あるサービスを提供している中で、まったく意図しないことでお客様からお叱りを受ける事案に遭遇しました。モノを売るにせよ、サービスを売るにせよ、無機質な「機能」だけで満足してもらえる時代はとっくに終わっていて、それを買う人に「ワクワク」を添えて提供して差し上げられるかどうかが問われているということを、現在進行形で身に積まされている日々です。

そんな中、自分が今いるIT業界の今後を学ぼうと思って手にとった『ITビジネスの原理』という本を読んで、その「ワクワク」の提供能力の有無が、その事案での経験と重なって、自分が今やっている法務という仕事の今後にも大きく関わるのではないかと、考えさせられた次第です。





この本で著者は、Googleを辞め、しかもAmazonではなく楽天に転職したのはなぜか、という自身の判断軸を披露しています。それは、Amazonはモノを大量にカタログして検索しやすくし、安く・早くデリバリーする「機能」を売っているが、一方で楽天は、一つ一つの商店がなぜそのモノを販売しているのかという物語や人との関係性=「ワクワク」を売っているハイコンテクストなビジネスだからだ、と述べます。そして、ITビジネスは今後、機能の追求ではなく、もっとハイコンテクストとハイコンテクストを結びつける方向を志向していくだろうと予測しています。

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法務という仕事の「機能」は何かと問われれば、法令や判例の知識、過去にあった同様のケースの経験といった“引き出しの多さ”を磨き、それに照らして会社を守るための判断をサポートする機能が第一に挙げられると思います。例えば、顧客とのトラブルで、現場の営業担当が顧客から何か謝罪や補償を求められたときに、「法的責任の観点からは、今回のケースは当社はほとんどゼロに等しいので、これ以上詫びてはいけないところだ。謝罪や補償は毅然と断るべきだ。」と手綱を引くのは、一般的な法務に期待される機能です。

問題は、その「機能」を提供するだけでは、現場にとってはまったく「ワクワク」がないというところにあります。法務に相談すればそういうディフェンシブな答えが返ってくるだろうねぇということは、相談する前から現場だって分かっています。もちろん、そこに法令や判例に裏打ちされた確かな専門性が伴えば、機能としてはある程度満足してくれるでしょう(それすらないと、「そんなダメ出しだけなら俺でもできる」と思われるだけ)。しかし、その機能部分だけでは付加価値はないということは、もっと意識すべきなのかもしれません。

たとえばそれは、クレームをいただいたこの顧客から次の案件をまた受注できるような期待(=顧客にとっての「ワクワク」)を頂くために、代わりに何が提供できるのか、その法的な限界はどこにあるのか、というところまで一緒に考えて欲しいということだったりします。事案は異なりますが、契約書だったら、短く読みやすくてわかりやすい、現場もきちんと説明できる、その結果顧客がハンコを気持ちよく押して貰える契約ひな形を作れるか、さらには、契約の内容を現場が顧客に説明し、自信をもってクロージングできるまでに指導するのもありでしょう。

ここまで書いて、6年前に読んだダニエル・ピンクの本『ハイ・コンセプト』にも似たようなことが書いてあったのを思い出しました。現場をワクワクさせるような仕事をして、その先の顧客をもワクワクさせる。法務としてそんなハイコンテクスト領域にどこまで関わっていけるかが、そろそろ具体的に問われる時代になってきたのを感じます。
 

参考:

著者 尾原和啓さんのこちらのインタビュー記事にも、本のエッセンスが一部語られていますので、参考までにご紹介します。

『 ITビジネスの原理 』の著者、 尾原 和啓さんインタビュー(BookWebマガジン)