秘密保持契約だけに絞った実務書が、新刊として出版されました。





秘密保持契約ぐらいの締結頻度の高い契約類型となると、多くの会社でなんらかひな形が整備されているでしょうし、交渉が必要となるポイントがかなり限定されていることもあって、契約書起案・検討業務の中でも若手部員向けルーチンワークの代表選手となっているのではないでしょうか。

しかし、いざ他人にこれを教えようとなると、毎日のように見ていたはずの秘密保持契約書の文言に込められた意図を立板に水のようには説明できないこと、そして意外にもそれらのポイントを体系的にまとめて解説してくれている文献が少ないことに気付かされます。求められるたびに、あわてて猪木先生のブログ記事を紹介したり、Business Law Journal等の法律系雑誌のバックナンバー記事にバラバラに掲載されているノウハウを整理した解説用のテキストを作成したり…。「ニーズはあるんだから誰かちゃんとした先生が本として出してくれれば売れるのに」「なんなら自分で出版社に企画を持ち込んじゃおうかな」と思っていましたが、ようやく、西村あさひ法律事務所の先生方が重い腰を上げてくださったというわけです。

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内容については、日本国内企業同士の契約でよく見られる水準の秘密保持契約をベースとして、和英対訳となったサンプル条項を逐条で解説する、奇をてらわないスタンダードな作り。
・秘密情報の例外(受領当事者の独自開発情報、従業員の記憶に無形的に残留した情報など)
・秘密保持義務の例外(役職員やグループ会社への開示、法令等や取引所の処分など)
・秘密情報の複製
・有効期間
・秘密情報の破棄または返還
のような、相手方とバトルになる頻度の高い論点も明示的に取り上げられており、通常業務に困らないだけの網羅性はほぼ担保されていると思います。実際に交渉することは少ないが検討俎上にはあがる契約違反時の違約金・損害賠償額の予定の是非などについても、言及があります。また、秘密保持契約書作成・検討の前提知識であるもののきちんと抑えているかと言われると不安になってしまう平成27年改正不正競争防止法のポイントも、章を独立させて解説してくださっています。

反面、英文の秘密保持契約書に見られるような、マニアック・トリッキーなドラフティング事例がたくさん紹介されているような類の本ではありません。サンプル条項は和英対訳とはなっていますが、あくまで日本語の標準的な条文をそのまま英語訳したものであり、英米法をベースとして活動する企業には受け入れられない可能性が高いと思います。ここは、敢えての割り切りということでしょう。


ともあれ、契約書ひな形集の一部に数ページだけ掲載されているような頼りない秘密保持契約書のサンプルを参考に、不安を覚えながら見よう見まねで修正起案を重ねている人も少なくなかったはずで、本書が売れることは間違いなさそうです。