「知財」の中でも、やれてるつもりになれてしまう著作権や商標権と違い、素人の独学ではまったく対処できないのが特許業務。これに少しでも携わっている方にとって、文句なしの良書です。ご恵贈くださいましたレクシスネクシスのO様に感謝。




 
著者の岩永利彦先生は、東工大大学院にて物理学専攻、ソニーに入社されエンジニア→知財を担当された後、弁護士・弁理士としてご活躍されている方。ブログ「理系弁護士の何でもノート」でも、積極的な情報発信をされています。

業務の概要や戦略・組織・人員の重要性が語られる第1部の「知財部門担当者の心構え」や、特許庁からの拒絶理由通知の対応、他者による自社特許権侵害/自社による他者特許権侵害の対応等を実戦的に解説する第3部の「知財案件のセオリー」も参考になります。しかし、私にとって一番ありがたかったのは、第2部の「知財業務遂行スキル」のパート。法的文書としての特許クレームの書き方を具体例で示しながら、そこで必要となる特許法の知識、スキルとしての特許調査の方法、さらにクレームチャートの書き方を教えてくれるところです。

このパートで公開されているノウハウは、これまで刊行された書籍等文字になったものはなかったように思います(もしかしたら、弁理士向けの実務セミナー等では語られているのかもしれませんが)。特に、特許法第29条2項の「進歩性」とは何か・「新規性」と何が違うのかについては、我が家に10冊ほどある特許法の基本書のどれを読んでも解せなかったところ。ようやく自分自身の感覚にマッチした解説に出会えた気がします。


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新規性が先行技術との同一性の問題であるのに対し、進歩性とは、先行技術との発明の幅の問題といえる。
進歩性には作用効果や商業的成功などに結びつきやすい、技術的な結果が必須であるとされる。まさに技術的な進歩が必要であると考えることになる。進歩性という呼び名も、この考え方に基づいているわけである。
他方、特許法29条2項には、「進歩」という言葉が存在しない。このため、技術的な進歩は不要とする考え方もある。条文の文言上での進歩性は、当業者が容易に発明をすることができたかだけを判断するからである。そのため、この考え方は、価値中立性や多様性を重視することになる。
私は後の考え方を支持している。
要するに、創作(発明)のバリエーションの幅を広くしたものこそ進歩性ありと考えるわけである。他方、既に存在する発明をほんの少し変えただけの発明に特許を付与しても産業の発達には寄与しないと考えるわけである。
したがって、一見退歩したような発明であっても、先行技術から狭い幅しか持っていない発明であれば、進歩性はないことになるだろう。
ある技術の分野に多様性(バリエーション)をもたらす発明こそ、イノベーションの元であって、それこそが究極的に産業の発達をもたらすものである。


IPDLを使った特許調査をするにあたっての具体的な流れやコツといった、スキル部分のレクチャーも充実してます。

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私が特許業務に本格的に携わるようになったのは転職してからのここ数年のこと。そんな私がこの本の真価を理解できているか自信がないのですが、特許事務所から移籍してくれたインハウス弁理士のメンバーから都度都度教えてもらうたびに「そうか」「なるほど」と亀のようなゆったりとしたペースで学んでいたこと、そうして丁寧に教えてもらってもテクニカルタームの難解さから理解が追いつけていなかったこと、それらのいずれもがこの本で見事に体系化され端的に説明されていました。特許業務に関して抱いていたもやもやが、読了後は跡形もなくなったと言っても言い過ぎではないと思います。

その特殊性や難しさから真剣に向き合ってこなかった特許という領域から逃げられなくなり正直困り果てながら、メンバーや外部弁理士の方々の助けを借りて、組織の力でなんとか回してきた特許業務。所属組織のためだけでなく、自分自身が法務パーソンとしてもう一皮剥けて成長するためにも、逃げずにこれに立ち向かってみようという勇気と方法論を授けてくれる一冊です。