師事する先生が、講義の中で「これを読めば、今学んでいる要件事実論を企業法務の実務でどう使うのかがわかる」とすすめていらっしゃったのがこの本なのですが、





実はこちら、数か月前にレクシスネクシスさんからご恵贈いただき(ありがとうございます)、一読したものの、ちょっと暑苦しさを感じる文体に途中でギブアップした本でした(申し訳ありません)。先生がおっしゃるなら・・・と要件事実のところだけ読みなおしてみたところ、たしかに分かりやすい。

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法律事務所に法的紛争が持ち込まれた場合には、まずは交渉によって解決できる可能性を探ります。その際に、私たち弁護士が行うことは、事実関係を精査して、証拠の有無を分析し、裁判になった場合に勝訴できるかどうかを予測します。勝訴できる可能性が高ければ強硬に交渉を進められますが、勝訴できる可能性が低ければより有利な妥協の道を探るか、側面攻撃によりゲリラ戦に持ち込むくらいしかありません。
企業法務で徹底して追求すべきは、裁判に勝つことです。そして、裁判に勝つためには、裁判所が用いるルール・判断基準を知っておくことが不可欠です。
裁判官には裁判官の判断構造があります。それが「要件事実論」です。
あらかじめ法律を分析して法律要件というものに細分化して、原告が、この法律要件に該当する事実を主張し、それを裏付ける証拠が認定されれば、一定の法律効果が出てくるようになっているのです。
そして、この法律要件は、原則として「また(or)」ではなく「かつ(and)」で括られています。したがって、全ての法律要件を充足しなければそれに対応する法律効果は発生しません。
裁判では、単純に、この法律要件を充足しているかどうかというポイントが判断されます。裁判官としては、いかに記録が膨大なものであったとしても、そのポイントの主張・立証が1つでも欠けているとなと判断されれば、いかにその裁判が悲惨な被害を受けたものであったとしても、いかに裁判の準備が大変であったとしても、請求を認めてくれないのです。
このポイント、すなわち一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実のことを、訴訟実務では「要件事実」と呼びます。

取引先やお客様と取引をはじめる際、契約書を締結する際、そして紛争が発生しそうな状況に陥った際、その場面場面において必要な法律要件を漏らさず満たすよう、立証すべき損害が立証できるよう、そして相手方の抗弁に対し再抗弁できるよう、現場を動かしサポートする。こういう意識が働いてくると、『要件事実マニュアル』が欠かせない存在になってきます。これまでは、「引用文献が豊富なリファレンスツール」ぐらいにしか思っていなかったのですが、遅まきながらその有用性が漸く理解できるようになり、業務用として会社でも購入。


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たとえば、契約検討や紛争の場面で避けて通ることのできない「瑕疵担保責任」について、同書の整理を抜き書きさせていただくと、こんな感じ。

 ■売買契約の瑕疵担保責任■請負契約の瑕疵担保責任
請求原因の要件事実(特定物の場合)
要件1 特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 損害の発生及び額
(不特定物の場合)
要件1 不特定物を目的とする売買契約の成立
要件2 1の目的が特定されたとき、その目的に隠れた(通常人の普通の注意で発見できない)瑕疵があったこと
要件3 2で特定された物を買主が売主から受領したこと
要件4 買主が3の受領後、2の瑕疵を認識した上、これを履行として認容したこと
要件5 損害の発生及び額
要件1 請負契約の成立
要件2 1の仕事の完成
要件3 1の仕事の目的物に瑕疵があること
要件4 損害の発生及び額
損害の額a 契約締結のために要した費用―公正証書手数料ほか
b 転売利益等の履行利益―信頼利益に限定され認められない
c 瑕疵があることによる減価―解除をしない場合のみ
d 補修費用―争いあり
e 拡大損害―別途債務不履行損害とする場合多し
f その他―慰謝料・弁護士費用は認める例あり
a 原則―補修費用額が損害額
b 例外1―建て替えるしかない場合はその費用
c 例外2―修補に著しい費用を要する場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
d 例外3―修補不能な場合は完全な目的物と瑕疵ある目的物の差額
e 付随的損害―鑑定・調査・引っ越し・逸失賃料・休業損害・相当因果関係の範囲内の拡大損害・慰謝料・弁護士費用(認容額の10%)
抗弁ア 除斥期間―事実を知った時から1年
イ 消滅時効―引渡日より商事5年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 検査通知義務違反―商人間売買は遅滞なく検査し通知/直ちに発見できない(≠隠れた)瑕疵については6カ月以内に通知
ア 注文者の供した材料又は指図
イ 除斥期間―土地工作物以外の場合 引渡し(仕事の終了)より1年
ウ 担保責任を負わない特約
エ 請負報酬債務との同時履行又は相殺
オ 過失相殺
カ 修補請求をすべきであること
キ 仲裁契約
ク 黙示の承認


たくさんの情報を頭の中でもれなく整理するということが得意でない私にとっては、こんな基礎知識部分の整理であっても新たな発見があります。このブログでも何度か話題にした瑕疵担保期間における民法637条vs商法526条問題も、前者を瑕疵担保責任の除斥期間、後者を商人間売買契約特有の検査通知義務として整理することで、準用されないことがすっきりと理解できますし、民法570条の「隠れた瑕疵」と商法526条2項の「直ちに発見できない瑕疵」は違うものだということも、こうして構造化することではっきり認識ができます。条文と判例を立体的に捉えることによって、曖昧な知識と理解が矯正されていく感覚といったらいいでしょうか。

こうして、勉強不足を痛感する日々はまだまだ続きます。