みらい総合法律事務所さまよりご恵贈いただきました。発売されたらいずれ購入するだろうとは思っていたのですが、やや高価な本だけに予約は迷っていたところでした。ありがとうございます。
みらい総合法律事務所
レクシスネクシス・ジャパン
2015-10-09
この本を契約書の「条項集」「ひな形集」と捉えてしまうと、その評価を誤ってしまうと思います。その理由が分かる部分を、以下まえがきから引用してご紹介。
契約書作成に当たり、想定されるリスクはすべて検討することが必要です。もちろん、想定外のことが起きるのが世の常ですから、リスクのすべてを想定し、それらを網羅して対策を盛り込むことには限界があります。外国の定型契約書は、紛争をめぐる長い歴史的経験を背景に、想定されるあらゆるリスクを詰め込もうとするため、膨大な条項数となることがあります。しかし、日本でこのような契約書を用いることはあまり多くありません。(略)必要なのは「その企業とその取引にとって」のリスク抽出の作業です。そして、想定外の事態が発生しても対応できるような柔軟な条項も効果的です。
契約書を作成する場合「定型書式」に準拠することは極めて重要です。定型書式はいわば囲碁の「定石」のように多くの人の手を経てたどり着いた成果ですので、一応の論点についての手当がなされ、その文章表現も練られており、趣旨が明確です。また「定型書式」の条項は、その解釈をめぐる紛争も前例が多く蓄積され、条項の解釈をめぐる紛争が起きにくくなっています。往々にして、担当者が思い付きで追加条項を設けたり、代表者の意向をそのまま反映するつもりで付加した条項は、趣旨が不明確であったりして、新たな紛争の種となることがしばしばあります。
本書は、法務部門である程度の経験を積んだ担当者を対象としているので、初歩的な解説は省いています。また、契約書文例を数多く集めて延々と並べる手法も採用していません。膨大な契約書文例を掲載しても、企業の担当者が本書を読み込んで目的に合致する契約書を探しだすことは手間がかかりますし、そもそも実務で用いられるすべての契約類型を網羅することは不可能だからです。
たしかにこのまえがきにあるとおり、本書に掲載された“定石”たる「定型書式」の条項の粒度を見てみると、以下のとおり若干粗めとなっています。
・秘密保持契約書の定型書式 全11条
・動産売買取引基本契約書の定型書式 全25条
・業務委託契約書の定型書式 全15条
以前ご紹介した阿部井窪片山ひな形本をすでにお使いの方は、実際の条項の規定ぶりを見比べても、あちらのほうが詳細だなという印象をお持ちになると想います。
ではなんなのかと言えば、本書はタイトルにもあるとおり『契約審査のベストプラクティス』、つまり契約におけるリスク抽出と手当の定石を学習する本なのだと考えます。そのことを裏付けまたこの本を特徴付けるものとして、各契約類型ごとのかなり細かめなチェックリストが用意されています。類型別のチェックリストとは別に、一般条項だけのチェックリストもあります。
たまに実務系法律雑誌の特集企画で見かけることはあっても、これだけの契約類型のチェックリストを一冊に整理した市販の書籍というのは、ありそうなものでいてなかなかお目にかかりません。特に、一人法務でダブルチェックをしたい案件でもできない環境などでは心強いでしょうし、これを現場に展開して審査依頼を受ける前にセルフチェックさせるのなんていうのもいいかもしれません。
索引がない、業務委託契約の項が準委任契約ベースのみで請負契約ベースの解説が端折られている、第4章の賃貸借契約の解説のクオリティだけがやけに高い(この章の解説だけが徹底して条文の引用・判例による裏付けがなされている)など、気になる点はあったりもしますので、2年目以降5年目未満ぐらいの法務パーソンが読み込んでさまざまな契約類型を自学自習する本として、ぜひ今後も改訂とパワーアップを図っていただきたい本です。












