『ビジネス契約書の起案・検討のしかた』の原秋彦先生が、和文から翻訳して英文契約書・ビジネス文書を作るための「和英辞典」と「用語集」をセットでリリースされました。
まずは青の「和英辞典」。こちらはタイトルにあるとおり同名の書籍の〔第2版〕という位置づけ。率直にいってかなり見にくかった・使いにくかった初版のレイアウトを一新し、二段組みとしたことで、使い勝手がだいぶ良くなりましたね。
内容は、あいうえお順に並んだ日本語の法律用語に英訳がついた素直な和英辞典です。クセもなく、使いやすいと思います。装丁もソフトビニールで耐久性と開きやすさが両立しています。
法務では、普通の英語学習用の和英辞典だけでは困る場合があります。例えば、同じ「強制する」という単語一つを英訳するにしても、compel,force,urge/coerce/enforceによって法的なニュアンスが異なるということを理解した上で使いわけなければなりません。また、「委託」「瑕疵担保」「専用実施権」のように、必ずしも英米法にズバリ対応する概念・訳語がない場合にどのように訳すべきかを知る必要があります。そのためには、専用の和英辞典が必要。訳語の選択にビジネス経験の豊富な渉外弁護士のノウハウも入っているとなれば、信頼感も違います。
一方、緑の「用語集」。こちらは特にタイトルでは明らかにされていませんが、ふたを開けてみると絶版となった『ビジネス法務英文グロッサリー』の再編集版でした。BLJの2013法務ブックガイドでもとある先生がおススメしていた本で、中古でも品薄だったので、待ち望んでいた方は少なくないのではないでしょうか?
ただ、こちらはちょっとクセがあるのでご注意を。まず、同時に出された青の和英辞典とは違い、あいうえお順には並んでいません。では何順にならんでいるのかというと、
- 論理構成のための用語…仮定条件/理由付け/接続詞/結論/比較/例示等
- 権利関係に関する用語…遵守・違反・不当利得・故意過失・瑕疵/損害賠償/時効/取消・解除等
- 契約書等起案用語…要件・条件/除外/使役/〜に従って・〜にかかわらず/以上・以下等
その代わり、派生語をまとめて眺められるよさもあります。実務でよく使われる語がゴシック太字になっているのも、うれしい配慮です。学習辞典と考えるとgoodではないでしょうか。こちらの本は装丁がソフトビニール製じゃないことからも、繰り返し引く辞典的な使い方ではなく、「学習のための通読」を前提としている様子がうかがえます。
あえてこの2冊について欠点を挙げさせてもらうならば、例文がほとんど載ってない、というところでしょう。原先生曰く、「コンパクトにまとめるためにあえてそうした」とのことなのですが。語句やコロケーションだけでなく例文がいくつも掲載されている野副靖人著『英文契約書のための和英用語辞典』の充実感と比較すると見劣りしますので、ここは人によっては残念という方もいらっしゃるかもしれません。
とはいえ、原先生というこの分野の大家を担ぎ、同じ著者が2つの切り口から書くことでバリエーションの広がりを作りつつ、取り上げる語句・表現は一貫させ、しかもまとめて出版してきたところを見ると、この2冊セットを和英契約用語辞典の決定版として普及させようという商事法務のなみなみならぬ意志が伝わってきます。実際、例文がない点以外は、完成度の高い仕上がりで、結果的にそうなる予感もします。
2冊買うと9,000円近く。予算の都合でまずどちらかを買って相性を見てみようという方には、私は緑の「用語集」から買われることをお勧めします。













