初版から11年、第2版にあたる改訂新版から5年。「そろそろ情報古くない?」と後ろ指を刺される頻度も年々増していく中、雨宮美季先生・片岡玄一さんと私3人の共著『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 【改訂第3版】』を出版することができました。

改訂新版をリリースした際も「全面的にアップデート」と胸を張っていた記憶がありますが、今回の改訂はあのとき以上に「アップグレード」しています。

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対象読者に求められる法律知識が高度になった

アップグレードの理由の1つが、対象読者層のレベルの変化です。本書が想定する読者は、エンジニア・スタートアップ経営者なのですが、法律専門家ではないはずの彼ら・彼女らに求められる法律知識のレベルが、11年前・5年前とは比べものにならないほど高くなったことを感じています。

具体例を挙げてみましょう。前版までは、プライバシーポリシーを作るための知識としての個人情報保護法を解説するにあたり、「個人情報」が条文上どう定義されているかまで厳密には解説をしていませんでした。当時の対象読者層には、そこまでの知識は不要との考えからです。しかし、デジタル社会化が進んだ現代では、個人データが数珠繋ぎにデータベース間で連結され、それを事業者が悪用もしくは不意に目的外利用するリスクについて、ユーザー側の理解度や警戒心は年々高まり続けています。商売上様々なパーソナルデータを扱うウェブサービス事業者自身が、自ら規制や法令を深く理解する必要性から、もう逃げられなくなったのです。

その法的リスクの範囲や影響の大きさを正確に理解し、ウェブサービス事業者としてあるべきプライバシーポリシーを自分の力で考えられるようになるためには、法律家が使うテクニカルターム(専門用語)である「容易照合性」や「提供元基準」といった考え方も、責任ある当事者の新常識として理解していただかなければならないだろう。そんな思いで、第3版では詳細に踏み込んだ解説を増やしました。

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ウェブサービスの課金モデルが変わった

11年前、そして5年前と大きく変わった点がもう一つあります。それは、「無料のウェブサービス」がもはや古いものとなり、有料課金が当たり前になった点です。

かつてウェブサービスは「広告モデル」「フリーミアム」が前提にありました。お客様には基本無料でサービスを使ってもらい、法的責任だけ「一切責任を負わない」免責文言で最大限に免除しておきさえすれば、儲けや永続性は後で考えればいいだろうという牧歌的な時代だったと言えます。本書のひな形文書の各条文も、そうしたビジネスモデルを前提としていました。しかし競争は激化し、ユーザーの目は肥え、無料だからといって使ってもらえる時代は終わり、本当に価値があればお金を払うことも厭わなくなりました。皆様もご存知の、いわゆる有料サブスク・SaaSモデルの登場です。その代わりに、事業者が負うべき責任はユーザーから厳しく追求される時代になりました。

これに対応するため、有料サービスを継続していく上でのトラブル発生ポイントや、それを回避するための規約の作り方(とその限界)、特定商取引法に基づく表示の見直しなど、第2版ひな形との連続性は意識しながらもアップグレードを図っています。

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AIの影響を無視できなくなった

初版から望外の評価をいただき、書籍のオビにも「ロングセラー」と銘打っていただけるようになった要因の一つが、法律実務書のセオリーを無視したユニークな章立てにあると思います。

1章では、ウェブサービスに携わる誰もが知っていてほしい、最低限レベルの法律知識のラインと心構えを
2章では、起業家が弁護士にビジネス相談する会話内容をフックに、より実戦的であるあるな頻出法的リスクの各論解説を
3章では、具体的な規約ひな形をベースに、各条文の文言のウラに込められた真の狙いや法的背景を

本書は、これら各章が相互に・有機的にリンクするように工夫した構成となっています。それだけに、どこかの記述をイジれば、そこに紐づいた参照先も直さなければならなくなる大工事が発生してしまいます。

しかし、これからの時代のウェブサービスに対応した書籍とするために、起業家による弁護士へのビジネス相談シーンに「生成AI」の論点を盛り込むのは絶対必要。すると、2章の解説に追加・変更が発生するだけでなく、AIリスクを踏まえたひな形の書きぶりも、そのひな形にリンクする1章・3章の解説も書き換えとなるわけです。そんなわけで、気づけば5年間の法改正に対応するアップデートの域を超えて、ほぼ全面書き換えと言っても過言ではない作業量でのアップグレード版となりました。

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ひな形英訳バージョンの掲載を削ったにもかかわらず、このような著者らのこだわりが暴走し、全体では前版から50ページも増量という結果に。それにもかかわらず、出版社である技術評論社様には、初版から伴走し続けてくださっている傳さんに、新しく編集担当として藤本さんも加わり緻密な校正とリニューアルをお手伝いいただきまして、予定通り桜のシーズン到来に間に合わせることができました。

この『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方【改訂第3版】』が、新しいビジネスの創造にチャレンジしようとされる皆様のお役に立てれば幸いです。 


良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方 【改訂第3版】
雨宮美季・片岡玄一・橋詰 卓司
技術評論社
2024-02-24




2024年2月19日追記:

発売までまだ数日ありますが、紀伊國屋新宿本店の5階で先行テスト販売されています。自分自身の目で現場を確認してまいりました。

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私は未確認の情報ですが、Xのポストによれば池袋ジュンク堂でも同様に先行販売があるようです。もしお急ぎの方がいらっしゃればぜひこちらでお求めください。