インターネット上で行われる表現・コミュニケーション/電子商取引/知財/紛争解決合意に関する法律の今を、研究者の視点から整理し、将来を展望する本。実務家の間で定評のあった高橋編『インターネットと法』の正統な後継書と言ってよいでしょう。法律書マンダラ2016推薦図書です。
インターネットに関わる法律のほぼすべてを概説するこの本が特に力点を置いているのは、ネット上での活動の自由と規律とのバランスの取り方についてです。私がクリエイティブ方面に強い新進気鋭の先生方とインターネット法に関する私的勉強会を持たせてもらっている中でもちょうど話題になっているテーマですし、ネットビジネスの事業者にとっても、これからますます問題が顕在化し実務上も対処に苦慮することになるであろう論点でしょう。
この点、代表編者である松井先生の総論としては、
やはり原則はインターネットのうえでの自主的な規制に委ねつつ、現行の法律を個別的にインターネットに適用し、その適用に際して、インターネットの特性に応じて修正してゆくほうが望ましいように思われる。
ということなのですが、だからといってなんでもフリーダムでOKというような乱暴な論稿にはなっておらず、まさにその“個別的な適用”について各分野の専門家が丁寧に論じています。
個人的には、山口いつ子先生による第2章「インターネットにおける表現の自由」、とくにその中の「インターネット法の新たなデザインに向けて」と題する図とこの全体像に基づく論稿のおかげで、1社目に就職した国家から管掌された放送・通信事業者で得た経験と、そして今いるプラットフォーマー(媒介者)に支配されるコンテンツ事業者での苦悩が、自分の中で一つのフローとしてつながった感覚をおぼえました。まだはっきりとした言葉にまではできておらずもやもやしているところなのですが、この章が自分なりのアイデアをまとめる大きなヒントになりそう。
また、もう一つの読みどころとしては、第13章「国境を越えた紛争の解決」の章が挙げられます。ここでは、インターネット法の最重要論点ともいうべき準拠法と裁判管轄の問題について、Twitterの利用規約等を例に挙げながら他の類似書・論文よりもかなり具体的なあてはめ・解釈にチャレンジしています。その一例として、以下P337およびP342脚注より。
例えば、Twitterの利用規約では、「12.一般条件 B.準拠法および裁判管轄」として、「本サービスに関連する一切の請求、法的手続きまたは訴訟は、米国カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦裁判所または州裁判所においてのみ提起されるものとし、ユーザーはこれらの裁判所の管轄権に同意し、不便宜法廷地に関する一切の異議を放棄するものとします」とされているが、民事訴訟法上は、日本に居住する消費者との契約に関するこの合意は原則として有効とはならない。しかし、このことは、Twitter社がカリフォルニア州で日本居住の消費者を訴えることを妨げるものではない。手続法は法廷地法によるのが原則であり、カリフォルニア州では日本の民事訴訟法を全く考慮しないで裁判管轄を判断するからである。ただし、日本の管轄規定上許されない管轄原因に基づき下された判決として、後述する外国判決の承認・執行時に問題となる可能性は高い。
消費者契約にかかる管轄合意は原則無効であるのに対して、準拠法合意は原則有効である。したがって、上述した、Twitterの利用規約「12.一般条件 B.準拠法および裁判管轄」中で、「本規約およびそれに関連して行われる法的行為は、米国カリフォルニア州の法に準拠するものとします」という部分は原則有効となる。
この章だけをとっても、ネットビジネスに携わる方にとっては必携の本と言って良いと思います。
それにしても、今年見た法律書の中でも本書は装丁がダントツにカッコいいですね。奥付を拝見すると田中あゆみさんという方が担当なのでしょうか。装丁がいい本は良書という法則は、どうやらこの本にも当てはまるようです。











