしながら、改めて眺めてみると・・・(クリックで拡大します)。
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※赤線以下は不競法改正後の裁判例

各裁判例に「勝訴」「敗訴」だけでは語り尽くせない様々な個別事情はあるものの、こうやって64件を整理して分析してみると、労働者側勝訴といえる判決は、
64件中34件・・・62.5%

そのうち、不正競争防止法の改正後に労働者側が勝った裁判例だけを取り出すと、
35件中19件・・・52.7%

となっており、「代表的」と言われる裁判例を読んだ印象とはだいぶ違って、近年出ている結果を客観的に見ると訴訟沙汰になった場合にはそれなりの確率で労働者側が敗訴していることが今回判明。

しかもよく見ると、実は最高裁まで争った判例も昭和52年の三晃社事件の1件のみ。まだまだこの“競業避止義務vs職業選択の自由”の法学上の争いには決着がついているとは言い難いことがよくわかります。

人材の流出による競争力低下に歯止めをかけようと、競業避止義務を強化しようとする企業。
そのような企業の都合を完全には否定せず、一定の範囲で職業選択の自由への制約をも認める裁判所。
それを知らずに競業避止義務の誓約書に気軽にサインをし、やめるときは「なんとかなる」と気楽に辞めようとする労働者。

人材ビジネスに身を置く者としては、このような状況をきちんと理解して立ち振る廻らなければならないと思っていますが、労働者のみなさんにも、そろそろこのリスクに対する問題意識を改めていただく必要がありそうです。

【本】いつでもクビ切り社会―定年制万歳!という考え方

 
もはや企業の人事担当者の中では有名無実化してしまっているのかもしれません。2007年10月の雇用対策法改正による“年齢差別の原則禁止”施策は。

本当に忘れてしまっている方のために補足すると、
「募集・採用時の年齢制限を原則禁止」とし、
「例外的に認められる年齢制限を行う場合であっても、制限する理由を書面(電子メールも可)で明示せよ」
というアレです。思い出していただけましたでしょうか?

一所懸命に法律で禁止をしても、履歴書でその人の年齢が見えている以上、書類選考の段階で企業が年齢で足切りすることは明々白々なわけで、いっそ履歴書に欠かせないなど年齢情報を収集すること自体を禁止しなければ有名無実化することは、誰の目にも明らかだったわけですが・・・。

このように、日本の雇用慣行との矛盾をはらんだまま企業の実態にそぐわない入口規制に対する問題提起を、私が初学者用の労働法本としてお勧めしている『プレップ労働法』を書かれた森戸先生が、1冊の新書にまとめてくださったのがこの本です。

いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠 (文春新書)



定年制の良さを残す、というアプローチ

本書の前半第1章から第4章では、出口の年齢差別である定年制を認めながら、雇用の入口において年齢制限を認めるのはおかしい、諸外国と同様に定年制も廃止しなければ、という問題提起から始まります。

この“入口と出口の矛盾”については、私も以前同様のことを指摘させていただきました。
日本における募集・採用時の年齢差別完全撤廃は、遠い未来の夢物語か(企業法務マンサバイバル)

ここで終わってしまうと並の労働法学者のお話なわけですが、森戸先生ならではの主張がちゃんと5章以下に。
その主張を要約すると、
・解雇規制が厳しく、能力がないという理由でドライに人を解雇
 することに馴れていない日本の雇用慣行を考えると、定年制を
 廃止するのは大混乱を招くだけ。
・世界動向を鑑みると、年齢差別禁止の方向にあるものの、人権
 差別問題として年齢を差別の要素と捉えるべきかには議論の余地
 がある。
・そうであるならば、むしろ人をドライに解雇しなくてすむ定年制
 の良さを生かす道を考えては。
という、一風変わった「定年制存続万歳」案。

エイジフリー社会にするということは、年齢による「割り切り」を、性別によるそれと同様、許されない「割り切り」として位置づける、ということである。では、本当に年齢は性別と同じ位置付をしてもよいものなのだろうか。言い換えれば、人生のあらゆる局面で年齢を目安に生きている日本国民に、この「割り切り」を捨て去る覚悟はあるのだろうか。

本来ウェットな能力不足による解雇を、年齢にかこつけてさわやかに行えるのが定年制の良さ。

年齢制限法制化が決まってまだ数年の日本において、この定年制の良さに代表される「日本的割り切り」を残すために、あえて募集・採用時の年齢制限を再び認める方向性を追及してはどうかと提言されるあたり、多忙な学究活動の傍らで労働市場の実態をきちんとフォローされている様子が伺われ、さすがだなと思います。

一見詭弁に見える「定年制を存続させることの意義」を、これだけ堂々と意見表明されているのは、現実の労働市場を知り尽くしているという自負があってこそできることだと思います。


年齢制限明示義務の強化による解決

とはいえ、定年制廃止を含む年齢制限禁止の流れは世界的な潮流でもあり、避けられない展開になっているのは森戸先生も認める事実。
これを踏まえて、森戸先生は、今回の本でより現実的で具体的な施策案も提案されています。

それが、年齢差別を正面から禁止するのではなく、「企業に課す年齢制限理由説明義務を、今より厳格なものにする」という案。

すでに募集書面での明示義務は高年齢者雇用安定法上で規定されているのですが、実はこの義務が法律に盛り込まれたのは、2001年の小泉内閣総合規制改革会議での森戸先生の提案によるものなのだそうです。これは初めて知りました。
この説明義務を今以上に厳格化することで、本当にその年齢制限が必要かどうかを企業自身に今一度考えさせ、ステレオタイプで差別的な年齢制限を踏みとどまらせよう、それでも年齢制限が必要というならさせたらいいじゃないか、という主旨。

法律上の義務を強化するだけでなく、きちんと行政側からも確認・指導するなどの施策と組み合わせれば、企業の年齢を用いた選考姿勢も変わるかもしれないし、落としどころとしては現実的かもと思える部分もあります。


そんな森戸先生ならではの「大人の解決策」にふむふむなるほどと感心しながら、最近の私自身の心境はというと、年齢制限禁止はやるならとことん禁止、つまるところ“履歴書を通じた年齢情報の収集禁止”にまで踏み切るべきではと思っていたりするのですが。

この話はまた追々。

終身雇用という幻想、というか誤解

 
GW中にちょっとした盛り上がりを見せていた、総合研究開発機構(NIRA)の研究報告書に対する池田信夫先生とhamachan先生のご意見を読んで。

終身雇用という幻想を捨てよ(池田信夫blog)
長期雇用だけを「正規雇用」として転職を悪とみなす労働行政を変えるべきだと明確に提言し、flexicurityの理念を掲げたことは注目に値する。
終身雇用と呼べるような実態は従業員1000人以上の大企業の男性社員に限られており、その労働人口に占める比率は8.8%にすぎない。これは戦後ずっと変わらない事実であり、終身雇用が日本の伝統だなどというのは幻想である。

終身雇用という幻想を捨てよ(EU労働法政策雑記帳)
解雇権濫用法理それ自体に、「そもそも終身で雇用すべきだ」などというスタンスはありません。こういう勘違いは、経済学者には非常によく見られますが、困ったものです。これでは、アメリカ以外のすべての国、北欧諸国も含めて、不当な解雇を制限している国はすべて終身雇用を法律で強制していることになります。そんな馬鹿な話はありません。
期間の定めのない雇用は必ずしも「長期雇用至上主義」ではありません。スウェーデンの労働法は不当解雇をかなり厳しく規制し、有期雇用についてもその雇い止めを厳しく規制していますが、労働市場は非常に流動的で、決して長期雇用至上主義ではありません。

ちょっと言葉がきついなあと思うところはあるものの、お二人のような論客が終身雇用というテーマについて語っていただくのはよいことだと思いますので、ここではそれぞれのご意見にケチをつけるつもりはありません。

しかしながら、お二人が話題にしているNIRA研究報告書については、勤続年数をベースにして終身雇用のありやなしやを語っているところはイマイチな気がします。
小企業の労働者の勤続年数が大企業のそれより短いのは、大企業よりも企業自体の存続が短命なことも大いに影響していると思いますし、女性の勤続年数の短さは出産・育児が大きく影響していると思いますし。


誤解を放置した怠慢のツケなのかも

さておき、本エントリのタイトルにもあるとおり、「終身雇用」という言葉は、やはり労働契約に対する誤解の最たるものだと思います。

hamachan先生が上記エントリでも述べているとおり、労働者を「正社員」として積極的に雇用する企業でさえ、「終身」=その人が死ぬまで雇用するなんてつもりはさらさらありません。
「正当な理由なくして解雇はしないよ」と約束して入社させているだけなのであって、
・会社の倒産などのやむを得ない事由
・明らかな職務遂行能力不足などの本人の責に帰すべき事由
があれば、契約である以上本来は契約解除=解雇できるわけで。

しかしながら、事なかれ主義的な御用組合との労使協調路線とあいまって、企業側も解雇権を然るべきときにきちんと行使しようとせず、労働者(組合)側もそれを行使させようとしなかったばかりに、法律学的にも裁判例的にも「『終身雇用』してしまった以上はクビにできない」という解釈が幅を利かすようになり、そうこうしているうちに、企業も労働者も「正規雇用とは『終身雇用』の権利である」と誤解する世の中になってしまいました。


終身雇用≠正規雇用時代に即した法律の整備と教育を

このような誤解を企業・労働者の双方にさせてしまった原因は、1つには法律の不備にあり、もう1つには日本の法律教育の不足にあると私は思います。

今後、企業・労働者双方に生じている誤解を解くために、まずは、
1)企業または労働者から労働契約を解除する際の
  「正当な理由」とは何か
を(例示列挙でいいので)はっきりと明文化することが1stステップとなり、その上で、
2)労働とは契約であり、契約によって双方に発生する
  権利と義務とを確認し理解してから自らの責任で結ぶこと
の重要性を教育で伝えることが必要だと思います。

労働契約法が制定されたことで、2)が再認識された面もありますが、肝心の1)の議論が条文として盛り込めなかったところに、大きなチャンスを逃したのかもしれないと感じる面もあります。

日本において、「終身雇用」という誤解に基づく呼び名が使われなくなり、法律に忠実に「無期(期間の定めのない)労働契約」と自然に呼ばれるようになる状態。
さらには、「無期労働契約」が正規雇用すなわち“唯一の理想的な働き方”ではなく、選択肢の一つに過ぎない状態
そんな状態がフツーに感じられる新しい時代を作っていくことも、私たち人材ビジネスに関わる者に課せられた使命なのかもしれません。

【本】解雇・退職をめぐる実務対策―労働法学者の「論文型」教科書を予備校テキストのセンスで再編集すると、こんなに分かりやすくなります

 
この4月に発売となった労働法関連の新刊のご案内です。

このblogで紹介していないものも含め、労基法の解雇・退職関連の法律書は何冊も読んでいるのでもういいかなと思いながら、手にとってめくってみると「お、これは」と思う点が多く、結局お買い上げとなっ(てしまっ)た本です。

解雇・退職をめぐる実務対策 (労働法実務シリーズ)



見やすさへの配慮と法的な確からしさのバランスが秀逸

労働法に限らず、法律の本には、
1)見やすさをひたすら追求する「図表型」
2)法的な確からしさを優先する「論文型」
の2つがあると思います。

1)の「図表型」は初学者の理解には大いに助けになる一方で、実務には使えないものとなりがち。一方2)の「論文型」は実務の助けになる一方で、敷居が高く読みこなせないと宝の持ち腐れになりがち。どちらにも偏らない「丁度いい具合」がいいわけで。

その点でこの本はそのバランスが秀逸でした。

基本的な構成としては、
第?章で解雇法理全体について述べ、
第?章から第?章で普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の順に解説し、
第?章では退職と合意解約と辞職の違いについて述べるという、
パンテグテン方式の如く講学的分類に忠実に、「論文型」構成をとりながらも、

実務家が最も知りたい「その解雇は有効となるのか無効となるのか」に関わる法的判断要素については、例えば普通解雇であれば
1 能力不足
2 勤務態度不良
3 欠勤
4 行方不明
5 遅刻・早退
6 協調性の欠如
7 私生活上の非行・犯罪
8 身元保証書の不提出
9 入社後発覚の持病
10 入社直後の産休請求
11 試用期間満了後の本採用拒否
12 私傷病による労務不能
13 業務上災害による労務不能
14 精神疾患
15 不注意による損害
16 雇止め
17 労働基準監督署への申告
18 職業人としての適格性欠如
19 ユニオンショップ協定に基づく組合除名・脱退
20 セクシュアル・ハラスメント
と、実務に即してかなり細かく個別テーマごとに節に分けた上で、その各節ごとに“チェックポイント”として法律と裁判例から導かれる法的判断要素をコンパクトにまとめており、「図表型」の分かりやすさも取り入れようという配慮が随所に見られます。

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また、重要な労働裁判例・判例をこれでもかとほぼ漏れなく引用し、特に重要な判例については各章の最後に「知っておきたい重要判例」というコーナーをわざわざ設けて判決文の抄録を掲載しているところもgood。
このあたりは、労働法全体について述べる本ではボリュームの関係で端折られてしまうところなので、分野別専門書ならではの良さが生かされています。

加えて、
・全体的に文字が大きく、
・2色刷りで重要な部分が目に飛び込んできやすく、
・文章に無駄が無く読みやすい
のも、通常の「論文型」法律書にない特徴。

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これらはすべて、著者が社会保険労務士でありながら各種セミナーや資格試験予備校の講師も務めている関係で、レクチャー用の教材作りに長けているからこその長所といえます。

はしがきによれば、今後「労働時間・休日・休暇」「賃金・賞与・退職金」とシリーズ化されていく予定とのこと。そちらにも大いに期待したいと思わせる良書です。

喫煙者を採用選考で排除することは合法か

 
先週も少し紹介したPRESIDENT 2009.5.4号のP109に、喫煙者の就職差別についての記事がありました。

・喫煙者を選考段階で差別することは、企業に認められた「採用の自由」の範囲であり、許される。
・一方で、採用後に喫煙者であるという理由で解雇をするのは法的に問題がある。
というのがこの記事の大筋の見解でしたが、前段の採用選考における喫煙者差別について、少し思うことがあります。

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健康増進法によって加速する喫煙者排除の動き


記事中に紹介されているセントラルスポーツ、星野リゾート、ライブレボリューションといった会社以外にも、入社に当たって喫煙者にタバコをやめさせたり、喫煙者を選考段階で排除する企業は増えてきているという実感があります。

企業が就業中にタバコを吸わせないことは、違法ではありません。
それどころか、健康増進法により、企業には受動喫煙が発生しないよう分煙環境を整える義務すら発生しています。

ところが、このような分煙環境を整えるには(タバコ部屋の設置等)カネがかかることから、そもそも喫煙者を入れたくないという企業の論理が働きます。

加えて、社長などが嫌煙者だったりすると、「タバコを吸うヤツは休憩を取りすぎて生産性が悪い」「そもそもタバコを吸うヤツは仕事ができない」などという先入観も働いて、容易に喫煙者を排除する方向へと傾いていきます。

しかし、タバコを吸う人からすると、本来自由であるはずの嗜好品たるタバコを強制的にやめろと言われる筋合いがどこにあるのか、という疑問が湧いてきます。「労働から解放される休憩時間に、外に出てタバコを吸う行為のどこが悪いのか」と。喫煙権の侵害ではないかと。


嫌煙権もあるが喫煙権もある


この点、私は厚生労働省の採用人権担当の方とも話したことがあります。

その時は、「喫煙権もある一方で、最近では嫌煙権も強くなっているので、なんともいえないですね。」と、玉虫色の回答ながら、少なくとも、そういった喫煙者を排除する採用選考も違法とは断言できない、という回答でした。

しかし、本当に「喫煙者排除は違法ではない」と言ってしまって良いのでしょうか

私はタバコを吸わないですし、好きか嫌いかで言えばタバコの煙やにおいは嫌いです。タバコが無い世界の方が自分にとっては快適ですし、嫌煙権を振りかざして、会社にとっての効率だけを重視する立場に立ちたいと思うときもあります。

しかし、企業に「採用の自由」が認められるとはいえ、休憩時間に外に出て吸うという喫煙者側の行動だけでも受動喫煙が起きない状況が担保しうるのに、「彼・彼女はタバコを吸う人である」というだけで選考段階で排除するというのは、プライベートな時間における人の趣味嗜好まで口を出すような行為であり、認められるべきではないと思います。

それを合法と言うなら、タバコを吸う行為そのものを禁止する、すなわち、喫煙権を完全に否定することが先ではないでしょうか。

飲み屋でキューバリブレばかり選んで飲んでいるヤツは採用しない。
クラブに繰り出しHOUSEミュージックに身を任せて気持ちよくなっているようなヤツは採用しない。
太宰治の『人間失格』を家で読んでいるようなヤツは採用しない。

こういった職務遂行能力と関係の無い理由で応募者を排除することは不当な就職差別にあたると理解していますが、エスカレートするとこういう不当な就職差別すら肯定してしまいかねない、危険な考え方だと思います。

【本】職場の法律は小説より奇なり―弱者保護の思想を捨てた地平に、企業と労働者の新しい関係が見えた

 
体裁含めちょっとお洒落な感じを醸し出す“THEORY BOOKSシリーズ”の仮面をかぶっているものの、中身はとってもハードな法律書です。

職場の法律は小説より奇なり



徹頭徹尾の現行労働法批判

就業規則が持つ法律なみの効力があまりに強力すぎる点、
試用期間を設定する慣行はあれどもあまりに有名無実化している点、
解雇権の行使があまりに制約されている点、
派遣の雇用申込み義務の負担があまりに大きい点、
有期雇用の雇い止め判断基準があまりに厳格な点、
ホワイトカラーへの時間外手当支払い義務があまりに現実になじまない点、
1人のための少数組合も1000人の過半数組合も同じように相手にしなければならない団交義務があまりにアンバランスな点、
・・・

「日本の労働法の常識は世界の労働法の非常識」
「日本の労働法の常識は現場の労働実態の非常識」
そんなスタンスにたった批判が15コのテーマにわたって次々と繰り出されるこの本。

労働法を少しでもかじったことがないと、歯ごたえが大きすぎて噛み切れないかもしれない、そんな懸念を抱いてしまうようなハイレベルな法律論が展開されます。

法務パーソンや法学部ご出身のビジネスパーソンであれば読みこなせるとは思いますが、そうでない方がビジネス読み物的感覚で手に取るには、(体裁とはうらはらに)少しへヴィーな内容かもしれません。


杓子定規が生む不幸

まえがきより。
一つのサイズで、すべてに合わせる。「One size fits all」。杓子定規を英語で表現すると、このようになる。しかも、あわせるようにいわれた法律には、サイズに違いがないだけでなく、常識から外れたものや、古すぎるもの、欠陥のあるものまである。これでは現場が到底やっていけないということから、規制改革という名の規制緩和が始まった。
マスコミでは、規制緩和があたかも「諸悪の根源」であるかのように言うのが昨今の風潮となっているが、そこには曲解といってもよい大きな誤解がある。規制内容を常識に沿ったものに改め、杓子定規な規制の適用はやめる。規制改革の現場が求めたものはそれ以上のものではなかったし、一方で改革の現場は、求職者や派遣スタッフのために必要な改革とは何かを常に考える「志」も有していた。

労働法は関係当事者が多数存在するだけに、政治的な意味が多分に込められたような「批判のための批判」が多くなされがち。

私はそいういう実を伴わない批判は好きではありませんが、著者がこの本で指摘している労働法の欠陥は、現場で労働市場の需給バランスの是正を担うビジネスにいる立場の私が読んでも、きわめて常識的でほぼすべて同意できるものでした(ちょっと批判のボリュームが多くて面食らいましたけど)。

そんな杓子定規という欠陥を解消することで企業の雇用意欲が創出されたり、労働者の労働環境がよくなるのならば、今すぐにでもやればいい。しかしできない。それはなぜなのか。
そこには、「労働法で最低基準を高めに設定しておかないと、騙されて搾取されてしまう」ような労働者の存在を前提とする“弱者保護”の思想があると思います。


弱者の存在を疑ってみる

しかし、企業と労働者の間の情報格差がほとんど解消されつつある今、労働法で保護してあげなければ立ち行かなくなるような労働者=弱者が、本当に存在するのでしょうか。

人間は一人一人考える力を持っています。そして労働は生活の糧を得るために、そして生きがいとしても絶対に大切なものです。そんな大切なものについて考えることができないとか、考えることを放棄するような弱者がいるとは、私は思えません(そういった点に障害をお持ちの方については、サポートをする方が必要になるのは言うまでもありません)。

騙されて物やサービスを買わされお金を持ってかれたら取り返しがつかなくなる消費者契約と同じような発想で、過度な企業に対する規制や個人に対する保護をしてはいないか。
労働契約の関係においては、労働者の退職の自由さえ保証されていればそれ以上の保護はいらないという考え方もあるのではないか。

理想主義的と言われるかもしれませんが、労働者の考える力を信じ、杓子定規・過度な制約を緩める、すなわち使用者と労働者が契約自由の原則に基づいて、カスタムメイドな労働契約関係を結べる世界を目指してみる価値はあるかもしれない。そんなことを真剣に考えさせられた1冊でした。

【本】残業手当のいらない管理職―日本マクドナルド事件判決やチェーン店通達だけではない、あなたの知らない労働裁判例と通達の世界

 
高裁判決を見ることなく、ついに和解で終結した(してしまったと言うべきかもしれません)日本マクドナルドの「名ばかり管理職」事件。

このblogにも
「マクドナルド 管理職」
「名ばかり管理職」
の検索結果から訪れていただく方はいまだに多く、あの事件が日本社会に与えたインパクトと影響は大きかったのだなと思います。

そして事件以降、「名ばかり管理職」問題に関する報道・論評は、枚挙に暇がないほど繰り返されてきたわけですが、昭和43年〜平成10年まで労働局に在籍し、労働裁判例や通達を知り尽くしたこの本の著者、中川恒彦さんとしては、それらのほとんどに「モノ申す!」というお立場なようです。

残業手当のいらない管理職



管理監督者問題を語る以上知っておくべき資料を集約

この本の「はじめに」から。
労働時間等に関する制限の適用が除外される「監督若しくは管理の地位にある者」とはどういう者か、その範囲について、まずは労働基準法の施行を担当する厚生労働省労働基準局はどのように説明しているのか、裁判所はどのような見解を示しているのかをひととおりは押さえた上で、議論すべきではないのでしょうか。
法律の専門家であるはずの人が、足が地についていない議論をするのが理解できません。平成19年以前は何もなく、平成20年1月の日本マクドナルド事件からスタートしているような感じです。
現在の行政通達には、「出社退社について厳格な制限を受けない者」とか、「自己の勤務時間について自由裁量権を有する者」といった要件は示されていません。「基本通達」にはそのような文言はありません。にもかかわらず、これを行政が示す3大要件の1つとして、出処不明の引用、孫引きをする専門家(?)もいて、誤解を増幅し、混乱を助長しています。

日本マクドナルド事件によって世の中に流布された、間違った管理監督者の解釈を正したい。

そんな動機で書かれただけあって、これ以上ないぐらいに徹底して通達、裁判例、企業対応の実際例が1冊に収集されているのがこの本の最大の特徴。

しかも他には見られないような、通達が出るまでの当時の経緯についても触れられているなど、実務家にとってはありがたい資料が満載です。

著者の中川さんは、これらを比較・クロスリファレンスしながら、元労働基準監督官としての視点も生かし、管理監督者の範囲を特定しようと試みています。


知る人ぞ知る「銀行通達」

その中川さんが特にこの本で主張されているのが、「都市銀行等における管理監督者の範囲に関する通達(昭和52年2月28日基発104号の2)」と「金融機関における管理監督者の範囲に関する通達(昭和52年2月28日基発105号)の重要性です。

実は、この104号の2と105号通達は、
「本部の部長・課長は管理監督者」
「課長補佐・課長代理は管理監督者とはいえない」
「本部の部課長と同格のスタッフ職は(部下がいなくても)管理監督者」
などと、過去の通達の中で最も具体的かつ詳細にその要件を言及している、知る人ぞ知る通達なのです。

さらには、この通達に対し昭和52年当時に行政に寄せられた質問「管理監督者の全労働者に占める割合については、何%ぐらいが適当か」に対し
その割合は何%が適当であるとは一概にはいえないが、105号通達を厳格に適用するならば、地銀、相銀については、その割合が少なくとも2桁台になることはないと考えている。
と当時行政から回答があったことまでもが披露されていて、私も今まで管理監督者に関する資料をいろいろ集めてきたつもりだったのですが、さすがにこれは初見で大変参考になりました。

ちなみに、「2桁台にはなることはない」=10%未満ということは、部下を10人以上持たない組織長は管理監督者として不適格と判断されやすいということ。私も管理監督者の端くれなのですが、メンバーの数だけで言えば後2人足りなかったりして(笑)。

さておき、この本は管理監督者問題を突き詰めたい方にとっては必携な、資料的価値・充実度も高いものであると、太鼓判を押させていただきます。

【本】外国人の雇用と労務管理―外国人を雇うときの手続きって結構色々ありますね

 
日本に居住する外国人の登録管理が、外国人登録原票での別管理から住民基本台帳による一元管理へと移行されるようですね。

住民基本台帳法:改正案閣議決定、外国人も対象(毎日.jp)
政府は3日、住民基本台帳制度に外国人も登録し、住民票を発行できるようにする住民基本台帳法改正案を閣議決定した。12年度からの施行を目指す。

日本にお住まいの外国人の方の手続の便はだいぶ良くなりそうです。

一方、雇用主の方はといえば、平成19年10月の雇用対策法改正で、外国人を雇用した際に行わなければならない手続きが増える一方だったりします。

「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です!(厚生労働省)
平成19年10月1日から、すべての事業主の方には、外国人労働者(特別永住者及び在留資格「外交」・「公用」の者を除く)の雇入れまたは離職の際に、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等について確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることが義務付けられました。(届出を怠ったり、虚偽の届出を行った場合には、30万円以下の罰金の対象となります。)


外国人を雇うことになったものの、どこに、いつまでに、どんな手続きを踏めばいいのかさっぱり分からないという人事担当者の方へ。


・パスポート/ビザ/在留資格認定書の違い
・在留資格をすばやく取るためのコツ
・就労資格をとるのに必要となる書類
などなど、実際の申請書の書式もふんだんに用いて説明してあるので、とっても分かりやすいです。

ご親切に、付属のCD-ROMには日本語/英語対訳付きの就業規則見本、採用通知、英語版の休暇届け、口座振替書等の人事手続き書類もまでがついていますが・・・。まあ、これはさすがにそのまま使う方はいないでしょう。自社の書式を英訳する際に使えるかもしれませんけどね。

【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.13 4月号―秘密なんですけど、本当は企業から解雇するのって全然怖くない事なんですよ

 
今月は、創刊1周年特大号ということで、題字が金色でいつもと違う雰囲気。なんか豪華っぽい!


特集も豪華2本立て。
第1特集が、「リストラ実務と労働法リスク」
第2特集が、「ハイスペック法務を目指す能力開発&ステップアップの道標」

第2特集では、他社の法務パーソンのスキルアップ環境がいかに恵まれてるかを思い知らされ(法務部の書籍購入費予算は年間5万〜90万/定期購読誌は1〜20誌/有料セミナー参加件数は年間3〜70件/勉強会を週1.5時間〜3時間実施etc)、不景気の波に飲みこまれ浜に打ち上げられてメンバー全員干からびそうになっている私の職場とのあまりの違いに色々コメントしたいこともあるのですが・・・。

単なるひがみになりそうなので控えさせていただきまして、本職の労働法絡みの方にコメントさせていただきます。


日本の解雇は簡単だ

特集の中でも際立っていたのは、何と言ってもフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所の弁護士、岡田和樹さんのインタビュー。

題して、「解雇を難しく考えすぎない―労使双方の経験をもつベテラン弁護士からみた日本のリストラ事情―」。

外資系企業の役員をしている外国人からは、「日本の法律は労働者に有利過ぎる」というようなことをよく言われるのですが、私は「とんでもない。日本では使用者の方がよほど楽だ」と反論します。
現状を前提とするかぎり、使用者はあまり訴訟リスクを気にする必要はないと思います。労働者は裁判まで起こして負けたら本人の将来を考えると最悪なので、訴訟リスクは使用者側より格段に大きいのです。

岡田弁護士がこここまで断言する決定的な理由は、アメリカと比べた日本の証拠開示制度の甘さにあります。

ディスカバリー制度もない日本では、顧客とのEメールのデータをはじめとして労働者の労働実態を示す証拠はすべて企業が握っており、労働者は会社の中で起こっていることを証明できないという現実がある、ということです。

かつては国鉄の労働組合側代理人として活躍していたにもかかわらず、立場を一転、現在は使用者側の立場で活動する弁護士ならではの「実戦」的コメント。

特集の写真ではすごく柔和な笑顔なのに、鬼のようなことをサラリと言ってますね・・・(苦笑)。

私も仕事がら、労働基準監督署に駆け込む労働者を何人も見てきましたが、労働基準監督署も個別の紛争解決において職場から証拠を集めるところまでは補助してくれません。「企業と交渉して、○○をもらってきてください。そうしたら企業を指導しますから。」というスタンス。
それでは労働者はいつまでも泣き寝入りなわけですよ、労基署の皆さん。

今はまだ、このことを企業側もあまり理解していません。ですので、「労働者が労基署に駆け込んだ!」と聞くと、企業も焦って大幅に譲歩した和解案に応じたりするわけですが、岡田先生のような弁護士が企業側に立ってこのような知恵を授けはじめると、労働者にとっては良くない方向に形勢が傾いてしまうかもしれませんねぇ。
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