私は最近、ベンチャーキャピタル等に限らず一般企業に所属する法務パーソンであっても、投資契約をレビューする機会が増えていくのではないかと感じているのですが、そんな中にあって、投資契約を理解するための前提知識を学ぶ読み物として紹介したいのがこちら。





本書は、「シリコンバレーのビジネスパーソンは当たり前のように使っているけれども、一般のビジネスパーソンにとっては特殊な用語」を100ワードピックアップし、見開きで1ワードずつ解説するもの。特に法務パーソン向けにアレンジしているわけではないのですが、起業と投資が盛んなシリコンバレーだけに、そうした契約交渉の場面で使われる専門用語がたくさん掲載されています。たとえばこんなもの。

・Bootstrapping
・Vesting cliffs
・Single Trigger Acceleration
・Down Round
・Cap Table
・Burn Rate
・Unicorn
・Pivot
・Iteration
・Vertical
・Acqui-hire
・Perks

こういった用語を日本語でかなり丁寧に、かつ実際の英文記事やスピーチでの使用例とともに紹介してくれます。雑誌のコラムのような筆致で、読み物としても気軽に読める内容になっています。

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知っているほうとしては「これくらいの業界用語は当然に君たちも分かるよね?」という態度で(これみよがしに)使ってくるため、こちらから意味を問い質しにくいところがタチが悪いのです。起業文化や投資契約の実務という意味では数歩遅れている日本ですから、こういった言葉もそのままカタカナ英語として輸入されることになりそうですし、今から備えておいても損はないでしょう。そういった機会がすぐには来なくても、この本を読んだ後にTech CrunchやWIREDなどの記事を読むと、視界がクリアになった自分を認識できると思います。


さて、冒頭で私は、「一般企業に所属する法務パーソンであっても、投資契約をレビューする機会が増えていくのではないか」と述べました。その理由として、単純にスタートアップ企業に対する投資意欲が高まっているという点も一つに挙げられるのですが、加えて、企業の人材囲い込みのあり様が変わりつつある点を挙げておきたいと思います。

企業がリスクマネーをスタートアップに投資するのが珍しくなくなったのと同時に、会社をやめて起業する若者や、そもそも就職を一度もせずに学生起業する若者は、この日本でもすでに珍しい人種ではなくなっています。むしろ、優秀で目的意識が明確な人材ほど、企業に属さない=雇用契約的な束縛・隷属を嫌う傾向が強くなっているといっても過言ではありません。実際、企業の人事部の悩みは、(少子化に加えて)そういったイキのいい独立志向の強い若者が、これまでの画一的な「新卒採用=雇用」の枠組みでは確保できない流れが加速しているところにあると聞きます。こうなると、企業が優秀な人材の力を借りようとするときに、その優秀な人材を従業員として「雇用」するのではなく、その人材が起業した会社やチームに対して「出資」をすることで、緩やかに連帯していくことになるのではないかと。

まさにこの本でも紹介されているキーワード"Acqui-hire(アクハイヤ)”に象徴されるように、特に優秀な人材層を中心に、就業規則に基づく雇用契約により画一的な労働力化を図る時代から、その人材・チームと投資契約を結び資本関係に基づく連帯・協働をする時代へと、変わっていく予感がします。