1年ちょっと前に、懲戒検討が続いて少し悩んでいたときに参考にした本。


懲戒権行使の法律実務懲戒権行使の法律実務
著者:石嵜 信憲
販売元:中央経済社
(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp



整理解雇を含む解雇論全般の中で懲戒解雇に触れている本は数多ありますが、この本のように、従業員の解雇に至らない譴責・減給等の処分を含む懲戒処分全般に絞って取り上げている本は珍しいです。

この本が強調するポイントは、従業員の懲戒レベルを検討するときの戒めとしてとても重要だと思うので、ちょっと紹介したいと思います。

1.私的領域における過ちを安易に罰するな


これは基本ではあるものの、コトが起こるとついつい感情的になって忘れてしまうポイント。
・「企業内における行為」
・「企業外(私的領域)における行為」
と、行為が発生した領域を大きく2つに分けて、懲戒権の限界を考えよ、という原則。

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上記表は目次を整理してみたものですが、たとえば飲酒運転によるひき逃げ事故一つとってみても、それが私生活の中で起こした事故なのであれば、理論的には懲戒処分は難しく、できたとしても、職場に戻るけじめとしての、労働契約の継続を前提とした軽い懲戒処分にとどめるべきと、この本ではアドバイスしています。日本企業は、私的領域であろうが警察沙汰になった瞬間に重い処分を下してしまう傾向が見受けられますので、注意が必要です。

2.労働契約の継続を前提とするかどうかが懲戒レベルの大きな分かれ目


ここは初めて読んだ時には頭がすっきりして助けられたポイント。
・労働契約継続を前提とする処分
・労働契約解消を前提とする処分
の2つのうち、どちらに該当するのかを検討してから、対象従業員に与える具体的な罰の重さを考えよ、というもの。

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特に、出勤停止、減給、降格などの厳しい処分を下すときに、「あと一歩でクビだったところを、おまけでとどめてあげる処分」のように勘違いしてしまいがちです。これらが、「解雇ではないという前提で下す最高の罰」という風に考えないと、与える罰が高ぶれしてしまうように思います。

3.公務員の懲戒処分を参考にするな


この本の冒頭でかなり声高に強調されているのがこれ。公務員と民間企業従業員の処分を同一レベルで考えるな、というポイントです。

公務員には国家公務員法が適用され、懲戒処分についても同法82条で、「職員が、次の各号のいずれかに該当する場合に置いては、これに対し懲戒処分として、免職、抵触、減給又は戒告の処分をすることができる」とされています。
(略)
また人事院規則12ー0でも職員の懲戒が定められていますし、人事院から「懲戒処分の指針について(通知)」という指針も出されています。これらの公務員の懲戒は、官職の職務と責任の特殊性に基いて定められたものであるため、民間企業において同様の取扱いとすることはできません。
使用者と労働者との間では雇用契約(労働契約)が交わされています。労働契約は、対等な立場にある使用者と労働者の間の労務提供に関する取引契約です。したがって、労働者が労働契約内容に反して労務提供を怠った場合には、使用者は労働者の債務不履行という契約上の責任を問うことができます。しかし、罰を与えることができるかどうかは、非常に難しい問題です。

公務員の不祥事というのは、ニュースとして耳目を集めがちですが、ここで見聞きする懲戒処分の水準を民間企業において適用するのは間違いという指摘には、はっと目の覚める思いがします。
従業員と企業の関係は、あくまで労務提供の契約なのであって、その債務不履行とはいえない行為(例えば痴漢行為など)をもとに「罰」としての懲戒処分を下せるかについて今一度慎重になるべき、という指摘は、「人間同士の信頼」という得体のしれないものに依拠しがちな日本の雇用契約慣行において、重要な指摘です。


懲戒処分を、人事マターとして法務を巻き込まずに(むしろアンタッチャブルなものとして)感覚的に判断を下している企業は少なくありません。しかし、2008年に施行された労働契約法第15条に、わざわざ企業の懲戒権の濫用法理が明文化されたことからも、極めて法律的な論点を多く含む話題だということは明らかです。

終身雇用の前提が崩れ日本の雇用慣行が少しずつ変わり始めた今だからこそ、安易な懲戒インフレを起こさないよう、考え方を見なおしておくべき分野かと思います。