著者の渡部友一郎先生よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。


IMG_4022


組織内弁護士のみなさんに日頃お世話になりっぱなしで憧れているだけの立場の私に、本書を評する資格は無いものと思いますが、渡部先生の過去作以上に強く込められた思いにほだされて、これを書き始めています。

「企業法務パーソンたるもの、かくあるべし」

そのように語られる書籍/法律専門誌インタビュー/ウェブ記事は、特に法科大学院が設立されて法務人材が大量に排出されるようになって以降、増える一方であったと思います。

しかし、そういったものを拝読するにつけ拭えなかった違和感が私にはありました。それは、その語り部(著者)が置かれた環境特殊要因の影響があまりにも大きく、他人(読者となる企業法務パーソン)にとっては再現性が極めて低い、という点です。

・所属企業が大企業かスタートアップか
・内資か外資か
・金融・IT・メーカー・流通等の中でどの業界・業種か
・その業界のトップシェア企業にいるか否か
・法務部ができて何年目の組織か
・組織内に模範たる先輩がいたか

もちろん、こうした要素の中に自分が置かれた環境に近いものがあれば、そこだけをかいつまんで参考になることはあったと思います。しかし、十人十色という言葉があるように、他人のキャリアの中にそうした一致点が見つけられることは稀です。

本書の素晴らしさは、これからのキャリアに不安を感じ救いを求める読者の立場に立ち、著者特有の環境特殊要因を排除して、自分が望む仕事・働き方から逆算してどう環境を選ぶか、その中でどう振る舞えば顧客であるクライアント(会社や同僚)のためになるベストなパフォーマンスを発揮できるかの普遍的ノウハウを、他人が再現しやすいようにと強く意識して書かれた、文字通りの「教科書」となっている点にあります。

IMG_4024


著者の渡部先生が、読者にとっての再現性を意識したであろう点は、仕事やキャリアをうまく進める方法論について、自身の成功体験談としてそれを語るだけにとどめず、すべて高名な法律家のアドバイスやアンケートデータと紐づけているところにも現れています。

照井勝弁護士(かつて長島・大野・常松法律事務所に所属していた)は、ある講演でこう話していました。照井弁護士が尊敬する宮崎裕子氏(長島・大野・常松法律事務所顧問、元最高裁判事)の言葉として、「依頼者がどうして欲しいのかがわかれば、あなたの仕事は7割、いや8割は終わったといえる」というものがあることです。照井弁護士はこの言葉を「最高の教え」と評し、「ここ見誤れば、どれほど緻密な契約書や法的分析を提示しても0点になりかねない」と力説しています。(P59より)
実際、米田憲市編『会社法務部〔第12次〕実態調査の分析報告』(商事法務、2022年)241ページの調査によれば、新しく採用した弁護士への懸念事項として、1164社の51.8% (603社)が「企業文化や企業風土に対する理解」を挙げています。せっかく期待を込めて迎え入れた弁護士に対して、「うちの文化を分かっていない」という印象を最初に持ってしまうのは、組織にとっても、本人にとっても大きなリスクです。信頼が気づかれる前に距離を置かれてしまう可能性が高まります。(P108より)

法務パーソンの成長に直接かつ具体的に役立つであろうアドバイスを、その確からしさを裏付けるソースとあわせこれだけ緻密に書き起こしてくれている書籍を、私は見たことがありません。私にも、人生の途中途中で、尊敬する上司・先輩・書籍等から得た教訓はたくさんありました。しかし、そうしたものを他人にも紹介できるほど正確に・つぶさに記録する習慣自体、残念ながら私にはありませんでした。

「法律家が書いた本なんだから、ソースを示すのは当たり前の習慣だし、そんなに驚くべきことじゃないよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、法務パーソンとしての成功談を、単なる自慢話にとどめず、教科書のような再現性と信頼性も担保したこの手の書籍が、今まであったでしょうか?本来カジュアルな自己啓発的な本にもかかわらず、これだけ精緻・誠実にソースを示しているのは、渡部先生自身がその先人のアドバイスに従ったことで実際に成長し成功したという体験を伝えることに重きをおき、生き証人としてその再現性を証明することにこだわられたからだと思います。

同時に驚かされたのが、本書に登場する主人公の組織内弁護士としての成長プロセスが、渡部先生のこれまでのキャリアでの実体験に忠実に、漫画と文章の2つのアプローチでかなり生々しく描かれている点です。

IMG_4023


読者にとってのインパクトを優先したであろう漫画のストーリー部分については、あくまでフィクションである旨の断り書きがあります。しかし、これまでの渡部先生の企業法務マンとしてのキャリアを、同じ会社ではないものの近い業界から注目し続けていた私が見る限り、おそらく脚色は限りなく少なく、ほぼご自身が体験した通りなのでは?と感じられました。

"Happy to Help!(お役に立てれば幸いです)"

これまで渡部先生から私にいただいたメッセージに必ず添えられていたこの言葉。その出自と思いについても、本書に記されていました。

自分のためでなく、他人のために何かをやりきろうという強い意志があるか?

他人を助け事業を助ける企業法務パーソンとして成功するための最も重要な資質とは、そうした献身性の強さにこそあるのだと理解しました。
 

成長を叶える 組織内弁護士の教科書
渡部友一郎 著
日本加除出版
2025-11-04