金融商品取引業や取引所に対する規制と一般事業会社向けの規制とがごちゃまぜになっている大部な金融商品取引法。そのうち、一般事業会社の法務に必要な部分だけに絞って解説した、まさに企業法務パーソンのための本。こういう実務書をずっと待っていたのですが、ついに、TMI総合法律事務所の宮下央先生が救いの手を差し伸べてくれました。





「一般事業会社の法務に必要な部分」とは、この5つ。
  1. 発行開示規制
  2. 継続開示規制
  3. 公開買付規制
  4. 大量保有報告規制
  5. インサイダー取引規制

インサイダー取引規制に限って言えば、それだけをまとめた書籍はたくさん出ています。しかし、それ以外の部分については、分厚い金商法の本の中から必要な情報を読み取らなければなりませんでした。しかも、金商法関連書籍は、弁護士や金融機関の専門家向けに書かれていることがほとんど。それらを読むのは、私のような者には苦行以外の何ものでもありません。

一方(その良し悪しは置いておいて)株式の上場もカンタンな時代となり、企業法務パーソンにとってはますます金商法は知らないでは済まされない法律となっています。売出・新株予約権の発行・自己株買付・TOB・大株主の異動…といったイベントにまみれ、とまどっている新興企業の法務担当者も少なくないのではないでしょうか。かつてのライブドア事件のような、法律の解釈がもろに問題になる場面は少ないとは言っても、上記のようなイベントが発生した場面で、財務担当者や証券会社等との会話が成立しないようでは問題。用語を抑えておくことはもちろん、規制の概要や構造はしっかりと理解しておきたいところです。

そんなニーズに対して、本書は、解説する分野を絞り込んでボリュームを単に減らすのではなく、豊富な図表に「用語解説」欄も設け、金融実務になじみのない読者にストレスを与えないような配慮が追求されています。特に複雑(で私も苦手)な開示規制のパートは、複雑な条文を丁寧で精緻なフローチャートに整理してくださっていたり、

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「募集」「勧誘」といった語句の定義の曖昧さに悩む法務担当者に、コラムで共感を示しながら最新の情報をアップデートしてくださったり、

有価証券届出書を提出しなければ勧誘をしてはならないことになっているにもかかわらず、法令上「勧誘」の定義はなく、一般的にも「有価証券の取得を促進する行為」などとかなり幅広い説明しかなされていないため、会社が増資を検討している場合などにおいては、増資とは無関係に自社についてPRする行為も「勧誘」に該当するのではないかという悩みが生じます。
しかし、投資家に対する情報開示は本来好ましいものであるはずのところ、法令の規制により萎縮し、本来投資家に開示されることが有益な情報まで開示されなくなってしまうのであれば本末転倒です。そこで、近時は、投資家にとって有益な情報開示と「勧誘」を画する基準を明確化することが試みられており、平成26年の開示ガイドラインの改正により、以下のような行為について「勧誘」規制の対象外とすることが示されました。(後略)

「第三者割当に対する勧誘規制」「特定投資家間の上場株式の譲渡」のように実務と金融庁の思惑がすれ違う部分について、時に行政に批判的な立場から実務の展望を語ってくださったりと、まるで、法務パーソンを励ましてくれているかのよう。

そうしたこの本のルーツを伺わせる記述が、はしがきにありました。

タイトルをご覧になって気づかれた方もいるかもしれませんが、この本は、私が新人弁護士時代に本当に良く使わせていただいた一冊の本から着想を得ています。新人弁護士時代、私は、証券取引法(今の金融商品取引法)が本当に苦手でしたが、その本に出会って、証券取引法のエッセンスを学ぶことができ、それがきっかけとなって、その後、金融商品取引法を専門分野とするまでに至りました。今の時代に金融商品取引法を新たに学ぼうという方のために、その本と同じように、勉強を進めていくための手がかりとなるような本が書けないだろうかと(大胆にも)思ったことが執筆の発端となりました。

出版社の関係からか、宮下先生は書名を出すのは控えていらっしゃいますが、きっと松井秀樹先生の『法務担当者のための証券取引法』のことですよね。私も10年前に同じく大変お世話になりました。この本は、まさにあの良書の後継者たりうるものだと思います。