エンタメ業界、中でもゲームビジネスは、私がこれまでいた業界とはリリースする商品・サービスの多さがケタ違いです。スマホゲームが伸びている去年以降、ROMに載せてパッケージ売りする時代とは様変わりし、1ヶ月に何本ものゲームをリリースし結果的に売れたものを育て、ダメなものはさっさと捨てる。そんな商売のやり方に業界全体が変化しつつあります。

こうなってくると、法務としての色んな常識・セオリーを疑ってかかる必要もあるのかもしれない、と思ったりしています。ゲームのタイトルの商標権のおさえ方は、その一例として挙げられるかもしれません。


商標登録にかかるコストを再考する


市場に商品・サービスをリリースする際には、その商標が同じような商品の先行商標を侵害していないか調査をし、商標権をおさえにいく。法務としてやらなければならないことの一つです。

実際に、公開されているIPDLで、ゲーム業界を代表する『ドラゴンクエスト』『信長の野望』『ファミリースタジアム』などのいくつかの著名タイトルの売り方の変化と商標登録の歴史を眺めてみると、

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このように、単なる家庭用テレビゲームおもちゃ(9類)にすぎなかったゲームは、時代とともにインターネットを介した娯楽サービスとしてのオンラインゲームの提供(41類)の要素を持つにいたり、最近のスマホやタブレット向けゲームアプリの商標出願では、これに広告やカードの提供(35類)あたりを加えた3区分を登録しておくというのが、業界でのセオリーとなりつつあるようです。

ここで問題になるのが、商標権の取得に関するコストです。ドラクエのような息の長いビッグシリーズタイトルであれば、3区分程度の出願・登録にかかるコストは気にならないかもしれません。しかし、ライフサイクルが短いゲームを大量にリリースするスマホゲームアプリの場合、過去のパッケージソフト時代の例に倣ってすべてのゲームごとに調査→出願→登録することになると、金額は馬鹿になりません。さらに日本だけならまだしも、GooglePlayやAppStoreでグローバルな販売が簡単にできるようになった今、多数国で商標を登録していくことを考えると、そのコストをかけてまでゲームのタイトルを商標出願することそのものの是非や、どのような基準で取捨選択するかを真剣に考える必要があります。

書籍のタイトルは登録が難しいのに、ゲームのタイトルはすんなり登録になる不思議


ここでふと思ったのが、出版社が毎月のようにリリースしている書籍と商標の関係です。書籍はゲームと同じ著作物であり、一冊一冊がれっきとした商品なわけですが、そのタイトルのほとんどは商標として登録されていません。これはなぜでしょうか?

その理由は、商標法と特許庁の審査基準にあります。商標法第3条第1項第3号には、「品質等を普通に表した語は商標としての識別力がないことから登録を認めない」旨が規定されており、さらにこれを受けた商品に係る商標審査基準第一の五において「書籍の題号については、題号がただちに特定の内容を表示すると認められるときは、品質を表示するものとする。」と明示されているのです。だから、世の中には同じタイトル・似たようなタイトルの書籍がごまんと存在しています。もはや出版社が出願を試みることもなければ、消費者も誰もそれを気にしていないと思います。例を挙げると、大学受験の単語集として有名な『速読英単語』は、単に英単語を速読して学習するという内容を表すものであり、これを登録してしまうと同じようなコンセプトのタイトルをつけた本を他の出版社が出せなくなるということもあって商標登録は特許庁により拒絶されていますが、「Z会出版が出している見開きで例文が付いた単語集」を探せば商品も特定できるので、誰も困りません。

対して、ゲームの場合はどうでしょうか。たとえばコナミのサッカーゲームタイトル「ワールドサッカー」は、どう考えてもワールドカップをモチーフにしたサッカーゲームとしての内容を表しただけの商標に見えるのですが、書籍の題号のような明確な審査基準がないこともあってか、登録になっています。同じモチーフのサッカーゲームを作っている企業は、さぞ商標の付け方に困っていることでしょうし、サッカーゲームを買おうとする消費者も、どのゲームがワールドカップを題材にしているのかわかりにくくなって、困っているかもしれません。

書籍のタイトルは商標として認められにくいが、ゲームのタイトルとなるといとも簡単に認められる・・・同じ著作物にもかかわらず、どうもあべこべなポリシーのように思います。この状態がいつまでも続くことは考えにくいのではないでしょうか。スマホゲームが月に何百本もリリースされるようになれば、将来登録の基準が書籍並みに厳しくなっても不思議ではないでしょう。

せっかく商標登録しても、訴訟で勝てるとは限らない


さらに、ゲームの商標の類似について実際争われた裁判例(ゲームソフト『三國志武将争覇』事件 平成6年3月25日千葉地裁)を見ると、商標権を事前に取得していたにもかかわらず、いざ訴訟の場になって以下のような判示がなされ、せっかくコストをかけて取得したはずのその権利が否定されてしまうという事態も発生しています。

一般に著作物の題号は、専らその創作物としての内容を表示するための名称として、普通に用いられる方法で著作物を含む商品に表示されている場合には、仮に右題号が、その指定商品について登録された商標と同一ないし類似している場合であっても、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられている標章ではないものとして、当該登録商標の禁止権は及ばないものと解すべきである。
著作物の題号に対する法的保護は、コンピューター用ゲームを記憶させた著作物であるプログラムについて、創作者がその創作物としての内容を表示する名称として題号ないし名称を付した場合においても、書籍等の題号の場合と異なるところはない

やはりここでも「書籍等の題号(タイトル)と同じように、ゲームのタイトルは商標としての識別力はない」と裁判官が判示しているあたりが興味深いところです。このような事案を見ていると、ゲームの商標は比較的容易に登録こそできてしまうものの、その実益は果たしてあるのだろうか?と疑いたくもなります。

ゲーム会社側も出願する商標を選び始めている?


もしかしたら単に気のせいかもしれませんが、ゲームタイトルであればなんでもかんでも商標登録しておこうという考え方を改める動きが、今やゲーム業界大手となったスマホ各社のゲーム商標出願ポリシーにも垣間見えてきたようにも見える、ここではそんな事例を挙げてみたいと思います。

スマホゲーム訴訟として最近話題となったグリーの『釣りスタ』とDeNAの『釣りゲータウン2』、それぞれの商標出願を調べてみると、『釣りスタ』は商標登録されているものの、実は『釣りゲータウン』のほうは商標出願すらされていないのです。DeNAさんほどの会社がお忘れになっているということは考えにくく、これはあえて商標出願する必要なしと判断したのではないかと。

また、カジュアルゲームの代表格である『オセロ』は、株式会社オセロが商標登録しており同社の許諾なしに使用することができないわけですが、各社はオリジナルな商標を付けることなく『リバーシ by mobage』『リバーシ by GREE』『リバーシ by Hangame』のように、一般名詞としてのゲーム名である「リバーシ」とその運営会社名とをセットにしたタイトルを付けて、商標登録なしにリリースしています。

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さらに、ネットを検索していたところ、ひょんなところに任天堂知財部の方のこんな興味深いインタビュー記事を見かけました。

先輩紹介2012(任天堂採用情報)
私は商標著作権グループに所属しています。ゲームソフトのタイトルやゲーム機の名称は、同様の名称が既に登録されていないか調査を事前に行ったうえで、商標として登録されるよう特許庁へ出願書類を提出します。商標は、日本だけではなく世界中の多くの国で登録制度があるので、世界各国で出願したり、登録できるかどうかといった調査も行います。調査の結果、考えた名称案が使用不可能な場合はこちらも残念ですが、開発者が納得のいく名称に決まるとうれしくなります。各国の調査を行うといっても、すべてのタイトルとゲーム機の名称を全世界で出願するわけではなく、出願にかかるコストと権利が侵害されうるリスクの兼ね合いを見て、どの国でどの名称を出願するかを決めていきます。Wiiなどのゲーム機本体の商品名は、非常に多くの国に出願しますが、ゲームソフトのタイトルはケースバイケースですね。

やはり、ゲームタイトルの商標は、なんでも出願するのではなく、取捨選択して出願すべきもののようです。


識別力のない商標と考えて出願を控えたがために、他社がシラっと出願して登録になってしまうリスクもあり、安全を考えると特許庁が審査基準を変更しないうちはできるかぎり出願をしておきたくなるのが実務というものではあります。しかしながら、ゲームのあり方が変わり、同じようなジャンル・モチーフのゲームが次々とリリースされては短期間で消えていくようになってきた今、この釣りゲームやリバーシの例にも見られるように、かつてゲームタイトルが担っていた商標としての出所表示機能はその役割を失い、代わってゲームメーカー名やプラットフォーム名が出所表示機能を強めていくのではないでしょうか。その結果、特許庁もゲームのタイトルを簡単に商標として認めなくなる日がくるのかもしれません。