民法改正の「その後」の実務の世界を想像するにつけ、企業法務パーソンとして一番気になるのは、裁判実務よりも、とりあえず契約(書)実務で何か影響ってあるの?という点ではないでしょうか。

この点に関して、弁護士の川井信之先生が、改正後の条文に規定される見込みの「契約の趣旨に照らして」という文言についての懸念を『ビジネス法務』やブログなどで呈されており、興味深く拝見しました。以下は先生のブログからの引用です。
▼債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(前編)
中間試案の多くの、かつ重要な規定で使用されている「当該契約の趣旨に照らして」の語なのですが、「当該契約の趣旨に照らして」とは、具体的にどのような考慮要素に基づくものなのかについては、中間試案の「第8 債権の目的」の中で、定義が示されています。
「第8 債権の目的
1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)
民法第400条の規律を次のように改めるものとする。
(1) 契約によって生じた債権につき、その内容が目的物の引渡しであるときは、債務者は、引渡しまで、[契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により、その物を保存しなければならないものとする。
(2) (略)」
以上のように、「当該契約の趣旨に照らして」とは、上記の太字のブラケット部分にありますとおり、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」ものとされています。
これはすなわち、当該契約の契約書の文言だけで決定される訳ではない(文言以外の諸要素に基づいて判断されることもある)、ということを意味する訳です(この事は、3月に開催された商事法務さん主催の債権法改正中間試案の解説会で、内田貴先生が強調しておられました)。
▼債権法改正中間試案の問題点〜「当該契約の趣旨に照らして」という文言の危険性(後編(上))
また、この「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、現在の企業間の契約実務の一部で広がりつつある「完全合意条項」というものも、その効力を大きく減殺または無意義化させかねないものだと考えております。
すなわち、当該契約書の文言だけで決しようとする完全合意条項と、契約書の文言以外のものも考慮要素とする「当該契約の趣旨に照らして」の文言は、明らかに矛盾する概念ですので、「当該契約の趣旨に照らして」の文言を含む規定が強行規定として扱われることになると、契約書に完全合意条項が含まれていても、その条項の効力が減殺・無意義化されかねないことになるからです。
私も内田貴氏のご講演や雑誌記事を拝聴している限り、この契約書の文言だけではなく「当該契約の趣旨に照らして」判断できるようにすることで今より何がどう良くなるのかについては、さっぱり納得感がありません。消費者契約法程度でも混乱が生まれているというのに、民法の大原則であったはずの当事者自治・契約自由の原則までもが、この「当該契約の趣旨」という言葉で不安定な状態にされ予測可能性が低くなるとすると、企業は困るだけなんじゃないでしょうか。被害者サイドとして、「契約書にはAと書いたが、契約の趣旨に照らしてよく考えてみるとBだった!」とか主張して助けてもらうシーンがあるのかもしれませんけど、それもなんだか間抜けな気がしますし。
こうなると企業法務パーソンみなさんが考えそうなのが、個々の契約条件とは別に、あえてはっきりと「取引通念がどうかに関係なく、本契約の趣旨はこれこれこうこうであるということで合意しました」と、契約の趣旨を構成する諸要素を契約書に明記してしまうという作戦。たとえ完全合意条項が無効化されても、契約の趣旨そのものがその言葉を使って契約書にストレートに書いてあったら、裁判所もそこに書いていないことを持ちだして「本契約の趣旨は本来こうこうこれこれである」とは言いにくくなるんじゃないかと。いやー自分だったら絶対やりますね。
なので、早速練習してみました(笑)。
第1条(本契約の趣旨)
発注者甲および受注者乙は、双方が属する業界における取引通念の如何によらず、受注者乙が発注者甲の発意と依頼に基づき生産性のみならず機密性・完全性・可用性の高いITシステムを構築することにより、発注者甲をして競合他社に比して経営効率が高い状態に到達させ、これに対し受注者乙が相当の対価を得んとすることが本契約の目的であること、本契約第**条に定めるITシステムの構築を発注することを欲し、受注者乙を含む3社による競争入札の結果受注者乙がこれを請負うこととなった経緯であること、ならびに、本契約の性質が請負契約であること、すなわち、ITシステムが第**条に定める仕様書のとおり何らの欠点または欠陥もない状態で本契約第**条に定める期日までに発注者甲に納入され検査に合格し、検査合格をもって発注者甲が第**条第1項に定める対価を同条第2項に定める期日までに支払い、その後本契約第**条第1項に定める保証期間の間に何らかの隠れた欠点または欠陥が発見された場合には同条第2項条に定める修補もしくは保証を提供し、または本契約の不履行によって発注者甲に迷惑・損害が発生した場合には受注者乙の責任においてまたは第**条に定める賠償または補償を提供すること、以上が本契約における民法第***条にいう契約の趣旨のすべてであることを確認し、第2条以下に定める委細条件に合意の上、本契約を締結する。
なんかあれですね。英文契約書の最初に置かれるWhearas Clauseが置かれるようになるってことなんでしょうかね。最近の英文契約実務ではWheras Clauseも流行らなくなってきているのに・・・。
債権法改正のせいで、契約書作りが面倒なことになりそうな気がしているのは、私だけでしょうか。









