デューデリがあまり問題とならないグループ会社の再編案件を除くと、一企業に所属する法務パーソンがピュアなM&A案件に携われる機会はそうそう多くないでしょう。しかも、億単位のお金が動くことにより自動的に取締役会案件になり、となるとデュープロセス的には経験豊富なきちんとした法律事務所を選び、高いフィーを払ってお任せてしまう・・・ということになりがち。結果、様々な企業の案件が4大と呼ばれるような大手事務所やM&Aを専門に手がける中堅事務所にのみ集中し、ノウハウも彼らだけに溜まるという循環ができるわけです。いつ案件が立ち上がるかわからないだけに、法務部員が気づいたら蚊帳の外ということにならないよう、こういうおいしい前向き案件でどんな貢献ができるか、日頃から考えて備えておきたいところです。

そんな中、法務パーソンにとって貴重な情報源となっているのが、4大の一つである長島・大野・常松法律事務所の持つDD(デューデリジェンス)の体系とノウハウを1冊にまとめて公開してくれているこちらの本。


M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務 [単行本]
出版:中央経済社
(2009-01)


前半1/3でDDの目的・概要・流れを抑えた上で、後半の2/3で株式・知財・契約・訴訟・許認可といった個別の切り口ごとにDDにおけるポイントをまとめるという構成。中央経済社さんのこのシリーズに共通することですが、構成が体系的であるという点はこの手の専門書には重要なことだと思います。M&Aアドバイザーがその経験をもとにDDについて語る本は沢山あっても、「よく問題になるポイント」だけが取り上げられているケースが多いのが難点。それはそれでためになりますが、法務のように小さな見落とし・隠れた瑕疵が後に大きなリスクをはらむ可能性がある分野については、本書のようにまずは「取りこぼしが無い」という安心感のほうが重要です。

かと言って網羅性だけでなく、NOTの専門性の高さも十分に織り込まれています。個別の切り口ごとにDDの視点をレクチャーする後半において、検討すべきポイントを「基本」パートと「応用」パートに節を分けて書いている点は、
・「基本」パートだけをまず通読して概要を理解したいというニーズ
・分野によっては「応用」パートでさらに専門的な示唆を得たいというニーズ
の両方を満たすソリューションとなっており、見事の一言。契約DDの章を例を挙げれば、「基本」パートには各契約類型に共通する一般的なチェックリストとChange of Control条項への対処について、「応用」パートには代理店契約・請負契約・コンサルティング契約の3つを例に個別の契約類型ごとのチェックリストが掲載されている、といった具合。

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ところどころに挿入されるコラムも実戦的です。DDにおける情報開示においては個人情報保護法をまじめに解釈するとどうにも無理が生じる(プライバシーポリシーにおいてM&AのDDにおける個人情報開示可能性を明示→オプトアウトをしている事例はほとんどない)といったお話、知財についてそもそも特許権や商標権をチェックしたところで、無効審判請求件数の半数近くにおいて無効が成立している(特許で142/284、商標で83/193)以上、知財DDって限界があるよね、などといった赤裸々なつぶやきもあります。

使用頻度の低さに対する値段の高さと分厚さのせいで、「会社で買ってもらう本」にされがちな本書ですが、M&A案件に触れる機会が1年に1回あるかないかな人でも、バイヤーの目線を知ることで日頃の自社の法務リスクマネジメントのあり方を客観視することもできますし、自分で買って通読する価値が十分にある本だと思います。出版社でも品切れのようなので、そろそろ重刷、もしかしたら第三版がでるのでしょうか?