園部=藤原『個人情報保護法の解説≪第二次改訂版≫』の上位互換であり、実務にもそのまま活用できる最強のコンメンタール(逐条解説本)が出ました。





立体的な逐条&比較法解説


本書は、日本の個人情報保護法について逐条で

1 目的・趣旨
2 各文言の解説
3 違反の効果
4 改正の背景
5 関連する裁判例
6 課題

が述べられたその直後に、その条文ごと

7 EU(GDPR)における対応条文解説
8 US(HIPAA・GLBA・FCRA・CCPA)における対応条文解説

を追記する構成となっています。

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本書は、2014年暮に企画され、出版に至るまで6年以上の歳月を要した(はしがきより)


本書オビに「立体的な」コンメンタールとの宣伝文句があるのは、個人情報保護法とは大きく異なる構造から成る外国法を、日本の条文構造に合わせて分解し整理した点を指しているようです。実際、3カ国の法令を跨ぐこの作業を行なった文献は見たことがなく、相当に骨が折れるものだったと想像します。

要所を締める詳細な実務解説


立法経緯、裁判例、法改正の契機となった事件が無駄なく綺麗に整理されていることに加えて、企業で実務に携わればすぐにでも遭遇するであろう以下のような個別具体的かつ現代的な課題にも直接応えてくれます。このような記述は、立案担当者だけで書かかれた本では期待できません。

・捜査関係事項照会・弁護士照会に対する応答義務
・クラウドサービスと海外への保有個人データ移転の衝突
・DMP・プロファイリングとクッキー規制

加えて、個人情報保護法の理解を困難にさせている(させてきた)背景に対する詳細な言及が要所要所にあるのも、本書を推奨する理由です。

情報法制研究の第一人者である石井・曽我部・成原先生らの貢献ももちろん大ですが、特に実務家側から森・鶴巻・板倉先生らが執筆されているパートにおいて、舌鋒鋭い批判が繰り広げられており、この特徴がよく表れています。

個人関連情報の追加であらわになった、過度な「提供元基準」信奉への批判:
提供元基準説は、提供元で個人データであるが、提供先で個人データでないものについて法23条の適用の適否を判断する場面であるのに対し、本条【注:23条の2】の想定する場面はそもそも提供元では個人データでないため、提供元基準説の想定する事案とは場面が異なる。
そもそも、提供先においてはじめて個人データとなるような情報の提供は、もともと個人データであるものの提供と、権利侵害のおそれの点では全く変わるところがない。従って、提供先で個人データとなる個人関連情報の提供は、従来から法23条の規制に服するべきものであったのであり、その意味で本条は、創設的な規定ではなく確認的な規定と解すべきである。(P440)

「自己情報コントロール権」誤認拡大の原因ともなった裁判規範性肯定(宇賀)説に対する批判:
宇賀教授は平成27年改正前旧法においては、裁判規範性肯定説の帰結として、利用目的の通知についても裁判上の請求ができると述べていた(略)ところが、前述の通り、平成27年改正においては利用目的の通知について何らの改正がなされていないにもかかわらず、本人に裁判規範性のある請求権が認められるか否かについての結論が平成27年改正の前後において異なるということからすると、平成27年改正を機に裁判規範性肯定説から否定説に転じた可能性がある。(P464)

匿名加工情報の作成の方法に関する基準を定めた施行規則19条3号の条文構造に対する批判:
文言解釈は困難である。(P679)


本書購入を躊躇させる事情も否定できないがやはりmust have


難点を言えば、索引がないことに加え、目次もほぼ意味をなしていない点です。コンメンタールなのだから索引は不要だという意見はまだわかるにしても、せめて目次は小見出しのレイヤーまで掲載していただかないと、関係する条文を記憶していない限り情報が探せないという事態になります。

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さらに、今国会で成立が見込まれる令和3年改正により、条文番号が定義規定も含めて総入れ替えになることが確定している点が挙げられます。本書においては条文番号だけが検索性の頼りなのに…。こうなると、改正前/後の条文の対応を脳内変換できるようにしておくしかなくなります。

最後に値段です。1,000ページを超える本書は税抜12,000円。このページ数となった原因の一つが、ページの上下部の余白が妙に大きい点です。ここを数行ずつ詰めていけば、800ページ税抜9,000円ぐらいで販売していただくことも可能だったのではと。

これらを知ってしまうと、購入を躊躇される方もいるかもしれませんが、これだけの著者が関わった大著であり、また日本の個人情報保護法・EUのGDPR・米国プライバシー法の改正がひと段落した事情に鑑みれば、毎年毎年改訂されることは考えにくいでしょう。

何より、今日・明日個人情報保護法に関わらないビジネスは皆無であり、これまで最も信頼されていた園部=藤原本を遥かに凌駕する内容という点からも、企業法務パーソン全員が一冊手元に常備しておくべき文献であることは間違いありません。