いろんな会社のいろんな法務の人を見ていると、法務の仕事って他の事務職よりも向き不向きがはっきりと出やすいように思っているのですが、それはなぜなのか・どこに違いがあるのかを考えてみました。

法務の仕事をやると、1年も経たないうちに、楽しめる人と苦しさしか感じられず楽しめない人がくっきりと二分されます。リスクの発見・分析と、それを背負うべきか否かの判断を毎日迫られる仕事ということもあり、苦しさしか感じない人にとっては毎日が地獄のように感じられ、逃げるような態度と行動が目立つようになります。そういった態度・行動はアウトプットとしての成果物の品質にも現れて評価も必然的に低くなり、本人もそれを自覚せざるをえない状態となって、自然とリタイア(社内異動・キャリアチェンジ・転職)に追い込まれていきます。

一方で楽しめる人にとっては、その苦しさは「修行」であり、修行によって自分の能力が研ぎ澄まされていくことが喜びとなります。一見困難で面倒そうな案件が降ってきても逃げないどころか、むしろこの修行を乗り越えれば違う次元に立てるはずとチャレンジを厭わないので、楽しめない人=チャレンジしない人との経験量の差はどんどん開き、その差とともに能力の差も広がっていくという好/悪循環が生まれます。・・・好き好んでイバラの道を歩むのは、ただのM気質なのではないか、という説もありますが(笑)。


そして、特にその差がくっきりと現れるのが、契約書の仕事だと思います。
契約書の作成・レビュー依頼が現場から来た時に、契約書の文言の巧拙をいきなり吟味するのではなく、
1)その案件=ビジネス自体に興味を持てるか
2)現場が目指すビジネス上のゴール・目的をしっかりとヒアリングし、シンプルに言語化できるか
3)ゴールを目指す上での障害を漏れ無くピックアップできるか
4)障害を処理する方法・アイデアを現場(と契約の相手方)に提案できるか
が勝負です。楽しめない人は、3にばかり終始し、1と2の重要性にいつまでも気付かず(もしくは気付いてもそれができず)、結果として成果物である4についても、ショボい提案しか出せないのです。


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シティライツ法律事務所の水野祐先生が、この1と2の重要性について、「契約書は相手方との共同編集物だ」という斬新な視点で述べていらっしゃいました。

水野祐+平林健吾 Edit × LAW:第1回「契約書」(DotPlace)
契約書は契約当事者の合意内容を実現するためのコミュニケーション・ツールと捉えるのが正しい。契約当事者双方で修正を繰り返すと、Wordのコメント機能や削除履歴上で、契約当事者間の利害対立がアツいバトルとなって表れることも少なくない。だが、そのようなやり取りも、契約当事者双方が契約の目的にしたがって「あるべき形」に向かって編集を重ねていく共同作業と考えたほうがポジティブであるし、はるかに生産的であろう。
人は、いざ契約書が自分の目の前に差し出されると、契約書の各条項の文言に飛びついてしまい、「文言の海」に溺れてしまいがちである。しかし、実は、契約書の具体的な文言を読む前に、「この契約書が、どのような視点から編集されているのか/されるべきなのか」と考えることは大切なことだ。
すでに述べたとおり、契約書には、当事者がその契約によって実現したい目的やテーマがあり、契約書はその観点から編集されている。契約書には必ず「編集者」がいるのだ。その「編集者」の視点に気づけば、契約書を迅速に、要領よくチェックすることもできる。
また、このような編集的視点で契約書を読み解く場合、昨今の議論では軽視されがちな前文や第1条に配置された目的規定といった条項(英文契約書であれば、「WHEREAS」で始まる冒頭部分)も、ぼくは大事なものだと捉えている。なぜなら、ここには契約書の「編集者」の視点が凝縮されているからである。
契約書をそのような編集的な視点で見つめてみると、ほとんどの契約書は「◯◯を●●円で購入したり、貸したりする契約」だったり、「◯◯という業務を●●円で依頼する契約」だったりという、シンプルな構造を持っている。もちろん、複雑な契約書になると、テーマが複数あったり、条項ごとにテーマがあったりするということもあるのだが、ほとんどの契約書は想像以上に単純な構造をしているものである。

最近も、wordファイル上に「民法上、瑕疵担保責任とは、・・・です。従ってこの規定は・・・と修正すべきです。」という教科書を読みかじったようなコメントをして仕事をしたつもりになっている人を見ました。おそらくあの調子だと、瑕疵担保責任の条項がおかれたすべての契約書に、そういったコメントをつけて返しているのでしょう(ガクブル)。そうだとすると、彼/彼女にとって契約書の仕事は相当楽しくない「作業」になっていると思われ、余計なお世話ですが先は長くないんじゃないかと懸念します。
 
「この契約書で取引する商品・役務はどんなものなのか?」
「その商品・役務の持つリスクに対してわざわざこの瑕疵担保条項をおいた(民法上の任意規定を変更した)のはなぜか?」
「その商品・役務を受けた後、当社or相手方はどんな取引につなげていくつもりなのか?」
といった点に疑問をもち、それを解き明かしながら相手方との合意点を見つけていくことの楽しさに気づくと、契約書の仕事ほど楽しくて腕が鳴る仕事はないはずなのですが。

もし、それが楽しめないんだとすると、企業法務どころか会社員であることそのものが楽しくない人かもしれませんね。