もはや法的三段論法や条文・判例知識だけに頼っていたのでは通用しない、誰もが経験したことがないほどの変化の時代において、法務は今まで以上に「丁寧に人と人とのつながりを紡ぐ」役割を担うべきである。


希望の法務――法的三段論法を超えて
明司 雅宏
商事法務
2020-10-03



本書が述べるこの結論に強い反発は感じなくとも、ピンと来ない人は多いのではないかと思います。

では、これはいかがでしょうか。

企業に限らず、他者と取引をするということは、自社ではできないことを他者にお願いする、つまり他者の力を借りるということが背景にある(P105)

著者の明司雅宏さんのように、常日頃からこういう意識を持って事業部や取引先と対話ができている法務パーソンは、自ずと仕事の姿勢が異なっているはずです。

たとえば、

・ビジネススキームの企画会議に加わるとき
・契約書案をレビューし交渉するとき
・債権回収の場面で督促をするとき

こうした場面で法律知識をひけらかし権利を振りかざすだけの仕事なら、クリエイティビティは必要ありません。事業部に疎まれ、取引先の不興を買い、AIに駆逐されるのも時間の問題です。

力を貸して欲しい相手を尊重し、どうすれば自社との取引で生まれる連帯の力を最大化できるかという視点で解決策を考える。そのために粘り強く事業部や取引相手と対話をするところに、アイデアや革新の種があるのだと思います。

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このコロナ禍で、もう一つわたしたちが学んだことがある。それは「連帯」である。変化の声を上げるのは一人かもしれない。でも連帯して声を上げるとそれは変化を生み出すことも学んだのではないか。(P158)

取引以外でも、この連帯の力が発揮されることがあります。

2020年、押印を主とし電子署名を従としてきた歴史が、内閣府と大臣のリーダーシップによって大きく塗り変えられています。この流れが生まれるまでには、議論を正しい方向に導いた専門家の知見や事業者のロビイングの影響もあったかもしれませんが、それ以上に、法律家たちの押印へのこだわりとそれを支えてきた法解釈に不満と疑問を抱き、新たな合意手法を必要とした企業や個人の声の連帯こそが、ブレイクスルーを生んだ原動力であったと思います。

事業部に任せきりではなく、法務がそうした外部との連帯の力を自社に引っ張ってくる存在となること。そのための具体的行動として、事業部以上に日頃から外に出てさまざまな人と対話し、いざという時に力を貸してもらえる信頼関係を築くこと。

「自ら外に出てつながりを紡ぐ法務」は、これまでの典型的な法務組織像や人材像からはかけ離れているように見えます。だからこそ、それを意識的に行いさえすれば、事業部からも「うちの法務は変わったな」と思ってもらえるのではないでしょうか。