商標法を初めて学ぶ人には『商標法のしくみ』をおすすめしてきたのですが、その先の、法律実務家としての本格的な学習に耐えうる初級〜中級者向けの本がないものかと探していたところに、ずっと昔からそのポップなデザインが気になっていたこの本を入手することができました。

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商標教室(基礎篇)
著者:小谷武
販売元:トール
(2003-10)
販売元:Amazon.co.jp



Amazonにサムネイル画像すら無いことからも想像がつくように、すでに入手困難になりつつある本ですが、ネットで検索してみると、実務家からの評判が相当高いことがわかります。

基本書アーカイブス(GSN弁理士受験指導)
『商標教室』(商標実務あれこれ日記)
知財ゼミ(弁理士試験対策/知的財産判例紹介サイト)
商標法の最良の入門書〜「商標教室」(アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常)

その人気の秘密は、商標法のポイントを法律の建て付けに従って解説するスタイルを敢えて避けて、商標法に込められたエッセンスを分解し、商標論→商品論→顕著性論→類似性論→制度論として再構築する、他にないアプローチを採っている点にあろうかと思います。

そしてなぜ、そんなアプローチを採る必要があるのかについて、著者はこう述べます。

商品を識別するための商標は商標法が制定される前からあったのですから、商標は社会的な事実として捉える必要があります。ある音やあるメロディーを聞いたとき、あるいはある匂いをかいだとき、ある会社の商品を思い出すことがあります。その音や匂いによって、その会社の商品を識別できるのであれば、それらは商標ということができます。
しかし、商標法では、音や匂いは商標の定義の中に入れていませんので、まず商標法ありき、という考えの人は、音や匂いは商標ではない、と言い張ることになり、そこで、商標とはの素朴な議論がはじまることになります。
その証拠に、ケンタッキーフライドチキンのサンダースおじさんの人形は、現在の商標制度では立体商標として商標登録され保護されていますが、旧商標法では、商標を平面的な文字、図形、記号、これらの組み合わせとしか定義していませんでしたので、たとえ有名な商標であっても、商標法上の商標の定義に当てはまらなかったため、商標登録による保護は受けられませんでした。
ですから商標法の商標の定義は、商標登録により保護することができる商法の範囲を決めているだけであり、社会的な意味での商標を定義しているのではないことがわかります。

商標法があるから商標を守らなければならないのではなく、自社の製品であること・他製品と違うということ・品質が保証されていることを伝える“しるし”を保護しようというのが商標法の本来の主旨。実際に、来年の法改正で商標法の保護の範囲に香り・音・触感も加わろうとしているわけで、このような考え方に立って商標法を理解しているかどうかが、応用力の差になって顕れてくるのだと思います。


こういった書物としてのアプローチの妙だけでなく、実際の実務で「自分は頭ではわかってるんだけど、後輩や現場に旨く説明できなくていつももどかしく感じる」ポイントに、数多く言及してくださっているところもありがたいです。例えば、IT・ウェブ系企業法務の方だったら絶対でくわしているはずの、“無形の商品”の出願における指定商品・指定役務の指定の仕方に関するこんな記述が例に挙げられるでしょう。

ここで注意しなければならないのは、ネット配信の場合、ダウンロードが可能かどうかという点です。パソコンでインターネットを使用する以上、すべてダウンロードすることになりますが、これは広い意味でのダウンロードであり、商品分類の決め手となるのは、狭い意味でのダウンロードです。たとえば、音楽配信の場合、インターネット経由で送られてきた音楽をパソコンで楽しみ、聞き終わったらそれでお終いという場合、第41類の「音楽の提供(配信のみ)」としてサービスマークの対象になります。

一方、自分のパソコンやCD、MDにダウンロードして繰り返して利用することが出来る場合には、レコードやCDを買ったのと同じ扱いで、商品商標の対象になります。
コンピュータソフトの場合も、インターネットで提供されたものを、利用するだけであれば、第42類のサービスの提供になりますが、ダウンロードして繰り返し利用できる場合には、CD-ROMを買ってきたのと同じく第9類の商品になります。
しかし、ダウンロード可能かどうかで商品とサービスとに分類は分かれますが、いずれの場合も、提供するのはソフト会社であるため、類似商品役務審査基準では、第9類「電子計算機用プログラム」の「備考」として、「電子計算機用プログラム」は、第42類「電子計算機用プログラムの提供」に類似すると付記されています。したがって、第9類か第42類のいずれかで「電子計算機用プログラム」について権利を確保していれば、他のクラスの使用に対しても、権利を行使できることになっています。
「電子出版物」についても、第41類の「電子出版物の提供」に類似する旨の「備考」がつけられています。

なおこの「備考類似」では、審査の過程で審査官が職権でクロスサーチをすることはしませんが、情報提供や異議申し立てがあった場合にだけ審査の対象となりますので、ソフト会社では、積極的に第9類と第42類の両方のクラスで権利を確保するようにしています。

実務経験やノウハウという言葉で片付けられてしまいがちなこのあたりの実務的なポイントも、「頭でわかる」のと「説明できる」のとでは大違いです。


この商標教室、写真にあるように2分冊の判例研究編もあります。出版社の倒産による絶版とのウワサがありますが、是非『基礎編』だけでも探して読んでみてください。


商標教室 判例研究編
著者:小谷武
販売元:トール
(2003-10)
販売元:Amazon.co.jp

商標教室 判例研究篇 2
著者:小谷武
販売元:トール
(2004-08)
販売元:Amazon.co.jp