2025年もお疲れ様でした。今年を振り返ると、AIの脅威が良い意味でも悪い意味でも仕事・生活の両面で具体的に感じられた一年だったと思います。

そんな空気を表す一曲として、Daft Punkの"Technologic"を選びました。『チャイルド・プレイ』のチャッキーのようなロボットが印象的なこのPVは「テクノロジーが生活・労働・教育の手順を規定し、人が“命令実行体”へと最適化されていく状況」の暗喩に見えます。企業組織の文脈では「標準化・オペレーション化・KPI化が進みすぎた職場で、人が“オートメーションの部品”になる」ことへの批評かもしれません。



機械的に繰り返される “Buy it, use it, break it, fix it ...” は、法務パーソンが契約書作成・稟議・運用で回しているループのよう。2025年、そのループをAIが本格的に乗っ取った感があります。エンジニアが「コードを書く」仕事があと3年で消えるというなら、法務パーソンが「契約書を書く」仕事は、あと何年生き延びられるのでしょうか。

バイブコーディングの登場


将棋の藤井聡太竜王・名人が「2025年にハマったもの」として挙げた「バイブコーディング(vibe coding)」。要は、人間がキーボードでコードを書くより先に、AIに口頭で指示して作らせ、動かし、直させるやり方です。



1. 「こういうアプリケーションが欲しい」と要件を生成AIに向かって口で言う
2. 生成AIが書いたプログラム物を動かしテストする
3. エラーや違和感をAIに口で伝えて、直させる
4. これを繰り返す

もはやエンジニア自身が手を動かしてコードを書くことがなくなり、ユーザーのように運用結果のフィードバックを伝えるだけの存在となりつつあります。

バイブコーディングの本質は、「書く作業が楽になる」ではなく、「とりあえず動いて試せるものが出せ、顧客にすぐに見せられ、良し悪しを仰げる」ことにあります。価値の中心が、「起案(作る)」から、「仕様(求める)・検証(確かめる)・責任(引き受ける)」へスライドしています。提唱者のAndrej Karpathyが述べた“vibesに身を任せてコードの存在を忘れる”という表現が、その感覚を表しています。

バイブ法務:法務のAI化にバイブコーディングが示唆すること


この構図は、そのまま法務業務にも移植されるでしょう。例えば契約書作成・レビューの仕事を分解すると、

(1) 論点抽出・優先順位付
(2) 条項案作成
(3) 先例や業界標準との差分比較
(4) ビジネス背景の反映
(5) 代替案の提示

であり、時間を要するかなりの部分が「探索・要約・ドラフト」の作業です。こうした緻密な作業の積み重ねはAIが得意なことですから、急速にコモディティ化しました。もちろん、すでにこのことに気づいている法務パーソンは少なくなく、仕事を軸足を「ドラフトに赤字を入れる」から「前提を揃え、判断を運用に落とす」へ移さなければ、と言われています。

・リスクアペタイト、権限、証跡の設計
・利害関係者の調整、交渉の筋の作り方
・例外処理と品質保証(プレイブック、ワークフロー、教育)

とはいえ、ここで「バイブ法務」に身を預けすぎると事故が起きます。契約は、条文だけで意味が確定しません。商流、交渉経緯、運用実態、規制当局の空気、炎上時の説明可能性──そうした前提込みで結論が変わるからです。

「判断ができるのは人間だけ」という神話を疑う


法務のような専門領域にもAIが導入されつつあることへの反論として、「AIは確率論で平均的な答えを速く返すだけ」「責任を伴う高度な判断・意思決定は人間しかできない」という定番フレーズがあります。果たしてそれは本当でしょうか。

AIのアウトプットが確率的な出力であるのは事実としても、それは「平均的な人間程度の仕事しかできない」とは違います。目的関数として、守りたい価値や許容リスクを与えれば、それに沿った提案を24時間365日いつでも・いつまでも量産できます。人間の意思決定という行為を分解すれば「選択肢を並べ、前提に照らし、リスクとリターンを比較し、コミットする」プロセスであり、AIはこのプロセスの大部分に踏み込むことが可能です。

人間とAIの間に残る境界は、「委ねられる」かではなく「統制できる」かであると言われるようになりました。誰が責任を負うか、どの条件なら自動で進めてよいか、誤りが出たときに検知・修正できるか。判断を人間だけの聖域にするのではなく、判断を運用に落とす技術が問われていく2026年になりそうです。

境界線を押し広げる


2026年に私がやりたいのは、「AIはここまで」論の確立ではなく、境界線を押し広げる実験です。

契約業務であれば、プレイブックを前提に、AIに一次判断(受諾/要交渉/拒否)まで出させ、その前提と理由をログに残す。人間は例外処理と再設計に集中する。怖いのはAIではなく、委ねたつもりで統制していない状態です。

“fix it”はリスクの後始末のことではなく、回り続けるビジネスループの設計変更と捉え、そのどこまでをAIに委ねられるのかを、実務で測ってみたいと思います。