「裁判と仲裁、どっちがいいですか。」と聞かれることが少なくありません。しかし、率直に言って、「愚問」と言わざるを得ません。なぜなら、国際的な取引に関わる紛争を解決する場合、「国際仲裁以外に、選択肢がない」というのが実情だからです。つまり、仲裁は、国際的な紛争を解決する唯一の手段なのです。
こういう白黒はっきりした、大胆な物言いが好きな私みたいな性格の方にはうってつけの、仲裁制度解説本がでました。オレンジと白の表紙がオシャレでとてもまぶしい本です。フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー × 商事法務から。
「よくわかる〜」というタイトルも、セミナーを聞いているような口語体の文体も、法律専門家に絞らずに一般ビジネスパーソンまで対象読者を広げようと意識して書かれた本のようでいて、そこに詰め込まれたノウハウは、これまで発売された書籍では見られなかった、具体的でためになるものばかりでした。
たとえば、仲裁地の選び方について。
- クロス式条項(被告地主義)は採用すべきではない。最終的に後攻手続が却下ということになったとしても、2件の仲裁が並行して行われることになってしまう。第三国を指定すべき
- 仲裁合意に記載する「仲裁地」は法的な概念であり、どの国の仲裁法が適用されるか/仲裁手続の間に裁判所の援助が必要となった場合にどの裁判所にいくか、ということ。実際にどこで仲裁をするかは別の話。日本と香港の企業の契約で、仲裁地をロンドンとしていたとしても、実際のヒアリング(口頭審問)をロンドンでやる必要はなく、当事者間で合意してシンガポールやプーケットで行うこともできる。
- 1)NY条約締約国であるのは当然、2)裁判所から干渉されにくい国で、かつ3)仲裁法がきちんとしている国を選ぶことが重要。
では、結局どこの国にしておいたらいいの?という疑問にも、以下のようにはっきりと具体的な国を挙げて答えてくれています。契約書実務を見ていると、最近はシンガポールを仲裁地にするのがやけに流行っていて、この本でも推奨国の一つに挙げられてはいるものの、仲裁法の明確さと対中国での執行という側面から香港がもっともオススメされているあたり、さすがプロといった感じです。なお我が国日本も、飯がうまいということで推奨されています。笑いごとのようですがこれ重要。腹が減っては戦ができません。
それ以外にも、仲裁のスケジュール感(17〜20か月)、実際のコスト感(係争額50億円のケースで3,000万〜1億円)、ベストな仲裁条項例、準拠法の選び方、弁護士の選び方、申し立ての仕方、記録の保存、証拠開示とprivilege、申し立てられた際の対応、執行時に注意を要する国(インド)・・・等々、法務パーソンが知りたいことは漏れ無く書かれています。私自身は、仲裁手続きにかかわったのは数件で、そのうち6割強がJCAAでしたので、ICCやSIACとの細かな違いまで知ることができたのは望外の収穫でした。おまけに、ヒアリング(口頭審問)の様子の写真までが掲載されているという。これは見たことのある方はなかなかいなかったのでは。
200ページほどの、法律専門書としては薄めの本ではありますが、隅から隅まで有益な情報で埋め尽くされた、満足度の高い本になっています。













